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2章26話:木葉vsラッカ

感想ください(直球)

 身体が熱い。私の全身の細胞が、活発に蠢き変化していく感覚が内部から熱とともに伝わってくる。でもそれは全く気持ち悪いものじゃなくて、然るべきというか起こるべき変化だった。起こるべくして起こる変化で、それは『怒る』ことがトリガーとなった変化だった。

 まぁ茶番はここまでにして、始めようか。あの洞窟から全力で馬車を飛ばしてきて、そのまま全力疾走して来たのを無理やり付き合わせてグロッキーになった迷路を横目にちょっと笑ってみる。

 え、私は誰かって?私は、誰でもない。ただの、そう、本当にただの、



……


……………


「諦めるのはまだ早いよ、ロゼ」


 間に合った。黒い鞭を瑪瑙(めのう)で弾き、もう会えないかもと思っていた少女の前に立って目の前の異端審問官と対峙する。

 異端審問官は鞭が弾かれたことを意外に思ったのか、目を見開きこちらを凝視していた。いや、こいつ前に私にぶつかって来た亜人族の……。名前は確か、ラッカ。


「……黒の鬼の面。気味悪いっすねそのお面。立派な銀髪が勿体ないっすよ?」


 サラサラの長い白髪からぴょこんと飛び出た兎の耳、豊満な身体が黒いビキニで強調されたグラマラスな美女。一見ただの明るく朗らかなお姉さんに見えるのだけど、こいつは、





 ロゼを傷つけた、私の敵だ。





「ロゼに手を出すようなら私がお前を殺す。手加減しないから遠慮せずかかってきなよ、淫売ウサギ」


 瑪瑙を刺突の構えで持ち、ラッカにその切っ先を向ける。以前の私じゃ信じられないような言葉と声音が出たことに自分でも驚いたけれど、それは当然だ。だって、



 こんなにも怒ってる。



 瑪瑙はその怒りに反応するようにメラメラと黒い炎を纏い、黒炎はうねりをあげて宙を舞った。そしてステータス表示に変化が訪れる。


【シン・ラース追加に伴い、スキル《鬼姫》で《土蜘蛛》の降霊が開放されました】


 視界にステータス画面が表示されたのを確認する。あまりに強大なので初回発動に時間がかかっていた。それは、なんというか、





「上等じゃん」





「あれれれれ?もしかしてこの感じ、ヒカリちゃんかなぁ?前に会った時と随分雰囲気変わったっすか?」

「…………………………」

「仲間を傷付けられてキレてるんすか?あてはまたヒカリちゃんに会えて嬉しいっすよ♪」

「攻撃魔法:《燕火(えんか)》」


 10つくらいの炎の塊がラッカに向かって直線上に飛んでいくが、それをラッカはウィップで軽々と破壊する。火の粉が降りかかりラッカも軽くダメージを受けたように見えるが、おそらくあいつにとってそんなものダメージのうちにも入らない。


「こんなもんっすかぁ!?なぁヒカリちゃんッ!」


 でも、そんなものは関係ない。初歩的な意識ズラしだけど、単純だからこそスピードでごり押しすれば相手の思惑を全て崩せる___ッ!


「なッ!?いつのまに!?はやっ……」


 目眩しの隙にラッカの懐まで飛び込んで一太刀浴びせる。


「煩いな、黙って戦えないの?兎」

「がっ、ぐぁっ!」


 瑪瑙の剣撃がラッカの腹を掠め鮮血が飛び散る。ラッカの自動回復魔法すら追いつかない理由は、攻撃魔法:《斬鬼》の《威力発動》と《回復阻害》の作用にある。


「よっ、と」


 どさくさに紛れてラッカが握っていた火雷槌(ほのいかづち)を収納したポーチを回収した。そして振り返って膝をつき、ロゼに差し出す。


「大事なもの、でしょ?ロゼがもってて。離しちゃだめ」

「この、のん……?」

「そんな顔似合わないって。私は、ロゼがのほほんって擬音付きで笑ってる表情が大好きだよ」

「だ、だいすすすす、すすすすす!?」


 絶望で歪んでいたロゼの顔が急に真っ赤になって、パニックを起こす。ん?そんなに変なこと言ったかな?パニクるロゼの桃色の髪の毛に手を乗せ、くしゃくしゃと撫でる。


「あとは任せて。暗闇さんの仇は私がとるから」

「ふぁ、ふぁい……////」


 なんでそんなにとろんとした目になったのかわからないけど、絶望顔より遥かにいいと思う。なんか後ろの迷路から歯ぎしりのような音が聞こえてくるけどきっと気のせいだ。そんな迷路も魔法を放って誰かと戦っていた。


「くぅ!な、なんなんすか!!お前ッ!」

「何……って?」


 ラッカが凄い剣幕でまくし立てる。お腹の傷はまだ回復できていないようだ。


「あてに逆らうってことがわかってるんすか!?あては、満月教会の異端審問官。そこにいるロゼ・フルガウドは王都政府に敵対し、満月教会をも脅かす賊徒!それを庇うということは神聖王国・満月教会の両方を敵に回すということに他ならない!わかっててやってるんすか!?アァ!?」

「そうだよ」

「……ぁ?」


 迷わず即答する。覚悟はとっくに出来てる。いや、ロゼに会った時から覚悟はしてた。そして、『今の私』は答えを出した。それだけだ。


「私と、私の大事な友達を傷つけようとする屑どもは神聖王国だろうが満月教会だろうが、その信仰対象の神様だろうが殺す。それが私の答えだ……今を、後悔なんてしたくないから」


 これが全てを悩み、濁し、逃げ続けて来た昔の櫛引木葉に出せなかった答え。

 これが、逃げ続けたことと向き合い、変化を受け入れた今の櫛引木葉が出した答え。


「私の名前は櫛引木葉(くしびきこのは)


友達を助けたくて、そのためにずっと悩んでいた愚かで、そしてどこにでもいるただの魔王だ。覚えとけ」


 本名を明かし、切っ先を向ける。これから死ぬ相手に慈悲なんて一切かけない。確実に仕留める!


「ま、まおう、だと……?」

「言葉通り受け取るか、ハッタリと取るかはそっちに任せるよ。さぁ、構えなよ兎。亜人族風情が魔王である私に牙を剥いたこと、骨の髄まで後悔させてあげるからッ!」

「ッ!?言ってろォ!!!クソガキがぁあああああああああああああああああああッ!!」


 黒い鞭が、その長さを伸ばし、蛇のようにうねりをあげて迫ってくる。さらに、その速度も先ほどとは比べものにならないものだった。


「【願望の五線譜】 解放スキルッ!《貫く小節線》ッ!」

「《鬼火》ッ!」


 銀髪の髪が豪風によってシルクのカーテンのように舞う。黒いツノと赤い瞳、銀色の髪。人間離れしたその容姿は、それでも今の私に違いなかった。

 赤い瞳には、紅蓮の大火が五本に分裂した鞭を伝ってラッカに炎が伝って行く様子が見えた。


「あああああああああああああああっ!!テンメェエェエエエエッ!!クソガキがっ!なめ腐りやがって!!」


 ラッカが速度を上げた?崩れたリヒテンの建物を生かして飛び回るが、魔王の魔眼はその動きを捉え続ける。いや、捉えられない!?予想以上の速度で私を翻弄してくる。


「くっ」

「りゃああああっ!クソガキがっ!お前もあてを馬鹿にしてッ!!亜人族は、テメェら人間族が馬鹿にしていい種族じゃねぇんだよォッ!」


 ラッカが速度をあげるに比例して鞭がだんだんと速度を上げていく。もう目で追える速度の限界を突破する勢いだった。


「なんで突然こんなに早く?」

「こののん!ラッカの使ってる術具【願望の五線譜】は使用者の願い、願望を汲み取ってその意志が強ければ強いほど使用者の速度を上げて、術具の空気抵抗を下げる力を持ってるの!気をつけて!」

「そういうの先に言って欲しかったなぁ」


 闇雲に《燕火》や《斬鬼》を撃つのも得策じゃなさそうだし、これ手に負えなくない?ラッカは恐らく私が集中を切った時を狙って攻撃を仕掛けてくる。しかも狙う箇所は恐らく首元、そこまで分かっててもこの速度じゃ全く対処が出来ないのが悔しい。

 と、その時、どうやら初回発動時間を終えて《土蜘蛛》の発動が可能となったらしい。目を瞑り、ラッカを誘い込む。


「しねぇえええええええええええッ!!!」


 狙うはやはり首元、けれど避けきれないし《障壁》で防ぎきれない、なら、






「避ける必要はどこにもない」






 目を開いてスキルを詠唱する。



「《鬼姫》ッ!来い、《土蜘蛛》!!」



 紫色の怪しげな光とともに、術式が発動し、私を魔法陣が包む。


「この、のん!それって……?」

「木葉!?」


 私の変化は恐らく目に見えてわかりやすいものだ。


 背中からどす黒い色の大きな蜘蛛の脚が8本。黒いツノは変形しまるで蜘蛛の持つ触肢のように、正面に突き出すような形をとる。天使の輪っかみたいになっていた。そして指先からは、


「糸」

「______なッ!?」


 私の首元を狙って飛んできた鞭を8本の脚が受け止め、私の身体は宙に浮かんだ。そして、指先の糸を操り、ラッカに飛ばす。


「くっ、糸が!?」


 ラッカは咄嗟に左腕で糸を防ぐも、ぐるぐる巻きとなって左腕の機能は当分封じられた。さらに、


「これ、は……瑪瑙?」


 瑪瑙の刀身が大きく伸びていた。刀身部分だけで約2メートル。持ち手には蜘蛛の糸で作られた包帯がぐるぐる巻きにされていて、もう離れることはない。


「八本脚と糸、そして刀身の変化。うわ、《視角強化+》《反応速度強化+》《移動速度強化》まで付与されてる。うっわぁ、チートじゃんこれ」


 といっても糸は漫画とかのお約束にあるように相手を切断できたりするものではなく、あくまでまで移動阻害程度にしか使えないし切られればそれで終わりだけど。

 長刀と化した瑪瑙を構え、同時に八本脚のうち六本をラッカへと向ける。二本は移動用で地面に脚をついて私は浮かんだ状態。なんか面白いなぁこれ。


「くっ、魔王:コノハ!次はこうはいかない……絶対に殺してやるッ!」


 と、あれ?なんか撤退モードに入ってない?駆け出そうとするラッカに糸を巻きつけ、移動を阻害する。


「離せクソガキッ!!」

「逃すわけないでしょ、ちゃんとここでトドメを刺させてもらうから」


 兎はここで確実に狩る。ロゼに手を出したその罪を自身の命で贖ってもらう。

ここまで木葉一人称パートは意図的にあまり出しませんでした。全部この時の為です、長かった……。これからは一応木葉が読者様たちの分身として見ていただければ有難いです

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