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2章15話:イレギュラー?

〜リヒテン市ギルド会館〜


 アンソンの依頼を受けるためにやってきたギルド会館はいつも通り飲んだくれもいればやる気にまた溢れた冒険者もいて見ていて飽きない。

 また物珍しそうに木葉たちを眺める視線に苦笑いする木葉は、あまり気にしないようにと思いながら受付まで歩いていく。

 そんな木葉の袖をロゼが引っ張った。


「あ、でもこののん。僕の名前とかバレたらヤバイというか……なんというか〜」


 フードを被り顔を隠すロゼ。なんでも《認識阻害》のローブとか言うものらしく、顔がもし見えても人々の印象には残らないいう便利アイテムらしい。そんなものが流通していては黒月タグの犯罪者が捕まらないから勿論これは世間に出回っていない。王国上層部で仕事をしていた五華氏族だからこそ持っている代物だ。なんでも母の形見らしい。

 不安そうにしているロゼ。先程あのようなことを言った手前、一緒に居られないかもしれない事実が不安なのだろう。だがそんなロゼの不安とは対照的に、木葉は実にあっけらかんとした口調で言った。


「それは問題ないよ。捏造するから」

「へ?」


 思わず間の抜けた声が漏れる。


「そういえば気になっていたのだけど、カルメン卿にステータスを見せた時『魔王』の文字が剣士に変わっていたわね。あれは一体何かしら?」

「カルメン卿に会ったんだ〜!すご〜い!」


 ラクルゼーロの街でカルメンと話した時、木葉は事前に捏造スキルを発動させていた。人徳ある人物ではあるものの、それまでの経験から魔王バレだけはやばいと木葉もわかっているのである。


「私ね特殊スキルを最初から2つ持ってるの。1つは鬼姫。そしてもう1つが……捏造」


 ロゼにステータス画面を開くように促す木葉。不思議に思いながらも、ロゼはステータス画面を開く。


【ロゼ・フルガウド/15歳/女性】

→役職:槍使い

→副職:音楽家

→レベル:51

→タグカラー:白月

HP:1311

物理耐久力:710

魔力保持量:1520

魔術耐久力:1009

敏速:813

【特殊技能】

《魔剣》→武甕雷(たけみかづち)

【通常技能】《言語》

・回避技能:《察知》

・強化技能:《五感補助》《精神汚染耐久》《電耐久》《魔力量上昇》

・回復技能:《体力回復》

・攻撃技能:《槍術》

・防護技能:《障壁》

・状態技能:《範囲拡大》

・音楽技能:《音叉連動》《波長合成》

【魔法】

・基礎魔法

・攻撃魔法:《感電》《ノイズキャンセル》



「このステータスで私たちと互角に渡り合っていたのね。バケモノだわ」

「僕の場合暗闇さんもいたからね〜。攻撃力や魔力量の不足は《波長合成》で出来るだけ魔力の質を高めて補っていたし、火雷槌は僕の攻撃力を引き上げる効果もあるからね〜」


 それでも魔王と互角に渡り合った事実は驚嘆に値するのだが。


「副職、音楽家?」

「僕は横笛が吹けるんよ〜。今度聞かせてあげるね〜」

「うん、楽しみにしておくね!よーし、じゃあこれを捏造していくよ」


 この世界において、ロゼのステータスは上位冒険者にあたる。レベル50を超えているものは総じて紫月級以上で、紫月のレガート団長でさえレベルは47。その辺は能力値の限界に個人差があるのでなんともいえないが、基本的に能力値が1600を超えたらカンストだ。勇者と魔王、あと迷路は何故か超えているがこのように特殊な存在でなければあまり1600を超えることはない。ロゼのこの能力値の高さは、【悪魔】との契約に依拠している。

 そういえば【悪魔】という存在についての説明がまだだった。ロゼは木葉に説明を始めた。


「悪魔っていうのはね、特殊な上位召喚魔法で呼び出せる存在のこと。悪魔の世界のことはよくわからないけど、大悪魔と悪魔では能力的にかなり違いがあるらしいんよ〜。ちなみに暗闇さんは普通の悪魔だよ」

「えーっと、それは誰でも召喚できるわけじゃないんだよね?」

「そうだね〜。悪魔の呼び出し方は門外不出、王国上層部でも一部の人間しか知らない。なんといっても下位の悪魔であろうと契約には代償が必要だからね〜」

「だい、しょう?」


 悪魔との契約には代償が必要だ。そこは悪魔の匙加減なのだが、下位の悪魔であろうと寿命10年を持っていかれたりとか腕一本持っていかれたりとかするらしい。暗闇さんは中級悪魔。そして大悪魔ともなると1人の人間ではその代償を払い切ることは不可能に等しい。


「普通に生きていたらまず関わることない存在だからね〜。本当にそれこそ五華氏族や王家、もしかしたら教会上層部も知ってるかもだけど、それくらいしか知らないんだ〜」


 悪魔は契約者に『望み』を叶えるための強いスキルを与え、また契約者の能力値を大幅に底上げする。故にロゼはこの年齢で既に銅月級といっても過言ではないほどの実力を有している。


「でもロゼ。悪魔は契約を終えるとすぐ帰ってしまうはずよね?どうして暗闇さんはまだいるのかしら?それに……貴方は一体何を代償にしたの?」


 迷路が聞きにくそうに尋ねる。しかしロゼの答えはあっけらかんとしたものだった。


「暗闇さんは、僕が生まれた時からいたからよく分からないんよ〜。一体誰が召喚して、どうして僕を守ってくれているのか」

「悪魔との契約には必ず代償がつくわ。中級悪魔の召喚にはおそらく……四肢をもぐくらいの代償が必要になる。それを一体誰が……?」


 なおも尋ねようとする迷路の話を遮るように、木葉が大声を出した。


「ロゼちゃん!終わったよ!」



【リズ・ヴィートルート/15歳/女性】

→役職:槍使い

→副職:音楽家

→レベル:51

→タグカラー:白月

HP:1311

物理耐久力:710

魔力保持量:1520

魔術耐久力:1009

敏速:813

【特殊技能】《八つ切り》

【通常技能】《言語》

・回避技能:《察知》

・強化技能:《五感補助》《精神汚染耐久》《電耐久》《魔力量上昇》

・回復技能:《体力回復》

・攻撃技能:《槍術》

・防護技能:《障壁》

・状態技能:《範囲拡大》

・音楽技能:《音叉連動》《波長合成》

【魔法】

・基礎魔法

・攻撃魔法:《感電》《ノイズキャンセル》



「偽名は、私たちに最初に言ってくれた名前。特殊スキルも適当なのに変えておいたから、どうかな?」

「完璧なんよ〜!ありがとうこののん!因みにヴィートルートは友達の姓なんよ〜」


 そう話してくれたロゼに僅かに翳りが見えた。そこら辺にもまだ事情はありそうだが、これからゆっくりと聞いていけばいい。ロゼが木葉と来てくれる、それだけで木葉は嬉しかった。


「……そっか。うん!この名前にしてよかった!」

「それにしてもステータス強すぎ感は否めないけどね。やはりロゼのタグカラー上げも行う必要があるわね」


 ロゼのスキルはかなり特殊なものが多い。

 特にこのロゼの攻撃魔法:《ノイズキャンセル》は周りの音をかき消して無音空間を作り出すだけでなく、ノイズを操り術式を操作するとは、魔術師殺しというか異端審問官殺しに特化した最強のスキルといっても過言ではない。初期段階でこんな強キャラ大丈夫なんすかね?


「じゃあアンソンさんから依頼を受けよっか!」



…………


……………………


 ギルド管理者:アンソンから受け取った依頼用紙。そこには非常に容赦のない内容が書かれていた。


「本当に容赦ないわね。でも、なんの問題もない」

「うん、私たちなら出来そう」


 リヒテン南方の上位ダンジョン【クルクス洞窟】に潜む魔獣・バケモノ退治だ。してその対象とは、まぁいわゆる紫月や銅月が相手にする超弩級モンスター達である。


「地下23層のミノタウルス王、地下24層のダークウルフ王、地下25層のオーグの群れとオーグロードの討伐。最高にイカれてるわね」

「21層に紛れ込んだブラックギルド:レッドウルフの残党や19層の火吹き蜥蜴も忘れないでくれよ?あぁ、あと17層を根城にしている元紫月級冒険者で今は黒月級ブラックリストの【シャネル】って男の討伐もな」


 アンソンは顎を撫でながらニヤニヤと笑って言う。どうやらかなり高く買われたらしい。


「自分から言っておいて何だけど、貴方いつもこんなヤバイ仕事斡旋してるわけじゃないでしょうね?」

「まさか。お前らの強さを見込んでのことだ。最近このダンジョンにウチの紫月級の腕利きが挑んで死んじまってな。他のダンジョン攻略もあってこっちまで手が回せないんだよ。というわけで、お前たちの化け物級の強さを思う存分結果で俺に見せて欲しいんだ」


 流石は大都市リヒテンのギルド管理者。ラクルゼーロとは器が違い、有能な人間の力は檻から放って試していこうというスタイルだ。昨今の日本の教育現場もこういう積極的なスタイルで頑張っていただきたいものである。


「私たちのことは一体どう聞いているのかしら?」

「バケモノだ、とは聞いたな。新たなる英雄の誕生とも。半信半疑だがな。だから今回こんな無茶なクエストを斡旋した。別に放棄して来てもなんの問題もないさ?かなり無茶なクエストであることは自覚済みだし、その上でお前たちを試そうとしている。それに、カルメン卿たってのお願いだからな」


 ここでもやはりカルメン卿の力は強いらしい。感謝感激雨あられだ。


「わかった。じゃぁ頑張ってくるね!」

「随分あっさりしてるな。ちょっとは尻込みするかと思ったが」


 どうやら尻込みして欲しかったらしい。


「やれやれ、お前らのような奴は俺の人生の中で2回目だ」

「に、かいめ?」

「あぁ、時々出てくるんだよ。お前らみてぇな面白い『イレギュラー』って存在がな。お前らが果たしてソレの類なのかはわからないが、あの嬢ちゃんみたいに大物になる予感がしてる。死ぬなよ?」

「えぇ、ご期待に添えるようにしてあげるわ」









 彼女らがギルド会館を出てホッと一息。実力など見なくてもわかる、とアンソンは嘆息した。

 あの少女たちはその辺の有象無象がなんとかできる相手ではない。あぁいう存在を見ると、本当に心が躍る。久々にアンソンは興奮して、また緊張もしていた。


(本当に、アレを見た時と同じ気分だ。)


 アンソンの脳裏に浮かぶのは数年前に見た新たなる英雄の姿だった。白と黒の髪を靡かせ、迫り来る魔獣をまるで紙切れのように斬り伏せていった少女の姿を今でもはっきりと思い出すことができるのだ。


「鬼が出るか蛇が出るか、だな。あんな【カデンツァ・シルフォルフィル】みたいな化け物ガールがもう何人も増えるというのは、少々末恐ろしいものがあるな。さてさて、見せてもらおうじゃないか」

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