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1章19話:クープランの墓と道しるべ

「特殊スキル《凍れるメロディー》!」


 迷路がそう杖を振り上げた瞬間だった。


「……え?」


 巻き起こる凄まじい吹雪と突風。そして、一気に凍りついていくローマ風建築物。その吹雪の奏でるメロディーが、対抗していたローマの音楽を消し去っていく。


「ギィィィィィィイィィィィィィィィィィ!!」


 水も柱も何もかもが雪と氷に覆われて、そこはまるで銀世界。その中心でただ一人平然と立ち続ける少女はまるで、


「ま、じょ……へっぷしっ!!」


 木葉には吹雪のダメージがいくのであまり格好はつかなかったが。


「はっ! だからどうした。吹雪ごときで何が」


 迷路が杖を構えて、指揮をとるようにその杖を振るう。その指揮のもとに建築物へと向かっていく猛吹雪。


 ピシ、ピシ、ピシピシ。

 ガラガラガラッ! 


「な!?」

「砕けなさい」


 凍りついていった建物が、次々と砕けて氷の結晶と化していく。降り注ぐのはクリスタルのような美しい破片。


「馬鹿な!? 魔女よ! 奴を殺せ!!」

「ギィィィィィィイ!!」


 爆音を放とうとするも、吹き荒れる吹雪が空気の振動を許さない。その間に宙に浮かぶ煉瓦は次々と砕けて行き、五つの建物は跡形もなく消え去っていた。


「木葉ッ!!」

「わかった!」


 吹雪の力が木葉の跳躍をアシストする。柱の上へと一気にたどり着いた木葉は、瑪瑙(めのう)を構えて魔女を睨む。


「祭りはおしまいだよ。ハァァァァ!」


 吹雪さえ凍らせることのできないほどの業火が巻き起こる。その熱はゾーン全体の氷を溶かして行き、煌々とした輝きを放つ。


「ギィィィィィィイッ!!!」


 木葉を潰そうと、その手を伸ばす魔女。木葉に真っ白な巨手が目前に迫った瞬間、


「《鬼火》ッ!!! りゃぁぁあっ!!」


 瑪瑙が振り下ろされ、火の柱が上がる。灼熱の業火が煉瓦さえ消し炭へと変えて行き、高熱の爆風がその体を吹き飛ばす。




 ゴォオォォォォォォォォォオオォオオ!! 




 あたりの水さえ蒸発させるほどの灼熱が、ローマの祭りを飲み込んでいく。壮大な金管楽器のメロディーは、その巨体が消し炭に変わるまで流れ続けていた。


……


………………


………………………………


「ハァ、ハァ、ハァ……やった……ぁう」

「木葉!」


 柱から地面に向かって落ちていく木葉。それを迷路がキャッチした。


「ぐっ、流石にこの距離をキャッチは辛いわね。生きてるかしら?」

「生きてるよ〜。うぅ、熱い。あれ、迷路ちゃんなんですっぽんぽんなの?」


 迷路は今、服も何も来ていない真っ裸の状態だった。ふっくらとした胸が木葉の顔に当たる。

 そんな姿に気づいたのか、迷路は徐々にその顔を真っ赤に染めていった。


「な、な、なななな、な、これ……なんでよ!?」

「もしかして火力が強すぎて燃えちゃったとかかな? あははは、ごめん」

「ごめんじゃないわよ! み、みたら殺すわ!」

「女の子同士だから隠さなくていいのに……」

「……木葉のバカ」

「うぅ、ゴメンってば〜」


 なぜ服だけ焼けたかというのは最早御都合主義だ。いや正確に言えば吹雪が迷路を囲むようにして吹き荒れていたため、炎の勢いを相殺していたのだが、こればっかりは仕方ない。ご都合主義なのだ。見栄えの問題である。


「あ、スキルがドロップした」

「ちょっと!」


 櫛引木葉

【通常技能】・防護技能:《結界》・攻撃魔法:《剣舞》・強化技能:《五感補助》幻影魔法:《ローマの祭り》


 迷路

【通常技能】・防護技能:《結界》・攻撃技能:《雪牙》・強化技能:《五感補助》



「おぉ〜ボス戦はいっぱいドロップするんだね。え、ローマの祭り?」

「貴方かなり運がいいわね。最上位個体を倒した際にその名前のついた魔法を取得できることは稀よ」

「え、そなの!?」

「ま、私はどうせなら服が欲しかったわね」


 切実な願いだと思う。


「えっと、迷路ちゃんの着るものを探す前に……」

「先に探しなさい」

「怖い……怖いよ迷路ちゃん。今はローブしかストックがないからこれで勘弁してほしいかな。それより先に」


 木葉の視線がある方向へと向かう。迷路はその隙にいそいそと着替え始めていた。


「ゴハッ! ……アガ……」


 灰まみれの男が床で苦しそうにのたうちまわっている。その顔は炎で焼けただれ、ローブはボロボロ。呼吸器官が焼かれたのか、ひゅうひゅうと嫌な音を立てて息を吸っている。


「ジャニコロ……生きていたのね」

「これでもちゃんと加減はしたんだよ。でも全然無傷じゃなかったね。練習が必要かも。あ、迷路ちゃんごめん、私回復魔法使えないから」

「分かってるわ。回復魔法:《冬の唄》」


 ジャニコロの火傷が消えていく。回復魔法:冬の唄はかなり上位の魔法だ。こんな魔法を覚えている自分に疑問を抱く迷路だったが、それは後に調べようと決心する。


「はぁはぁ……けほっけほっ! ……なんの、真似だ?」

「聞かなきゃいけないことが三つあるの」

「……なんだ」

「一つは、出口。あの子達を外に出さなきゃいけないんだけど、どうすればいいかジャニコロさん知ってる?」

「これだ」


 ジャニコロが差し出して来たのは先ほど使っていた杖だった。レスピーガ地下迷宮自体を操作できるのだろうか? 


「これで入り口の扉が開く。無論こちら側の扉もな」

「こちら側って……あそこのこと?」


 木葉が指差す先、それは王の間の木葉たちと反対側にある扉だった。


「あれは、魔女の宝石を祀る部屋だ。魔女を打ち破ったものが開けることができる。その向こうには別の出口もある」

「そっか、ありがと。じゃあ二つ目。どうやって魔女を操ってたの?」

「それもこの杖だ。それは我々魔族が開発した魔女をある程度まで制御するアイテムだ。生憎、レイドに対応した魔女本来の動きは制御できないがな。だから水かさを上げることは命令できないし、建物を落とすことを何度も繰り返すことは出来ない。そこの女は気づいて居たんだろう?」


 迷路に目配せする。迷路は何も答えなかった。


「じゃあもう一つ。三つ目はこれからどうするか。ジャニコロさんのこれから」

「殺すがいい。敗者に情けなどかけるな、魔王。それが命取りとなるのだぞ?」

「うん。でも、私はやっぱり人を殺せない。きっと後で酷いことしたなぁっていう気持ちでいっぱいになっちゃうから。だからね、眠ってて欲しいんだ」

「……は?」


 ピキン。


「はい、氷漬けの完成。これ確定事項だったのだから質問は実質二つよ」

「あはは、ごめん」


 目の前に出来たのはジャニコロの氷漬け。所謂仮死状態というやつになっている。恐らく目覚めるのは10年後とかそれくらいだろう。


「封印とかって出来ないかな?」

「大丈夫だと思うわ。当分は目覚めないのだから。それより、次はこんな簡単にうまくいかないかも知れないわ。覚悟を決めなさい」

「……うん、分かってる」


 これは、あらかじめ決まっていたことだ。ジャニコロを殺そうと提案した迷路に対し、なるべく命を奪いたくはないという木葉の主張があり迷路が譲歩する結果となった。


「じゃあ先ずは魔女の宝石を取りに行こっか」

「そうね」


 朗らかに進む木葉。だが彼女はとあることを見逃していた。魔女は数ヵ月したらまたこの部屋に蘇る。その時もし氷漬けのジャニコロが居たら、魔女は一体どうするのだろうか。杖を失ったジャニコロがゾーン内に残ったら、どうなるのか。

 答えは決まっている。魔女はゾーン内に侵入する異物を排除するモノ。それは初代魔王:クープランの墓の置き土産。殺さないわけがなかった。


(木葉には悪いけど、こいつは悪よ。でも、すくなの意見には同意。私は、木葉に人を殺させたくないから……私が代わりにその手を汚す。


だから、サヨナラね。ジャニコロ)


 迷路は、少し後ろめたそうに振り返った後、その髪をたなびかせて木葉について行った。



………


………………


「わぁぁあ!」

「ここは……星空?」


 奥の扉を開けて進んだ先は、星空の世界。思いがけないプラネタリウム演出に木葉はかなり興奮気味だ。

 またその部屋の中央には大きな石の宝箱が鎮座している。実に雰囲気がある。


「で、文字通り魔女の宝箱ね。最早罠なんじゃないかと疑うくらいには文字通りよ」

「開けてみる?」

「開けるしかないでしょうね。限りなく罠っぽいけど」

「えいっ! おーぷん!」



 パパパーン!! 



「「!?」」


 突然鳴り響くトランペットのけたたましい響き。プラネタリウム台無しである。

 まぁそれは兎も角、その音とともにホログラムが起動する。出てきたのは、骸骨だった。


「きゃぁ!? む、無理無理無理!! ガイコツ無理ぃ!!」

「落ち着きなさい木葉! 映像よ!!」

「攻略おめでとう、勇者よ」

「ま、魔王です……」

「そこは素直に答えなくていいのよ?」


 骸骨の男がカタカタとしゃべる。歯並びが悪かったため、正直見栄えが悪い。


「我が名はクープランの墓。初代魔王である」

「わぁ! 先輩だー!」

「だから答えなくても」

「ふむ、お主魔王か」

「へ?」

「なんだ少女よ。映像か何かだとでも思っておったか?」


 骸骨が笑う。悪役感パナイ。


「え、でも。初代魔王って死んだはずじゃ……」

「我は概念体だ。魔王としての力はないが、魔王としての記憶はある。だからこうして魔女の宝箱を攻略した勇者を出迎えそのものと話しておるのだ、カラカラカラ」

「な、なんのために?」

「楽しいからだ。我の作った魔女を打ち破る勇者などそうそう居ないからな。それが今回はこんなに美しい女子と来たものだ。我が生きていたら真っ先に告ってそうな可愛らしい女子ではないか。我の嫁になってください!」

「えぇ!? お、お断りします」

「ふうむ。若い頃なら一発で落ちていたのになぁ」

「骸骨は……ちょっと……」

「そうか……そちらの女子はどうだ?」

「無論NOよ。それより、聞きたいことがあるのだけど」


 迷路がクールに拒否って尋ねる。


「貴方、作られたのはいつなの?」

「初代勇者に打ち破られる直前だな。だから初代だけは会ったことがない。この魔法が発動した時、ようやくあった人間が2代目勇者だからな。暇だったぞ、ほんと」

「そう。じゃあ次に」

「ねぇねぇ、クープランの墓さんのお墓ってクープランの墓の墓なの?」

「木葉、アホな質問はやめなさい」

「てへへ」


 可愛い。と言いそうになるのを必死に堪える迷路。


「それで、本当にお話しするためだけに貴方は設置されているのかしら?」

「我のクイズに答えられたら、魔女の宝石が」

「…………」

「ごめんなさい。なぁ後輩よ……この女子怖いぞ」

「本当は優しい子なんだよ? とっても可愛いし!」

「やめなさい……恥ずかしいから」

「おぉ、今のは我もドキッときたわ」


 ツンデレ萌えってやつですね。


「まぁ冗談はさておき、この宝箱のなかに魔女の宝石がある。これで魔王を討伐しろ、と勇者には言っているのだが、魔王にそれを言うのもなぁ」

「大丈夫! アクセサリーにしてコレクションするだけだから!」

「いや、それもそれでどうかと思うが……おぉ、そういえば後輩。お主この世界の人間ではないな?」

「おぉ、さすが先輩なんでもお見通し!」

「やめなさいこの変なノリ」


 魔王部は部員3人なものでして。








「では魔女の宝石を全て集めたら元の世界に帰れる、と言ったらどうする?」








「へ!? ほんと!?」

「あぁ、嘘はつかんよ。我はお主の先輩だからな」


 喜びを露わにする木葉に迷路がストップをかける。


「待ちなさい。この骸骨が何か企んでない保証がない。騙されている可能性の方がよっぽど高いわ」

「うん、まぁたしかに虫がいい話だなぁって思いながら便乗してた」

「貴方がアホなのか頭いいのか分からなくなってきたわ」


 木葉は、アホだが成績はよく頭の回転は速いという最も厄介で、最もみんなが憧れるタイプの人間だ。本人に自覚はないが。


「どうせ我は死んでいるのだから何もできぬよ」

「信用できない。そもそもどうするのよ」

「宝石は莫大な魔力を持っておる。昔我が人間たちから奪った魔力の結晶だ」

「なめ腐りきってるわね」

「で、集めると?」

「その魔力を使って、【大魔法創造の魔法】を発動するが良い。それで時空転移の魔法を作れ。さすればお主は元の世界に帰れるだろうよ」

「大魔法創造の魔法?」

「宝石を全て収集した結果解放される魔術コードだ。我は愚か古今東西使ったものはいないだろうがな」


 唐突に示された道しるべ:時空転移の魔法の存在に戸惑う木葉。正直怪しいことこの上ないのだが、今は他に方法がないのも事実だ。


「つまり、魔女の宝石を全て集めると魔術コードが解放されて」

「大魔法創造の魔法が取得できる。あとは宝石に内在する莫大な魔力を使用して時空転移の魔法を作る。と、いうことでいいのかしら?」

「あぁ、そうだな」

「私は一応、貴方が復活するとか、世界に災いが降りかかるといった可能性について疑っているのだけど」

「無い……といっても信じられぬだろうな。もうそればっかりは信じてくれとしか言いようがない。でもまぁ【大魔法創造の魔法】でどんな魔法を創造するかは使用者の勝手だ。そこに我の手の入りようがないだろう?」

「使用者が破滅する可能性は?」

「ないない。我は流石にそこまで性格悪くないぞ?」


 迷路とクープランの墓がズバズバ話を進めていく。木葉にはさっぱりだった。


「ふぅ。全く信用できないけど、収集すること自体に害はないのかもしれないわね」

「えっと、大丈夫なのかな?」

「私は正直この魔王が大魔法創造の魔法を使ったことがないというのが気になるわ。貴方の設置した宝箱でしょう?」

「我の死とともに世界に散らばったというのが正しいな。加えて言えば初代勇者の持つ莫大な魔力が込められているのが魔女の宝石だ。我の魂のカケラが『魔女』を生み出し、勇者たちに試練を与える。それを乗り越えた勇者が初代勇者の魂のカケラである『宝石』を使って次の魔王を倒す。そういうサイクルなのだよ」

「宝石が、初代勇者の魂のカケラ?」

「そうだ。だから我が設置したものではない。理解したか?」

(何を言ってるのかな……)


 木葉が置いてきぼりなので迷路がかくかくしかじか説明した。


「それじゃ、初代勇者様の魂のカケラである『宝石』がすっごい魔力を持ってて、それを集めて魔法を作って日本に帰るっていうことでいいのかな?」

「まぁ、噛み砕いて言えばそうなるわね」

「じゃあなんであんな難しい話してたの〜! わっかんないよぅ」

「今後の安全のためよ。兎に角初代勇者の魂なら、特に集めたから悪いことが起きるみたいなことはないとは思うわ。根拠ないけど」


 それを聞いたクープランの墓が少しムッとした顔をした。いや、骸骨なので本当にそうなのかは分からないが。


「我は義理を尽くすぞ? そして強者には敬意を払う。当然全ての宝箱にたどり着いた者には、それ相応のご褒美があるべきだと考えておる」

「なんかかっこいい!!」

「完全に信用したわけではないけど、嘘を言ってるようにも見えないし。一先ずはそれを今後の方針としましょう」

「うん!! なんか、ありがとね」

「えぇ」


 木葉の理解がようやく追いついた。これで当分の方針は決まったようだ。


「ふむ。それでは宝石を与えようか後輩。ついでに言えばアイテムドロップもこちらからだな。秘宝級のアイテムはお主らのものだ、持っていけ」




 アイテム:【ローマの光玉】を入手しました




 宝石箱から出てきたのは、光り輝く黄金の宝石がはめ込まれた指輪。不思議な輝きを放つ黄色の宝玉。非常にお高そうな逸品である。


「これは肌身離さず持っていた方がいいかもしれないわね」

「じゃぁ、迷路ちゃん持ってて!!」

「いいの?」

「うん! きっと似合うと思うんだ!」


 恐る恐る迷路はその指輪をはめる。その細い指にスルスルと指輪は入っていった。


「ぴったり! とっても綺麗だね〜」

「えぇ、びっくりするくらい……!?」


 特殊スキル:《魔笛(まてき)》を獲得しました


「指輪の所有者はそなたじゃ、青髪の女よ。そこの後輩にもそのスキルを譲ってやると良い。資格があり、尚且つ所有者が認めた者なら獲得できる」


 ただしスキルのコピーは、魔女の宝箱の内部のみという制限事項が掛かる。外に出てホイホイいろんな人に渡されたらたまったものではないからだ。意外としっかりしている。


「勇者しか使えないみたいな、王国の書物の記述はあながち間違っていなかったというわけね。資格の基準は分からないけど」


 迷路は指輪を木葉に向け、そのスキルのコピーアンドペーストを開始する。これにより、木葉も《魔笛》のスキルが使用可能となった。


「で、2代目勇者はこれで魔王を倒したわけね」

「何か勘違いしておるなお主ら」

「?」

「別にこのスキルは魔王討伐を補佐するためのものだ。実際はその勇者の力の使い方が2代目魔王を打ち破った。……その驚愕の表情から察するに、王国が勘違いしているのだな? 道理で各地の迷宮攻略が進まないわけだ」

「ハァ。じゃあ3代目の勇者様御一行が必ず魔王を倒せる保証なんて元々無かったわけね」



 【魔女の宝石】を使って魔王を倒す。それがレガート団長が説明していた魔王討伐の方法だった。よく考えたら具体的なことは何一つ言っていない。きっと、王国上層部もわかっていないのだろう。だから、勇者を召喚しただけで魔王を倒せる気になっている。

 だが実際の【魔女の宝石】という名の特殊スキルは、魔王討伐の補助アイテムでしかなかった。なんとも滑稽な話である。


「ふむ、大体話したな。それでは我はまた一眠りするとしよう。後輩よ、お主の活躍期待しているぞ」

「骸骨眠るんだ……。う、うん、分かってるよ! ありがとうね、クープランの墓さん!」


 そういうと、映像のような魔法が解除されクープランの墓の姿が消える。後に残ったのは星空の部屋にポツンと置かれた宝箱だった。


「わ〜!! 結構色んなの入ってる!」


 アイテム:《火衣のローブ×2》《古代の甲冑》《金貨×20》《火衣の布×10》《黄銅のラッパ》


「服あるじゃないっ! あの骸骨、なんで先にそれを言わないのよ!」

「迷路ちゃんの身体が綺麗で見惚れてたとかじゃないかな〜? あぅぅ、怒んないで怒んないで!」

「木葉、貴方裁縫スキルは持ってるかしら?」

「無いんだよね、それが……」

「なら覚えてから出発しましょう。服は必要よ」

「うん、私もさっきの戦いでびちゃびちゃだから。でも先に置いてきた女の子たちを脱出させてあげよ?」

「くっ! そんな自己犠牲精神は私には無いわ! 早く、早く服を!」

「落ち着いて迷路ちゃん!」


 星空の間というロマンチックな部屋で全くロマンチックではないじゃれ合いが始まったが、誰も止める者は居なかった。

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これは栃木のヤンキーのパロディか何かで?
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