TIPs:スイカ割り
久しぶりに日常回でも。
フォルトナとの戦いが終わり、1週間の休暇を得た木葉達。そして気付く。
ーーすることねぇ。
「暇だぁー!!!」
「わっ!? びっくりした〜」
「いったあああ!」
隣で本を読んでいたロゼが飛び跳ね、なんか猫と戯れていた迷路は猫に引っかかれていた。
「何してるのよ木葉!? もう少しで仲良くなれるところだったのに!」
「暇だからって猫構って時間潰そうとするのやめて! 私を構って!」
「やだなんて可愛い理由、許すわ」
「めーちゃん……」
ロゼは凄まじくだらけ切った体勢のまま本をパタリと閉じて呆れ顔をしてみせた。本の中身は木葉がとても読めなさそうな哲学書だったので、覗き込んで早々にその場を立ち去ったのが2時間前のことである。
「お外出てきたら〜?」
「ここで3日間だらけて過ごすと決めた以上、引きこもり生活を満喫しないと損というもの!」
「でも木葉本読まないじゃない」
「ご尤もです……」
木葉は意外とインドアの趣味がない。さっきまで剣を振ったりラーメン作ったりしていたが、なんかだらけてる感がないという理由で長続きしなかった。というかラーメン作るのを長続きさせられない。
「ういーっす、焼き芋蒸かしたわよー、うわ何この雰囲気」
「リンゴタルトが上手に焼けたのじゃ、うわ何じゃこの雰囲気」
キッチンの方からルーチェ、庭からなわてが部屋に入ってきた。なわては当初クッキーを焼こうとしてキッチンに入り、ルーチェと窯の争奪戦になってジャンケン負けした。結果なぜか庭で芋を焼いて戻ってきて今に至る。
「おいなんでそんな太りそうなものばっか……」
「えーいいじゃん芋、美味いわよ? アンタも遠慮しないで食いなさいよ」
「我のリンゴタルトが食えぬと申すか!」
「さっきまで自家製ラーメン食ってたからそんなに入らんのよ……」
ぷんすか怒りながらルーチェはリンゴタルトを頬張っていた。自分で作るリンゴタルトが大好物というのはなんとも幸せなことだと思う。
一方のなわてもぶつくさ言いながら芋を頬張っていた。子雀が後ろの方で口から『ぶっ』という放屁の音を真似て出していた為、なわてにボコボコにされている。
「ああもう、煩いわね。室内で騒がないでもらえるかしら?」
「いやー、外は柊の射撃練習でうるさくてさー」
なわてを窘める迷路だったが、なわての視線の先でバカスカ銃を撃ってる柊を見てさらに胃が痛くなった。
「アイツ昔からやんちゃしてたわよね……」
「あそっか、迷路……というかお姉ちゃんはひいちゃんに会ってたんだっけ」
「蝉の抜け殻を神社の石段に敷き詰めてた犯人はアイツよ」
「マジかよ……今明かされる衝撃の真実なんだけど……」
思い出して体を震わせる迷路と木葉。迷路というより蒼は虫が大の苦手だったりする。
「そんなにすることないんだったら、一応夏だし夏っぽいことでもしてみる?」
「まだ夏じゃないぞよ」
「細かいことはいーのよ。あたし7年間夏楽しんでないんだから体が夏を求めてんのよ」
子雀を下敷きに女王様な表情のなわて。下の方からちゅーんちゅーんと鳴き声がうるさかった。
「夏っぽいことって何だよ。蝉の抜け殻なら要らないぞ」
「こっちの世界で蝉みてないわねぇ。まぁ蝉は置いといて。西瓜でも割りましょ」
「えこの世界スイカあるの?」
「元々日本人が作った世界だし、フォルトナの影響で西洋文明化したとは言え、西瓜は世界中で食べられてる果物なのよ」
砂漠地帯で自生したりするスイカ。この近くだとリヒテンのボロディン砂漠なんかはスイカの産地だったりする。
「あ〜僕への献上品使うつもり〜?」
「あんだけ沢山あるんだから何個か貰ってもいいでしょ? ロゼ」
「もちのロンなんよ〜」
リヒテンはロゼの支配地域。それ故ロゼへの献上品としてスイカが結構な数送られてきている。あと森の魔法少女パン。さっきまでそのパンを子雀がちぎって鳥達に与えていた。同族相手に餌を与えるあの快感が堪らないらしい。
「じゃじゃん!」
なわてが庭から自信満々にスイカを持ってくる。
「へえ。大したものね。見た目からして甘そうなスイカだわ」
「6月くらいのスイカが一番美味い説あるもんなぁ。冷えてると美味いんだけど」
「じゃあ冷やすわね」
歩く冷蔵庫こと迷路はサファイアとしての魔法が使用可能なため、迷路時代に覚えた魔法を使ってスイカを冷やして……。
「…………凍っちゃったよ」
「棒で割れるかな〜これ〜」
ロゼがツンツンとついてみるも最早スイカの強度ではないソレを見てため息をつく一同。
「燃やす?」
「や、このまま行こう」
木葉は瑪瑙を抜き放ち、言った。
「綺麗に切ってみんなで美味しく食べよう」
……
…………
…………………
庭で未だ銃撃を続ける柊の口に焼き芋を突っ込んで黙らせ、一同は庭でその顛末を見守ろうとしていた。
「もぐもぐ……んなまどろっこしいことしなくても、もぐもご……アタシの爆弾を起爆させたら凍ったスイカも爆散するぜ?」
「そう、爆散するのよ。私たちスイカを粉々にするのが目的じゃないの。よし子雀、柊から爆弾を取り上げなさい」
「ちゅん!? 嫌ですよそんな物騒なの触りたくないです的な!」
迷路の冷たい視線と柊の爆弾によって板挟みな子雀。今回すげー可哀想なポジションにいる。
さて木葉の目に布を巻きつけ、スイカ割りが始まろうとしていた。
「さぁ回すわよ。それそれっ」
ノリノリで木葉をぐるぐると回すなわて。さぁスタートだ……ってあれ?
「うぉ、ぉぇ……酔った……」
「あ〜……こののん三半規管弱いもんね〜」
「うえ、こ、ここか? ここだよな?」
「ひぃ!? こっちはちゅんがいます! 我が主ぃぃい!」
無鉄砲に瑪瑙を振り回す。お陰で庭は大混乱だった。
戦闘してるわけでもないのに、木葉の瑪瑙となわてのアンタレスが撃ち合う羽目になっている。
「ちょいちょいちょい!? 木葉聴こえてる!? 今無駄にラストバトルが始まろうとしてるわよ!?」
「見えない、吐きそう、脱いでいい?」
瑪瑙を取り落とし、その場にへたり込む木葉。吐き気がやばいと頭がぼーっとして熱くなるよね、わかる。
そんなこんなで木葉は脱ぎ出した。そうなるとさらにヒートアップするのが月光条約同盟の面々である。
「こののん!? 何脱いでるの!?」
「ちゅん!? 隠してください! ほら迷路さんが我が主を露出癖に調教するせいで!」
「私のせいなの!?」
ゲロ吐きそうになってぶっ倒れた木葉。そのままベッドに運び込まれ、翌日目が覚めた時になって恐らくアンタレスで切ったと思われるスイカを食することになった。めでたしめでたし……なのかこれ……。
「うぅ、寝起きにスイカの水分が染み渡る……」
「起きたのね。安心したわ……」
「ごめん。でこれ結局誰が割ったの?」
「柊が爆散させたのでもう一個用意してアンタレスで割ったのよ」
「……ひいちゃんめ」
結局一回爆弾は使われたらしい。
「慣れないことするもんじゃないな……。今日はいつも通りダラダラ&イチャイチャしよう……」
「あら、ご相伴に預かっても?」
「一日中付き合ってもらうけどいい?」
「木葉が望むなら勿論」
一日中愛し愛されを繰り返す中、なんかムカついた配膳係りたる子雀によって木葉と迷路のその日の食事はスイカだけであった。




