2章28話:これからどうする?
ごめんなさい今ヨーロッパに留学してまして、マジで更新できませんでした、いやほんとにごめんなさい。します更新、ホテル暇なんで
「お前ら……よくこの状況でここに来たな」
「この状況だから、だよアンソン。約束を果たしてもらいに来たんだけど」
中央広間から逃れ、真っ先に向かったのはリヒテンのギルド会館。アンソンとの重要な約束がまだ残っているうちはリヒテンを離れることはできない。
「お前……何者だ?後ろの嬢ちゃんは五華氏族:ロゼ・フルガウドだろう?そしてさっきそいつを庇って異端審問官を完膚なきまでに叩き潰したのもちゃんと見た。大分雰囲気が変わったけど、お前はヒカリであってる、よな?」
「あってるよ。あれ、情報が早いね。飛竜の鉤爪も結構大変だったと思うんだけど?」
「ああ、白磁の星々を潰すのにあのラッカとかいう異端審問官に借り出されてな。主幹もいねぇのに各部署と連携しろ、ときたもんだ。お陰で命令が行き届かずに街の住民に物凄い被害が出た。勿論、ウチのメンバーにもな」
部屋のあちこちの暗器は撤去されてないし、背後の部屋には10、いや20人はいるかな。警戒してるなぁ、当然だろうけど。
「女豹の人達も救出したし、依頼された魔獣は討伐したし、シャネルも捕縛した。全依頼達成したよ」
「報告は受けてる。お前らの実力を見て、その等級を銅月級まで引き上げることが確定した。連盟本部にもそのように通達して、多分許可は降りる。不本意ながらフルガウドも翠月級に昇格だ。これでいいか、化け物?」
「うぇぇ……心外過ぎだなぁ。にしても銅月ね……随分上がったなあ」
紫月くらいにまではあがると思ったけど、まさか最上級冒険者にまで引き上げられるとは思ってもみなかった。なるほどアンソンがギルド実力者だというのは間違いではないらしい。
「神聖王国で生存している銅月では史上最年少、神聖王国内では29、30人目の銅月級だ。しかもギルド所属じゃなくフリーの最上級冒険者……ふっ、面白いな、ますますアイツらに似ていて笑えてくる」
「アイツら?」
「お前もこれから冒険者稼業に身を浸すのなら覚えとけ。最上級冒険者、銀月級チーム:天撃の鉾。お前みたいに単独で上位の異端審問官を叩き潰せるやつなんざそのリーダーくらいのもんだろ。お前らはきっとそいつとも敵対する。そして異端審問官と敵対するってことは、ほぼ神聖王国と敵対するってことだ、そのことはわかってんだろうな?」
奥の扉から20人の冒険者たちが出てくる。元来た扉からは女豹のメンバー:ティザやライカがいた。私たちを取り囲むようにして腰の武器に手を置いている。
「無駄だよ。これだけ揃えても、私には勝てない」
「______ッ!君は恩人なんだ!大人しくして欲しい!私も弁護するから、一緒に王都へと来てくれないか?」
ティザが苦虫を噛み潰したような表情で訴えてくるが、残念ながらその話には乗れない。
「貴方達も、その天撃の鉾も、異端審問官も、私達の邪魔をするようなら殺すよ。人も亜人も魔族も関係なく、私の障害となる者は全部殺す。決めたんだ、そうやって生きていくって。だから、どいてくれるかな?」
恐らく魔王の付随スキル:威圧感を発動させ、ティザたちを慄かせる。それからアンソンの机にあった依頼達成報酬金を手にとって執務室を出て行く。
「茨の道だぞ?国が相手って中々無茶なことやってる。俺も、そこそこ気に入っているお前たちに死んで欲しくはない……」
「茨の道?私にとってそんなの苦でもなんでもないよ。国が相手?所詮国一つ、いや世界が相手でも私には大切なものを守りきるだけの力がある」
「……何故そう言い切れる?」
その質問に対する回答は、スラッと出てきた。
「私が、魔王だからだよ」
そう言って笑い、私は執務室を後にした。
「ま、まってください!王子しゃま!」
ギルド会館の入り口、振り返ると、そこには洞窟で助けた少女:ライカがいた。
「……何か用?これ以上何かあるならこっちにも考えが」
「ち、違いましゅ!!あの、あなた様が捕まえたシャネルなんですけど……」
シャネル?ってなんだっけ?
「あ、忘れてた。そういえばもうちょっと聞き出すことがあったんだけどな……どこにいるの?」
「…………………………………消えたんです」
「は?」
「取り逃がした筈はないんですっ!!確実に街まで連れてきて、そこから行方が……」
「逃げたんじゃないの?あぁ……ていうかまだ聞きたいことが残ってたんだけどな、15期生とかおかしなこと口走ってたし」
その流れで行ったら、きっと私たちは16期生ということになるのだろうか?
私の答えに納得しないのか、顔をしかめたまたライカは言った。
「多分、王都に連れていかれたんだと思います……」
「王都?」
「異端審問官と国王直轄諜報機関:禊がこの街に入り込んでたのは知ってましゅか?」
「ごめん後者は初耳なんだけど」
また大層なお名前で。そんな機関があるなら私の情報操作はあまり役に立たなそうなんだけどそこのところどうなんだろう。まだクラスの人たちに私が魔王であるとバレる訳にはいかないし。
「異端審問官はその……王子しゃまたちの手で全員塵になっちゃいましたけど、入り込んでた禊がきっとシャネルを連れて行ったと思うんです!!根拠はないけど……」
王都政府がシャネルを連れて行った理由はわからないけどまぁ私たちの前に転移者がいて、彼らが悲惨な末路を辿ったことなんて教えたくないだろうし、情報統制のための口封じって感じかな。おぉ怖い。
「私はっ!その……何もできないでしゅ。王子しゃまの為にできることは何も……でも……
気をつけてくだしゃい!これから王子しゃまが進む道は、とっても険しいでしゅ」
「そう」
歩み寄って、私は彼女の頭を撫でた。
「……またね」
「ひゃ、ひゃいいいぃい!!!」
なんか最近顔が真っ赤になった人しか見ていない気がするんだけど、そういう病気でも流行ってるの?
…
……
…………
「くそっ!」
ティザが拳を壁に叩きつける。その行動に周りの冒険者たちは怯えながら、どこか同情的だ。
「普通にびびっちまった。あいつ、本当に魔王かもしれない……」
「ギルマス!あんな恐ろしい子に、銅月級なんて!」
「鎮まれッ!」
アンソンの一括で、執務室にした冒険者たちは全員が喋るのをやめた。
「……実力はそれに見合っていた。ギルドの依頼も果たしてくれたんだ、それ相応の礼はしなくてはな。それに彼女が本当に魔王なら、俺たちでは太刀打ちできない」
(それこそ召喚された勇者や、銀月級冒険者の力が必要だ。そのために今王都には沢山の人柱が集められているのだから……)
「銀月でもアレに勝てるのか?私は彼女の魔王の如き力をこの目でみたぞ?」
「《十字架:トルド・クエストライト》、《天撃:カデンツァ・シルフォルフィル》、《精霊王:アコーディオ・ハイランド》、《絶対正義:アリエス・ピラーエッジ》、その他銅月級冒険者、そして今代勇者パーティー、宮廷魔導師団の上位魔導師、近衛騎士団団長:レガート・フォルベッサ、一等司祭の異端審問官。いざとなれば彼らが結集する。魔王相手に人間が遅れをとることなど……」
だが、執務室内の空気はどんよりと沈み込んでいた。あの場を見た者たちからすればそんな言葉は気休めで、魔王の力のポテンシャルは誰の目から見ても明らかだった。
(これから忙しくなるぞ。まずは新しい主幹が来る。そして、異端審問官敗北とフルガウドを取り逃がした責任追及がどうなるか……だな。あぁ、色々と残してくれやがって。だが、お前が名前通りの魔王ではないと信じているぞ)
…
……
…………
起きてから気づく。汗が衣服に張り付いて気持ちが悪かった。
「……最後に温泉でも」
そう呟いて、タオルと替えの衣服を袋に詰めて宿を出る。
「ボロッボロだな」
街を歩きながら思わず口に出てしまった。
一応、襲撃の被害は翌日にはほぼ収束していた。リヒテンを守護する王国軍第41駐屯兵団並びに飛竜の鉤爪の活躍により、白磁の星々の幹部級5名以下82名の処刑に成功。その後に街に放たれた魔獣の討伐を完了した、というのが表向きの結果報告といったところだと思う。
流石に壊滅した街で、しかもあれだけ脅しとけば取り押さえにくるなんてことはないだろうと、準備期間として一日だけリヒテンに滞在することにしたのが昨日のこと。といってもいろんな疲れからほぼほぼ寝ているだけの1日で、残念ながらリヒテンの温泉は未だに一度しか楽しめていなかった。
迷路は昨日一日食料の調達に出かけていたし、ロゼはずっと私の抱き枕だった。というのも魔力の回復には私の魔力を直接流し込むのが一番とのことで、昨日色々波乱があったのだがそこは番外編で述べさせていただくとする。
(昨日は大変だった……うん……)
かくしてリヒテンでの最後の一日が終わり、私はもう一度だけお風呂に入りに行くことにしたというのがあらましだ。
「あれ、先客?」
かなり朝早くを狙ってきたのにまさかいるとは思わなかったが、脱衣所に服が畳まれていた。
「あれ?迷路?」
「こ、木葉!?」
先客はよく見知った女の子だった。
「髪、洗ってもいいかしら?」
「ん、ありがと」
迷路がシャンプーを手にとって、私の髪に馴染ませるような手つきであわ立てていく。なんだかこうして迷路と二人きりなのは久しぶりな気がする。最近はロゼと3人の時間が多かったから。
「この髪」
「あー、治らないんだよねぇこれ。一応髪染める薬とか買ってきたんだけどさ……いよいよ人間のやめ時かな」
「……木葉は、人間よ」
「……ありがと」
迷路は顔をくしゃっと歪めてそう言った。迷路は優しい。魔族と化して心を失いそうになっていた私を引き戻してくれた。壊れそうな私を抱きしめてくれた。私を、守ると言ってくれた。
きっとそういうのが積み重なって、私は本当の自分を、偽っていた自分を晒すことにしたのだと、今なら思える。
「……私が怖くない?」
「当然よ。それに私は貴方の魔王としての姿を何度も見てきた。今更性格チェンジしようが関係ないわよ。貴方、そんなことを恐れていたのかしら?」
不敵な笑みを浮かべる迷路。
「ううん。それなら私はこうはなってない。だからこれは確認。迷路が、私を好きでいてくれるかどうかの」
「なっ!?ぁ……え、えぇ……。いや面と向かって再確認とかなんの辱めよこれ……」
迷路は顔をふいっと逸らした。
「顔、赤いよ?」
「のぼせたのよ!」
「まだ入ってないのに……」
思わず少し笑ってしまう。
「やっと笑ったわね」
クスッと迷路が笑う。
「私そんなに笑ってなかったかな?迷路から見た今の私は……どう?」
「そうね……。大分吹っ切れて……その、カッコよくなったと思うわ。でも無理しないで私を頼って欲しい」
「あはは、ロゼは含めないんだ?」
「あんなメロンおっぱい、頼るなら最終手段にしなさい。昨日だって、あいつばっかり木葉の抱き枕に……くっ、思い出しただけで胃液がこみ上げてきたわ」
「え、吐かないでよ?まぁ、どっちも私にとっては大切なんだよ。それに……」
湯水で洗い流された髪を拭きながら振り返る。サファイアの如きスカイブルーの瞳と目が合った。
「今、こうして迷路と二人きり。それで許して、ね?」
そう、彼女の唇に人差し指を当てて微笑んでみる。最近はこういう反応で真っ赤になる迷路を見て楽しむのが趣味みたいな節があるが、これを言うと本人は怒りそうだからよしておこう。
「ふぅ」
湯船に浸かって、ゆったりと落ち着く。迷路はまだ顔を真っ赤にしながら、なにかを悶々と考えているようだった。
「そろそろいいかしら?もう誘ってるわよね?誘ってるのよね?いけ、行くのよ迷路、ここで度胸を見せるのよ!」
と呟いているのが聞こえたが正直なに言ってるかさっぱりわからなかったので特に気にはしない。最近のシリアスな顔よりは良い顔をしているから、多分大丈夫だろう。
「ねぇ、迷路」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「え、大丈夫?なんか本気で挙動不審で怖いんだけど」
「だだだだダダダ大丈夫ヨ……えぇ、決していやらしい妄想なんてしてないわ!ええ、断じて!」
「……?まぁいいや。話があるの」
それはこれからのこと。これから私たちがどうするべきかということ。
「え、あ、あの、これからって……一緒になるのは神聖王国を倒した後に!」
「なんの話してるの……?」
さっきからどうも迷路の頭がおかしな方向に行っている気がする……。
「これからどうする?異端審問官に喧嘩売った上に禊に顔を見られたまであるから、少なくとも教会との敵対は避けられない。個人的には異世界旅行と称して色んなところに回ってみたいけれど」
禊とやらを見てはいないけどね。と思ったら迷路がちゃっかり始末していたらしいが、どれだけ見られたか分からないから念には念をだ。
「こ、こほん。そうね、普通に考えれば国外ね。もしくは王都とはまた違った体制を確立した『オストリア・ブダレスト大公国』や神聖パルシア王国とリルヴィーツェ帝国の間にある『ミュンヘルン四州』なんかはここから近いけど……あとは、海洋都市:ヴェニスね。商工会の権限が強いからリヒテンと似たような雰囲気の都市よ」
「海洋……ってことは……蟹……よし、決まりだ」
「え、ほんとにその決め方でいいのかしら!?」
「いやアルペス山脈はそろそろ見飽きたかなーっと?」
「言うほど私達山を見ていない気がするのだけど」
私は山登りよりも海に行きたいな。日本では、海はあまりいい思い出がないし。
「木葉」
「ん?わぴゃっ!」
お湯が顔面にかかる。どうやら迷路がすくってかけてきたようだ。
「ちょ、迷路!?やめっ!ピャっ!」
「ふふっ、ストイックになったように見えて、可愛い声出すのね」
「む、なんか意地悪な顔してる……」
「木葉の揶揄い甲斐があるからよ、ふふふ、『わぴゃっ』って……ふ、ふふ」
「ムカつく……うりゃっ!」
がら空きの背後に回り込んで、迷路を抱きしめ脇の下をくすぐってやる。なんだかすごくムカついたからお返しだ。
「ちょ、木葉!?胸あたって……ひゃっ、ひゃはははっ!やめ、やめて木葉!あ、あっ、あぅっ!」
ん、おかしいな?なんか迷路をくすぐるととても変な気持ちになってくる。なんかイケナイことしてるような気持ちに……。
「あっ、あんっ!や、やめ、やめへぇ……きゃあっ!」
「なんか、この感じ、この優越感のような感覚は……?」
「こ、のは!や、やめ……」
「私は、この気持ちがなんなのか知りた……」
バコンッ!
「し、知りたいじゃないわよ!」
薄れゆく視界。頭に何かヒンヤリとしたものが当たった。おそらく迷路の氷系統のスキルだろう……うん、やりすぎた。ぼおっとする頭が捉えたのは、赤面して胸を隠す迷路の姿。可愛いなぁ。
…
………
…………………
「……ここは?」
「目、醒めたかしら?」
自分の身体は裸ではなく、バスローブのようなものが着せられていた。下着は履いていない。
「……なんで魔法打ったのさ」
「もう一発お見舞いしてあげましょうか?」
「ごめんて」
とは言えあまり自分の表情は変わらない。これも恐らく完全魔王化の影響で、どうやら内心の性格が顔に出なくなったらしい。うーん、実は内心いろんなこと考えてるんだけどそれが表に出なくなったと言うのはコミュニケーションの危機なのではなかろうか?いや、でも取引とかの時には使えるかもしれない。
「私ならそこそこわかるわよ?」
「なんで心読まれたの!?」
「ほら動揺した。木葉に無表情キャラは無理よ無理」
「さっきからなんかムカつくなぁ」
温泉の館の入り口で果実水を買って風に当たる。一応憲兵は徘徊しているから、そこは警戒を怠らない。少なくとも飛龍の鉤爪の数名には顔を見られているんだ。ふふん、私ってば一気に有名人……いや、ふざけている場合ではないが。とはいえ一般人の目の方もバカには出来ない。ラッカに本名を晒した以上、もっとも避けなければならないのは『櫛引木葉』を知る人物との邂逅なのだから。
「ねぇ迷路。私って元の私の見た目から結構変わったと思う?」
「一眼ではわからないかもしれないけど、よく見ると顔は同じだしわかるとは思うわ。それに貴方ほどのび、美少女はそういないでしょうから」
そう言って迷路は首で合図する。目線が示した先には数十人の男たち。いや、なんか女の子たちもいた……。
「なぁ、やばくね?あの子……銀髪の子だよ!可愛すぎだろ!ぜってー王国貴族の令嬢かなんかだろ?」
「おまえ!話かけてこいよ、国の宝だぞアレ!お姫様より美しいかもしれん」
「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」
「あの子を見てると、なんか胸がきゅんきゅんするわ……」
「お、お姉さんもう我慢できない」
「……私サキュバスかなんかになったんだっけ?」
「木葉が好かれやすいのは魔族からの筈だから、アレらがこの状態ってことはそれは元からある貴方の魅力よ」
「だからって、あそこで股を抑えてもじもじしてる女の人は流石にちょっと引くんだけど……」
私あの顔男子の持ってる漫画で見たことある。確かアヘが(ピー)……ん、あれなんか無機的な音声が?
「アイドル感覚なのよ。貴方、やっぱり顔を隠すべきね。あのお面は買って正解よ」
そのあと小さく、
「男どもに木葉を触らせるのなんて以ての外だし、女どもは木葉のことを玩具のような目で見てるし……私が守らなくては」
と言っていたことはこの時の私には聞こえていなかった。




