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1章21話:1-5の勇者パーティー

 さて木葉がレスピーガ地下迷宮にいる間、クラスメイトたちがどうなっていたかについてを見て行こう。


 バチバチバチッ! 


「っと! すご、やっぱ参考書って大事なんだよな〜」


 自室で何やらバチバチ怪しい実験を行なっているのは、金髪不良ガール:真室(まむろ) (ひいらぎ)。役職は錬金術師だ。机の上にはチョークで書かれた魔法陣とよく分からない材料、そして一枚の画用紙。


「スキル:想像力補助」


 画用紙に描かれているのは、手榴弾だ。グレネードなどではなく、ハンドタイプの旧式。まずはイメージしやすいところから練習して行こうと、第二次大戦中の爆弾から試している。


「特殊スキル:錬成」


 謎の液体を魔法陣の中心に垂らし、スキルを発動させる。液体が魔法陣の線に沿って伝っていき、やがて魔法陣は赤く光り始めた。

 机の上の黒い物体がチリチリと消えていき、代わって魔法陣の中心には段々とあるものが形作られていく。それは、画用紙に描かれた手榴弾と全く同じものだった。柊はその手榴弾を手にとって不思議そうに眺める。


「うーん。戦車潰すのにはこれくらいでいいかもだけど。てかどっかで実験できねぇかな」


 特殊スキル:錬成は錬金術師特有のスキルだ。錬金術師というのは非戦闘系に見えて実質かなり戦闘系である。実際帝国や南方連合との戦争でも彼らの尽力は大きいし、その人材はかなり重宝されている。本来なら柊もこの時間はゴダール山攻略に駆り出されているはずなのだが……。


「サボり癖って一度ついたらなかなか治んないんだよな。やー参った参った」


 と、言うわけだ。白鷹語李が船形荒野を抑えてなんとか攻略を進めていると聞いているが、最近は街に出かけて遊んでそれから錬金術の練習という生活が板について来た。時々実践のためにゴダール山の方にも行くらしいが。


「さて、じゃあそろそろ進めますかね」


 と言ってやって来たのは、王都:パリスパレスの2番街、【アルケミー〜錬金術師のための用具店〜】という店だった。


「いらっしゃい!」

「よっす店長! 今日も紫炭(したん)×10、青銅×5、偽鉄×20、火薬×30、炎尾薬×10で頼む」

「何時ものだな、合点承知!」


 昼間、攻略組がゴダール山に向かう中でおサボり中の柊はこうして王都の錬金術師たちと親交を深めている。


「今日もウチでやってくといい、工房は貸すぞ!」

「悪りぃな本当。いつも助かるわ。やっぱ自室だと限度あるんだわ」

「王宮で爆発なんてしたら一大事たしな。真っ先にヒイラギを疑うぜ」

「いつか絶対やらかすから好きなだけ疑っててくれよな!」


 奥に入ると、そこは流石本職と言うべきか、錬金術師の工房が広がっている。必要な魔法陣はその材料の特性ごとに設置され、要らなくなった材料なんかも置かれているため実験にはもってこいだ。


「よし、じゃあ次は機関銃いってみるか!」


 そう、ここ最近柊が作り出そうと苦心しているのは現代の銃火器だ。それは当然、異世界において使用すれば最早チートとなり得る。とは言え魔獣に対してのそれは限度があり、表面の硬い装甲を崩すには魔法が最適。よってこれは対人用兵器である。


「よっし!」


 工房に赤い光が満ちていく。


……


…………


……………………


〜ゴダール山第78層にて〜


船形(ふながた)っ! 今だ斬れ!」

「命令、すんなっ!」ザシュッ


 船形荒野(ふながたこうや)の大剣が目の前の怪物:オークの体躯をそぎ落とす。勇者パーティーは今、オークの群れに囲まれていた。


「お、オークとはあれだよね? あの、女性を犯しに掛かるお約束の化け物だよね? む、無理無理無理!」

「千鳥ちゃん冗談言ってる場合じゃないから! りゃぁぁあ!」


 花蓮の弓から閃光が走り、オークの心臓を突いた。力なく倒れこむオークだったが、またその後ろから二体向かってくる。


「うりゃぁぁぁあ!」


 鮭川樹咲(さけがわきさき)の鉄拳がオークの顔面にめり込む。その跳躍力は、日頃の訓練の賜物であるといえよう。


「ボスオーク来るぞッ!」


 白鷹語李(しらたかがたり)の大声で皆に緊張が走る。進軍してくるその巨体は、間違いなく群のボスだろう。醜悪なフェイスがクラスの女子たちの不興を買っている。


「き、きも!」

「うわぁ」

「アレに犯されるとかなったら舌噛み切るわ」

「アレにやられるくらいなら零児の方がマシ」

「あ!? 今なんつった!」


 不憫な男、天童零児(てんどうれいじ)。武闘家の彼は、真っ先にみんなの前に出てボスオークと交戦する。


「援護する、零児!」


 槍使いの語李がその赤い槍を振るってボスオークのアーマーを崩しに掛かる。


「くっ! 止められた!?」

「タァァア!」


 零児の鉤爪がオークの腹にめり込むが、その程度ではビクともしないオーク。ニタァと醜悪な笑みを浮かべて、2人の頭を潰しにかかる。


「《ボルトアロー》!」


 花蓮が弓を引いて攻撃魔法を使う。麻痺効果を付与したボルトアローがオークの肩に刺さり、オークの動きがかなり鈍った。


「ちんたらしてんじゃねぇぞゴミがぁ!!」


 船形荒野が大剣を薙ぐ。オークのアーマーは粉々に壊れ、緑色の血が吹き出す。そこにすかさず語李が槍で心臓を突き、零児が頭に鉤爪を当てる。トドメは、


「おらぁ、バーニングぅぅう!」


 妖術師:戸沢菅都(とざわかんと)の一撃。オークの体は炎に包まれ、アイテムがドロップされた。


「やった!! 俺たちの勝ちだ!」

「あっぶねぇだろ! 菅都! 俺まで燃えるとこだったじゃんかよ〜! マジでヤバスだわ〜」


 零児は自分が丸焦げになりそうだったことさえネタにして場を盛り上げた。なんかもう流石である。


「これで78層も突破か。まだまだ先は長いが、俺たちのペースも上がってきている。みんな、頑張ろう!」

「おうよ!」

「分かってるわ!」


 語李の一声でクラスが団結




 ……しなかった。




「何でテメェが仕切ってんだよ、勇者は俺だぞ槍使い」


 船形荒野だ。そして、荒野の彼女である金髪ケバメイクの女子:高畠(たかはた)も花蓮たちに突っかかる。


「あんたらの援護雑魚くね? 笑。アタシに泥とか付いてたらどんな風に責任とってくれるわけ? 笑」

「……私はやることをやっただけよ。高畠さんだって何もしないで突っ立って」

「あ? アタシになんかあったら荒野が黙ってないからね? また痛めつけられたいの?」

「______ッ!」


 花蓮は異世界に来て、何度も船形荒野に暴力を振るわれている。それも、ほぼレイプ寸前だ。幸いそういう行為には至っていないが、荒野が本気を出せばそうもいかなくなるだろう。そして1-5のクラスの女子の中でも、異世界に来て無理やり荒野に犯されたものも数名いる。

 それだけではない。最近は荒野の取り巻きも増えて来ていた。女子は高畠(たかはた)を筆頭に無理やりグループを作り、男子も戸沢菅都を筆頭にしてスクールカーストの低かった男子を引き摺り込んでグループをつくる。




 今1-5は、暴君:船形荒野と比較的常識的な白鷹語李(しらたかがたり)の2つに分かれかけていた。




「やめないか。船形、俺が指揮を振るうのが嫌ならちゃんと指揮してくれ。俺は最初から君にそう言っている」

「あ? 俺の指揮に何か問題でも?」

「大アリだよ。レガート団長に教わった通りにやってくれないか?」

「あのジジイに従えってか? はっ! 老害の言うことなんか聞いてられるかっての。道は俺たち未来ある若者が作ってくって言うだろ? テメェらは俺に従ってりゃいいんだよっ!」

「……そうか」


 と、そこにレガートが戻ってくる。79層の索敵を行なっていたようだ。


「よし、今日は撤収だ。ん? 何かあったのか?」

「いえ、特に何も」










 道中、先頭を歩く船形グループは下卑た笑い声を上げて進んでいく。


「すまない零児。また、何も言えなかった」

「やー、語李は頑張ってると思うぜ? ありゃダメだわ。いつか絶対王国に消されるって」

「女子たちも怯えている。これではマトモに連携も取れない。木葉を救いに行くこともできない……」

「語李……」


 それを聞いて、花蓮たちも暗い顔をする。クラスのムードメーカーたる木葉が安否不明で、語李や零児が暗いムードなため1-5は船形グループを除いて沈んでいた。


「はぁ、木葉ちゃん……」

「レガート団長には付きっ切りで荒野についててもらうしかねえかもな。これじゃいつまで経っても……」

「まぁ実際僕たちのレベルは上がってるわけだし、直ぐにでも魔王を倒しに行けるさ」

「そう、ね千鳥ちゃん……」


 暗いムードの女子3人に対して語李が申し訳なさそうな顔をする。


「すまない、俺たちが場を悪くしていたな。みんなよくやってくれているさ。本当にありがとう」

「語李くんが背負いこむことないわよ! 語李くんも大変なのに」


 花蓮が声のトーンを落とす。


「花蓮、元気出せっての! 俺らが沈んでたら木葉ちゃんにも悪いべ? なっ!」


 零児が花蓮の背中をバシバシと叩く。それを花蓮が腕を回して背中を取り、関節技を決めようとする。いつもの光景だ。


「いや、痛い痛いっての、ギブギブギブ!」

「不用意に私の背後を取らないことね、零児」

「カッコいいっぽいけど今は痛えから離せっての、やっべぇ、やっべぇから!」

「あはははっ! ったく2人はこうでなくちゃな」


 零児の体を張ったネタに1-5の生徒たちにも少しずつ笑顔が見えてくる。これでも、木葉が連れ去られた時よりは遥かにマシになった方だ。あの頃は王宮の専属カウンセラーが出張って来てみんなのカウンセリングをするなど、色々大変だった。


「俺たちは、俺たちにできることをしよう。な、みんな」

「「勿論!」」


 語李達が盛り上がる一方で、違う意味で騒がしい集団があった。

 言わずもがなもう一つの派閥である。


「あ〜ったくよぉ! どいつもこいつも俺に盾突きやがって」


 船形荒野が大声で騒ぐ。道中で酒を飲んでいるようだ。未成年の飲酒ダメ絶対。


「や〜でもさ〜、楯突いた女は大体手綱握ってんじゃん? アタシその子ら今調教してんだけどさ、泣き叫ぶのなんのマジうざいんだよね〜、ね、アンタラ」

「は、はい……」

「うわ三草ひど〜。ウチもパシリ欲しいわ〜」


 高畠三草の隣で取り巻きの女子が騒ぐ。この前木葉に対して嫌味を言った遊佐と言う女子だった。

 今彼女たちは6人の女子を取り巻きにしている。かつて荒野に反発して、荒野に暴行された少女たちだった。今ではかつての勝気な態度は見る影もない。


「あ〜本当に櫛引木葉は勿体なかったわ。あれくらい美人を奴隷にしときゃ箔もついたってのによぉ」

「えー、アタシあの子嫌い。なんか可愛がられたい感がまじキモかったわ。あ、でも奴隷としては欲しかったな〜ほんと、死んじゃって残念だわ〜」

「死んでなくても今頃魔族のオモチャでしょー? 次会ったら廃人になってたりして。そしたらウチらで買い取ろーよ」

「そりゃいいな。壊れるまで使い潰してやりてぇわ」


 ギャハハという不快な声が響く。と、そこで王宮に着いたようだ。


「あ? あれは……真室(まむろ) (ひいらぎ)?」


 金髪不良ガール柊が反対側から王宮に戻ろうと歩いてきていた。荒野は真室柊によって怪我を負わされたということになっているため、彼女に対しては慎重になっている。


「おい真室(まむろ)、テメェまたサボりかよ」

「ん? あー、アタシに潰された雑魚勇者じゃねぇか。ウケる」

「あ?」


 2人の衝突の危機を察してか、語李が前に出てきた。


「ストップ。喧嘩はやめろ。真室さん、あまりサボりは感心しないな。なるべく攻略の方にも顔を出して欲しいんだが」

「あー、明日は行く。ちょっち忙しくってさ」

「忙しいってテメェ……何して」


 荒野が次の言葉を紡ぐ前に、突然爆発音が起こる。


 パンパンパンッ!! 


「うわぁあ!!」


 足元で動き回るのはネズミ花火だった。


「ただの花火だし、ビビりすぎウケる」


 柊はステータスのアイテムボックスに花火を収納すると、王宮に向かって歩き出した。呆然としたままのみんなを置いて。


「さてと、じゃあそろそろかな」





  



 あれから10日、木葉の時間軸で言えばリヒテンに向けて出発した頃、クラスメイトたちは久しぶりにお暇を貰い街に遊びに来ていた。クラスの不和を嗅ぎ取った王国上層部の判断でもある。たまの息抜きとはかなり大事だ。



「あら、皆さんお出かけですか?」



 ピンクのドレスに身を包み、優雅に足を進める美少女:マリアージュ王女殿下。語李や零児、荒野ですらその美しさに釘付けだ。女子たちもどこか恍惚とした顔を浮かべている。


「え、えぇ。息抜きで、王都の城下へ遊びに行こうかと。殿下は何処へ?」

「わたくしはこれからダンスの練習がありますの。ご一緒できないのが残念ですわ」

「左様ですか。機会があれば是非、一緒に城下へ参りましょう」

「えぇ、是非」


 語李が完璧な受け答えでマリアに笑いかける。その所作は侍女たちも惚れ惚れするほどだった。


「さっすが語李。イケメン度パネェわぁ」

「財界人との挨拶で慣れているからね。流石に一国の王女と話したことはないが」


 白鷹語李(しらたかがたり)の実家である白鷹家はとある大企業を経営しており、日本の財界を支える重要な一家となっている。政治家とも関わりがあり、語李は幼い頃から処世術を嫌という程身につけていた。


「ん?」


 ふと、廊下の角の方をみると少女がチラチラと語李の方を伺っていた。


(あれは、マリア王女の妹君のレイラ様?)


 語李が視線に気づくと、レイラはその頬を赤く染めて逃げていってしまった。そういうお年頃なのだ。


……


…………


……………………


 さてクラスメイトたちが街に遊びに行っている間、柊は最終準備に取り掛かっていた。ベッドの上に並べられているのは……かなりガチの銃火器たち。


「アサルトライフルM14、デザートイーグルにmp5。我ながらだいぶ凝ったな。だけど既に実験済みだから問題なし。弾薬も良し。手榴弾、閃光弾、音響弾……ゲームの知識がここで役に立つとは」


 柊はガチのゲーマーだ。それもこういう銃火器に詳しくなるような大人向けゲームのばかりを好んでやっている。3Dプリンターなどで銃が作れてしまうこのご時世で、自作の銃を作ろうと色々調べたのが功を奏した。結局元の世界では作ることができなかったが。


「ヤクザの娘とかなら分かるけど生憎一般家庭のクソガキでしてね。っと、サイレンサー忘れてた。安全装置ちゃんとついてる。衣服食料諸々良し。馬車の手配も完璧」


 流石にアイテムボックスが満杯だった。ミョンスの工房に荷物をちょっとずつ置いてきて正解だったようだ。


「さて、これでこの王宮ともおさらばか。あばよ勇者パーティー。強く生きろ……なんちて」


 そうしてドアを開けて、







「どこへ行くおつもりですかぁ? 真室様」







 部屋の前に立っていたのはいやらしい笑みを浮かべた男。


「ヒューム主幹、だっけ? なんの真似?」


 部屋を取り囲むようにして、王国兵たちが約20名と言ったところだろうか? 


「うちの宰相様が秘密裏に貴方のことを探っていたのですよ。おほほほ。何をコソコソ作っていたのかは知りませんが、異端審問官に引きわたす訳にも行きませんからぁ。その身柄を拘束して、作ったものをこちらに寄越して貰いましょうかと思いまして。単独で動かせて頂きましたおほほはほ」


(やっべぇ)


 冷や汗が出る。流石にサボりすぎたらしい。そのツケが回ってきてしまったようだ。


「単独?」

「えぇ。異世界から来た少女が何を作っていたのかにも興味があります。他の方に知られる前に、貴方のことを隅々まで調べたいのですよおほほほほ」

「クソキメェおっさんだな。その手に持ってるやばそうな機械止めろ」

「貴方もいずれ私の奴隷達のように自ら私を求めるようになるでしょう。その時が楽しみです!!」

「変態が」

「なんとでもいいなさい」

「……よ」

「はい?」






「あばよ、変態」






 柊は咄嗟に忍ばせておいた閃光弾と音響弾を取り出し、投げつける。当然柊は耳栓をつけている。


 ギィィィィィィイン!! 


「な、これは!? あぁぁぁぁぁあ!!」

「ぐぅあぁ!」

「なんだこれは!? 眩し」

「目が、目がぁぁ!!」




「オマケだ、くれてやる」




 床にバラバラだ投げ捨てたのはネズミ花火。ただし改造が施されていて、火薬の量が少し多い。


 パンパンパパンッ! 


「わぁぁぁあぁぁ!」

「ったく後戻りできねぇな。煙幕弾っと!」


 王宮が煙に包まれる。逃走経路は既に頭の中に入っていた。途中兵士たちとすれ違うが、これを柊が起こした騒ぎだと誰も知らない。ヒューム主幹の単独行動というのが完全に仇となったのだ。それと、少し嫌がらせをしてやることにした。


「ヒューム主幹ご乱心! 火事だ火事! みんな逃げろぉぉ!!」


 逃げながら大声でそう叫ぶ。ヒューム主幹の実験癖は王宮に知れ渡っていることなので、誰もそれを疑おうとはしない。日ごろの行いって大事っすわ。


「なんだなんだ!?」

「ヒューム様がまた何かやらかした!」

「くそっ、煙たいぞ! 何を燃やしたんだあのバカ!」

「お退きなさい! 小娘を捕らえるのです!」

「主幹! 王宮で騒ぎを起こすのは止めろとあれほど!」

「今はそれどころでは……あぁ、耳がキンキンする!」

「目が、目がぁぁ!」

「うるせぇぇ!!」


(『また』ってことは常日頃から何かやらかしてるな。マジで好都合)


 素早く裏庭に抜け、兵士たちに紛れて逆走する。もうすぐ例の抜け道に……。


「真室……さん?」


 目の前には最上笹乃先生。最近はよく裏庭で過ごしていたのを思い出し、自分の不運さを呪う。


「この騒ぎは一体!?」

「あー、なんかボヤッたらしいよ。先生も早く逃げな?」

「そ、そうですね。あの、真室さんは……」


 心配そうに駆け寄ってくる笹乃に、すれ違い様にこういう


「またね、先生」

「へ?」


 そのまま全力疾走して裏庭から抜け道へと走る。後ろで笹乃が何か叫んでいたが、それを気にしている余裕はなかった。暗い通路を抜けて城下町を走って行く柊を追いかけるものは、誰一人としていなかった。


「待ってろよ木葉……絶対迎えにいくから」







 その日、王宮で小さなボヤ騒ぎがあった。原因は勇者パーティーの一人である真室(まむろ) (ひいらぎ)。依然としてその行方は不明。彼女は王都から忽然と姿を消した。近衛や憲兵の捜索にも関わらず王都で彼女を発見することは叶わず、特にその後捜索隊が出されることもなかった。


……


…………


……………………


「おいおい、逃げられちゃったのかい。そいつは滑稽ですね」

「は! 近衛も全力をもって捜索しましたが、力及ばず。申し訳ございません」

「まぁ仕方ないですね。完全にヒューム主幹の暴走ですし、真相のほどもよくわかってないですからねぇ。それほど腰を入れて取り掛かるようなことでもないですし。なんなら将軍も出払ってますし」


 執務室で話しているのは官僚風の将軍:メイガス・シャーロックと近衛騎士団団長:レガートだ。


「彼女はあまりゴダール山攻略に積極的な方ではなかったので、クラスメイトたちのショックはそれほどないようです。戦力面でも大して影響はないかと。ですが」

「まぁ、異世界の兵器を持っているかもしれないということについては考え所でしょうねぇ。錬金術師は貴重でしたし……全くあのアホ主幹は」

「主幹にも厳重注意がいったかと思われます」

「厳重注意で止まる男ではないですよアレは。異端審問官も7将軍も居ないからってやらかしてくれましたねぇ。私が怒られちゃうじゃないですか」


 メイガスがため息をつく。7将軍として王宮の守護を担うものとして今回の騒ぎは、小規模だろうと失態は失態だ。


「他の将軍は皆どこへ?」

「私を含めて4人は王都、1人は北方へ。残り2人は異端審問官と共にハザールド地方の鎮圧へ。搾り取った金を数えてるだけの暇な将軍どもに責任を押し付けていいですかねぇ。私悪くないですもん」

「ハザールドというと、西方のあそこですか。【風切りの乙女】が反乱側にいると聞いていますが」

「あぁ、全く問題ないでしょう。今頃、向こうは地獄ですよ」


 執務室に日が差し込む。太陽は高く登り、今日も王都は快晴だった。

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