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2章9話:中立都市リヒテン

感想とかまぁ気軽にお願いします♪

 ラクルゼーロ市から馬車で約8時間街道を東に進み続けると大都市が見えてくる。煉瓦造の建物が並び、あと数100年したら世界遺産とかに登録されたりしそうだ。果たして国際連合ができるのかどうかは不明だが。


「わぁぁあ!ラクルゼーロよりも大っきいね!!」

「中立都市リヒテン……本当に近いわね」


 王都パリスパレスからみて南東に位置するこの都市は、人口もまた大都市にふさわしい人数が日々の生活を営んでいる。

 主要産業は時計の生産。他にもワインの醸造が盛んで、クルカティーノとかいう高級ワインがここから王国中に流通していく。近場に牧場が多いことから、乳製品の生産も活発で特にチーズは絶品らしい。うん、まぁぶっちゃけスイスみたいなところだ。


「異世界っていうよりヨーロッパ旅行に来た気分だよ〜。街に着いたらチーズ食べたいな〜、あと時計も欲しい!!」

「アレ相当高いわよ?金貨38枚の生活資金だから、あまり無駄遣いはできないわ」

「うー、懐中時計はちょっと憧れなんだけどな」


 何度も言っているが、木葉の家は生活に余裕がない。そのため木葉は幼い頃から欲しいものを我慢して我儘もできるだけ言わないようにして来た。その反動が今来ていて、アレも欲しいコレも欲しいとなっている。


「まずは向こうのギルド会館に行きましょう?それから目指すはここよ」


 観光パンフレットのようなものを取り出し、指差す迷路。これも一応フォレストからの餞別である。


「え!?なんかこのマークって……まさか!」

「温泉、かしらね。そういえば火山地帯だからこういうのも多いのよねここ。宿は近くにとってあるらしいから、そこに荷物を置いてさっさと行きましょう?」

「い、至れり尽くせりだね。フォレストさんの権力ってこっちの方まで及んでるんだ」

「カルメン卿は王国で昔宰相をしていたのよ?」

「え!?宰相ってあの……さいしょー?」


 木葉の認識的には総理大臣だ。


「前国王:エルクドレール7世の治世時に辣腕を振るった名宰相。それがフォレスト・カルメン。奴隷売買の禁止と国道法、ギルドの権限を強める地方行政法を整えたのも彼女。国王の交代前に王宮から退いているわ」

「へぇ。やっぱり凄い人だったんだ」


 門を過ぎて馬車は進む。豪華絢爛な馬車の入城にラクルゼーロ市の市民たちは驚いていたため、今回はその上から布を被せることにした。これで幾分かマシになるが、やはり氷の馬が物珍しい。通行人の目を釘付けにしていた。


 2番街の中央に位置するギルド会館の手前に馬車を止め降りるとまだ野次馬がいた。


「お、おい!やべぇ、美少女だ!絶対貴族かなんかだって!」

「おほぅ……美しい。王都の令嬢といったところか?」

「ペロペロペロペロ」


 無視しよう。


「どこの街にもやばいやつはいるものね。行きましょう木葉」

「う、うん。なんか貴族って思われてるみたい」


 ラクルゼーロのそれより一回り大きいギルド会館。その入り口を力一杯に開いて中に入る。そこにはまぁ定番通りガラの悪そうな冒険者がテンプレ通り酒を飲んでいた。なんて子供に優しくない施設なんだろうか。


「おい嬢ちゃんたち、ここはガキが来るところじゃ……」

「その台詞は違う誰かから数日前に聞いたわ。ここのギルド管理者に用があって来たの。ラクルゼーロ市からの手紙を届けに」


 【タグカラー】について少し言及させて頂こう。他人のステータス画面を覗くことは出来ないが、タグカラーを覗くことは出来る。ステータス画面を表示し、そこから相手のタグカラー表示という機能があるからそれを使用すると覗けるという寸法だ。で、タグカラーを覗いた冒険者たちは警戒の色を露わにした。


「この歳で……翠月級?異端審問官か?」

「違うわ、立派な立派な冒険者よ。さて貴方が管理者かしら?」

「いや、俺はちげえよ。ラクルゼーロからならそこの受付嬢に確認してくれ」


 受付に歩いて行き、確認を取る。確認が取れると、木葉たちは奥の部屋に案内されていった。


「失礼しますアンソン様。ラクルゼーロからの使者様が到着なされました」

「入れ」


 いかにも偉そうな人がいそうな部屋に案内された木葉たちは受付嬢に部屋に入るよう促される。


「失礼します」


 ドアを開けた途端、


 ヒュンッ!


「っ!!」


 矢が飛んで来て木葉の眉間に迫った……が、それを素手で掴み、勢いを殺す。木葉の反射神経は、魔王の力も相まって凄まじいものになっていた。


「……なんのつもりですか?」


 目の前の執務机にはいかつい顔の金髪の男が座っており、不敵な笑みを浮かべている。


「ほぉ。一応やるみたいだな。シドが認めただけのことはあるか。いやはやすまない突然こんなことをして」

「これはここに来た全員に?」

「まさか。新たなる英雄が誕生しそうだと聞いて、試してみたくなった。この非礼を許して欲しい。俺はリヒテンのギルド会館管理者にして、ギルド【飛竜の鉤爪】のギルドマスター:アンソンだ。宜しく」


 金髪で太い髭を生やした中年男性。しかしその体はガッチリしており、かなりの実力者であることがうかがえる。タグカラーは、紫月。


「え、えっと……宜しくです……」

「おや、先ほどまでの殺意とは打って変わって年相応の反応。これは面白い。少し興味が湧いて来たな」


 不敵な笑みを浮かべるアンソン。木葉なんともやりにくそうに困った顔をした。


「飛竜の鉤爪っていうと、リヒテン最大の戦闘系ギルドね。餓狼の巣穴とも関わりがあるのかしら?」

「シドの餓狼よりよっぽど大きいギルドさ。構成員は800人近くいる。リヒテンにいる主幹の部隊のうち、大半は俺のギルドの連中さ。まぁ大体話は聞いてる。先のゴブリン戦での欠員補充だろう?ウチから若いのをラクルゼーロに送る」

「助かるわね。それから私たちの滞在中は、いい仕事を斡旋して欲しいわ。銅月級レベルでも引き受けるわよ」

「ほぉ、面白い。最近の冒険者はそういうイキがいいのが少なくてな。飽き飽きしてたんだ。まかせろ、お前らが根をあげるほどいい仕事斡旋してやるさ」

「根はあげないわよ、絶対」


 迷路も不敵な笑みで返す。木葉は内容があまり頭に入らずぽけーっとしていた。


「さて、ヒカリにメイロだったかな?これからどうするんだい?」

「えっと、温泉行きます!」

「そうか。じゃあこれはここだけの話なんだが……」

「?」

「このリヒテンに【異端審問官】が数人来てるらしい。それも1人は【一等司祭】だそうだ。目的はリヒテンに潜り込んだ逆賊の討伐……らしいが、アイツら何しでかすかわからないからな。気をつけてくれよ」


 真剣な面持ちで話すアンソン。険しい顔がさらに険しくなっていた。


「案外優しいのね。えぇ、心に留めておくわ」



…………


……………………


 ギルドホールでナンパを軽くあしらって(関節技を決める迷路をご想像ください)、外に出た。物珍しそうに馬車を眺める見物人を追い払い(ゴミを見るような目をする迷路をご想像ください)馬車に乗り込む。


「迷路ちゃん強いねー!」

「木葉に近づく蛆虫は即効で排除させてもらうわ。そういう約束だものね」

「う、うん……そんな過激な約束だったっけ……?」


 馬車の中は適度にひんやりしていて、気持ちいい。バス酔いが酷い木葉でも特に揺れないような仕組みになっていて迷路による木葉への配慮が感じられる。


「そういえば【異端審問官】ってなんなのかな?さっき注意しろっていってたけど」

「木葉は満月教会は知ってるかしら?」

「う、うん。王国は満月様の息子のフォルトナ様を信仰しているから、フォルトナ派なんだよね?」

「そうね。その満月教会フォルトナ派の持つ武装集団のことを異端審問官というわ。『教会の矛』たる彼らは、言わば異端認定を受けた冒険者らを討伐するために活動しているの」

「正義の味方なんだね!」


 目を輝かせる木葉に対し、迷路の表情は重い。


「設立当初はその目的で作られたわね。各地の有力で、尚且つフォルトナへの信仰心の強い冒険者が収集され、【ブラックリスト】……あぁこれは黒のタグを持つ犯罪者のことね。そいつらを討伐していた」


 ラクルゼーロのお土産:森の魔法少女パンを齧って間をおく。ふんわりとした甘さが病みつきになりそうな一品だ。


「でも近年、その内部は腐敗しきっているわ。王国との政治的かつ軍事的な癒着を強めた教会上層部は、王国に敵対する勢力にその武力を行使するようになった。16年前の内乱がいい例ね」

「内乱?」


 聞きながらもしっかり口と手を動かす木葉。シリアスな話にはもってこい、森の魔法少女パン定価:銅貨50枚とお安い価格です。


「16年前に大規模な内乱があったのよ。その際にその反乱軍を鎮圧したのが7将軍と異端審問官。いや、殆ど異端審問官の活躍ね。エルクドレール王の即位問題だから王宮内部の問題だったのに、異端審問官が動員されて反乱軍を滅ぼしたの。一等司祭の強さは反則級だというのに」


(16年前にそんなことがあったんだ。あれ、本で読んだような読まなかったような……)


「あ、着いたよ!」

「意外と長く話していたのね……荷物を降ろすの手伝って頂戴」

「がってん、姫!」

「苦しゅうない……いや何これ」


 予約してある宿の名前は水風荘という優美な宿だった。一応備え付けの大浴場はあるらしいが、この地域一帯が温泉街なため木葉たちはこれからそこを回る予定である。こんな名前ではあるが見た目はばっちりバロック様式の豪華ホテルで、金持ちが泊まりそうなお高いところであった。


「いいね〜温泉街!!なんかワクワクするよ!」

「さて、この馬鹿みたいに増えたお土産をさっさと持って。こんなことなら先に道具ポーチを買っておけば良かったわ」

「後で買いに行こうよ!温泉堪能したら〜っとうわわっ」


 木葉が通行人とぶつかる。というか、前を見てなかった通行人が木葉にぶつかってきたといった方が正しい。


「ぴゃぁあっ!」


 よろけて転ぶ通行人。その姿は、


「う、うさ耳!?」

「あいててて。やー、よそ見してたっすわ、めんごめんご……ってうわぁ!!超可愛いっすわ!!あて、君みたいな女の子めっさ好み!!」

「へ、へ!?兎さん……亜人!?」

「可愛い!肌もちもち〜ぎゅーっすわ!」

「みゃぁぁ!!くすぐったいよぉ!」


 いきなり綺麗な白髪のうさ耳美人にスリスリされる木葉。それを見てイラっときた迷路が止める前に、


「チェリーネ様、そのあたりでおやめください」


 コートを着た大男が止めに入る。うさ耳美人は名残惜しそうにしつつも渋々木葉から離れた。


「ぐー、メンゴね。あて、かあいいものに目がないんっすよ。お名前は?」

「あ、え、えとこの……ひ、ヒカリ?」

「ヒカリ!ヒカリちゃん!きゃわわですわ〜、寝たい!すぎょい寝たいっすわわ!寝ない?ねね、寝ない?」

「ね・な・い・わ!この……ヒカリから離れなさい!」

「うわわ、ほんとメンゴね。あてはラッカっつーんすわ。また縁があったら会いたいな〜、でもお仕事あるぴょん」


 さりげなく語尾に兎要素混ぜてきたが、かなりわざとらしい。後ろの大男の視線がとても痛い。あと木葉も迷路もヒカリ呼びに慣れていなかった。


「チェリーネ様、そろそろ」

「っもー、せっかちだわ〜。こーんにゃきゃわわな子を置いてお仕事たぁ、つくづく社畜って言葉が似合うのがあてっすわ」


 やれやれというジェスチャーをして振り返るうさ耳美人。


「またいつか会えたらその時は寝ようね〜!待ってるっすわ〜、あて基本王都にいるから!ヒカリちゃんの願いがあるところにゃどこへでも参上っすわ!じゃあねー!」


 軽やかなステップで道を行くラッカ。その後ろに大男が付いていく。それを見届けて、迷路は警戒を解いた。


「なんだったのかしら、あれ」

「わ、悪い人じゃなさそうだよね……あはは」

「貴方はすぐそういうわよね。もう少し人を疑うことを覚えなさい」

「えへへ」

「はぁ。さっさと荷物置いて温泉行くわよ」

「わぁい!温泉♪温泉♬」


 はしゃぐ木葉に、ため息をつく迷路。空はもうすっかり茜色に染まっていた。











「ふんふん〜ふふん〜♪トゥルトゥル〜♪」

「上機嫌ですね、チェリーネ様」

「すっぎょい可愛い子に出会ったから〜。し・か・も、あんな顔して翠月級!絶対近いうちに会うっすわアレは。もし異端者だったとしても、囲って調教しちゃいたいくらい♪」

「異端審問官として今の発言は……」

「あては一等司祭、それくらいの我儘は是が非でも通すっしょ。さて、さっさと【白磁の星々】やフルガウドの餓鬼を殺すとしまっしょ。めぼしい所を洗え」

「畏まりました。直ぐに」

「ふふっ楽しみっすわー、フルガウドの餓鬼も結構可愛いって聞いてるんっすわ〜。首だけでもあての部屋に飾りたいな〜楽しみっすわー」


 夕日のささない細い街路を歩く2人の男女。うち、先ほどのうさ耳美人ラッカが獰猛な笑みを浮かべる。


「筆頭異端審問官:ラッカ・ティリエ・ル・チェリーネ一等司祭の名において、絶対に仕事は成し遂げる。あての絶対は今まで絶対だっしょ。負けないよ、ノルヴァード」

次回は迷路ちゃんに次ぐ2人目のヒロインが登場するゾ〜

ラッカじゃないぞー

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