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2章12話:武甕雷(たけみかづち)

「_______ッ!《居合》ッ!」


 瑪瑙を素早く抜き、ロゼが投擲したナイフを真っ二つに斬り裂く。その勢いで《斬鬼》を発動させ、ロゼにカウンター攻撃を仕掛けた。


「_____ッ!はぁぁあっ!」


 斬鬼の振動をナイフで抑えようとするも、その刃を削り取る威力に耐久度の限界を察知したロゼが回避に転じる。


「……凄いね、それ。こののん全然翠月級どころじゃないよ」

「相手は木葉だけじゃないわよ。《氷結》!」


 展望フロアの地面が瞬く間に凍りついていく。


「《凍土の願い》!」


 迷路によって手早く氷の鎖が生成されロゼに絡みつく。そこを見計らって踏み込んでいく木葉。


「ごめんね、峰打ちだよッ!」


 確実にロゼを仕留めきる位置まで踏み込みそのまま瑪瑙を振り上げ、


「なっ!?」

「甘いかな〜」


 柄のない刃物が組み重なり、瑪瑙の一撃を阻む。さらに、


「遠慮なく齧っちゃって〜」

「_____ッ!?」


 足元から感じる気配。先ほどの光景を見ていたが故に警戒はしていたが、あまりにも突然すぎた。


 真っ黒の蛇のような身体に無数の瞳をもつ化け物。レスピーガ地下迷宮で戦った五十年祭のように影絵のようにくねくねと蠢いている。その化け物は真っ直ぐに木葉の足へと向かってきた。


「くっ!」


 咄嗟に飛びのく木葉。その追撃をやめさせ、自分を縛る鎖を解かせるロゼ。戦闘慣れした的確な判断だ。


「こののん強いな〜。これは骨が折れそうだよ〜」


 といいつつも余裕な表情を失わないロゼ。すかさず両手いっぱいに投げナイフを持ち、一斉に投擲する。


「ハァァァッ!」


 迷路の生成した氷の矢がなんとかそれを弾き返すが、ナイフの動きは実に計算されたものでその正確さには目を見張るものがある。


「あ〜、それすごく邪魔だな〜」

「でしょうね、《凍土の……」

「だから、ちょっとごめんね」


 ロゼが何か発動させる。その次の瞬間、迷路の放った攻撃魔法が消失した。


「なっ!?つか、えない!?」

「スキル《ノイズキャンセル》にはこんな使い方もあるんだ〜。正式には使えないんじゃなくて、ノイズを流して別の術式に書き換えたんだよ〜」

「この短時間で私の構築した術式を解読して再構築!?ありえない!」

「だから言ったでしょ?僕、こう見えて割と強いんだよ〜?」


 さらにロゼは投げナイフをいくつも宙にばら撒き、投擲する準備に入る。


「基礎魔法:《浮遊》と《範囲拡大》のスキル、かしらね。でもこの数は……」

「僕の魔力は減らないからね〜。さ、踊ってみせてよ♪」


 ロゼの合図とともに宙に浮いた50近いナイフが投擲される。


「くっ!《凍土の願い》!」


 壁を生成し防御に徹しようとする。迷路の氷の耐久度はローマの祭り攻略戦で実証済みだ。だがロゼの魔力の精度はそれを上回る。


「ぐっ!」


 壁を打ち破り、数本のナイフが迷路の足や腕に刺さる。無論それらには毒が塗られている。


「迷路ちゃんッ!」

「余所見は良くないよ〜」

「うあっ、きゃっ!」


 黒い化け物を使役し、同時にナイフで木葉に斬りつけるロゼ。こうも上手に連携されては木葉本来の力が発揮できない。


「斬鬼ッ!」


 瑪瑙に多量の魔力を込めてロゼを押し返す。そのタイミングで迫った黒い化け物を蹴り飛ばし、後ろに退いた。ロゼのナイフは瑪瑙との打ち合いで刃が欠けてしまっていた。ナイフを後ろに放り投げ、新しいナイフを手に取る。


「う〜ん、使い捨ての武器はやっぱりダメだね〜。すぐ壊れちゃう」

「はぁ、はぁ……斬鬼が、効かない?」

「効いてるよ?でもそれは全部【暗闇さん】が肩代わりしてくれるからね〜。痛みは来るけど実質的なダメージは僕には来ないんだよ〜」

「ち、ちーとだよぉ!」


 歩くチートがチート言うな。


「大体なんなのよ、その暗闇さんって」

「あ、耐えきったんだ〜。凄いね、ポーションかなり使ったかな?」

「ええお陰様で大分使ったわ。あとで料金を請求させてもらうわよ」

「『後で』なんて来させないから大丈夫だよ〜。あぁ、暗闇さんはね、



 悪魔なんだよ」


「_______ッ!?」

「あく、ま?」


 その言葉の響きには重みがあった。木葉はよく分からない様子だが、迷路はその言葉だけで十分だったようだ。


「……契約、したのかしら?」

「僕がじゃないけどね〜。さて、そろそろ終わらせよっか。今他の異端審問官に来られたら面倒だし」


 ロゼはそう言うと、ステータス画面を開きとある武器を取り出した。


「なに……あれ……」

「さっき異端審問官を殺した槍、ね。禍々しい……これは、秘宝級かしら?いや、それ以上!?まさか、神話級!?」


 黒く長い柄、持ち手の先端には呪術的な意味合いを持つであろう紙垂(しで)。そして黒い槍先。先端からはパチパチと黒い電気が現界して見える。


「いくよ〜」


 くるくると滑らかに槍を回転させ、ステップを踏むロゼ。


「……もう嫌な予感しかしないわ」

「だったらこっちも!《鬼姫》!おいで、茨木童子!」


 白く染め上げられる木葉の髪と、燃え上がるような赤い瞳。黒の着物。


「まだ色々隠し持ってるみたいだね〜。お手並み、はいけ」

「遅いッ!」


 木葉の速度が上がる。あっという間にロゼの背後を取ると、瑪瑙を振り下ろして槍を落とそうとする。


「_______ッ!くっ!」


 咄嗟に柄を傾けて刀を受けるロゼと、それを切り落として攻撃を通そうとする木葉。


「斬れない!?」

「きゃっ!」


 しかし本人にダメージを与えることは出来ず、衝撃でロゼを吹き飛ばすのみに留まった。

 転がっていくロゼに対して迷路が杖を振り上げるが、


「ああぁあぁ!」


 黒い電流が走り、迷路を感電させる。持続回復のスキルが無かったら即死級だ。


「そう簡単には死なないんだよね〜、ッうぅ!」

「ハァァァッ!」


 高速でロゼに接近し再び瑪瑙を振り下ろすが、それも黒い槍先で食い止められてしまう。


「あれ!?感電しないね〜?」

「障壁をずっと貼ってるんだよ。これでも結構ビリビリするけど……」

「だったら!はぁっ!」


 ロゼが木葉を押し返すと、パチンと指を鳴らして空中に十本ほどの柄のない槍を出現させる。さらに、


「一瞬だからねっ!」


 気づかぬうちに接近していた暗闇さん。そして迫り来るロゼ。


「_____ッ!《剣舞》!」


 ローマの祭り攻略戦でドロップした攻撃魔法。その能力は文字通りの剣舞。宙にいくつもの鉄剣を生成し、ロゼの魔術ナイフに対抗する。その生成強度の高さは、ひとえに魔王の魔力量の高さゆえに成し得たことだ。しかしそれでも拮抗。おそらく木葉の方が魔力量は多いはずなのに、ロゼは魔力を上手に配分し、かつその質は良いものになっている。


(やっぱり戦い慣れしてる!)


 迫る暗闇さんに対して斬鬼で対抗し、そのままロゼごと後ろへ吹き飛ばそうと画策するが、ロゼの槍がそうさせない。


「終わりだね〜」


 暗闇さんに瑪瑙の剣撃が弾かれその隙をロゼに突かれる。先の異端審問官を八つ裂きにしたロゼの神がかった槍術が木葉に迫った。


(ここまで……いや、まだだよ。私は、まだ死ねない。迷路ちゃんを守るって決めた。夢の女の子の名前を聞くって決めた。まだ、死ねないッ!)






「ばいばいなんよ〜」






 ロゼの明るい声と同時に木葉の華奢な身体を、黒い槍が貫いた。



………


…………………


 ロゼの黒い槍が木葉の身体を貫く。暗闇さんが木葉の足をもぎ取り締め付ける。ロゼの不可視の2撃・3撃目で腕、首が切り離され血飛沫が舞った。


「あ、この、は……いや、ぁぁぁあ……」


 身体が痺れたまま這い蹲っていた迷路。信じたくない光景を目の当たりにして、その表情は徐々に絶望に染まっていく。


「すぐにめーちゃんも送ってあげるね。ごめんね、本当はこんなことしたくないんだけど、僕は王国を立て直さなきゃいけないから……ごめんね」

「ぁぁあ、この、は。このは、このはぁ……ぁあ、ぁぁああぁああぁぁあ」


 壊れたように泣き叫ぶ迷路。それを悲しそうな目で見下ろすロゼはその手に握る黒い槍を迷路の首筋に向け一気に振り下ろして、













「斬鬼ッ!」

「なっ!?ぁああぁぁぁぁあっ!」


 ロゼの背中に不可視の斬撃が直撃する。痛そうに悶え苦しむロゼ。その実質的なダメージ請負人たる暗闇さんはゆっくりとロゼの影に戻っていく。


「やっぱり、ある程度のダメージ蓄積で戻るようになってるんだね」

「あ、ぐぁ、ぁぁぁ、なん、で……?」

「木葉!?いき、てるの?」

「いきてるよ、迷路ちゃん。約束したもん、絶対に迷路ちゃんを守るって」

「木葉……木葉ぁぁぁ!」


 涙を流す迷路を見て微笑む木葉。ロゼは黒い槍を杖代わりにやっとの思いで立ち上がり木葉を見据えた。


「うぅ、障壁も張ってた筈なんだけどなぁ。なんだろう、この強い斬撃……それに、確実に首を刎ねた筈なのに」

「刎ねられたよ。でもそれは、私の幻だから」

「え?」


 驚くロゼの後ろから一太刀が浴びせられる。それを咄嗟に回避して槍で横薙ぎにするロゼ。その瞬間見えたのは、


「こののん……分身、ね……」

「幻影魔法:《ローマの祭り》。ここはもう私の夢の世界。私が作りたいように、好きなように幻を作れる世界。このお祭りは私の独壇場だよ。私が約束を守るための最高の舞台なんだ」

「あはは〜、失われた古代魔法(エンシェントマジック)ね〜。もう殆ど反則級だよ〜」


 口では笑っていてもその目は一切笑っていないロゼ。残り少ない魔力でどう木葉を倒すかについてしっかり思案している。


「じゃあ、その幻ごと全て壊して仕舞えばいいんだよね〜」


 ロゼは再び黒い槍を構え直し、その目を見開いて魔力を集中させ始めた。槍の刃の部分が収縮していき、先端にはブラックホールのようにぐちゃぐちゃ混沌した空間、黒い球体が浮かび上がる。





 空間が、歪み始めた。





「槍じゃ、ない?」

「ちが、う……」

「え?」

「あれは、だめ……絶対に駄目よ!あれと撃ち合うのは危険よ木葉ッ!!」


 先端の黒い球体の先がパチパチと光り黒く大きな槍先が作られていく。さらにその先端は分裂し、20枚ほどの柄のない黒の槍先が出現した。


「なに…………………あれ……………………」


 見るからに禍々しいオーラを放つ槍によって、周辺の空間が捻じ曲げられていく。既に待機させていた木葉の分身は掻き消され、木葉自身も意識をしっかりと保っていないと倒れてしまいそうな強烈な立ちくらみに襲われる。

 雨が、降り始めた。


「竜が味方してくれてるね〜。今はこの雨が気持ちいいなあ〜」


 光の灯らない桃色の瞳は木葉を見つめている。その身体に巡る竜の血がロゼの身体に強烈な負担をかけつつも、全身の細胞をフルパワーで稼働させて絶大な魔力を放出させていた。


「さ〜て、死ぬまで殺し合おうよこののん!!こののんの本気、僕にぶつけて欲しいんよ!!元素のちり屑になるまで粉々に打ち砕いてあげるッ!!!」


 瑪瑙を取る木葉。神々しいまでの力を放つロゼをしっかりと見据え、切っ先を向ける。



「貴方を止めるよ、ロゼ」



 瑪瑙から莫大なエネルギーが溢れ出し、それは次第に炎の柱となる。雨と風は強くなる一方だったがそんなもので木葉の炎は消えることはない。天まで届く炎の柱は、全てを焼き尽くさんとその火力をどんどんと増していった。


「すごいすごい〜!!全然まだまだ余裕なんだね〜!!じゃあ尚更ここで潰さなきゃ!!!」

「ロゼを止めるためならこれくらいッ!」

「なんで、そんな風に思うのかなぁ!!?」


 黒い槍にエネルギーが充填されていく。お互いがお互いに、その力を解き放たんと決戦の時を待っている。





「そんなの決まってるッ!!友達だからッ!!ロゼちゃんが、私を友達って言ってくれたから!!ただそれだけだよ!!」





 木葉のその言葉で、ロゼの頭に記憶がよぎる。




「ずっと友達だよ、ロゼ」


 今は亡き友の声。それが、何故だか木葉と重なって聞こえた。


「_______ッ!?そ、そんな、理由で……?みと、めない。認めるわけにはいかない……僕の意志は誰も負けない、負けるわけない」

「私は、ロゼちゃんが好きだよ!!だから、止めるんだ!!」

「僕はこの国を立て直す!!絶対に負けられない!!殺してあげるねッ!!コノハ!!」






「《鬼火》ッ!はあぁぁぁぁあぁあああっっ!!」


「《武甕雷(タケミカヅチ)》!!」






 展望フロアを、真っ白な光が包んだ。

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