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2章14話:それぞれの目的

「こののんは【五華氏族】についてはどれだけ知ってるかな?」

「ちょっと聞いた程度かなー」

「じゃあ、そこから話すね〜」


 それから、ロゼは語り出した。まずはこの国の成り立ち、建国伝説から。

 1000年前、1人の男がパリスパレスの地に大きな旗を立て、ここに大きな城が築かれた。一夜にして城を築くほどの魔力をもつその男の名はパルシア。これが、神聖パルシア王国初代国王:パルシアである。

 そんなパルシアは王国を繁栄させるために5人の騎士を配下として、それぞれに特殊なスキルを与えて各地の統治を命じた。


「その5人の騎士っていうのがね、


【船造り】のツヴァイライト

【竜使い】のフルガウド

【歌詠み】のオリバード

【食器使い】のヴィラフィリア

【鉄細工師】のエカテリンブルク


って言って、それぞれの役割を与えられたんよ〜」


【ツヴァイライト】は王国の海運を発展させ、王国に貴重な香辛料や珍しい品々をもたらした。外務担当。

【フルガウド】は竜と友好的に接する力で軍事方面を担当し、王国の版図を拡大させたり敵国の侵攻を防いだ。軍部担当。

【オリバード】は歌のみならず、文化面で王国を発展させ、千年王国の文化の礎を築いた。文部担当。

【エカテリンブルク】は鉄細工、すなわち武具の生産や科学の発展に寄与し、王国の化学工業を支えた。工部担当。

【ヴィラフィリア】は王家の厨房を担当するのみならず、食器産業を司って王国の財力を確固たるものとした。財務担当。


「この五華氏族の王家への献身が、今の王国を形作っているんよ。そして僕はそのうちのフルガウド家の末裔だね〜」

「だいたいわかったよ!」

「それから1000年くらいは、2度の魔王による侵攻があったけど、なんとかそれらを撃破して王国は1000年王国となったね。こうして時代は前国王:エルクドレール7世と緑の賢者:フォレスト・カルメンの治世下にまで飛ぶよ〜♪」


 18年前、フォレスト・カルメンが引退して王宮を退去。これによってエルクドレール王は退位してその嫡男:エポックがエルクドレール8世として即位する。


「本来ならその兄のニッシム様が即位するはずだったんだよ〜。でも、それは白紙になった」

「白紙?ていうか、長男がなるわけじゃないんだね」

「満月様のお告げがあったからね。兄:ニッシムではなく、弟:エポックを王座につけるように満月教会が圧力をかけてきたんよ。そもそもお告げ自体あったかどうか怪しいけどね〜」

「エポックが王座を獲得するために教会と結託したってことかしら?」

「当たりだね〜。それで、王宮はフォルトナ派の教皇シャルルの圧力に屈したんよ。カルメン卿が退いた後の政界は3人の宰相が政治を主導してたんだけど、彼らは満月教会とエポックを支持したんね。結果としてエポックがエルクドレール8世として即位してしまった」


 事態はここから一気に深刻化する。この腐敗した王家-政界-教会の癒着に、オリバード家が真っ先に異を唱えたのだ。エポックが満月教会と組んで何か良からぬことをしようとしていたのは明らかだった。これにより、五華氏族はニッシムを擁立しての王選のやり直しを問うこととなる。前国王も介入し始め、官僚や軍人も真っ二つに割れる事態となった。


「そこからだね。教会が強制的にそれを排除しだしたんよ」

「強制的……って……?」

「武力。具体的には異端審問官を動員したのよ。エポックと3宰相らが一丸となってのクーデターというべきかしら?」


 エポックはまず前国王が住まう宮殿に兵を進め、実の父親を自害に追いやった。これと同時にニッシム派の官僚や軍人を、異端審問官を使って次々と殺害。この際、オリバード家当主や当時のニッシムの側近も殺害されている。


「これに怒ったニッシムは【エカテリンブルク家】を除く4家を動員して王宮に攻勢をかけたんね〜。でも、これがいけなかった」


 ニッシムが王宮に弓を引いたことで、ニッシムは逆賊となった。異端審問官を先鋒にエポック派の軍隊はニッシム軍を蹂躙。この戦いでフルガウド家当主、ツヴァイライト家当主が戦死。エカテリンブルク家当主は投降した。


「本当に蹂躙だったらしいわね。異端審問官が兵を殺し、その後ろの屑どもはその死体を漁るだけ。それが今やまるで自分たちの手柄のように振舞っている。本物の屑だわ」


「めーちゃんの言う通りだね〜。敗走したニッシムはオリバード領に逃げ込んだけど、王都軍はオリバード領に攻め入ってその一族を女性や子供に至るまで皆殺しにしたんよ。因みに王都での戦いで多くの竜も死んでるんだ。これが、竜がフルガウドに味方しなくなった理由」

「味方しなくなった?」

「その後の戦いで、竜は殆どが味方しなかった。僕たち竜人が、愚かな戦いを引き起こしたのだとか言ってたかな〜?ほら、その戦死したフルガウド家当主様っていうのが僕のパパなんよ〜」

「そう、なんだ……。そういえば当主って言ってたもんね」


 木葉が暗い顔をする。ロゼの暗い過去を振り返らせてしまっていることに罪悪感があるらしい。


「気にしないで欲しいんよ〜。もう吹っ切れたからね〜。話を戻すけど、フルガウド家は残った竜人を引き連れて竜人の里に閉じこもった。各地の竜人たちは里に逃げるか、国外に逃亡するか、はたまた捕まって殺されるかってなったんね〜」

「……敗者の悲しき運命ね」

「フルガウド家の被害はまだましな方なんよ?周辺領主は速やかに投降したし、この時の一族の被害も他の五華氏族ほどじゃないからね〜」


 しかし他はそうはいかない。元々武力に秀でていなかったオリバード家、ヴィラフィリア家は一族郎党皆殺しで、周辺領主も徹底的に粛清された。ツヴァイライト家も当主を失い、領地に逃げる際に異端審問官によって壊滅。船造りの一族は滅亡したと伝えられている。

 エルクドレール8世を中心とした王都政府は五華氏族の領地を全て没収し、自分たちに近しい領主たちに与えた。さらに歴史書を書き換え、この戦いの事実を捻じ曲げるなどの暴挙も行った。


「ニッシム及び五華氏族は王家に弓を引いた最低最悪の逆賊。全ての大義はエポック王にあり、偉大なる将軍たちが悪の氏族を成敗した、だったかな〜?捻じ曲げすぎなんよ〜」


 唯一生き残ったエカテリンブルク家は、王国南西部:イスパニラの領土を召し上げられ、南方大陸へと左遷させられた。これにより、千年間王家を支えた五華氏族は完全に歴史の表舞台から姿を消すこととなる。


「これが16年前のことだね。ここから王都政府は4宰相-1総統-7将軍の制度を採用して、軍事・政治的にさらに教会に癒着していくんよ」

「私たちが知っている歴史は、やはり王都政府の捏造ってわけね。これで貴方が王国を変えたいというのもよく分かるわ」

「それもあるんだけど、1番は2年前の出来事かな〜」

「2年前?」


 ロゼが悲しそうに笑う。哀愁漂うその笑みに、木葉は胸が締め付けられる思いがした。


「2年前、異端審問官が竜人の里の結界を破って攻めてきたんよ。当時もうあまり竜が残ってくれてなくて、軍事的にも対抗しようがなかった竜人の里は壊滅。多分生き残りは僕だけかな」

「……辛いことを思い出させたわね」

「そっちももう自分の中で清算したんよ。僕は暗闇さんに助けられて、竜人の長老さんからこの【火雷槌(ほのいかづち)】っていうパルシア王から賜った槍を預かって逃げ延びた。他のみんながどうなったのかは……わからないんよ」


 異端審問官60名、王国軍は将軍:エデン・ノスヴェル率いる第2師団 約2500の大軍。竜も、竜人も関係なしに皆殺しだったらしい。


「【魔槍:火雷槌(ほのいかづち)】。五華氏族がパルシア王から賜った至宝の特殊スキルね。五華氏族の特殊スキルは全て王国が回収した、と聞いているけど」

「真っ赤な嘘だね〜♪回収されたのは無条件降伏したエカテリンブルク家のモノと、全滅したオリバード家のモノのみ。ツヴァイライト家のは行方不明だったかな?フルガウド家のは僕が持ってるし、ヴィラフィリア家のも既に持ち主がいるんよ〜!」


 ロゼがパンをスープに浸して口に運ぶ。木葉が作った野菜のスープはかなり完成度が高いらしく、先程からロゼの手は止まらない。


「ヴィラフィリアにも生き残りがいるのかしら?」

「うん、そうだね〜。反政府組織【白磁(はくじ)の星々】のリーダーで、とってもイケメンさんなんよ〜。ちょっと無愛想なのがたまに傷だけどね〜」

「協力とかはしないの?」

「してたんだけどね〜。白磁の星々の幹部さんがリヒテンに来てて一緒に行動してたんだけど、喧嘩しちゃって〜あはは〜」


(そういえば、お友達と来てるって言ってたっけ……?)


「その協力者は今どこに?」

「それが、わからないんよ〜。さっきの異端審問官:シュライゼ二等司祭って言うんだけど、あの人は既に誰かを殺めてたからね〜。兎に角確かめなくちゃいけないんよ〜」

「そっか……」

「こののんたちはこれからどうするのかな〜?確かめるって言っても、一等司祭までウロついてる状況じゃ大きな動きはできないからね〜」


 リヒテンの街に入り込んだ異端審問官のその目的は、【白磁の星々】の捕獲。そしてロゼがいる事も既にバレているのだと言う。


「暫くは街中を動かない方が身のためかもね……そうなると私たちの目的が最適かもしれない」

「目的?」

「タグカラーの上位化よ。今日くらいには面倒な仕事いくつか引き受けようと思ってたから、貴方にも参加してもらうわよ?ロゼ」

「それは無理だよ〜。依頼を受ける時はいいけど、報酬の際はタグを受付嬢ないしはギルド会館管理者に見せなくちゃいけない。だから僕は白月級なんよ〜?」


 ギルドの依頼はまずボードに貼られている依頼用紙、もしくはギルド会館管理者などからの直接依頼で受けることができる。時々会館側から依頼が斡旋され、冒険者たちは依頼を受ける事もある。

 依頼用紙の場合は、まずそれを受付嬢に持っていき受注する。その際、10人以下のパーティーならタグカラーの判断が行われ、クエスト規定より下のタグカラーの冒険者はその依頼を受けることを止められてしまう。まぁ、大学の足切りみたいなものだ。例えば翠月が最低1人いなくてはならないクエストを全員黄月以下のパーティーは受けることはできない。そのメンバーの総合カラーを判断して、受付嬢は冒険者を送り出していく。

 これが大ギルドの場合は話が別で、ギルドマスターが判断すればその過程を飛ばすことができる。上記の手続きが発生するのは各町が定めた【街ギルド】に満たないギルドや個人が集まった冒険者集団だ。


【街ギルド】とは、その街が定めた強いギルドのこと。このギルドならば、わざわざ依頼を止めたりしなくても大丈夫だろうという判断が適用されるギルドだ。ラクルゼーロの街ではこれが行われてしまったため、多数の死者が出る結果となった。


 だが今回木葉たちにそれは適用されない。何故なら、


「それなら大丈夫!私たちギルド会館管理者のアンソンさんから直接依頼を斡旋してもらうことになってるんだ!ロゼちゃんが依頼を受けることも、きっと問題ないはずだよ!それに、ロゼちゃんの力が必要なの」

「必要?」

「私たちの最終目的は【魔女の宝箱】の攻略。その為に戦力がいるわ。この先、私達2人では間違いなく限界が来る。仲間が必要なのよ」

「僕に、協力してほしいのかな?」


 ロゼの表情が険しくなる。


「勿論断ってもらっていいんだよ!別にその為にロゼちゃんと仲良くなりたかったわけじゃないから。ここでお別れになっちゃうのは寂しいけど……」


 当たり前だが木葉と迷路、そしてロゼの目的は違う。木葉はそれを理解している。





「……僕の目的は、エルクドレール8世を殺すこと」

「_______!?そ、れは……」




 ロゼの力強い目に、木葉は少したじろぐ。ロゼは続けた。


「そして、この国を変えること。この国は腐ってるんよ〜。賄賂で出世して、賢い人間や反抗的な人間は左遷していく政界。亜人だけじゃなくて人間の奴隷売買も、今の王様の時代になって横行し始めた。気にいらない官僚さんや軍人さんは暗殺して見せしめに晒すだけじゃなく、いろんな罪を被せてその死さえ辱める。大陸統一を謳って無闇矢鱈に戦争を仕掛けて、国力を疲弊させる。年々公納金の額は上がって、搾り取られていく農民層」

「……」

「僕はこの王国を担う五華氏族の人間として、これを絶対に許容しちゃいけないんよ。僕は私怨で王様も、異端審問官も、将軍も、みんな殺すよ〜。だけどね、その根底にあるのは、この国を救いたいっていう気持ちなの」

「ロゼ、ちゃん……」

「僕には力が足りない。さっきも魔力切れで倒れちゃってたもんね〜。お恥ずかしい限りなんよ〜」


 にへらっと笑うロゼ。しかしその目には、この国を変えるという強い意志が宿っている。


「こののん達についていけば、強くなれるかな〜?」

「……魔女の宝石は知ってるかしら?」

「魔女の宝箱に眠る秘宝級アイテムだね〜。特殊スキル獲得アイテムだったかな〜?」

「アレは、私たちでも使えるわ。魔王を打ち破るほどの特殊スキル……必ず貴方の目的に役立つ」


 迷路はロゼを強く見つめる。


「……僕は、こののん達と居ても良いの?」


 ロゼは後ろめたそうに目をそらす。だがそんなロゼの手を取り、木葉は言う。


「勿論だよ!友達だもん!私は、ロゼちゃんを応援する。最後までその目的に付き合うことは出来ないけど、少しでも力になりたいんだ……だから、一緒に来て欲しい!」

「……こののん」


 ロゼの目元に涙が溜まる。木葉は嬉しそうに微笑んだ。


「復讐やら国を変えるやらには付き合えないわ。けれど、貴方は強くなりたい、私たちは魔女の宝石が欲しい。利害が一致しているのなら、好きにすればいいわ。ロゼ」

「めーちゃん……」


 クールに微笑む迷路、優しく微笑む木葉。そして、


「じゃあ、これから宜しくなんよ〜こののん、めーちゃん♪」


 ロゼもそのあどけない顔を綻ばせて、にへらっと微笑んだのだった。

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