表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/206

1章5話:甘いクッキーはいかが?

「【魔女の宝箱】?」

「ああ。【初代魔王:クープランの墓】の作った魔女たちの住処、いわば魔宮だな。その奥には強大な魔女が潜むというが、そいつを攻略すれば【魔女の宝石】と呼ばれるアイテムを入手できる。それを使って魔王を打ち破る」


 みんなの集まる講堂で、レガート団長が説明をしている。ここ数日である程度鍛え上げた戦闘組はなんとも高い適応力で、腕がなるぜとかなんとか言っていた。


「直接魔王に挑まないんですか?」


 白鷹語李(しらたかがたり)が尋ねる。


「魔王のレベルは未知数、いや過去世界に2度出現した魔王はレベル100なんてものではなかった。それを撃ち破るには先例をみても"魔女の宝石"が必要になってくる。実際【2代目魔王:亡き王女のためのパヴァーヌ】は魔女の宝石を使用して倒している」


(名前がだいぶクラシック……)


「でも使ったならそれって残ってるんじゃ? 何故わざわざもう一回取りに?」

「勇者が使った魔女の宝石は一度魔王へ使えば元の場所へと戻ってしまうのだ。その原理はわからんが、これで私たちはまた魔女の宝箱へ入らねばならん」


 ゲームやんけ……というツッコミをグッと抑え込む1-5の諸君。


「無論、直ぐに取りにいくような真似はしない。魔女に辿り着くまでにはその魔宮を100層まで突破する必要があるしな。我々ですでに60層まで切り開いているが、それが限度だ。ゆっくりレベルを上げて、挑戦してもらいたい」

「それは勿論勇者が使うんだよな?」


 荒野が質問する。心なしかウキウキとしているようである。


「ああ無論だ。寧ろ勇者にしか使えない。一層気合い入れて訓練するから覚悟してくれ」

「へへっ、上等。魔女だろうがなんだろうがぶっ殺してやるよ」


 荒野はイキったようにナイフをクルクル回しながら言った。イタい。


……


………………


…………………………


(異世界転移を果たしてから3週間が経った。私は最近少し困ったことがある。というか、今までになかったことだけど)


「櫛引ちゃん、邪魔なんだけど?」

「え、あ、うん。ごめんね?」

「あのさ、なんもできないんだからウチらにタメ口とかやめてくれる?」

「……え?」


 前の席の女の子が、少しイライラした様子でそういう。その周りの女子たちも。

 どうして? 今までそんなことを言われたことなんてない。それどころか、自分とは気さくに話す仲だったのに……? 


「う、うん。ごめんなさい……」


(違和感だ。最初の教会、あそこからずっと違和感を感じる。身体のことは『魔王』のことを示していたんだろうけど、雰囲気の方は全くわからない)




 王宮の庭はとても広い。木葉は方向音痴なので、直ぐに迷ってしまいそうになる。


「……花蓮ちゃんに相談してみようかな」


 異変くらいなら、誰かに相談しても問題ないだろうと木葉は判断した。

 最近自分を見るみんなの目がどこか侮蔑的なものを含んでいる気がしてならない。役に立たないというのは確かだ。だが、その程度で自分を軽蔑するような人たちではなかったはずだ。


 ドンッ。


「あ、ごめんね、(かがみ)くん!」


 クラスメイトの男の子にぶつかってしまった。慌てて謝るが、彼の一言は衝撃的だった。


「いってぇな!! 気をつけろよ! 役立たずが!!」

「へ? あ、うん、ごめん……」

「ったく、なんもできないならせめて邪魔になんなよ、グズが」


 吐き捨てるようにして鏡は去っていった。残された木葉は心にトゲが刺さったように身体がドッと重くなっていく。


(私、なんか嫌われてる? だって、鏡くんは大人しくて……いつもあんなこと言う人じゃなくて)


「花蓮ちゃんたちは……大丈夫だよね?」


 不安が募ってくる。もしかして自分が魔王であることがバレたのだろうか? いや、それなら王国がすぐに行動を起こすはずだ。ならば何故? 


「会いたいけど……今は訓練中だよね」


 鏡くんも訓練に向かう途中だったのだろう。もしかしたら異世界に来てピリピリしているのかもしれない。うん、きっとそうだ。そうなんだ……と、何度も何度も自分に言い聞かせた。





 基本的に木葉の1日は厨房に立つことがメインとなる。

 師匠に教わりながら料理を作る。師匠はなかなか教え上手で、木葉は料理人ではないのにいつのまにか料理のスキルを覚えていた。スキルが増える条件というのはマチマチだが、どうやら木葉はスキルを覚えやすいタイプらしい。スキル獲得スピードの速さには師匠も驚いていた。

 異世界転移をして38日、木葉は元の世界の物だけでなく、現地の食事も作れるようになった。


「最初は卵も割れなかったヒヨッコが……こんなに立派になりやがって……ったく」

「師匠っ! 涙が!」

「バカヤロウ! これは……塩水だ、こん畜生! ハフハフッ、あぁ、うめぇじゃねぇか……こいつぁ鍛え甲斐がありそうだ。これからもビシバシ指導していくからな、木葉ァ!」

「お、押忍!!」


 師匠に現地の材料を使ったラーメンを振る舞ったところ、かなり良い評価を得た。木葉はずっと厨房に入り浸っていたからその賜物かもしれない。

 というのも最近みんなとは朝昼訓練で夜は座学で、意外と話す機会がないのだ。木葉も座学には出席するが、最近どうもみんなに避けられている。というか、嫌われている。必然的に話す相手は師匠か、料理人のみんなしかいなかった。


  一度夜に花蓮の部屋に入ったことがある。その時花蓮は武器である弓の手入れをしていたが、木葉は花蓮に話しかけた。すると、花蓮から帰ってきた返事は信じられないものだった。



「……木葉ちゃん、今ちょっと集中しているから出て行ってもらえないかしら?」



 機嫌が悪かったのだろうか? そう思って、また次の日の夜に花蓮の部屋を訪ねた。コンコンとノックする。出て来た花蓮を見たとき、心が一気に明るくなったが次の瞬間、木葉は衝撃を受けた。


「……なに? 今弓の手入れしてるの。邪魔だから出たってって昨日もいったよね?」


 そう言って花蓮は、力強くドアを閉めた。取り残された木葉は……なにも言えなくてしばらくそこに立ち尽くして、








 その日はベッドに潜り込んで一晩中泣いた。








 翌日は上達した料理を振る舞おうと樹咲の部屋にも行ったのだが、部屋に入れてさえくれなかった。千鳥や零児、白鷹語李も同様だ。みんな木葉が話しかけようとすると、露骨に嫌そうな顔をする。

 中には料理を跳ね除けた物もいた。木葉はそれを泣きながら拾い集める。何故? みんなとても良い人で、友達で、仲良くしてたのに……。




「……なんで?」

 



 相談相手としては笹乃先生を選んでいたのだが、最近はその笹乃先生ですら相談している間の反応が芳しくない。その目が段々と嫌悪を含む目になっていくのが怖くて、3日前から先生の部屋にいくのをやめた。


「やだ、やだよ。1人は嫌だよ。怖いよ、なんでみんな避けるの? なんでみんな私を嫌うの? なんで、なんで、なんで?」


 木葉はやはり、1人暗い部屋で涙を流した。


……


…………


……………………


 部屋に朝日が差し込む。窓辺で小鳥が鳴いているらしい。そんな日は起きてラジオ体操でもしよう! といつもなら思うのだが、木葉はどうにも憂鬱だった。


(また、朝が来ちゃった……。今日で転移してから45日。みんなは今日も【ゴダール山】攻略かな?)


 ゴダール山とは魔女の宝箱の一つだ。王都パリスパレスから見て東に位置する標高の高い山で、魔女の宝石はその洞窟の奥にあるらしい。あの講義の時以降、みんなはあそこで訓練している。行き帰りも近いから結構夜遅くまで潜っているのだとか。


 最近ではみんなが笑いながら楽しそうに帰還して来たのを見た。特に零児と花蓮は前よりも物凄く仲良くなっていて、最初は暴れていた船形荒野も気づけばみんなの輪の中に入っていた、と思う。それを笹乃先生が笑顔で出迎える。










 あの輪の中にいないのは木葉1人だった。









「……今日もお料理して、庭でダラダラして、座学……は休もう」


 毎日この繰り返し。気づけば捏造スキルを使うことさえ忘れている日もある。が、どうせ誰も合わないのだ。見られることもない。

 だが目を瞑ろうとすると、最近言われた数々の誹謗中傷を思い出してしまう。





「役立たずが、目の前にでてくんじゃねぇよ」


「誰? ああ、ぶりっこじゃん。きめぇからやめろよそういうの」


「昔からうざいって思ってたんだよねぇ。ねぇ、きいてんの?」


「見てると殺したくなってからからさ、目の前に出てこないでよ」


「身体だけは良いよなぁ、お前」


「荷物持ちならやらせてあげるわよ、きゃはははははっ!!」





(いいや、寝よう。全部忘れたい)


 そうやって二度寝と洒落込もうとした時、木葉の部屋のドアがコンコンと鳴った。また、誰かが嫌がらせに来たのだろうか? と考えながら、恐る恐る尋ねる。




「……誰?」

「アタシ。入るよ?」


 ドアを開けて入って来たのは、


「柊、ちゃん?」

「元気ないね。食中毒? アンタなら蟹の食いすぎでなってそう、ウケる」


 金髪の一匹狼ガール、真室(まむろ) (ひいらぎ)だった。だいぶ気怠げな喋りかたをしていることに違和感を感じた。


「……柊ちゃん、そんな喋り方だっけ?」

「アンタとはあんまり話さないからな。あぁでもこの前図書館で会ったか。そん時はアタシも不機嫌だったからなぁ。取り敢えず、ほいっ!」

「うわわわ!」


 柊が投げて来たのは、この国のお菓子。一口サイズのクッキーの袋だった。


「食べなよ。アンタすごいやつれてるよ? 美少女が台無し。ウケる」

 

 よく見れば、歪な形のクッキー。おそらくこれは彼女の、


「手作り……?」

「アタシお菓子作るの好きなんだ。まぁ、甘いもの食べて元気出しなって、ね?」

「……うん」



 袋からクッキーを出し、口に入れようとして、



「あ、ストップ」

「へ?」

「どうせなら、外で食べよう」

「え、でもお外って……」

「裏庭に警備の薄いところがあるんだ。知ってたか? 流石近世風、ガバガバ警備ウケる」

「え、えっと……」


 戸惑う木葉の手を、柊が引っ張る。


「そんな辛気臭い顔して部屋の中に篭ってるから暗くなるんだよ。ほら、行くぞ」 

「うぇ!? ちょ、ちょっとまってよ!」

「いざ異世界ショッピングへレッツゴーってね」

「ショッピング!?」 


 強引に引っ張る柊が振り返って微笑む。


「アタシはアンタを買い物に誘いに来たのさ。さ、行こうぜ?」

魔王の名前は全てクラシック音楽から取っています。多分知ってる方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか?一応100年以上前の作曲家たちの名曲です♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ