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6章8話:パリスパレス講和会議

 王宮決戦から2週間後、神聖王国の略式裁判にて捕縛されていた旧政府関係者の処罰が決定されていった。

 略式とはいえ一応法に則った判決が下り、旧7将軍と旧宰相らは処刑されることが決定。


「わしを殺せば国がまわらなくなるぞ!!!」

「金なら溜め込んである! やめろ、やめてくれええ!!!」

「国立天文台を動かせるのは小生だけです! 今すぐやめなさい!」


 上からスピノザ宰相、フロイト宰相、モンテスキュー大将が喚く。そんな連中に対し、拡声器を持ったレイラはゴミを見る目で告げた。


「あーあー五月蝿いですわ。あなた達が居なくても国はちゃんと回りますわ、神聖王国刑法に則り、以下のものらを死罪に処しますわ。判事と法務大臣の認可は降りてます」


 2週間のうちにロゼらによって陥落した南方大陸のチュニセア総督府を治めていた宰相含めて12名の閣僚が、そして旧軍部大臣と旧7将軍といった軍人14名がその日のうちに処刑された。


「民主主義とは言い難いですよねえ。ま、私はスッキリしましたけどねぇ。あいつら本当にクズでしたし。ねえ、レガート」

「シャーロック閣下……」


 メイガス・シャーロック将軍の元、近衛騎士団長にはレガート・フォルベッサの留任が認められ、レガートは無事職務に復帰していた。


「国庫の不正経理、教会への贈賄、奴隷・売春ビジネスへの関与、地下施設での大量虐殺、地方都市への虐殺指示、まぁ役満ですねぇ。死罪が26名、流罪となったものは500名、禁固刑が2000名。お取り潰しの侯爵以上の家名は30を超えてます。これで王党派は文字通り壊滅ですかねえ」

「立憲君主政友会の政敵として消されたものもいるんですが」

「死罪になってないだけ前政権よりマシですよ」

 

 そして国内も一応は混乱の収束をみせる。

 関係者の処罰と同時に南方パルシア軍管区からフルガウド軍が王都に上洛。ロゼの傘下に加わったことで、ロゼは本格的に征伐軍の組織化に取り掛かる。


「くっ、殺せ……」

「流石に恥ずいデス……」


 市中引き回し、は流石にやり過ぎだと言うことで、市中見せ回しのような形で王都一周の全裸遊覧会をさせられたピッチカートとコーネリアは、教会の神官として復帰した。ルーチェは、


「なんじゃあのクソデカおっぱい……」


 と歯軋りをし、ロゼは、


「あははははははははは!!! いい気味なんよ〜!!! あはははははは!!!」


 と笑い転げていた。

 洗脳されていたとは言え人々を虐殺してきたことに変わりない為、この程度の処罰で済んだことはある意味幸運……かなぁ。

 2名が助命されたことで、国内の教会勢力は一旦落ち着きを見せる。それに加え、教会では新たに教皇が誕生した。


「フィンベル様あああ!」

「正当な教皇の血を引く聖女様だ!」

「万歳! 万歳!」


「あ、あははは……あの、そんな目で見ないでください……」


 マジかよ……という目で見る白鷹語李を前に栗毛をおさげにした少女:フィンベルはバツが悪そうにしていた。

 満月教会の正式な礼服を身につけ、神々しさを増したフィンベル。


「まぁ薄々分かってたけどやはりフィンは満月教会、それもフォルトナ派ではなく正式な満月教会本流の教皇の血筋だったわけだ」

「これで教会勢力も沈静化するな。ていうか本当に闇深血筋じゃん……」

「闇深じゃないです! 私こういうの絶対向いてないですよぅ……」


 ちょっと涙目になりながら信徒に向かって手を振るフィンベルを、天撃のメンバーであるカデンツァと夜弦は呆れ顔で見ていた。


……


…………


…………………


 王国議会が開かれ、暫定政府が正式な政府に昇格したのは王宮決戦から1ヶ月後のこと。

 その間にロゼと木葉はイスパニラを空爆して占領し、現地に戒厳令を発した。


「フルガウド家とエカテリンブルク家で共同統治を行うんよ〜」


 イスパニラは元々五華氏族:エカテリンブルク家の統治していた土地でその血を引くエカテリンブルク侯爵と配下:防人(さきもり)によって統治されるのが1番平和的だ。よってイスパニラの統治移行はスムーズに進んだ。

 一方西部には未だ王都政府に従属しないものがいた為、木葉とロゼは奥羽で西都:シャトー・ナンテーを爆撃。ロゼ自ら西都に乗り込み、恐怖によって諸侯を屈服させる。


「従わないものは見せしめにしていいよ〜。降伏して来たものから私財を没収して領民にばら撒いといて。最初に良いことしとけば民意がこちらに靡くからね〜」


 王宮決戦からたった1ヶ月半でロゼは西都を無血開城させた。現人神:ロゼ・フルガウドの西都入りを領民は熱烈に歓迎し、西方パルシア軍管区は瞬く間に沈静化していった。


「今まで暴利を貪ってた連中と財産を食い荒らしてた連中を消したお陰で財源が増えたからね〜。西方パルシア軍管区、特に壊滅してたハザールド市は復興資金を注ぎ込みまくっといて〜」


 反抗した領主は徹底的に粛清された一方、被害を受けた町には積極的な資金援助を行う。この復興資材流通には金髪ドリルお嬢様:テレジアが参加しており、西方の復興への目処が立ち始めた。


「おーほっほっほ! 金回りさえよくすれば大体のことはなんとかなりますわー!」


 そんな西都のことをコードとテレジアに任せ、ロゼは再び王都に戻ると今度は東方に目を向けた。


「最後の7将軍:ミランダ・カスカティスを討つよ。今までの少数精鋭での制圧じゃなく、用意していた大軍を動かす。目標、東都:ストラスヴール」


 西都の無血開城からたった2週間後、既に王都にて組織してあった征伐軍30000を率いて東方遠征を開始させたロゼは、2代目勇者の置き土産である転移門を使い、レムス市に陣を敷いた。

 東方にて一大勢力を誇っていたミランダだったが、既に帝国と国境部で対峙しており、ロゼの東進によって挟撃される形となる。

 オストリア軍に帝国との戦闘を任せて引き返して来たミランダ。だがロゼの戦略は巧みであった。


「リヒテン軍、北リタリー軍を北上させてミランダを足止めさせて。ついでに先行部隊には一仕事やって貰うよ〜」


 東都に帰還中のミランダ率いる第4王都師団25000は道中で悉く妨害され、やっとの思いで東都に到着する。しかし撤退速度が遅くなったことでロゼは素早く軍を東都目前のナンシルシア市まで進めていた。


「フルガウドの小娘め、もうナンシルシア市を制圧したのか!? 我が軍の無能どもを叱咤せよ!」

 

 白髪の女傑:ミランダは軍を整えて東都を出発。ロゼも軍を更に東に進める。 

 その間も南部からはリヒテン軍、北部からは帝国軍が迫っており、ミランダに圧力を与え続けた。


「連中は強行軍で補給が伸びきっている! 一点突破で奴らの側面をつけ!」


 ロゼの部隊の補給が乱れていると判断したミランダは精鋭部隊を先頭にその側面への先制攻撃を行った。しかし、


「そんな狭い地域を通って来てくれてありがと〜!」


 ロゼは竜人部隊を組織。竜の体に多数の爆弾を載せ、それらを投下していく。これがこの世界で初めて、『戦争』で空爆が行われた事例となった。


「ぎゃあああああああ!!」

「空から魔法攻撃ぃぃ!?」


 補給の心配がない竜人部隊は先行して第4師団の先発隊を壊滅させ、続いてその補給部隊を殲滅。

 補給路を断たれて士気が喪失した第4師団を包囲するようにロゼは軍を進める。


「南方方面に穴をあけといて。人間、全部囲まれると『死兵』になってヤバい抵抗をするけど、逃げられる場所が残ってるとそこから逃げたくなるからね〜」


 そうして第4師団を徐々に狭い狭い地形へと追い込んでいき、空爆を続ける。そんな追い詰められつつあるミランダに、ロゼは提案をする。

 

「一騎討ちをしよう」


 ミランダもこの時点で敗北は悟っていたが、せめて戦場で華々しく散ることを選ぼうとその提案を飲んだ。


「フルガウドの小娘が、ここまでやるとはね」

「お前が準備万端だったら僕も負けてたかもね〜。でもお前は所詮お父さんの部下。ありがとね〜竜使いの一族をたくさん軍に雇ってくれて。お陰で内部工作がやりやすかったんよ〜」


 武勇に優れ、既に顔見知りであった竜使いの一族を軍に登用したミランダだったが、彼らからすれば拾ってくれたとは言えミランダは主君の仇。そんな主君の娘であるロゼに忠義を尽くすのは彼らにとって当然のことでもあった。


「成る程。私もヤキが回ったな。部下に唆され、知らず知らずに死地に追い込まれていたか」

「精神がボロボロになるように包囲して空爆し続けたからね」


 クマができていたミランダ。そんなミランダと対峙し、ロゼは火雷槌を構えた。


「はあああああああああああああっ!!!」

「《武甕雷》ッ!!!」


 派手にぶち撒けるようにミランダに魔力をぶち込み、塵すら残らないように火葬した。ミランダの衝撃的な散り方とその背後にいた軍隊が巻き添えを食らって壊滅したことで、第4師団は降伏。

 第4師団降伏に伴い、ロゼは東都を無血開城させて東方司令部を占領した。


 ーー以上、わずか3ヶ月の出来事であった。

 

……


…………


……………………


 ロゼの東部制圧中、リルヴィーツェ帝国に余裕が出来たことでランガーフ3世が北都経由で王都に入った。これにより各国首脳の最後の1人が揃い、漸く首脳会談を開くことができる。

 こうして王都:パリスパレスにて後の世に『パリスパレス講和会議』と呼ばれる会議が開かれた。様相はさながらウィーン会議のようだが、会議が踊ってしまっては困るので当然木葉が目を光らせている。


 神聖王国からはマリア女王とレイラ大公、カルメン宰相。帝国はランガーフ3世とアカネ。連邦は大統領。連合王国からは女王の代理としてハンプティー・ダンプティー元帥(昇格してる)が参加している。その他、東方共同体、海洋都市国家郡、北方帝国、そしてつい最近生まれたブダレスト王国が参加した。

 亜人代表としてルーチェ、魔族代表として木葉、教会代表としてフィンベルも並んだ。因みにこれまた面倒なのだが、何も知らない各国政府の要望により『勇者』の参加を求められ、松本シンも一時的な監禁を解かれて参加していた。


「はい皆さんお集まり頂きありがとうございます。神聖王国会議の時は内政干渉に当たるから仕切らなかったけど、今回は私が仕切るよ。3代目魔王:月の光、櫛引木葉です、よろしく!」


 木葉のパーソナリティを知らない国々の首脳部は魔王という単語に過剰反応して恐れ、知ってるものは呆れ顔で見ていた。


「待て! なぜ魔王が此処で仕切ろうとするんだ!」

「こんにちは松本くん、久方ぶりのお外は楽しいかな?」

「ふざけるな! 俺はお前を許さないぞ魔王!」


 威勢がいいことで。


「なんでって。神聖王国は私と立憲君主政友会が実権を握った訳で、ここにいるのは当然じゃない?」

「やっぱりみんな魔王に騙されていたんだな! あんな風に老人を処刑するなんて、人間としてやっていいことじゃない!」

「あー処刑シーン見ちゃったんだ。でもアレ全員ちゃんと法律に則ってやったことなんだよねえ」

「そんな法律は間違ってる!」


 神聖王国刑法を全否定されたのでマリアは苦笑いである。


「勇者様、それは神聖王国に対する謂れのない誹謗中傷です。取り消してください。我々も魔王陛下のご助力賜ったとはいえ、主権に基づき法を遵守しています。そのような発言、法治国家としては断じて容認できません」

「なーーッ!? マリア様、何を言ってるんですか! こんなの間違ってるって思わないのですか!?」

「少し下がってください。これから大事なお話をしますので」


 マリアに凄まれてしぶしぶ引き下がる松本。ヒートアップしていたがマリアの珍しい姿に驚いたらしい。


「はじめよっか。まずは国境線の確定から」


 各国の国境線、利権などを木葉が裁定していく。まるでこの世は魔王のものであるといわんばかりに。

 それを神聖王国、帝国、連邦、教会、亜人側は黙認、神聖王国に追従するブダレスト王国、帝国に追従する北方帝国も黙って従う。


「アタシらの約束覚えてるかしらぁん? 南方大陸の利権と新大陸の利権のこと」

「連合王国は事前に合意した内容は全て許可するよ。ただし、それ以上を求めるようなら……どうなるかわかってるよね?」

「あらこわぁい。ちゃんと艦隊は撤退させるから安心してね魔王陛下ぁ」


 連合王国が引き下がるのなら、彼らから融資を受けている東方共同体も引き下がらざるを得ない。

 結局、この会議室で木葉に逆らうものは誰一人として居なかった。


「さて、それじゃあ。本題。私の目的はきちんとした、新しい世界秩序を作ることだよ。悪魔や教会が支配するんじゃなく、それぞれの国の人々が自分達の明日を決める世界。


『メルカトル協定』、私が作り上げた世界秩序だよ。調印してくれるよね?」


 迷路が1ヶ月かけて作り上げた草案。それによりメルカトル大陸主要国家たちが強制的に手を取り合うようにさせる。

 帝国-連邦-連合王国の三国協商に神聖王国らを加えた巨大な協定は、今後の世界秩序を安定させるためにある。


「馬鹿も休み休み言って頂きたい! 黙って聞いていればなんですかなこれは!? ランガーフ帝は何故なにもおっしゃらない!? 魔王が統べる世界など、到底認められる訳がないだろう!」


 北方帝国の皇帝が憤慨する。北方帝国はリルヴィーツェ帝国の衛星国であり今まで帝国に追従してきたが、何も言わないランガーフ3世にイライラしていたらしい。だがそんな皇帝にランガーフ3世は言う。


「黙ってろ三下ァ。魔王の力を知らねえからそんなことが言えんだよてめぇ。それに、俺はこの案には賛成だ。メリットが大きい」


 木葉に服従し、その結果講和会議にて旧ミュンヘルン4州を全て獲得したランガーフ3世は木葉による世界秩序に文句などなかった。無論木葉の力を知る帝国臣民も同様であるがゆえ、帝国から文句など出ようはずが無い。

 

「メルカトル協定により、大量殺戮が起きた際には国家間で協調して対処する義務を負います。既に過ちを犯した我々、神聖王国はこの協定に賛成です」


 協定の立案にはレイラ姫も一枚噛んでいる為、当然賛成だ。そのレイラと木葉の傀儡である連邦大統領も賛成。そしてレイラによって独立承認された神聖王国の旧属国元首らも賛成していた。


「ぼ、ボクはいいと思うな。平和的でとても素晴らしい条文だと思う、うん、平和的。ふふっ」


 鮮やかな花の刺繍が施された民族衣装に身を包むふわふわの髪の女性は、オドオドしながらも花のような笑みを浮かべる。


「えと、誰?」

「わたくしの従兄弟、新たにブダレスト王国の国家元首となった元神聖王国王族のハンガリー王子ですわ。ちなみにれっきとした男性ですわ」

「ゔぇ!?」

「うふふ、以後お見知り置きを魔王陛下。今度ボクの国にきて、ね。可愛く着飾ってあげる、えへへ」


 乙女チックに周囲にほんわかオーラを撒き散らすハンガリー。


「ちなみに彼、ああ見えて凄まじく有能で、この機に乗じて調子にのった連邦-東方共同体の連合軍を壊滅させて、今此処にいますわよ」

「あー、それですごい睨まれてんのか……。レイラ姫の予想だと緩衝国がもうちょっと切り取られてる予定だったけど、東の国境線があんま変わってなかったのはこの人のせいか……」

「うふふ〜平和〜♪ 平和〜♪」


 花柄のスカートが似合う女装王子はなんかヤバげな歌を歌って満足げにしていた。一周回って怖い。


 その後は反抗しそうになった元首たちを木葉が武力で説得()し、メルカトル協定は締結されることとなる。

 その間勇者が散々喚いていたが、その子供のような主張のせいで各国は勇者への希望を捨てた。


 ーーアレじゃ魔王に勝てる訳がない。


 そしてそれこそが勇者参加を認めた木葉と迷路の思惑でもある。勇者と魔王の力量差を嫌でも示し、魔王に対する畏怖の念を強める。帝都の夜に木葉が迷路へ語った『必要悪』の計画が着実に進みつつあった。

西都:シャトーナンテーはナント市、東都:ストラスヴールはストラスブール市をモデルにしています。また、ブダレスト王国はハンガリー王国をモデルにしてます。

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― 新着の感想 ―
こういうザマァ展開はいいですね。 一方的な力でなく、相手の合意を取っての完全に勝ち目をなくしているところがしっかりとしている
[一言] ガチレズ魔王に怖いって言われても、おまこわだぞ。
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