2章5話:ゴブリンの蹂躙
⚠︎残酷な描写があります。苦手な方はご注意下さい。
〜ギルド連合前方にて〜
ゴブリンの砦に向かって矢を放ち、それから突撃する冒険者たち。一番乗りは《黒鉄棍》という武器を持つ餓狼の巣穴の実力者ベック。翠月級の腕利きだ。
「オラオラオラァ!!ゴブリン!!殺してやらぁぁあ!!」
矢を構えて待ち構えるゴブリン。文字通り小鬼のような姿をした彼らは、一般的に知能が低いとみなされている。醜い顔、纏っているのはボロ切れ、手には弓矢。基本的に集団でゴブリンに出くわす冒険者は少なく、一体一体で相手することが多い。故に冒険者たちは勘違いする。
ゴブリンなど、雑魚であると。
「オラぁぁぁあ!!」
弓を構えるゴブリンに棍棒を振り回してその頭をぺしゃんこにするベック。獰猛な笑みを浮かべて次の獲物へと向かっていく。その姿に、後陣の新人冒険者たちは興奮を隠せない。一体、また一体とゴブリンを潰していくベックはさらに奥に進んでいく。それに続いて新人たちもなだれ込んで行った。次々と道中のゴブリンを倒して進む冒険者たち。
「おい、こんなもんかゴブリン!!オラぁぁぁあ!」
ベシャリとその頭を潰す。大剣を担いだギルドマスター:シドもその後ろに続き、ねじ伏せていく。その側近:短刀使いのクレルという翠月級の冒険者も湧いてくるゴブリンを殺していく。次第に冒険者たちの士気は上がっていった。
「この調子でいくぞぉぉ!!つぶせつぶせぇぇ!!」
流石はベテラン、慣れた手つきでゴブリンたちを屠っていく。クレルやベック、シド、エゼルを中心に、新人たちもだんだん慣れてきたようでその勢いは止まらない。
ベックは手近なゴブリンを殺して、その棍棒を地につけて一息つく。
その時だった。
「がぁぁあっ!!」
ベックの手に一本の矢が刺さる。ボロ小屋から放たれた一本の矢。そこにゴブリンたちは潜んでいたのだ。だが矢が一本刺さったくらいではベックはどうということもない……そう思っていた。
「な、ぁぁ、あぁ!?これは、毒?」
その矢には、毒が仕込まれていたのだ。しかしそれはポーションで解決できる。急いでステータス画面からポーションを出してそして、
ポーションは燃えた。
「な!?」
茂みから魔法が放たれる。それをすんでのところでかわすも、その動きは確実に毒で鈍っていた。
「妖術師の……ゴブリンだと?」
「イギィィイ!!」
彼らの杖から炎が放たれる。それをかわすベックだったが、近くにいた新人はかわすことができなかった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
一瞬で燃え盛っていく新人冒険者。肉が焼ける匂いに、思わずベックは口を押さえた。それが、命取りとなった。
茂みから多くのゴブリンが姿を現し、矢を放つ。その矢はまっすぐベックに進んでいき、矢避けのスキルを持たないベックの、
「あ……」
頭に突き刺さった。
「ベック!!!」
シドが叫ぶ。通常のベックならかわすことができただろうが、猛毒が彼の体に満遍なく回っていた。ゴブリンは、自分の糞尿やその辺の毒草をつかって毒薬を作っていたのだ。
絶命したベックの遺体を踏みつけて、その黒鉄棍を奪うゴブリン。さらに後ろの方でも、自体は急激に悪化していた。
「ぎゃぁぁぁ!」
「なに!?きゃぁあ!」
「うぐっ!矢だ、弓兵がいるぞ!!ぐあっ!」
崖の上には多くのゴブリン弓兵。その矢には猛毒が塗られている。そして茂みに隠れていたゴブリン妖術師によって動きが鈍った冒険者たちは、次々と殺害されていった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!熱い、熱いよぉぉぉぁぁぁおぁあ!」
「やだぁぁあ、死にたくないぃぃい!やだぁぁぁあ!ぎゃあっ!」
「がはっ……やめ、ろ……それは俺の剣……」
にたりとゴブリンが笑い、地を這う冒険者の頭に剣を突きつける。目を見開いて絶命した冒険者から身ぐるみを剥ぎ、その装備を身につけていった。
無論悲劇は新人だけではない。
妖術師の首を刎ね、茂みに火を放ってゴブリンを殺すベテラン冒険者。しかし彼を取り囲むは多数の弓兵とゴブリン兵士。多くの矢とその毒を受けながらも弓兵の首を飛ばしていく剣士。
しかし多勢に無勢、その体躯に剣が突きつけられていった。
「がはっ……卑劣な……」
ベテラン冒険者はその尊厳なく頭を潰されて自慢の剣を奪われた。ゴブリンの蹂躙は続く。
「な!?」
ベテラン組の前に立ちはだかったのは、女性を吊るし、盾としたゴブリンたち。おそらく先ほどの村で捉えた女性たちだろう。動きが鈍った冒険者たちを、ゴブリン弓兵が射殺していく。
「がっ!」
「うわっ!」
「がはっ……」
そこには翠月級も白月級も関係ない、一方的な蹂躙が待っていた。
「何故だ……何故ゴブリンがこんな統率のとれた動きを!!」
シドが叫ぶ。すると、
「オ前ガ、大将カ?」
奥の方から、ひときわ大きいゴブリンがのっしりと歩いてきた。その手には、ベックのもつ黒鉄棍がにぎられていた。
「おま、えは……ゴブリン王!?なぜ!?そんな情報はどこにも!」
何かの動物の骨を頭をまるで王冠のように載せて黒いローブに身を包む巨大ゴブリン。どこの種族にも、亜人の王というものは存在する。だが、それらの情報というのは基本的に目撃証言となって入ってくるはずなのだ。
「斥候モ、目撃者モ貴族モ全テ殺シタ。後ロノ連中モ皆殺シダ。男ハ殺シ、女ハ○辱シテヤハリ殺ス。オ前モ直グニ殺ス!」
「クソっ!」
シドは得意の大剣を振るい、ゴブリン王の体躯を裂こうとする。しかし、黒鉄棍はそんなシドの大剣を跳ね返しシドを吹き飛ばした。
「ガァぁぁぁあッ!!」
岩壁に叩きつけられるシド。ゆっくりとゴブリン王が向かっていく。
「終ワリダ」
黒鉄棍を振り下ろすゴブリン王。そこに割って入ろうとしたのは、翠月級:クレルとエゼル。しかし、
「邪魔ダ」
黒鉄棍が向きを変えエゼルの剣を体ごと吹き飛ばし、2撃目でクレルを叩き潰した。
「ぁぁあっ!」
「ぐぎゃっ」
「クレルゥゥッ!!」
生き残った優男風のエゼルに向かっていくゴブリン王。あまりの威圧に、エゼルは剣を捨てて逃走した。
「うわぁぁぁぁあ、嫌だ、嫌だ!!死にたくないぃぃい!!!嫌だあぁぁぁあ!!」
それをつまらなそうに眺めるゴブリン王。
「ツマラン。マダアノ女剣士ノ方ガ歯ゴタエガアッタ」
「まさか、フルーラのことか?フルーラは……?」
シドが立ち上がり、尋ねる。
「手足ヲ折ッテ、今ハ我ガ兵タチの慰ミ者トナルノヲ待ツバカリダ。初メハ泣キ叫ンデイタガ、今デハ大人シクナッタ。余程誇リヲ引キ裂カレタヨウダナ、フハハ」
「き、貴様ァァ!!」
剣を取り勇敢に立ち向かうシド。しかし、その剣を黒鉄棍とぶつけた時自慢の大剣は粉々に砕け散った。再び体が吹き飛び、背中を強く打ち付ける。
「今度コソ、オワリダ」
黒鉄棍が振り上げられた。その瞬間、シドは死を悟った。
(ここまでか……。俺が情報収集もろくにせず、血気に逸って無謀な戦いを挑んだばかりに多くの冒険者を死なせてしまった。この償いは、地獄に落ちてしなくてはならぬ。すまないベック、フルーラ、エゼル、クレル、フォレスト様、嬢ちゃんたち……)
思い出されるは先ほどの少女たち。
(そういえば、彼女らもこの戦いで死なせてしまうのか。本当にすまない。フォルトナ様よ……せめて彼女たちだけでも……せめて)
スローモーションに振り下ろされる黒鉄棍。
「《居合》ッ!」
そんなシドの視界に、白い光が映った。次の瞬間、
「ナニ!?」
黒鉄棍が真っ二つに割れた。そして、
「ウグァアァァァァァァァァ!!」
ゴブリン王から黒い血が吹き出す。シドの前に立つのは、白銀の髪の少女!?
「間に合った。いや、間に合ってない、よね。ごめんなさい。私が遅かったから、また、人が死んじゃった」
くるりと少女が振り返る。鬼のお面をかぶった白の少女。ゆっくりと少女は面を外した。そこには、
「……嬢、ちゃん?」
ギルド会館にいた白月級の少女。シドが、駆け出しの新人だとみなし、その功績をデマだと断定した少女。フォレストの認めた少女。
「櫛引 木葉って言います!貴方だけでも、助けられて良かった」
そんな少女は、夥しい量の吹き出した血を浴びながら、にっこりと微笑んだ。その姿はまるで、
(魔王……お伽話の魔王のようだ)
そう、シドは感じた。




