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72/206

TIPs:同じ月を見上げていますか?

感想ください。



「あははははっ!ロゼー!どうだオレの勝ちだぞー!はははっ!」

「うーん、負けちゃったんよ。ディラ強いんよ〜」

「2人とも、ご飯にするわよ!さあ、今日も沢山食べて、体力をつけましょ」

「ハレイの飯、野菜ばっかなんだよなぁ……オレの趣味じゃないぜぇ」

「なっ!?嫌ならいいわよ!!それにまたオレなんて言葉使って!ディラは女の子なんだから、秩序ある竜人族の淑女らしく、お淑やかな言葉を……」








  あぁ、これはまだ、私たちが幸せだとだった頃の夢だ。私がいて、ロゼがいて、ディラがいて。そんな当たり前の日常。時々、クラヤミさんって怖い悪魔や、竜人の里の村長さん、旅に出てるコードお兄ちゃんが帰ってきて恋する乙女の表情になったディラを揶揄い、私の想い人のロゼと、2人で大笑いする。そんな幸せな、日常。


 2年前に、異端審問官によって壊された日常。


 私たちは、ただ竜人族だからという理由だけで、竜使いの一族だからという理由だけで皆殺しにされた。敗者の世界は厳しいのが世の常だけど、確実に間違っていたのは奴らだったのがわかっていたからこそ、敗北し蹂躙されるのが理不尽でならなかった。

 何故、私たちは負けたのか。何故16年前、何も悪いことをしてない一族が滅ぼされ、何の罪もない私たちが殺されなくてはならないのか。

 日に日に増していく怒りは夢になって現れる。だから、私は、幸せだった頃の夢を、見るようにした。


 現実から、逃れるために。



…………


………………………


「あ、まだ3時……」


 つい目が覚めてしまった。寝巻きは汗でぐっしょりで、とても心地が悪い。すぐに戸棚から替えの下着を取り出し、脱いだ下着は洗濯カゴの中へと放り投げる。洗濯は明日でいいわよ。


「また、あの夢」


 2年も経てば今の身体は自分にある程度は馴染み、気に入らなかった灰色の髪も最近では毟り取るなんてこともせず、丁寧に扱うようになった。


 私の名前はハレイ。ハレイ・ヴィートルート。2年前にロゼの目の前で心臓を貫かれ、命を落とした。が、ラッカの手によってその魂は回収され、彼女の人形に魂は移し替えされた。到底あり得ないような話だが、ラッカの特殊スキルの一つでもある。戦闘面では願望スキルしか利用できないから、中々他の人間は知らないのだけど。

 そんなラッカはつい先日のリヒテンでの戦いで満身創痍となり、大司教であるギャレク様に連れていかれた。その後私たち人形はギャレク様の管理する屋敷で仕事をして暮らしている。

 この屋敷には私たちと同じ目にあった女の子がたくさんいて、みんな自分の魂と身体の差のギャップや移し替えされる前の残虐な行為の記憶に日々耐えながらお互い支え合って暮らしている。ラッカが居た頃には自分を殺した相手の前でメイドとして働くことが耐えきれずに自ら命を絶った子が何人もいた。私も何度も命を絶とうと思ったが、それでも生き続けた。その理由は、



「……………………………………」

「ディラ!?こんな時間にどうしたの?トイレ?」

「……………………………………」


 ふるふると首を振るディラ。彼女は喋らない。2年前の戦いで同じくラッカに胴体を引き裂かれたが、それでもラッカに一矢報いた。彼女の腕に傷を負わせた。そのことがラッカに気に入られてしまったらしく、彼女は植物人間状態にさせられた後に洗脳と記憶の消去がなされ、今ではただの動く人形のようになっている。

 そう、彼女がまだ生きている限り私は絶対に死ぬことが出来ない。彼女を置いていくなんてこと、出来るわけがない。


「え、えと……」

「……………………」


 とはいえ彼女の記憶はもうカケラも残っていない。私のことをもう覚えては居ないだろうし、もう人間としての感情も残っていない。私は、もう諦めていた。あの時の日常を取り戻す、そんな夢を。


 そんな感傷に浸りつつ、再びディラに尋ねる。


「えっと、じゃあなんでこんな時間に?」

「……………………」


 彼女が月を指差す。そちらを見ると、





「わ、わああぁ!」





 満月だった。天を覆い尽くすほどの大きな月、私たちが信仰する満月様はあの月にいるのだとそう聞かされている。ちょうどあの2年前の戦いも、こんな大満月の日だった。


「ってまさかディラ!?これを見るために?」

「……………………………………」


 コクリと頷く。意思も感情もなく、ただ命令通り動くだけの自動人形が、自分の意思を示した。そんな……そんなこと……あるわけが……。




「…………………………………ロ………………ゼ」




「______ッ!?なっ!?でぃ、ディラ!?」


 目は虚で、全く感情もない。だけど確かに彼女はそう言った。喋ったのだ。私と、彼女の親友の名を。ありえない、そんなことあり得ないはずなのに……。




 そのあり得ないをずっと望んでいた。




 あの日、ロゼが1人生き残った日、確かに私とディラは約束した。


「「もし、この里が襲われるようなことがあったら、ロゼを死んでも守り切ろう」」





〜2年前のあの日〜


「いい!?ロゼ!!生きて!!私たちはここで足止めする!そのうちに、この里から逃げて!!」

「な、何を言ってるの!?ハレイは、ハレイも一緒に!」

「あぁ、ハレイの言う通りだ」

「でぃ、ら?」


 そうだ、ディラとロゼと私が最後に揃ったあの日、竜人の里でことは起こった。


「ロゼが生きていれば、竜使いの一族は生き残る。オレたちの勝ちだ。ロゼが生き続けてることが、オレたちにとっての最後の希望になり得るんだ!だから!いけ!!ロゼ!!!」

「や、やだよ!待って!ディラ!!!ハレイ!!!」


 ディラがロゼを突き飛ばす。下は崖になっていたが、この地点は私たち竜人しか知らない植物のクッションがたくさんある。死ぬことはないだろう。そう思って振り向いた瞬間、





「ぁあぁあ……」

「みぃつけタァ!アハッ☆」




「ぁああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ロゼの叫び声。それも虚しく崖の下へと落ちていく。けど、私が貫かれて死ぬ瞬間を、ロゼに見られてしまった……私の愛する女の子に……そんなとこ、みせたくなかっ……。


「て、てめぇ!!ハレイ!!ハレイ!!おい、しっかりし……がっ……」

「ロゼ・フルガウドはどこっすか?あて、あの子をあての人形にしたくてここに来たんすよぉ!!ねぇ、知らないっすかぁ?」

「はっ、しらねぇなァ!」


 私の顔に、誰かの血がかかった。薄れゆく視界の中、確かに異端審問官の腕から血が流れているのを見たけど、反対に、


 ザクッ


 という音とともに、ディラの上半身と腕が私の前に落ちてきた。


「……………………………………ァァ」

「がぁ、ァァ……は、れ、い……」


 私の意識はそこまでだった。暗闇に落ちていく私の意識は、何かに吸い上げられるように、そっと天高く上っていく。とても悍ましい何かにゾゾゾと搾り取られるような感覚は、今でも忘れられない。



……………


………………………


 そうだ。私とディラはロゼを守りきった。そして私は姿は違えどここに、ディラは体はそのままただの人形になったが、それでも人形としてはあり得ない状態を見せた。


「ディラ……私、諦めないよ」


 ディラをそっと抱きしめる。ディラは何も反応しなかったけど、彼女の身体が少しだけあったかくなったような気がした。


「魔王が繋いでくれた時間を使って、私はディラを元に戻す。勿論、冷凍保管されてるわたしの身体も奪還する。そしてロゼが揃えば、私たちはやり直せる」


 そう。魔王だ。銀髪の小さな女の子。あんな子が魔王だなんて信じられなかったけど、ラッカを、私たち竜人族と竜が束になっても勝てなかったあの悪魔をいとも容易く半殺しにしたのは紛れもなくあの小さな魔王だった。私のロゼが魔王に取られている、という状況は癪だけど……それでも、彼女の力なら。


「やるわよ、私。ロゼ……貴方も、頑張って……貴方が私をわからなくても、私は貴方のことちゃんと分かってるから……」

「……………………………………………………」


 私は再び満月を見上げた。すると、ディラも、空を見上げる。まだ、まだこれからなのだ。そう心に誓って。そして願はくば私の愛しいあの子も、同じ月を見上げていると信じて。

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