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2章31話:イーゴリ公・韃靼人の踊り攻略戦〜後編〜

ダッタン人の踊りは有名な曲なので知ってる人結構いると思います。響けユーフォニアムでも一応登場してました

「どうだ!!偉大なる祖霊の力、これこそ我が真の姿!魔女:ダッタン人の踊りの姿だ!!妾を倒してみい、強欲の魔王!!」


 巨大な骸骨:ダッタン人の踊りは、宮殿の高い天井を崩しその体躯はどんどんと肥大化していく。パラパラと瓦礫が落ちてくるので流石に退避すべきか。


「とりあえず、出るよ。迷路、ロゼ」

「ええ、そうね……ん?!」

「了解なんよ〜!って……え?」

「こうした方が早い」


 迷路をお姫様抱っこし、ロゼを背中に乗せる。そして、


「飛ぶよ」


 黒い羽を動かして宮殿の外へと飛び去った。


「ちょ、木葉!恥ずかしい!下ろして!」

「いやあのままだと潰されてたし、この方が早」

「そう言う問題じゃないのよ!もう!木葉は女心をもっと理解して欲しいのよ……」

「よくわかんないけど、お姫さまを救い出した王子の気分かな」

「なっ!?」


 迷路にそう微笑みかける。すると迷路はまるで本当のお姫さまのように少し赤くなりながらも微笑み返してくれた。うん、可愛い。ありえないくらい可愛い。


「ちょぉお〜!こののん!僕もお姫様抱っこしてほしいんよ〜!」

「えー……」

「ろ、ロゼ!貴方は木葉と添い寝したでしょうがっ!それで我慢しなさい!」

「本編で書かれてないからノーカンなんよ〜!」

「なんでそう言うこと言っちゃうかなぁ……」


 2人を下ろして再び宮殿に対峙する。ダッタン人の踊りは宮殿を破壊し尽くしそのままこちらへとその腕を伸ばしてくる。巨大な骸骨の後ろには、銀色の糸で繋がれた少女がこちらをみて挑戦的な笑みを浮かべていた。


「骸骨を操ってるあの子はやっぱ本体だろうから、あの子を潰せば勝ちか。でも……」


 祖霊骸骨が腕を伸ばしたその先には瓦礫が積み重なっていたが、祖霊骸骨が何かぶつぶつと唱えるとそれらの形が段々と変形していく。


「まさかの分体化!?それも大量に兵士を創作できるのか」


 瓦礫は大きな骸骨へと変わり、四足歩行でこちらに突進を開始する。めっちゃ早い!


「避けて!」


 分体骸骨はその巨体を頼りにひたすらに民家へと突進を繰り返し、周囲に瓦礫の山を作って行く。分体と言ったがこの手法というかこのパターンは一度見た。恐らくこれは、ローマの祭りと戦った時と同じように使い魔としての役割を果たしている。魔女が使いこなす使い魔は本人の魔力の差もあるが、通常のものよりも持続力が高いと思う。この骸骨を何体生成できるかはダッタン人の踊りの魔力量次第だが、


「うっそ」


 瓦礫の山からは次々と分体骸骨が生成されていき、周囲にはもう20を越す骸骨が出現していた。ここまで行くと絵面はホラーではなく、スケールの大きさから特撮を見てる気分になってくる。


「これじゃ本体にたどり着くまでにかなり浪費するな」

「どうだどうだ魔王の後継者ァ!!!妾の兵は!!さっきの亡霊兵より遥かに強力だぞ!さぁ!また地べたに這いつくばるがいい!」

「「「「「AAAAAAAAAAAAA!!」」」」」


 ケタケタと骨が振動するような咆哮を放ち、20数体もの分体骸骨が突進を開始する。一体目がこちらに手を伸ばしたタイミングを見計らってそれをジャンプして避け、腕へと着地した。


「瑪瑙」


 瑪瑙を抜きはなち、その刃を確認する。瑪瑙は、吸血鬼が吸う人間の血のように真っ赤に染まっており、溢れ出た血が剣の周囲をくるくると回っていた。


「死ね」


 瑪瑙を振り上げると、その刀身は全く首に届いていないのに赤の斬撃が一直線に分体骸骨へと向かっていきその首をあっさりと刈り取る。どうやら飛び散った血が斬撃の効果を果たすらしい。え、飛び道具的なチート感すごない?ガラガラと崩れていく胴体から飛び降り、地面に着地する。



 ステータス画面を選択して表示を目の前に映し出した。


【特殊スキル】《鬼姫》:

・茨木童子→《鬼火》

・両面宿儺→《???》

・土蜘蛛→《禍神呪い》

・吸血鬼→《血操解放(けっそうかいほう)


 吸血鬼:ある一定の条件を満たすと自動回復のスキルを大幅に引き上げる。


 《血相解放》→使用者のダメージ分、血の量に反応してその攻撃力は増加する。血を媒介しとした魔術式を展開し、液体状の血液を様々な固形物へと変化させる。血液内には付与された術式は瑪瑙の玉鋼の成分と《斬鬼+++》のスキルが含まれており、切れ味は通常の瑪瑙の3倍となる。


 と、相変わらずのチート性能だった。自動回復の状態を引き上げるって、そろそろ血の量が足りなくなってきたから凄く必要なんだけど、えっと……おぉう。

 ステータス表示をしまい、迷路を呼ぶことにした。


「迷路」

「なにかしら?今、ちょっとどうやって攻略するかを考え……」

「ちょっとごめんね」

「え、え!?ひゃっ!木葉!?こんなところで!?」


 迷路を両手で抱き寄せてその首に歯を立てる。


「ひゃっ、やめ……きゃあっ!」

「大人しくしてて、痛くしないから」

「はわ、はわわわわ、こののんが昼間っからめーちゃんに盛ってるんよ〜!えちえちなんよ〜!」


 迷路の首筋から血を吸う。あれ、美味い。美味しい!血ってこんなに美味しいの!?ああ、なんて甘美な味わいなんだろう。なんというか、ちょっと甘くて蕩けるような味わい……これならいくらでも……。



 いやダメでしょ死ぬよこれ。



「ぷはっ……ご馳走さま。ありがとね」



 粘っこい唾液からは鉄分の匂いがする。その味わいに出たヨダレが思わず迷路に垂れてしまう。






「こ、木葉……」

「あ、ごめん、痛か……ん!?」





 ぽぉーっとした顔の迷路は服がはだけて、それでいてあり得ないくらいの色気を醸し出していて、かなり官能的な状態になっていた。


「こ、このは……も、っと……吸ってぇ……」

「い、いや……これ以上は」

「もう私……我慢、できないのぉ……」


 ちょ、なんで発情した猫みたいになってるの!?あ、いや、こんなの理性飛ぶ……エロすぎる……ってそんなこと考えている場合じゃない!!ナニコレナニコレナニコレ!?ちょっとすくな!?


(何かな?深層に押し込めていたのになんだいわざわざ呼び出して)


 何かなじゃないよ!何かなはこっちだよ!ナニコレ!?


(何って、吸血鬼に血を吸われたものは吸血鬼の眷属になる。およそ一般的で有名なお話しだと思うんだけど)


 眷属とは……?いやほら色々あるじゃん?昨今設定が氾濫しててよくわかってないしさ。


(この場合でいうと眷属は、血を吸われると一時的に脳からとてつもない快楽を感じる成分が出てくるんだよ。今彼女はトリップ状態にいるわけだね。理性がはち切れその本性が現れる。また、絶対に主人たる吸血鬼には逆らわず恋愛的な感情を抱きやすい。この説明で充分?このは)


 はいもう充分、よく分かりました。つまり当分このまま、と。


「この、は。このは、このは、このは!!!好き好き好き好き!!!」


 ぽぉーっとした表情で、目の奥がハートマークの迷路に思う存分抱きつかれ押し倒される。あのー、視界の端っこでロゼが戦ってるのが見えるんだけど、ごめんこれ助けに行けそうにないな。

 取り敢えず吸血鬼の命令には絶対服従だそうだから待機命令を出すことにした。


「迷路は待機。これ以上は吸いません」

「やらぁ……このはのいじわるぅ……ほしいの、ほしいの、ほしいのほしいの欲しいのぉ」

「……状況が状況じゃなかったら間違いが起こってたと思うけど、この状況でロゼを見捨ててると私、後悔するから」

「なんかちょっと前に言ったセリフでカッコ良い感じにしてるけど早く助けて欲しいんよ〜!!」


 横目にちらっと見ると、ロゼは持ち前の小型ナイフで骸骨を翻弄し善戦していた。ナイフをうまく骨の接合部の弱そうな部分に突き刺し、巨体が崩れた所で火雷槌で頸椎を刈り取る。どうやら頭を落とせば骸骨は分解されるらしい。

 とはいえ大量の骸骨から私たちを守るのも限界があるし、倒しても倒しても骸骨は増えていく一方だった。やはり、先にあの『祖霊』と呼ばれていたやつを倒さないことには、うわあああああっ!


「あぁああ……このはの匂い……このはの柔らかい体……好き、好き好き好き好き♡」

「みゃああああああああっ!!!どこ触ってるの迷路!?」


 迷路の手がいやらしくパーカを脱がせて下着の中にまで伸びていた。その蕩けるような声で唇を私の唇に重ねようとしたので、なんとか理性を保って手で塞ぐ。


「今は、だめ」


 紡ぎ出した言葉がそれだった。

 

「後なら、いいのぉ?」

「……あとでなら幾らでもいいから。今は、ロゼを助けなきゃ」

「む……わかったぁ。でも、終わったら私のこと、メチャクチャにして、ね?」

「……ごくり」


 戦闘が終わった頃には元に戻ってるだろうけど、今の迷路を見てると戦闘ほっぽって快楽に身を任せてしまいたくなる。憤怒・強欲ときて、このままだと色欲も解放しちゃいそうだが、今は奴を倒すのが先だ。


「《催眠術式》」


 迷路を眠らせた。ゆっくりと木の陰へと隠す。


「ここで休んでて迷路。じゃ、行ってくる」



………


………………


「こののんお帰り〜!お話をいっぱい聞きたいところだけど、今は打開策を見つけるところからかな〜!」


 骸骨が指から放った黄金の矢。先程私を貫いた何本もの矢をロゼは火雷槌を回転させて全て斬り伏せていた。武器単体ならロゼの火雷槌は瑪瑙すら凌ぐようだ。


「あの骸骨、矢まで撃てるのか。大丈夫。私とロゼが揃ってればいける」

「わかったよ〜。僕、今は魔力量的に武甕雷が使えないかもしれないけど、大丈夫?」

「それを踏まえた上で、勝つよロゼ。私を信じて」

「うん!やっぱこののんと一緒にいると楽しいよ〜!」


 ロゼは嬉しそうに頷く。そして再び2人でダッタン人の踊りに向き合った。


「妾に何を見せてくれるんだ?なぁ!」

「三代目魔王が、初代よりも強いってことをだよ、覚悟はいいか?」

「ほぉ!!!妾に証明してみせろ魔王の後継者ァ!!!」

「《血操解放》!!!」


 迷路から補給した血の半分は回復に、そしてもう半分は攻撃にっ!


 瑪瑙に血を流し込み術式を起動させる。そのまま水平に分体骸骨に向かって瑪瑙を一閃した。すると、


「!?」


 遠距離斬撃で、続々と目の前にいた分体骸骨が切り崩されて行く。肋骨で強力に固められた胸部もたった一撃で粉々に砕け散っていった。それでも、何度も何度も太刀を振るう。


「ロゼッ!」

「合点なんよ〜!」


 崩れた骸骨の骨を踏み跳躍していくロゼ。次々と火雷槌で頸椎を切り、分体を破壊していく。


「それがどうしたぁ!?分体なぞいくらでも!_____ッ!?」

「作れないよな。お前が最初に骸骨を作るのに設定したのは『石』だもんね。だから、凍らせて貰った」


 迷路の血は驚いたことに着いた部分を凍結させる能力が備わっていた。これは彼女自身の血に氷の魔術式が含まれてることに起因している。

 祖霊骸骨はその指で石に触れることで石から分体、すなわち使い魔を生成する。どうやら再設定は可能らしいが、それにもいくつか制限がつくらしい。その隙を突かせてもらう。再設定の時間なんて与えない!


「もしかして、とは思ったけどちゃんと凍ってくれてよかった」

「な!?こ、んなもの!……壊れない……だと!?」

「迷路特製の氷だ、凍土の魔女なめないで」


 瑪瑙を振るった時、周囲の瓦礫には迷路の血をつけていた。私ばかり見て上から見下して気づかなかっただろう?周りのことを、足元のことを。


「くっ!殺せ、タタールの戦士たち!妾たちの力を見せつけてやれ!」

「ロゼ!!」

「《範囲拡大》!!《音叉連動》たぁあああああああっ!!」


 火雷槌を地に振るい振動を起こすロゼ。瞬く間に土煙があがり、それらはスキルで拡散していった。


「行くよこののん!」

「さんきゅ、ロゼ」


 分体には目もくれずに走り続ける。狙うは祖霊骸骨のみ!


「《血操解放》!!」

「ええぃ!!ひれ伏せ愚民ッ!《金色夜叉(こんじきやしゃ)》!!」


 祖霊骸骨の腕が金色に光り輝き指の一本一本が良質の剣と化す。腕を払うことで瑪瑙の斬撃を切り裂き、相殺する。が、血さえばら蒔ければこちらのものだ。


「やれ」


 空中に散った私の血が変化を始め、血の糸が祖霊の骨を貫いていく。


「くっ!!まだまだぁ!!」


 金の腕が宙に浮かんだそれらの血を全て破壊しもう片方の腕で地を叩いた。土煙が舞い、周囲は砂の嵐に包まれる。


「《砂塵結界》!」

「させないっ!」


 黒い翼で空へと飛び立ち斬りかかる。が、砂の風がその威力を大幅に軽減させたらしく刃は骨を砕けない。


「《砂楼》!」


 砂で出来た塔が空中の木葉に襲いかかる。その勢いに押されて宙に投げ出されるが、直ぐに羽を広げて体勢を立て直した。次から次へと珍妙な技を出してくる。一向にダッタン人の踊りどころか祖霊にすら近づけない。


「どうしたどうしたどうしたぁ!?妾には届かぬぞ!」

「届かせるんよ」

「ろ、ロゼ!?」


 空間が歪み始める。その影響か、砂塵結界が風に揺られたかのようにうねりをあげていた。

 火雷槌の先端に黒い球体が出現しその先に禍々しい刃が現れる。宙を舞う無数の刃先が花びらのように規則的にロゼを守護する形で展開された。


「ロゼ!!これをっ!!」


 私は咄嗟にポーチから魔力補強材をロゼに投げつけた。砂に当たって瓶は砕け、液体がロゼに降りかかる。液体の滴る桃色の髪から覗くピンクトルマリンの瞳が煌めいた。




「貯まったんよ」




 あの時ラッカを貫き損ねた神話の槍が膨大な魔力を纏って現界する。ロゼをも飲み込むほどの黒いオーラが周囲に極黒の雷を放っている。


「撃たせぬわァァァァァァ!!《金色夜叉》!!」

「《血操解放》!!はあああああああっ!!」


 金色の腕がロゼに伸びる前に空中から赤の斬撃を放ち、地面に砂塵を巻き起こす。


「いっけぇぇえええええ!!!ロゼぇえええ!!!」


 この巨大空間内に響き渡るほどの声で、私が今まで出した叫びで一番響くくらい叫んだ。そして重ねる、その声を大きく張り上げて叫ぶ。















「「《武甕雷(たけみかづち)》ッ!!!!」」














 黒の咆哮が一直線に雷を周囲に撒き散らしながら進んでいく。魔力放出が通った後の大地は剥離し周囲に暴風が起こる。形成されていた砂塵結界は黒の咆哮と桃色の雷に飲み込まれ、その中の祖霊骸骨をも飲み込んでいった。だが、


「ああああああああああああああああっ!!!効かぬなあああああああっ!!!」


 祖霊骸骨はその体躯のあちこちにヒビが入り、ボロボロになっていたがまだそこに存在していた。


 そんな!?武甕雷でもあの祖霊骸骨を切り崩せないのか……?















「それでいいんよ」


「なっ!?」

「ろ、ぜ!?」


 空中にいた私も見えなかった。

 ロゼは祖霊骸骨とダッタン人の踊りとの間までいつのまにか距離を詰めていた。


「馬鹿なッ!?あれだけの魔力放出で!倒れていない!?」

「……ノイズ、キャンセルッ!」


 次の瞬間、糸が切れたようにロゼ、そしてダッタン人の踊りが後ろにふらりと揺れた。

 ロゼは倒れてから動かなくなったが、ダッタン人の踊りは驚愕の顔で膝をついていた。彼女と祖霊骸骨をつないでいた魔法の糸がロゼのノイズキャンセルでその力を流し込むことができなくなったのだ。だからこいつはもうただの木偶の坊である。



「ありがとね、ロゼ……血操、解放」



 血を纏った瑪瑙を目下の木偶の坊に振り下ろす。祖霊骸骨は大きな音をたてて崩れ去っていった。骨がボロボロと剥離し粉となって舞って行く。






 それは英霊の最期としてあまりにも綺麗で、幻想的な光景であった。

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