TIPs:リヒテン視察団
とか言いつつストックくそ溜まってるんで更新しました。
感想ください。今までのお話の感想、2章がどうだったか、etc…
「これはひどいな」
「……」
主に中心街が甚大な被害を受けたリヒテン市に、王都から視察団が来ていた。白磁の星々の討伐には成功していたが一般人の被害も数十名に上っており、特にラッカとロゼがドンパチした後の建物は中々に酷い有様だ。
「リヒテン騒動の前に亡くなっていたリヒテンの主幹とはお知り合いだったそうだな、ヒューム主幹」
「嫌なやつでしたねぇ。私と同じくらい性格の悪い人間でした。死んでくれてありがとうって感じです」
クズが、と内心毒づく赤髪の男性は近衛騎士団長:レガート・フォルベッサである。黒の双眸がヒュームを射抜きヒュームは萎縮したように黙り込む。
リヒテン市の騒動、筆頭異端審問官の惨敗、黒月級:シャネルの発見に伴いこれらの事態を査察する視察団が王都から派遣され、その視察団の指揮は王宮官僚のヒューム主幹が担当することとなった。またその護衛として自ら名乗り出たレガートが付き添っている。一視察団としては過剰な戦力であるが、ラッカが惨敗したことをよほど王都政府も教会も重く見ているらしい。
「新たな主幹は、貴殿か?」
「まさか。ま、妥当なところで王都郊外のシェシーからキューロー主幹あたりを引っ張ってくるでしょうねぇ。異端審問官は教会の管轄ですから、破られたことの責任を街に問うことはできませんし、またテキトーな頭を置くでしょうよぉ。私は当分は王宮に引きこもれそうで安心ですねぇ」
「そう投げやりにやられても困るがな、奴ならある程度は大丈夫だろう」
「おや、お知り合いでしたか?おほほほほ!あの方も中々年の行った方ですが、一体どこで……?まさか、そっち関係ですかぁ?」
下世話な想像をするヒュームを置いてリヒテン市議会の議員たち、飛竜の鉤爪のギルドマスター、駐屯兵団長などとの会談準備に取り掛かろうとするレガート。それに特に落ち込むこともなくヒュームはついていく。
…
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「さて、異端審問官ラッカの報告では、ヒカリという冒険者がラッカを打ち破ったと聞いたが」
木葉は、ラッカに自身の名を名乗った筈だったが、何故か齟齬が起きていることの理由は三章で話させて頂く。
(嬢ちゃん……思ったより追っ手は早えみてぇだぞ)
アンソンが答える前に議員たちがいくつか問答していた。
「顔は見たか?」
「い、いえ……記録術式への魔術干渉があり、町内のすべての映像がロゼ・フルガウドがラッカ筆頭司祭様にとどめを刺される寸前で止まっています。広間にいた異端審問官、冒険者は塵と化したか気絶しているか、でヒカリという冒険者を見たものはおりません」
実はロゼを救う前に町内の監視システム全てをダウンさせていたのは迷路だったのだが、そこは省かせてもらう。木葉のケアは大体迷路担当なんです……。
(ラッカに吐かせた情報では、銀髪赤眼の普通の少女だった、とのことだが……まさかシルフォルフィル卿に続いてイレギュラーが出てこようとは……。フルガウドの娘の捕縛にも失敗したようでかなり切羽詰まっているな。危険分子が着々と増えつつある)
「禊には証言をとったのですかぁ?」
「禊の任務はシャネルの捕縛です。確認を行った禊が何人も氷漬けになって死亡してるのも発見されている。既にラクルゼーロでの騒ぎの証言とも一致しているので、恐らくラッカを潰したのは3人の少女だ」
「ありゃぁ……まーた余計なのが出てきてぇ。こっちゃ帝国や連合王国との小競り合いで国内に戦力割いてる暇はないんですけどねぇおほほほほ!上の方では『烽』掃討戦の計画も立てられてるところです。近々伊邪那岐機関と数名の上級主幹を招集して、大規模な軍事作戦があると思うので、貴方も覚悟しといた方がいいですよぉ?」
「私は王宮を守る騎士です。出陣はしないでしょうが、覚悟はしておきます」
(シドが言っていたヒカリとメイロという冒険者と、ロゼ・フルガウドが合流した。天撃の鉾、ヴェニスの烽、ヴィラフィリア兄妹……頭痛の種はまだまだあるな)
「アンソン殿は何か?直接その冒険者を見たり、顔を覚えていたりしませんか?ラクルゼーロではほぼほぼその記憶が曖昧となっていて証言が引き出せなかったのですが」
「一度自分のとこにきて多くの依頼を出しました。合理的に判断した結果、銅月級の称号も与えました。が、なんらかの術が掛けられているのか顔を思い出すことができません……申し訳ございません」
アンソンは咄嗟に嘘をついた。理由は、アンソン自身も分からなかったが、思った以上にアンソンは彼女が気に入っていたらしい。
「証言については後でまた改めて調書をとるが、他のものも期待できそうにないな。アンソン殿以下、女豹のメンバーはリヒテン会議にも出席していただく手はずとなっている、会議については新しい主幹の指示に従うように」
……
……………
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「リヒテンの誰も顔を覚えていない、なんてことあるとお思いですかぁ?」
視察の帰りの馬車でヒュームはそう、レガートに話しかける。当然レガートも、その可能性は疑っていたが
「アンソンが嘘をつくメリットはないです。まぁ、いずれ分かることです。ロゼ・フルガウドはともかく、ヒカリやメイロといった冒険者の優先順位は高くないですし、あとは憲兵団にでも任せますよ」
「引っかかりますがねぇ。魔族側の動きも気になりますし、異端審問官が王宮に進出してきたのも私個人としてはマズイ兆候だとは思いますよぉ?おほほほほほ」
「……意外とちゃんと見ているんですね」
レガート的にはヒュームの主幹としての実力は眉唾物であったが、強ち無能ではないと考えを改め直した。
「ウチの宰相が煩いんですよぉ。3宰相の派閥争いも面倒なことになってるので、一層王都外の争いには気を配らなくてはならないんですよぉ。ま、派閥争いの方もちょっとしたダークホースが生まれそうで、私今からワクワクが止まらないんですぅ」
(ダークホース?)
「ま、烽討伐の件もそうですが、近々王都で面白いことが見られると思いますよぉ?いや、もしかしたらもう……」
「?」
「おや、前の方から馬車がきますねぇ?あれ、近衛騎士団のではありませんか?」
「!?おい!なにがあった!」
確かに前から全力で走ってくる馬車は近衛騎士団が使用している馬車であった。余程の用事だろうか?
「団長!直ぐに王都にお戻りください!勇者一行が大変なことに!」
「なっ!?馬鹿な!?彼らには私が戻るまで魔女の宝箱攻略をやめさせていた筈だ!何があった!?」
焦るレガート。自分がいない間に、王都で何が起こっているのか。王国の闇が動き出していた。
そんな状況でヒュームは己の主人と定めた今後の展望がシナリオ通りに進んでいることに歓喜し、密かに薄汚い笑みを浮かべていた。
ヒュームは最初の方に出てきた主幹ですね。おほほほほ!という笑い方が特徴的な変態官僚です。官僚ですが、前にも言ったように主幹なのでいざという時は戦場にも立ちます。




