TIPs:ラクルゼーロ市長は魔法少女である
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「またですか!またなんですかぁ!市長ぉぉぉぉおー!」
ラクルゼーロの市議会堂に大きな声が響き渡るが、まぁいつもの光景だった。何が起こったのかはこの市議会堂の大声を聞いたラクルゼーロ市民なら誰でも分かる。
市長が、脱走したのだ。
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…………………
私はラクルゼーロ市長。しかし今日も公務の合間にいつものアレをやりに街に出ていた。最近は部下たちの監視がすごくなってなかなか抜け出しづらくなったが、それでも私がラクルゼーロ市庁舎と市議会堂に作った脱出口はいくつもあるのだ。そうそうに見つかってしまっては困る。というわけで、
今日もレッツ魔法少女!(byおっさん)。
「森の魔法少女ちゃん!今日も来てくれたのー!?」
「ははっ、そうだよ。私はラクルゼーロの平和を守る魔法少女だからねっ」
声替えの術具を使いながら子供達に風船を渡す。ちょっと罪悪感はあるが、これも仕事だ。仕事、仕事なんだ。
と、公務の息抜きにこうやって子供達と触れ合っている。この時間が私にとっては安らぎのひとときで、自分の市長としての仕事の実感を得られるひとときでもあった。
ラクルゼーロは最近大事件があったもののそれ以降はリヒテンからの援軍もあって行政は滞りなく進んでいる。街のギルド:餓狼の巣穴も怪我人が回復し、飛竜の鉤爪の援軍と協力して一時期悪化していた街の治安もすっかり元どおりになっていた。
お、噂をすれば……って、あ。
「うわ、市長さん……また今日もアレですかぁ」
「んんん!?森の魔法少女じゃんか。こ、これは着ぐるみ!?え、なんだよこれ、シド!」
「ぁぁ……ティザは知らなかったな。あぁ、まぁ……名物だ」
ラクルゼーロ大学学生主席のトゥリー・カルメン、餓狼の巣穴のギルマス:シド、そしてリヒテンからの援軍の飛竜の鉤爪2番手のチーム女豹。その中でも『大爪』の異名を持つほどの実力者ティザ。またすごいメンツだ……いやそんなことは今はいいんだが
「や、やぁ、今日もいい天気だね。私は森の魔法少女!ラクルゼーロの平和を守る正義の……」
「守るのは会議で使う書類の作成締切日にしてくださいよ市長。また議員さんたち泣きながら探してますよ絶対!」
と正論をいうトゥリー。彼女は可愛い女の子の前では性格が著しく残念になるが、学生主席だけあってめっちゃ優秀なのでこうなるのも仕方なかった。
「こ、こほん。逆に、君たちは何をしているんだい?珍しいメンツじゃないか」
「うわ、役演じるのやめちゃったよこの人」
「おぉ!なんか一気におっさんの声になったぞ?なんだこりゃぁ!」
呆れるトゥリーと驚くティザ。声替えの術具はそのままで良かったかもしれない。そんな彼女たちを尻目にシドが答える。
「街の防衛会議があってな。ラクルゼーロ大学の学生も街の防衛にボランティアで参加しようってことが決まったんだ。その帰りにトゥリーを送ってったら、アンタがいたってわけだ」
「なるほど。今まで学生に大々的に呼びかけていなかったのを大々的な宣伝をすることで人手を増やし、リヒテンへの依存度を下げようということか。ふむ、良いと思う」
「ま、そういうこった。流石にいつまでもリヒテンに頼ってられねぇからな。ま、今後数ヶ月は頼らせて貰うが、うちの戦力補充ができ次第段々と負担を減らしていくつもりだ」
街の防衛に関してはこのギルドに一任させておけば問題はない。ちょっと前の手痛い経験が、彼らを成長させた。ん、そういえば、
「彼女たちは元気ですやっているだろうかねぇ」
「ん?あぁ、コノハちゃん?最近音沙汰ないから心配だったけど、ティザさんが色々教えてくれたよ!大分印象変わったらしいけど、可愛いことに変わりはないからノープロブレム!あぁ!早く抱きしめたいぃいいい!」
と、こんな具合である。言ったそばから……。
「ん、ぁぁ、あいつらか。本名コノハって言うのか?」
「あ……まぁ、ティザさんは大丈夫か。ここにいる人たちとお祖母様、あとラクルゼーロの学生くらいしか知らないんですからね?」
「あぁ、それはまぁいいんだけどさ。あいつら、ここで冒険者を救ったんだよな」
「はい!それはもうとてもかっこよかったって聞いてます!」
「そう、か……。やっぱり、そんな悪い子たちじゃないんだよな」
ティザは何か思うところがあるのか、俯いたまま考え事をしているようだった。
「そういえば市長。リヒテンの件を受けて、ラクルゼーロに主幹や参事官が派遣されてくる、なんてことには……」
シドが尋ねる。
「あぁ、ならないならない。リヒテンの主幹が変わったことでリヒテンの方は色々権限が王都寄りに変わっちゃうけど、流石に学術都市の自由まで奪おうという動きはなかったな。今まで通り、こっちの街はシビリアンコントロールだよ」
「リヒテンは、どうなるんですかね……?」
「主幹と第41駐屯兵団が幅を利かすだろうね。とはいえ、向こうの市長も優秀な方だから勢力は商工会を味方につけてる議会側が勝つと思うよ。中立都市なわけだし」
なんて話をしていたら遠くから足音が聞こえてきた。ん?この足音は……馬!?
「市長ーーーーーー!!!」
「あーーートゥリー君、ラクルゼーロ大学の方で私を匿ってくれたりは?」
「しません♡」
「ああああああぁ!じゃあまた、諸君!私はいつでもこの街の平和を守ってい、ぎゃあ!早い早い早い!」
「市長ー!!今日こそ、今日こそは逃がしませんぞー!!」
「……あれがラクルゼーロの市長?大丈夫か?」
「ま、あれでかなり優秀なんで。支持率も半端ないんだけどなぁ……あの魔法少女さま」
この次から2.5章です。クラスメイトサイドとなりますので、まぁちょっとでいいんでキャラ思い出してもらえたら幸いです




