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2章13話:どうして?

 物心ついた時から、僕は竜と悪魔に囲まれて育った。


「くらやみしゃんだ〜。可愛いんよ〜♪なんではーたんは怖いってゆーんかな〜?ふしぎ〜」


 父と母、親戚は居なくて、人間の友達はまぁ数人。あとはみんな竜と竜人の大人たち。そして悪魔一人。竜人の里という秘境の地は、外部から人間はおろか魔族さえ入ってくることが難しい。初代国王:パルシア1世がフルガウド家初代当主にこの地域の統治を命じて以来、竜人以外はこの地に立ち入る事はなかったそうだ。

 竜人とは(ドラゴン)と対話しその力を借りることが出来るもの。時には竜と交わり、半竜の子供を残していく。そうしてフルガウドの一族は繁栄していった。王国の軍事を統括するフルガウド家は竜人の里を秘匿し、各軍団に竜を駐屯させた。王都にも竜が駐屯し歴代当主はその辣腕を振るったらしい。



 16年前までは、フルガウドは王国の軍事的トップであり続けたのだ。16年前までは。



 僕が生まれたのは15年前。その頃には既に父は居なくて、母も僕が生まれて直ぐに出産の負担で死んでしまったらしい。代わって僕の側には暗闇さんがい続けた。悪魔は恐ろしいものだと言うが僕は全然そうは思わない。寧ろ母のような雰囲気を持つ暗闇さんに僕は懐いていた。

 幼い頃からまわりの竜や竜人と戦いの訓練を積んできた僕は、里の子供達の中で1番強くなった。なんでも《感電》や《ノイズキャンセル》といった電気、音波系統のスキルを持つ僕は『天才児』なんだとか?よくわかんないんよ〜って、のほほんと笑ってた気がする。

 僕のレベルは着実に上がっていきその年齢に見合わないものにまで成長した。それでも友達はいつも通り接してくれたし、なんなら切磋琢磨して新しい技を磨いたりした。竜人の里の側の森で訓練し、お昼はみんなでご飯とお昼寝。また訓練して、夜はみんなで夜ご飯。暗闇さんに寄りかかって本を読んだり、なんなら書いてみたり。とても幸せだった思い出。





 そんな竜人の里を1000年守ってきた結界が異端審問官によって打ち破られたのは、僕が13歳の時だった。






………


…………………


「う、ぅう」


 見慣れない天井。野宿生活のロゼにとって、朝起きると見えるのはみすぼらしい布と柱だ。それが一夜にして綺麗な石の家に……。


「あ、起きたよ!」


 女の子が覗き込む。明るめの茶髪が印象的な可愛らしい女の子……木葉だ。


「はぁ。落ち着きなさい。気分はどうかしら?起き上がれそう?私はこの子の介護は真っ平御免なのだけど」

「今お水持ってくるね!!どこか痛いところはない?ロゼちゃん!」


 理解が追いつかない。自分は確か先ほどまで豪雨の叩きつける時計塔にいたはずで、武甕雷(たけみかづち)を発動させて……。


(あ〜、そういうことかな〜)


「僕、魔力切れしちゃったんだね〜」

「はいお水!そうだね、突然倒れちゃったからビックリしたよ。暗闇さんがロゼちゃんの身体を抱きとめた、というかクッションになったから多分怪我はないはずだけど」


 木葉から水の入ったコップを受け取ると、それを少しずつ口に運ぶロゼ。よく見れば身体も軽い。おそらく回復魔法までかけてくれたのだろう。


「言っておくけど、私は別に貴方を助ける気は無かったわ。でも木葉が助けるっていうから仕方なく、よ。感謝しなさい」


 迷路がそっぽ向きながら洗濯済みのローブを投げつけてくる。それを受け取ると、ロゼはゆっくりと布団を退かしてベッドから降りた。


「あはは……ありがとうなんよ。それで、何が目的なのかな?」


 ロゼは思う。フルガウド家といえば今や王国における最大級の逆賊。現国王:エレクドレール8世に弓を引いた愚かな一族として、それら見る目はどこか侮蔑的だ。そんなフルガウド家の当主たるロゼをこのまま生かしておいたということは、何かの交渉に使えるからなのだろうと判断する。

 ところが、ロゼの予想に反して木葉の対応はひどく気の抜けるものだった。


「目的なんてないよ。私は、友達だから助けたんだよ♪あ、朝ごはんはパンがいい?お米もあるんだけど」

「……意味がわからないよ。僕は、逆賊フルガウドの一族。その当主。多分僕を差し出せば、とんでもないご褒美が貰えるはずだよ?」

「馬鹿にしてるのかしら?生憎お金に困ってないのよ。さぁ早くパンorご飯を選びなさいメロンおっぱい。私はもうお腹ぺこぺこなのよ」

「だから……何で僕にそこまでするのかな?貴方たちにメリットなんて……」


 あまり怒らないロゼも、流石にイライラが溜まってくる。いや、メロンおっぱい呼ばわりに怒ったわけではなくてですよ?


「ロゼちゃんは、私が何かの目的でロゼちゃんを助けたって思ってる?」


 木葉が悲しそうに聞く。その表情にロゼはたじろぐ。本当に、ただ友達になりたいから自分を助けた?そんなはずない。だって、


「そうだね〜。僕に近づいてきたのは殺意を持った連中か、反乱へのお誘いくらいだったからね〜。もしかして後者かな?だったら納得でき……」

「ロゼちゃん!」


 ビクッとロゼは身を震わせる。木葉の必死な表情に、気圧されてしまった。


「それ以上言ったら、怒る」


 ロゼは後ろめたい気持ちになる。それでも、ロゼは信じることが出来ない。


「どうして……?じゃあどうして僕を助けるの?どうして……僕に優しくするの?」


 声が震える。ロゼは本気で理解できなかった。暗い過去が、ロゼにそうさせるのだ。ロゼにあった楽しい思い出、幸せな思い出、その感情は、全て無くなってしまったから。

 けれど木葉の意志は変わらない。


「そんなの決まってる。私が、ロゼちゃんと正式にお友達になりたいから。私が、ロゼちゃんのことが好きだから。それだけだよ」


 その力強い眼に、その澄んだ瞳に、ロゼは思わず後ずさってしまう。不覚にもロゼは思う。


(なんで、なんで僕は『嬉しい』なんて思ってしまったの?そんな感情、2年前に捨てたはずなのに。わからない。わからない。わからないんよ、暗闇さん……)


「わからない、よ。僕にはコノハが分からない。本当に、友達だと思っていいの?僕の秘密を知ってまだ、僕と友達になりたいの?何で?どうしてなの?」

「ロゼちゃんが好きだから!笑顔がとっても可愛くて、とっても和む雰囲気で、面白い喋り方で、面白いあだ名つけたりして、それで時々ちょっと誤魔化したように笑って。そんなロゼちゃんのことを、私が知りたいんだ。ロゼちゃんに、私や迷路ちゃんのことを知って欲しいんだ。だから、」


 木葉がロゼを抱きしめる。いきなりの出来事に、ロゼはビクッと身体を震わせるが、木葉はさらに強く抱きしめる。


「私と、お友達になって欲しいの。駄目かな?ロゼちゃん」





 また、木葉の言葉があの子と重なる。


『私と友達になろう!!私の名前はね、ハレイ!ハレイ・ヴィートルート!よろしくね、ロゼ!!』





(もう無くなってしまった思い出。だけどそれは確かにこの心の奥にあって、まだ残ってた。僕はまだ、人の心が残ってたんだ……)


 涙が溢れるロゼ。その涙が木葉の服に落ちてしまい、あわてて木葉から離れようとしたけど、木葉はロゼを離さない。その温もりを胸に、ロゼはそのまま涙を零し続けた。そんなロゼの背中を木葉は優しくさする。迷路は、そんな2人を静かに見守っていた。



……………


……………………………


「も、もういいんよ〜、ありがとね、こののん」

「むー、もうちょっとギューってしてたいかも。ロゼちゃんお胸大っきいよね!羨ましいな〜」

「ちょ、こののん!?ひゃあっ!!」

「ほれほれ〜!痒いところはございませんかー!」

「んんっ!やぁ、だめ、なんよ……っ!ひゃぁぁああっ!」


 木葉がロゼの胸を揉みしだく。スキンシップに慣れていないロゼは木葉の手つきに甘い声を漏らす。


「やめなさい木葉。メロンおっぱいも変な声出さないで欲しいわね」

「その名前やめようよー!迷路ちゃんもこれから仲良くするんだよ?」

「私は別に友達ではないわ」

「めーちゃんはつんでれさんだ〜!」

「くっ!やはり面倒臭いわねこの子」


 少しずつほんわかした空気になってくる。ロゼもある程度は落ち着いたようだ。それを見た木葉は、あることを決心する。


「ロゼちゃん。ロゼちゃんの秘密はもう聞いたから、今度は私の秘密を話すね」

「____!?木葉、それはっ!」

「なにかな〜?」

「大丈夫、ロゼちゃんは友達だから……信頼できると思うよ」

「……」


 ロゼが首をかしげる。木葉はステータス画面を表示して、ロゼに見せた。




「え!?こ、これって……」

「私は櫛引木葉。ヒカリは偽名。うぅん、偽名じゃないか、本当はね【月の光】っていう名前の【魔王】なの。まぁその名前どこからきてるのかわかんないんだけど……」

「ま、おう?え、あ、えぇ!?」

「ほら見なさい。珍しいびっくり顔が出来上がったわよ」

「だ、って、魔王ってあの魔王!?なんか復活するよ〜みたいな話は聞いてたから、せっかくなら王都陥落に利用してやろう〜とか考えてた魔王さん!?」

「まぁ戦略的には正しいけど本人の前で言うことではないわね。えぇ、木葉は正真正銘の魔王。クープランの墓、亡き王女のためのパヴァーヌに続く三代目魔王:月の光。この名前は満月様からの御告げによって決められるらしいわ。詳しくは知らないけど」


 驚愕するロゼと苦笑いの木葉。まぁ無理もない。だって魔王と言えば今我々が想像するアレを、現地の人たちも想像しているのだ。なんせ文献には魔王の姿形など記されていないのだから。


「あの骸骨とか見てると、魔王は全て人型なのかもしれないわね。と、いうわけでとてつもなく重いモノを背負っているのは貴方だけではないわ、ロゼ。安心しなさい」

「因みに迷路ちゃんは自分の名前はおろか過去の記憶全てがないんだよ。迷路って名前も私がつけたの!」

「わ〜、重いよ〜。僕が想像してた秘密より遥かに重いんよ〜」


 色々難ありなパーティーになりそうですね。その後木葉は自分がこの世界に来た経緯まで話し、より一層重いのが加わることとなった。


「異世界の勇者か〜。いずれ衝突するとは思ってたんよ〜。そっちは僕の仲間が抑えることになってたけど」

「あまり向こうには戻りたくないんだよね……。そういえば、ロゼちゃんの話、聞いてなかったね」

「僕のお話?」


 木葉がロゼに向き合う。


「なんでロゼちゃんが王国を変えようとしているのか。どうしてロゼちゃんが逆賊って言われるようになったのか。聞かせてほしいんだ」

「……長い話になるし、多分面白くないお話だよ〜?」

「大丈夫。友達だから、全部聞く。聞きたい。そして、受け止めたいの。私は、ロゼちゃんの味方だから」

「……」


 ロゼは少し迷いながら、口を開いた。





 ぐぅぅぅぅう





「迷路ちゃん、今のはないよぉ……」

「そういえばご飯まだだったんよね〜忘れてたよ〜」

「殺しなさい……私を殺しなさい……うぅう」


 顔を真っ赤にしてうずくまる迷路。頭を撫でて慰める木葉。


「じゃあ、ご飯食べながら話そっか。ここ、こののんたちの宿だよね?多分隣に声が漏れるとかはなさそうだし、うん、そうしよう♪」

「そうだね!!じゃあ準備するから、迷路ちゃんを慰めててね」

「ううぅぅ、クールな私のキャラが……」

「もうそんなキャラどこにもないんよ〜」

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