2章33話:強欲の魔王と新たな邂逅
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翌日私たちはダッタン人の踊りから指輪を預かることになる。赤色に光り輝く宝石のはめ込まれた指輪を、今度はロゼにあげることにした。
「わぁ〜〜〜!こののんから指輪もらっちゃったんよぉおお〜〜!左手の薬指にはめて大切にするね〜!」
「え、うん?喜んでもらえて良かったよ」
「木葉……絶対意味分かってないわね……」
迷路の薬指にもローマの光玉という指輪がハマっているが、なんか流行ってるのだろうか薬指。
・アイテム【韃靼人の紅玉】を入手しました。
・特殊技能:《方舟》を獲得しました。
「方舟?」
しかも私と迷路は獲得できていない。ロゼだけに方舟というスキルが追加されていた。
「ま、適材適所というやつなのだ!3代目魔王とそこの青髪娘は素養がなかったのだろ。その代わり、妾を倒した時のドロップを与えてやる」
「お、おぉ」
移動魔法《ダッタン人の踊り》を獲得しました。
「これ、全員にドロップしてくれるの?」
「本来ならレアドロップだけど。ま、特別なのだ。これを使えば飛ばなくても透明の障壁を空中に展開して、その上を歩くことができる。限度はあるが、移動魔法としてはかなり上位に位置しているのだ」
「踊るようなステップを……ってところかしら。因みに方舟はどういう意味なの?」
「一度訪れた地域をマーキングしておけば、方舟を使用すれば一瞬で移動ができる。さらに大型船を具現化して普通に高速移動が可能だ。これがどう役に立つかは、お前たち次第だの」
これは便利だ。が、やはり魔王討伐に直接関わってくるほどのものではない。クープランの墓が言っていたことはどうやら間違いではないようだった。
「これでロゼと私たちは一連托生だね……」
「嬉しいんよ〜!こののんたちと一緒なら!」
「国外に逃げることも考えたけど、もう少し王都の状況を探ってみる。なるべくゴダール山以外の王国内全ての宝箱を攻略してから国外に行きたい」
「だからこその水都:ヴェニスなのね」
迷路は昨日のことはさっぱり覚えていないらしく、今朝も澄ました顔でおはようと言ってきた。特に変な様子はないので、多分本当になんも覚えていないのだろう。有難い話だ。
「水都:ヴェニスには大陸1の深さと言われる地底湖:マスカーニ湖がある。そこは一般では一切認知されていないし、多分王国も把握してないと思うけど、魔女の宝箱だ。潜む魔女はカヴァレリア・ルスティカーナ」
私の言葉を待ってからダッタン人の踊りは補足をした。
「奴は恐らくだが理性がないからな、注意するのだ。奇妙なハープを使うが、心を強く持てば勝てる。妾を破ったお前たちならやれる」
「忠告感謝するわ。さて、レスピーガ地下迷宮同様、装備品についてもいくつか準備が必要だから1週間は休みましょうか」
そこから1週間、テキトーに本を読み続けたりダッタン人の踊りも含めて4人でトランプをしたりして時間を過ごした。ロゼの魔力回復は1日でなったが、どうせならダラダラしていこうというのが満場一致だった。私も別に焦ってないから特に問題はないと思う。
「チェックメイト〜」
「ぬわああああああっ!!馬鹿なぁ!?妾がチェスで負けるだと!?ぬわわあああああ」
「こいつ本当に感情なくなってんのかな……」
「この悔しさ、最近は忘れていた感情だ!!もう一回!もう一回だ!!」
「え〜もう15戦もしてるのに〜。めーちゃんなんかたった10連敗しただけでヘソ曲げて不貞寝しちゃったもん〜」
「あー、それで迷路がソファで寝てるのか」
「こののん居なかったけど、何作ってたの?」
「そろそろこの時期かなぁ、と」
実は異世界に来てから実に4ヶ月近くが経過している。季節は一応秋、くらいだと思うのでお月見団子を作ってみた。あんこも醤油もないから生クリームを乗っけてみた。美味しいかな?
「おぉ〜もちもちしてるんよ〜!!!なかなか珍しい食感〜」
「妾、こんなの初めて食べたのだ。3代目、お前凄いのだ」
「お楽しみはこれからだけどね、今夜の夕食はラム肉だよ、ダッタン人の踊り」
「ほ、本当か!?わあああああああああああーーーい!!!」
「やっぱ感情失くしたっての嘘だろ」
はにゃっていう顔でダッタン人の踊りは踊っていた。もう字面がよくわからない。
「で、迷路も起きてるなら食べなよ。結構自信作なんだよ、これ」
「ば、バレてたの?」
「迷路の寝たふりは下手くそだし……最近は夜何かごそごそやってるけど、何してるの?」
「な、なななななななななななな!?聞いたの!?ねぇ!木葉!?」
「え、え、何が!?」
「ろ、ロゼは!?」
「僕はすぐ寝ちゃうからよくわかんないんよ〜」
「木葉は!?」
「わ、私はほら、夜遅くまで図書室で本読んでるから。帰ってきたら何か慌てたようにごそごそしたのをやめてたし……」
「……ほっ」
なんでそんなに慌ててるのかよくわからないんだけど、本当に何やってるの?まぁ泣いてるとかじゃないから多分大丈夫だとは思うけど……ちょっと気になる。
と思ったらロゼが迷路に何やら耳打ちをして、その直後にロゼと迷路の追いかけっこが始まった。何言ったんだ……?
…
…………
………………………
〜迷路視点〜
バレてない、と思ってたら……ロゼはバッチリ聞いていたようで、
「めーちゃん……もうちょっと声は抑えた方がいいと思うんよ……流石の僕も起きちゃうんよ」
「な、なななななななななな!?ロゼぇええええ!!」
とロゼを追いかけ回す羽目になった。
というのも、最近抑えられないのだ。何かって……その、あれよ……その……。
木葉への感情……みたいなもの。
何故かこの地下宮殿に来て以来、身体が疼いて仕方がない。最初の頃は本当に酷く、木葉がダッタン人の踊りと長話をしに行ったのはわかったが、それを聞きにいこうとすると体の疼きに襲われた。木葉が私以外の誰かと一緒にいるだけでこの胸の動悸が収まらない。
あの時のことは全部覚えてる。恐らく吸血鬼化したこのはの眷属になったのが原因だと思う。1週間たってやっと疼きは治まったが、自覚してしまった気持ちはもう抑えられなかった。
私は、木葉を恋愛対象として本気で好いているのだと。
それどころか、性の対象としての精神が強くなっていることを。
だから今は……どうか気づかないで木葉……女の子同士で……そんな……こと……。
…
………
………………
で?ズルズルとなんと2週間も滞在してしまった、というわけだ。この魔宮でダラダラすること実に3週間。マジかぁ。
「面目ないわ……」
「迷路が変な病気とかじゃなくて良かったよ。原因はよくわかんないけど、もう大丈夫なわけだよね?」
「勿論よ……お騒がせしたわ」
「いいんだけどさ……」
なんか恥ずかしそうにしてるから、言えないことなのだろう。そういうの鈍いから私よくわかんないんだよなぁ。
最近の迷路は時々ぽぉーっとしたように真っ赤になった顔で私を見ている上にすぐ息切れがして胸を抑えるからちょっと心配だったが、昨日からそうした状態も解消されたらしい。血を吸うのもほどほどにしなくてはならないだろうね。
「お土産はあまり持たせられぬが、まぁカヴァレリア・ルスティカーナによろしくなのだ。あやつは微妙に理性が残ってるかもしれんから教えておくが、500年前のあの時から魔王様のお気に入りの女でな。妾は魔王様の相談というか遊戯の相手をしてやったが、あやつは本当に魔王の女じゃった」
「……魔女が恋人とかあるの?」
「恋人、というかセフ」
「あああああああああああああ!木葉になんてことを教えるのよっ!シャラップ!」
「?」
「おい、この3代目はまさかそんな知識もないのか?いささか妾も不安になってくるぞ」
なんか貶されている気がするんだけど。
「まぁいい。世話になった、ありがとう」
「魔王らしくない挨拶なのだ。魔王は魔王らしくしとおきぃ。いずれ3代目にも試練の時が訪れる。今代の勇者が如何程かはわからぬが、まぁ長生きせいよ」
「ダッタン人の踊りはこれからどうするの?」
「もう幾晩もすれば祖霊もリセットされ、妾は再びダンジョンマスターとしての役割を果たす。初代勇者が一つぶち壊したが、本来魔女の宝箱はちょっとやそっとじゃ破壊されん。新しい挑戦者が来ることを楽しみに待つのだ」
地下宮殿からの脱出口を出ると、南のアルペス山脈を一つ越えた先に出るらしい。その街道を真っ直ぐ南へと進んでいけばミラン、ヴェロナ、そしてヴェニスに着くという手はずだ。
出口に向かって進む私にダッタン人の踊りが呼び止める。
「3代目」
「なに?」
「お前が、2人両方を選んだ時、妾はお主が3代目で良かったと思うた。合理的に1人を切り捨てていたら、妾はお前に方舟は与えても移動魔法は絶対に渡さなかった。そのことを、絶対に忘れるでないぞ」
「………………………………」
「クープランの墓は切り捨てるタイプの男だった。だがお前は違う。魔王としての性質は同じかもしれないが、その中の本質は全く異なるのだ。魔王をイメージ通りに一緒くたにするでないぞ。よいな?強欲の魔王よ」
「一応は心に留めとく」
地下宮殿を出て馬車を走らせること数時間、リヒテンからはだいぶ離れクラーカという小さな町に着いた。方舟の能力で空を飛んでもいいのだが取り敢えず今はやめておく。なんか怖いから。
その代わりと言ってはなんだが、一応魔笛で作った氷馬車に方舟のスキルから抽出した速度系統の魔法をかけ、その速度は倍以上になった。当然のごとくロゼがやりました……魔法の書き換えとかそう簡単にできるもんじゃないんで。
「最後、魔女となにを話していたのかしら?」
「ま、仲間を大事に、みたいな感じだよ。向こうにも思うところがあったんだろうね、どうでもいいけど」
「冷たいわね……」
「500年前のこととか勝手に重ねられて感傷に浸られても迷惑だもん。
ん?あれ、なんだろ」
クラーカの街の中心街の時計台に人がごった返していた。何やら紙が貼られているらしく、人々がガヤガヤと騒いでいる。
とうとう指名手配でもされたかな?
「見えそう?」
「んー、厳しいな。ロゼ読めそう?」
「うん〜!僕目はいいからね。でもこれ多分、死罪報告についての案件だよ。王都政府のサインが見えるし」
紙には遠目にでもわかる、黒の鷲の判子が押されていた。そこには死罪という文字と、顔写真。
「こういうのは本当にやばいというか、王都でよほどの一大事がない限り報告はないんだけどね〜。さて、何やったのかなぁ〜」
「なんて書いてある?」
文字を読んだロゼが少し目を見開くと、凄く言いづらそうに口を噤む。何か私に配慮しているかのようなそぶりに、途端に胸騒ぎがした。
「………………………………………………だれ?」
馬車が近づくにつれ、顔写真が見えるようになってくる。そこに移されていた人の顔を見て、私は段々と事の重要さがわかってきた。
「罪状:国家反逆罪ないし殺人罪。満月教会および王都政府を脅かし、王都の上級主幹1名、主幹2名を殺害した罪状で……」
ガタリ・シラタカを死罪とした。
張り紙にはたしかにそう書かれていた。ガタリ・シラタカ……白鷹、語李!?
「これ、こののんの知り合いじゃ?」
さらにその下には写真付きのリストが並べられ、指名手配がされていた。その顔ぶれもまた……
「最上笹乃……鮭川樹咲……他数名」
私の知ってる顔ぶれが、王都から逃亡したことが書かれていた。一体、何が起きてる……?
王都政府を怒らせた?国家反逆罪?これは、一体……?
「もし、そこの人」
「!?」
全く気配に気付かず、背後に1人の小さな女の子がいた。フードで顔が隠れているが、そこから見える金色の髪が美しかった。まだ10歳かそこらの少女に見える。
「だ、誰?」
「あぁ、この気配はやはりそうですわね。貴方が、3代目魔王」
「なっ!?」
何故、知ってる……?
「こ、木葉!こいつは!」
「わかってる」
早くも追手がついたか?いや早すぎる……大体何故私がこの街にいるなんてこと。
「どうか警戒しないでくださいまし。わたくしは個人での攻撃手段がありませんわ。冒険者ヒカリさん、いや、クシビキコノハさん」
本名まで……。
「なんでお前が私の名前を知ってる?お前は……?」
「あぁ、無作法をお許しください。わたくしは……」
はらりとフードをとる。するとその人物は驚いたことに、
「だ、第2王女!?」
「ええ、その通りですわ。わたくしはレイラ・フォーベルン・エルクドレール。神聖パルシア王国第2王女、という肩書きを背負わせて貰ってます。ここでは人目に付きますので、付いてきていただけますか?クシビキ様」
「……木葉、だって?」
レイラの後ろに控えていた人物。彼女には気づいていたが、こちらは気配が見えていたのでそれほど警戒はしていなかったが……何故私の名前を?
「レイラ様……本当に彼女が……いや、誰……?」
誰はこっちの台詞なんだが……え、マジで誰?茶髪をポニーテルにまとめた美人の女の子が驚愕の顔で、というか疑惑の表情を浮かべてこちらを見ていた。
「取り敢えず移動しますわよカタリナ。足がつかないように手は打ってあるとはいえ、あまり留まりすぎると観測術式で見つかる恐れがありますわ。彼女とお話をする未来は決まっていますが、イレギュラーによる未来変動が起こらない保証はないので」
「決まって……いた?」
「わたくしが貴方の正体を知っていたこと。そこのカタリナのこと。貴方がここに来ることをわたくしが知っていたこと全て含めてお話ししたいのでついてきて欲しいのです」
「怪しすぎる」
「ええ。ですが貴方は話を聞く。聞かなくては進めない、違いますか?」
私は思わずおし黙る。これが10歳かそこらの少女なのか?さっきから目の焦点が合っていないが、その碧玉の瞳は、私が見えていない?
「カタリナ、手を」
「は、はい」
「用意しておいたレストランへ連絡を。VIPですので」
カタリナという少女がレイラ姫の手を取って歩き出す。どうやらその目は全く見えていないらしく、長身の少女の手を取って歩き出す。私は、ロゼや迷路を見て少し躊躇ったが、その後をついていく他なかった。
ごめん、後1話続きます




