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6章11話:夢で逢えたら

 なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。

 失敗した。完全に失敗した。

 女の思考は疑問と後悔で埋め尽くされた。


「試験という側面の強い魔女の宝箱は、その性質上魔女が認めた存在しか立ち入ることができない。最強戦力たる異端審問官がレイドメンバーから弾かれ、魔女の宝箱攻略に参加できなかった最大の要因がこれだ」

「………が、あ」

「だが、入る資格があればここまで容易い。君を利用して正解だったよ、【美しき青きドナウ】」


 恐怖に怯える水色の髪の女、ドナウ。その前に立つノルヴァードのその手には、紫色の髪の少女の頭がある。


「だ、ダッタン人……」

「魔女が魔女を訪ねてくるなんてありえない。そのありえないのお陰でお目当てのものも手に入った」


 必死に逃げようとするドナウに白い羽が突き刺さる。

 ああ、自分はただ、魔王様に……クープランの墓にもう一度会いたくて……。


「最初から……あなた……このつもり、で」

「そうだよ。君が最後の"贄"さ」

「あ、あああ、あああああ……」


 愛する魔王に、一目会うために……でも、こんな……。

 目の前の少女ーー魔女:イーゴリ公・ダッタン人の踊りは動かない。そんな彼女を足元から何か黒いものが捕食している。ゴリゴリ、メリメリと嫌な音を立てて。


「君には本当に役に立ってもらったよ。初代魔王に会いたい、その一心で私の言う通り全ての魔女を欺き、味方を売った」

「でも、あなた、魔王様を復活させてくれるって……」

「ああ、言ったとも。復活するよ魔王は。さぁ、見たまえ」


 7つの魔女の宝箱、その全てを破壊し尽くしたノルヴァードは、足元の悪魔を使って野望を達成させようとしていた。


 ダッタン人の踊りの部屋のソファに、金髪褐色の少女が安置されている。ドナウが木葉から盗み出した【2代目魔王:亡き王女のためのパヴァーヌ】の遺体だ。

 ドナウは木葉からこれを盗み出した後、ノルヴァードの甘言によって魔王を復活させようと企んだ。そのために昔の仲間を売り、魔女の宝箱を破壊した。ローマの祭り、カヴァレリア・ルスティカーナ、中国の不思議な役人、エルサの大聖堂への行進、イーゴリ公・ダッタン人の踊り、そして、美しき青きドナウ。


「あ、あ、うう、ああ」

「魔王様! わかりますか!? ドナウです! ああ、魔王様……」


 虚な目の少女がソファから降りる。泣きながら魔王を抱きしめようとするドナウ。

 そんなドナウの心臓を、少女の腕が貫く。


「あ、げぼっ……」


 黒い血の海に倒れ込んだドナウ。その体躯を少女はちぎり、咀嚼していく。

 血の一滴も残さぬように食べ尽くした少女は、やがて、


「ああ、ああ、からだ、からだ、良いな、動く、すばらしい、素晴らしい」


 と可愛らしい声で喋り出す。


「おお! 我らが主よ!」

「ノルヴァード・ギャレク……大義也や。これはどういう状況か説明し給へ」


 感涙するノルヴァードに、少女は問う。


「はい! 全ての魔女の魂、初代魔王の魂のカケラを贄に、最後の悪魔を召喚しました。そこに蠍の悪魔の心臓と私の羽の一部を与え、貴方様を涅槃から引っ張り出すことに成功しました!」

「……随分掛かったが、まぁ良い。そこの男も食っていいのか?」

「ええ、もちろん」


「むぐ、むぐううううう!!!」


 多くの人間を虐殺して自ら悪魔と契約した満月教会フォルトナ派の教皇。彼もまた、フォルトナ復活を見届けたいというので、この場にてその身を捧げてもらうこととする。

 本人は猿轡をされながら、こんな筈じゃなかったと喚いているが、少女は体から真っ黒な物体を生み出して、


 ごり、ごり、ごり、ごり。


「ご馳走様。さて、これはスクナが2代目として召喚した女だな? 3代目魔王は何処にいる?」

「パルシアが作った国の都に。今すぐ向かいますか?」

「否、手勢を増やす。(ちん)の手で、確実にスクナを滅ぼす。ノルヴァード・ギャレク、『アレ』の準備を申し付ける。この女の身体ではスクナとの決戦には不十分だ。これは下賜しよう」

「では……『勇者』の身体をお使いになられると?」

「スクナを殺すのだぞ? あやつが魔王を使うのなら、朕は勇者を使うのが道理ぞ。




さぁ、決戦だスクナ。500年前の借りを返してやるとも」


 そう言って2代目魔王の身体を動かす人物ーー大悪魔:フォルトナは空を仰いだ。


……


…………


……………………


 時が近づいている。

 目が覚めてまず、そのように感じる。


「成る程……嫌な感覚ね」


 凍りついた冷たさの身体に2度と温もりが灯ることはない。少女は今にも動かなくなるかもしれない身体を、自身のか細い体躯を抱きしめた。

 死ぬのは怖くない。けれど、残していくあの子だけが心残りだ。


「まさか、私の方が先とはね。……信じていいのよね? すくな……アオ



 あれ、私……何を言っているのかしら?」


 






 なわての衝撃的な発言から数日。木葉の方でも迷路の容態について何度か調べてみた。だが心臓については問題なく動いており、ただ、身体が驚くほど冷たいことだけが心配であった。

 迷路に話しても本当に何も知らないように、ただ首を傾げていた。これでは打つ手がない。


「さぁ! ちゅんのセカンドライブ的な! 盛り上がっていこうぜええ的なあああ!!!」

「「「うおおおおおおおお!!!」」」


 そんな中、王都で子雀のセカンドライブが開催され、それはそれは盛況を博していた。木葉、ロゼ、迷路、なわて、ルーチェ、笹乃、花蓮ら16期生は最前列で観戦。その背後には凄まじい数の観客が居た。


「超絶かわいい?」

「「「「「ちゅん子ー!!!」」」」」

「ちゅん子言うなー!!!」

「「「「かわいいー!!!」」」」


 コールアンドレスポンスも定着してた。相変わらず心臓に毛が生えているとしか思えない。

 17期生もなんだかんだライブを楽しんでいた。ずっと監禁されていたが故に娯楽に飢えているのだろう。

 そんな17期生だが、勇者と聖女は相変わらずだった。


「木葉ちゃん! あーそーぼ!」

「………………此処にも心臓に毛が生えたやつが1人」


 上田おとめはアレ以降も木葉に普通に接してくる。流石に昔の木葉でさえここまでしつこくはな……いよね? なかったよね?

 月光条約同盟の面々に絡んできたあたりから本当にうざったくなってきた。17期生からしてみれば異世界美少女たちは物珍しいんだろうが、数少ない時間を使って娯楽を楽しむ彼女らからしたらいい迷惑である。


「あの子らやばくね? ワンチャンいける? 異世界ハーレムいけちゃう?」

「先ずはマヨネーズっしょ」

「知識無双でモテモテかあ〜。おれあの桃色の子がいいなぁ」

「おれあの狐耳のじゃロリ」


 もれなくボコボコにして差し上げた。


「まぁルーチェならくれてやってもいい」

「おい木葉、扱いの差が露骨すぎじゃ」


 ボコボコにされた17期生を見て勇者:松本シンが激昂するがその戦力差は歴然。アリエスにも遠く及ばない為、彼以上に軽くあしらわれてしまう。

 そんな彼らでも使い道はある。ある程度のレベル上げはしてもらわないと困るので、当たり障りのなさそうな場所で訓練させている。


「私たちはその間遊びます」

「…………何を言ってるのかしら」


 煩い勇者と聖女、レガート騎士団長がレベル上げに出ている間に、木葉は迷路を遊びに連れ出すことにした。

 目的地は王都郊外の小さな森、そこに2人で歩きながら向かう。


「迷路とゆっくりお話ししたくてさ」

「いつも寝る前にお話しするじゃない」

「や、それはなんか、その……あれじゃん、性欲に支配された会話じゃん」

「否定はしない……」


 なんというか、こう、恋人らしいことをしたいのだ。アブノーマルな方向にいきつつある木葉だが、ここらで清純路線に軌道修正というわけである。


「迷路、何か心配事はない? 困ってることや不安なこと、怖いこと」

「いきなり、何を」

「迷路はいっつも私の心配ばかりするから」


 ゴダール山で、木葉は迷路に救ってもらった。けれど木葉は迷路にそれを返せているだろうか、と葛藤している。

 少し黙り込んでしまった迷路を見て、木葉は笑いかけた。


「いい天気。ほら、ピクニックしようと思って持ってきたの」


 バスケットの中には木葉が作ったサンドウィッチがぎっしり詰められていた。それといつぞやのラーメンセットも。


「これ……レスピーガ地下迷宮の時の」

「うん、私コッテリ油マシマシラーメン大好き」

「ふふ、知ってるわ。木葉の好きなものは何でも知ってる」

「そうやって知ってくれてることを知ってるよ私は。お互いがお互いを全部知ってるって、素敵なことだよね」


 ある種危険な考えではある。けれどズブズブの依存関係は、今の木葉にとっては限りなく有効な関係だ。

 森の少し開けた部分で敷物を広げ、バスケットを開く。それからラーメンを作って食卓に並べた。


「へいおまち!」


 ずずずと音を立てず、静かに麺を啜る迷路。お上品な食べ方、そして相変わらず箸を使うのが上手い。


「美味しい」

「だよね。私もこの味好き」

「木葉が好きだから、かしら?」

「私が迷路を想って作ったから、かもしれないよ? 愛情は最高のスパイスっていうから」


 顔を見合わせて笑う。木葉は、迷路の笑った顔が好きだ。普段クールで笑わないからこそ、ふとした時に笑顔を引き出せたら嬉しくなる。ギャップ萌え、みたいなものか。

 

(なんか落ち着くんだよね、迷路の笑った顔。昔からその笑顔に救われてきたような、そんな不思議な感覚)

「前世、とか?」


 草原に大の字になって寝転ぶ。そんな木葉を不思議そうな目で迷路は見ていた。


「異世界があるなら前世もあるかもって?」

「そ。それで私と迷路は前世で運命の出会いをしてる、とかね。どう? ルチア・ヴィラフィリアに小説でも書いてもらう?」

「アイツに私たちの話を教えると有る事無い事後世に残されそうだから嫌よ……」

「あはは、どーかん。前世なんかどーでもいいし。今、ここに迷路と居れるならそれで」

「………ばか」


 照れ顔可愛い。そう思って木葉は迷路の腕を掴んで草原に引っ張った。


「ひゃっ!?」

「一緒にお昼寝しよ、気持ちいいよ」

「下ネタ厳禁じゃなかったかしら?」

「え、これそう聞こえ……るな。やばい、私達の心汚れすぎじゃね?」

「ふふ、そうね。じゃ、一緒に気持ちよくお昼寝しましょうか」


 冷たい迷路の手を握って、また草むらに頭をつける。

 風が心地よい。草の匂い、土の匂い、そして迷路の匂い。ああ、自分は今生きてるなぁって実感する瞬間だ。


「私、記憶なんて取り戻さなくていいかも」

「その心は?」

「今が十分幸せだから。過去に、今の私を邪魔されたくない」

「そっか。今幸せかー」


 迷路が幸せならそれでいい。きっとこの問いに解答なんてないのだから。


「だから、木葉ももっと幸せになって。戦いが終わったら、崩れてしまう幸せでも、それまでなら。ね? そしてその後も、私は木葉の幸せに寄り添う。死後の世界でさえ」

「………………ほんとに、私迷路のこと好きだなぁ。全部わかってるもんね。私が行き着く先。その上で私を幸せにしようとしてくれる、こんな素敵な恋人いないと思うよ」


 死が2人を分かつことはない。だから木葉は安心して戦える。自分が死んでも一人ぼっちにはならない。幸せを願い続けてくれる人がいる。


「狂ってるなぁ、私達」

「狂い合ってればそれはもう正常よ。さぁ、難しいおしゃべりはお終い。折角のベッドなのだから、健全に眠るとしましょうか」

「えー、不健全プレイは?」

「今日はそう決めてるのだから、お願い、私をその気にさせないで……」


 ちょっとシたそうにしていたけど、迷路はそれを理性で押し留めていた。今日はなんだかそういう気分じゃなかった。


「じゃ、手を握ってそのままおやすみで」

「ええ、お互い夢で逢いましょうか」

「それ眠る意味なくない?」

「あら、そうかも。夢の中で何して遊びましょうか」

「んー、バトル?」

「嫌よ……」


 恋人達はそうして眠りに落ちていく。夢の中で何して遊ぼうか、そう交互に挙げていきながら。

感想など是非。

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