カオスなフライト
久々に短編を書いてみました!
後日談みたいなやつですね。
ちなみに新作も今日から連載してるので、ぜひ覗いて見てください!
「樹海のかみさま ーーーメス堕ちENDを回避したい男の娘ヒロインは自分でルートを選んでみることにしたー」
パスポート、それは海外に行くのになくてはならないもの。落としたり無くしたりしたら詰むもの。そして、国籍のない国でそれを持ってないものは自然権以外の全ての権利が保障されなくなるという代物。
そんなわけで今、フランスのとある農村にてパスポートを持ってない少女2名は頭を悩ませていた。
「金はあるけど権利なし、か。悲しいね……」
白銀の髪を持つ少女は嘆息しながらオリーブをひとつまみする。久方ぶりのご飯はありがたいことに世界三大美食の国である、毎日食が進む進む。現世に帰って来れていの一番に感動したのはご飯の美味しさである。
「《捏造》スキルでパスポートを偽造するのはどうかしら?」
「しれっと犯罪行為に手を染めようとしてやがるわねコイツ」
青みがかった黒髪をファサッと靡かせる少女、真顔で犯罪行為を提案する彼女に、青メッシュの入ったツインテール美少女がツッコミをいれる。
「犯罪はダメです! 大人しくレイラさんのプライベートジェットを待ちましょう!」
3年経ってもあまり老けていない子供教師もまた、とんでもないことを言い出すのだが、それは彼女が今の暮らしに慣れ過ぎてしまったが故に、である。
さてどういう状況かというと、現在4名の人物はフランス共和国のとある田舎町にてモサモサと外食しているところであった。
言わずもがな、櫛引木葉、櫛引蒼あらため櫛引迷路、磐梯なわて、最上笹乃の4名である。
櫛引姉妹をピレネー山脈の隙間から発見し、涅槃より引っ張り出したはいいものの、誰も日本への帰還ルートを考えていなかったのである。
「あんな自信満々に日本に戻るわよとか言ってた癖に……」
「うっさいわね、流石にパスポートの偽造なんて出来るわけないじゃない!」
憤慨するなわて。根は真面目である。
「まぁここには食料もあるし、ゆっくり考えようよ。1週間後のサプライズぱーちーに間に合えばいいんだし」
「間に合わなそうだから焦ってんのよ……。迷路、あんたもなんか合法的な策をドカンと頼むわ」
「……そうね。プライベートジェットはいい案だと思うのだけど」
「えーやだよ、レイラ姫にサプライズ出来ないじゃん!」
「行けなかったらサプライズすら始まんないのよ」
とはいえ木葉としてもそこは譲れない。折角なら1番驚きそうな奴を驚かせる。それが木葉流。
「んじゃ、やるしかないか」
仕方ない、とばかりに木葉は立ち上がる。暫く外すと言ってレストランから出て行くこと1時間。戻ってきた頃にはラテン系の美女と何やら楽しげに喋っている光景が見える。迷路のフォークは真っ二つに割れていた。
「このは? だれ? その女?」
「ちょ、寒い!? ストップ! ストップ迷路! ここ南仏、あったかい南仏!」
「ははっ! アンタこんないい女居るなら思わせぶりなことはやめとくことねっ!」
木葉より一回りふた回り体格の大きい女が、木葉の肩を叩く。迷路の周囲は凍りつき、笹乃となわては荷物を避難させていた。
「あー、さっきここまで来る時に目に入ったお店の店員さん。ほら、あのちょっと古そうな飛行機の」
「あったわねそんなの。でもあれってアンティークみたいはものでしょう? それもかなり旧式というか……」
「世界大戦の頃の航空機よ! ハハハっ!」
ピレネー山脈からレストランへと向かうまでの間、スカイグライダーを営んでいるお店を見つけていた。あまりにも物珍しいのでじーっと見ていると、何やら旧式の戦闘機がアンティークとして飾られているではないか。
こういうの大好きな木葉は気になってしかたなかったので食い入るように眺めていると、店員さんが声をかけてきたという流れである。
「で? この飛行機で日本まで行こうって?」
「プライベートジェットが来ないならこっちで作っちゃおうかなって」
「ハハハっ! 面白いこと言うねジャパニーズ! こんな骨董品、飛ばせると思ってんのかい?」
「飛ばせると思ったから、こうして力も見せたわけだよ」
木葉はおそらくお店に飾ってあったであろう玩具の人形を手のひらに乗せると、スキル《魔笛》を使用する。人形は動き出し、ブレイクダンスを踊り始めた。
「わぁお、何度見ても信じられない光景さ。あんたほんとに人間じゃないんだね」
「この力で日本まで飛ばせる飛行機を作っちゃおうのコーナーだよ。迷路、手伝って」
「……………その女はどうするのよ」
「ハハハっ! ついてくわ! で、この飛行機でどこまで飛べるか試してみる! 日本まで乗せてってやるわジャパニーズ!」
「なんかやべーのが増えたわ……」
◇◆◇
2日後、そこにはボロボロの旧式戦闘機の姿はなく、代わりにピカピカのジェット機が佇んでいる。軍艦:奥羽を作った時と同じように、木葉も迷路も達成感でツヤツヤしていた。
「魔法は使えないけどスキルは使えるわけで、取り敢えず魔力供給さえしておけば自動操縦可能だね。いやぁ、我ながら大仕事」
「2日でよくこんなのつくりましたね……」
「笹乃、怖かったら置いてくけど?」
「いいいいい、行きます! 私だけヨーロッパ置き去りはあんまりです!」
こちらの世界での魔法使用はかなり制限が掛かっている。だがスキルは元から自身に流れている魔力消費で済むので概ね全力で使用可能。ということで、
「うぉぉぉぉぉぉ!!! 飛んだ飛んだ飛んだ!」
「意外とスピード出るわね」
いざ行かん、日本へ!
「ひゃぁっふー!!! 最高よジャパニーズ! 我が愛しのピレネーがあんなに小さいわ!」
「おー、喜んでくれて何より。もうコイツに任せとこっと」
速度は出る。だがそれでもヨーロッパから日本だ。長いフライトになるだろう。
ラテン美女に操縦を任せ、木葉はココアでも飲みながらソファに体を預けた。うん……うん……酔ってきた……。
「ぉぇ……」
「さいこーよ! いいわ木葉! もっと来て! もっとさらけ出して!」
「ちょ、変な誤解生まれそうだからやめろそれ! ……ぉぇ」
操縦席から興奮気味に喋りかけるラテン美女。その誤解を生みそうな表現に、奥から迷路の呻き声が聞こえてくる。
「落ち着いて迷路さん! あの人は操縦に夢中で木葉ちゃんに手を出すそぶりなんてないですから!」
「自分の飛行機に木葉なんて名前つけてる時点でもう堕ちかけてるのよアイツ! 顔面トマト塗れにしてやるわ!」
「チッ、部屋わけ出来てないんだから騒がないでって。あとそれ貴重な食料だから」
昂るラテン美女、酔って死にそうな木葉、荒れる迷路とそれを止める笹乃、羽を伸ばすようにくつろぐなわて。
カオスなフライトは始まったばかり。




