5章21話:ペテルブルグ革命
アカネからは海軍大将が来ると言われていたが、入ってきたのは身長2メートルをゆうに越す巨漢。連合王国式の白い海軍軍服に身を包んだ姿は勇ましき軍人特有の雄々しいものであったが……顔はそのイメージと異なる。
「は?」
「あらぁぁん。そちらの方がぁそうなのねぇぇん?」
「そうです、ダンプティー卿。魔王……櫛引木葉様ですヨ」
厚化粧、なのにたらこ唇の上に見える青髭が隠しきれない。しかもその割に角刈りにしており、脳がバグりそうな顔の構成をしていた。
「お初にお目にかかります。アタシはブルテーン連合王国の海軍大将、ハンプティー・ダンプティー。以後お見知り置きを、魔王陛下」
「え、あ、うん……うん……」
困惑する。跪いて自己紹介されたが、それでもその屈強そうな身体は木葉の身長を超えているくらいの存在感があった。
【ブルテーン連合王国】は神聖パルシア王国の北方、ドルバード海峡を挟んだ対岸にある本土:ブルテーン島をはじめとして全世界に植民地を持つ巨大帝国だ。彼らは事あるごとに神聖王国と対立し、全面戦争には至っていないものの海賊や他の国家をけしかけて代理戦争を行ったりしてきた。
その例が数ヶ月前に起こった北方パルシア戦役だ。カレイス、ダンケルンの両港に連合王国の艦隊と配下の海賊が侵攻し、街を焼き払った事件。エデン・ノスヴェル将軍となわてが出撃して撃退したのだが、この際海軍を率いていたのがダンプティー海軍大将である(詳しくは2.5章8話参照)。
「貴重な機会を設けていただいて恐悦至極よぉん。アカネちゃんは、4年ぶりかしらねぇぇ?」
「その節は助かったヨ!今度はレイラ姫を助けたとかなんとか?」
木葉たち帝国滞在中のメンバーにも、レイラ姫死亡のニュースは流れてきていた。まぁその罪が帝国になすりつけられてるから当然と言えば当然だ。
それをどうやらダンプティー海軍大将が助けたらしい。ではその彼女は一体どこに居るのか、というと、
「レイラ姫はペテルブルグ……連邦の首都にいるわよぉん。そっちまで届けたからケーニヒスによるのが遅くなったの。そして、今回の話もそれ関連よぉん」
「……聞こうか」
「単刀直入に言うわねぇ。……アタシと手を組まない?魔王陛下。勿論、帝国も」
ダンプティーの話はこうだ。連合王国、帝国、レイラ率いる立憲君主政友会、そして魔王。4つの勢力が組み、神聖王国を打倒しようというもの。そこに更に、
「レイラ姫の話だと、連合王国-帝国-連邦の3カ国で対抗していこうって話だったらしいわねぇん?だから今から連邦にいく。後はわかるかしらぁん?」
「あの国はどっちかというと神聖王国寄りだったと思うけど」
「それを崩す為に魔王陛下が行く予定だったんでしょぉ?陛下なら帝国を下したように武力で連邦を捩じ伏せられる。違う?」
「…………………………」
お見通しだ。この将軍は人を見る目はあるらしい。
しかもこの話、木葉からしたら願ったり叶ったりである。
「連合王国が協力する理由は?そもそも貴方にどれだけの決定権が?」
「『大陸封鎖令』。旧大陸から締め出されたら連合王国の貿易は未だ開発中の新大陸や未知大陸に頼らざるを得なくなるのよぉん。それにこのまま帝国が倒され、なし崩し的にメルカトル全土が神聖王国の手に落ちれば本土防衛すら危うくなる。悪い芽は早めに摘み取りたいの」
「それは、賢明だね」
「あと、アタシの意志は王立海軍の大陸艦隊の意志よぉん。つまり新大陸に派遣した艦隊や本土防衛用艦隊を除いた全ての艦隊の指揮権がアタシにはある。今だって『女王陛下』の代理で此処にいると思ってもらっていいわよぉん」
「……………………条件がある」
「聞かせてもらおうじゃなぁい」
……
…………
……………………
「と、いうわけでやって来ましたペテルブルグ!的な!」
「だからどこ見て言ってんのよそれ」
ケーニヒスの港から12日、木葉らは【スロヴィア連邦】首都:ペテルブルグの港へと降り立った。因みに乗り物酔いに弱い木葉が12日も船に乗れる筈もなく、木葉ら月光条約同盟は方舟での移動となっている。
「まーた不法入国しちゃったよ」
スロヴィア連邦。広大な領土を保有しておりながら、国土の大半を永久凍土で覆われた国家である。主要産業は農業で、小麦が主な輸出品だ。
連邦の東には五大魔族生息地の1つ、ウラン山脈があり、そのせいか連邦もまた魔族との戦いで疲弊している。そもそも連邦ができた経緯は旧スロヴィア王国が魔族退治に失敗しまくって革命が起こりその結果政治体制が変わったというものなので、魔族関連の話は結構敏感だ。
「ていうか、勇者がいるんだっけ連邦って。全然話には聞かないけど」
「居るっていうのがよくわからないんよ〜。居る居る喧伝してるけど、実際に勇者が闘っているって情報はないからね〜」
「で、ここからどうすればいいんだよ?アタシらあんま此処に長居できないんだろ?」
柊の指摘はご尤も。何故なら不法入国者だから。
「うん。てことでさっさと終わらせよう」
と、言ったものの港から見えていたのだが、今ペテルブルグの街は燃えに燃えていた。文字通りの意味で。
町中で火の手が上がり、市民たちは武器を持って猛抗議。軍が出動しており、未だ交戦状態に陥っていないのが不思議なくらい。
「わー、やってるやってる」
「なんか日常茶飯事らしいですね的な。ここ数ヶ月毎日暴動暴動。血が騒ぎます的な」
「子雀おまえ、銃持ってから人変わったみたいに戦いに飢え出したな……。あの中突っ込んでくるか?」
「む、無理無理無理無理!嘘です逃げたいです戦いたくないですぅぅぅう」
「うん、安心した。それでこそ子雀」
「え、えっへへへ……うぇっへへへ」
褒めてないけど褒められた感出てるから頭を撫でる木葉。結果的に褒めたみたいになってしまった。
さてこんな状況の中で木葉ら一行が向かったのはペテルブルグ宮殿。ここはかつて王族が所有していた宮殿で、今では連邦政府の政府施設と化している。
門の前には随分センスのない銅像が建てられており、一際異彩を放っている。連邦の今の指導者なのだが、それを見る市民の目は冷たいものだ。
そんな銅像が今、市民たちの手によって倒されようとしていた。
「わっ、結構大胆に倒されたな。おもしろっ」
「いけー!やれー!そこだー!!よっしゃあああ!!的な!」
「なんでお前そんな楽しそうなん……」
「わ〜僕も混ざろうかな〜」
「みんな血が騒ぎすぎじゃない……?」
木葉が珍しくツッコミにまわる。
さてさてそんな様子をじっとみていた一行だったが、埒があかないので木葉が前に出る事にした。
「《鬼姫》、おいで《鈴鹿御前》」
木葉の姿が変わる。髪色などはそのままだが、服装は白い水着。上はまんまビキニで、下はパレオ付きのもの。凄まじく露出度があがる。顔には少し派手な……もっと言えば男性を誘うような化粧が施され、目の奥はハートマークが埋め込まれている。
木葉の《色欲》の能力が発動される。
「《田村丸への誘惑》、みんな、私を愛してね、あははっ!」
ハートマークが放出し、群衆や軍人を問わず視線が木葉へ釘付けになる。
「うーん、見たいんよ〜」
「駄目よ。あれを見たら最後、私たちは醜態を晒す羽目になるわ」
「ハメとかやらしいこと言わないでくださいよ的な、うえっへへ」
「あんた焼き鳥にして食べるわよ」
「ひぃ!?」
月光条約同盟の面々は目隠しをしていた。そうでもなければ、
「ま、魔王……陛下ぁ♡」
「ああ、お美しい、えへ、えへへへ」
「もうギンギンですぜぇ」
「あの、美しい体を見ているだけで脳が幸せよぉ……」
「道を開けてね?」
木葉から放出されるフェロモンのようなものに当てられ、男女問わずに彼らの目はハートマークに変わり、道を開けていく。通常こういうのは異性だけに効くのがテンプレだが、木葉のは男女問わず効くからかなり強力と言える。
しかし欠点もあって、それは今までの特殊スキルと違って強者に対して効き辛いというものだ。また木葉の恋愛対象が女性ということもあり、強い男性に対してはやはり効き辛い。これは帝国兵、アカネ騎士団で実践済みだ。逆に言えば連邦兵には効くレベルの強さではある。
「ほぼ洗脳魔法に近いわよね、これ。意識すら完全に奪って注視させるこの術式は、それすら凌駕してる」
「もういいかなこののん〜」
「うん。外して良いよ」
「おっけ〜ってびゃああっ!?水着姿のままじゃん!ちゃんと着てよ〜!!」
「これ涼しくて楽なんだけどな」
「僕たちの目に毒……や、天国なんよ〜」
仕方なく着替える木葉。いつものパーカーがやはり1番よく似合う。
さて木葉らは宮殿内へ入ろうとして、
「お待ちしてました」
「や、待ってたよ、木葉」
出迎えたのは長身ポニテ少女:白鷹語李と、栗色の髪の毛を三つ編みにした可愛らしい女の子だった。
「天撃の鉾:フィンベルです。えと、その、初めまして魔王様」
「……ちっちゃ、かわよ」
「へ?へ?」
自分より小さい純粋そうな女の子。思わず本音がもれてしまった。
ラスペチアの街でカデンツァ・シルフォルフィルに救われてから天撃の鉾のメンバーとなったフィンベルは、普段はレイラ姫の従者として行動している。今回もその流れで語李と共に連邦までやってきたのだ。
「あー、うん、ごめん。えと、中入っていいの?」
「はい。レイラ様のお付きのものと言うことで、宮殿内を自由に動けますよ!」
「……その心は」
「聞かずともわかるかと」
それはつまり、レイラ姫が既に宮殿内の実権を握っていることを示していた。元々連邦政府の掌握を目的に結婚を受諾したんだろうけど、たった1ヶ月ちょいでこの現状。化け物かな?
そんな2人に案内されて宮殿内を歩く。豪華な調度品、綺麗な中庭……ブルジョワだ。だがその中庭にも趣味の悪い銅像が建てられていた。これもまた今の指導者の像である。よく見ればケバケバしい装飾品は全て新しめなものであり、この宮殿の今の主人が如何に悪趣味かよく分かった。
「今、連邦ってやっぱり……」
「腐りに腐り切ってるな。ブルジョワジーを倒した者の中でトップが決まり、彼らがまたブルジョワジーになり下々から搾取する。しかも王政時代に廃止された奴隷制度が連邦になって復活し、亞人族どころか普通の人間まで取引される始末。……俺たちの世界でも似たような事が起こってるから歯痒いよ」
「……革命が必ずしも良いものではないと見事に教えてくれてるな」
語李の解説に思わず悪態をつく木葉。そんなことを話している間にどうやら御目当ての部屋に着いたらしい。
ガチャ。
部屋に入るとそこには沢山の人間がいたが、その1番奥によく見知った顔がいて少し安心する。
「死んだって聞いて普通にびっくりしたよ、レイラ姫」
何者だ!と叫ぶ男を手で制し、レイラ姫はニコリと笑う。
「しぶとく生きてますよ、ふふ」
「よく言うよ全部仕組んで実行した癖に」
紅茶を口に運ぶ金髪の美少女:レイラ姫は、「不味い……」とかぼやきながらティーカップを置いた。どうやら革命の影響で質の低い紅茶が宮殿の方でも出回ってるらしかった。
「《未来予知》で何処で沈められるか分かってましたので、予め連合王国の艦隊に待機してて貰いました。神聖王国の自作自演の下手さには笑っちゃいましたわよ。で、後はわたくしの騎士……コード・ジルベスタのスキルでちょちょいのちょいでしたわ」
レイラ姫が目配せする先には白い髪の青年がいた。彼を見た瞬間、ロゼから凄まじまい殺気のようなものが漏れ出ていたので少し気になったが話を進める。
「偽装死体まで用意するとはね……。用意周到な事で」
「ま、そんなことはどうでもいいのですわ。さてと、役者は揃いましたし、今までの話は全部嘘ってことで」
レイラ姫の発言に、連邦の高官達は憤慨し始める。
「な!?では神聖王国からの融資は!」
「帝国分割案は!」
「賠償艦の配分は!」
「あー煩いですね全部嘘に決まってるじゃないですか。木葉様、どうぞお好きなように」
「君本当に酷い女の子だよね」
お互い歪んだ笑みで笑い合う。そして木葉は瑪瑙を抜刀して、
「《鬼火》」
天に向かって炎の柱を立てる。無論天井が崩れてきて随分と見晴らしの良い部屋となってしまった。
「初めまして連邦政府の皆様方。私は3代目魔王:月の光。諸君らに従属を促す為に此処に来ました」
「な!?ふざけっ!」
「喋るな」
恐らくこの部屋で1番権力があると思われる、銅像が造られていた男の喉元に瑪瑙を突き付ける。
「ショジョスキー書記長?巷で年端もいかない女の子を誘拐して監禁してるショジョスキーさん?ねぇ、聞いてる?」
「はひ、ひぃぃぃい」
「降伏したら命は助けてあげるかもだよ?」
「ど、同志ショジョスキー諸共撃て!」
「おっ、クソみたいな判断だけは早い」
室内にいた高官らは杖を取り出して攻撃魔法を放つ。
木葉はショジョスキーを盾にして攻撃を防ぎ切る。彼の死体をほっぽり、そして、
「《鬼火》」
斬撃が彼らを飛び越え、部屋を破壊し、窓を破壊し、そして遠くに見える軍の倉庫を破壊した。
「な、な……」
「《酒呑童子》、《大江山の神隠し》」
木葉の足元から黒い蛇の悪魔達が飛び出して、高官達に纏わりつく。恐怖で震える彼らのまわりをくるくると回る木葉。
「ぎぃあああ!!」
「うごぉ」
「ぐがあああああ!!」
「小指のコレクション、うふふ、あははは!」
高官達の指を切り落とし、それらを紐で括ってネックレスを作る。そのまま1番奥の席で震えていた男の首に掛けた。
「此処にいる奴らは、全員革命後に権力を傘にして婦女暴行、強○、殺人、収賄、麻薬取引、奴隷売買を積極的に行ってきた屑だよ。貴方は、そんな愚か者の傀儡でいるつもりかな?元スロヴィア王国の王子さん?」
「あ、ああ、ああああああああ」
「それプレゼント♪私の言うこと、聞いてくれるよね?ね?」
「は、はい、聞きます、聞きますから、殺さないで……」
「よろしい♪君は魔王の部下、あは、あはははは!!」
ドォン!!!
港の方から空砲がなった。木葉の先程の合図をきっかけに連邦軍への威圧が始まったのだ。
ペテルブルグ港に集結する帝国海軍と王立海軍の大艦隊。その強大な戦力に、連邦軍は黙って武器を捨てることしか出来ずにいた。
連邦政府はその後、元スロヴィア王国の王子を大統領に据え、政局を安定させることとなる。とはいえそれは実質的に王政であり、しかも木葉やレイラ姫の傀儡政権でもあった。
また事件の後上陸したアカネ騎士団、王立海軍陸戦隊によってペテルブルグは占領され、会議が開かれることとなる。
「連邦への海上封鎖、輸出規制の解除と物資の支援を帝国、連合王国で行うことで暫く批判は躱せそうですわね」
「あとは3カ国の連帯を示す『三国協商』の締結を宣言して、神聖王国に対して拉致等の避難決議を合同で行う。こんな感じかしら。結構強引に連邦政府を味方に引き入れたけど大丈夫なの?」
「迷路様のご懸念はご尤も。予めわたくしが国内勢力を抱き込んでありますが、それでも反発は大きいでしょうね。特に南部の軍閥は。ですが、その軍閥は大公国と国境線でばちぼこですからこちらに兵を回す余裕はないでしょう」
「じゃ、草案を策定しちゃうわね、ああ忙しいっと」
会議の場には魔王である木葉、帝国代表のアカネ、神聖王国代表のレイラ姫、連邦代表の王子、連合王国代表のダンプティー海軍大将、それから国家を超えて力を持つ竜人族のロゼが集まって今後の方針が内密に話し合われることとなる。
会議の内容は大きくは此処では語らないが、木葉がダンプティー海軍大将に出した条件の履行も含まれる。
「連邦は期間限定で私が貰う。帝国は同盟国扱いだけど連邦は実質的に魔王の属国にするよ。その際の会議は主導権を握らせて貰う」
連邦政府への内政干渉に関して連合王国は口出ししないこと。コレが木葉が飲ませたかった1番の条件だ。
この議題さえ終わってしまえば木葉にとっては退屈な会議であったが、ロゼはどこかピリピリした空気でお得意ののほほんとした笑みを一度も浮かべなかった。しかもレイラ姫のお付きの騎士へと凄まじい感情を向けているようにも見える。
「……?」
会議は迷路の策定案の完璧さから終始スムーズに進んでいった。
とは言えやはりロゼの視線が目立つ。どこかピリピリした空気を感じ取ったのか、レイラ姫も少し強張った表情をしていた。
会議終了後にロゼは、
「ちょっと出てくるんよ〜」
と言って外の空気を吸いに行った。
訝しむ木葉に迷路が耳打ちする。
「……木葉、レイラ姫のお付きの騎士……知ってる?」
「や、ごめん。えと、あの白髪のイケメンさんだよね、有名人?」
「【白雷卿:コード・ジルベスタ】、つい最近になって銅月から国内5人目の銀月級……アリエスが死んだから今は4人ね……まぁともかくつい最近昇給した冒険者よ。天撃卿:カデンツァ・シルフォルフィルと共にリタリー魔族国家群との闘いで神聖王国に勝利を齎した英雄ね」
「……一見ロゼと関わり無さそうだけど」
「さぁ。一目惚れでもしたんじゃない……って訳でもないでしょうし、そんな顔しないで木葉」
迷路に言われて気づく。どうやらかなり不安げな顔をしていたらしい。意外と独占欲あるんだなぁ、と自嘲した。
「でも……あながち間違ってないかも。なんか敵意もあったけど、その中に好意が含まれてたような雰囲気だった」
「木葉……」
「ま、見守るよ。私ロゼのこと信じてるし」
「そう、ね」
一方その頃、ロゼは宮殿の中庭のベンチに腰掛け、そして、
「どうも、ジルベスタ卿」
「……美しきフルガウド姫に出会えて光栄ですよ」
「そうだね。フルガウド姫、ね。
弁解はあるかな、『コード・ヴィートルート』、コードお兄さん」
「……………………ありませんよ、ロゼ様」
竜人族特有の爬虫類のような鋭い瞳が交差する。桃色の瞳は敵意剥き出しにして紫色の美しい瞳を睨んでいた。
白髪紫眼の美青年:コードもまた竜の瞳を見せるが、彼の目は懐かしむような優しい瞳であった。
「竜人族の生き残りとこんな所で会えるなんて……しかも貴方と、あはは、因果だね。僕が、僕がどんな思いで2年間を……どんな思いでーーッ!!!」
激昂する。電気が漏れだし、桃色の美しい髪がふわりと浮き上がった。
怒りと憤りと喜びと悲しみ、それらがいっぺんに混じって魔力の制御が微妙に出来なくなっているらしい。
ロゼは歯軋りをしつつそれを抑えると今度は地面がひび割れた。その事だけでもコードは今の自分にロゼが何を抱いているのか理解したらしい。
「お互い、言いたい事を言うべきです。私も、貴方もきっと沢山あるだろうから」
過去を断ち切り乗り越えたばかりのロゼだが、その過去の証人が現れたのだ。木葉で言えば花蓮に出会った時のような感覚。強張るのも無理はない。
「僕は……」
コードはカデンツァの章で登場しています。
ちなみに新大陸は北アメリカ大陸、未知大陸はオーストラリア大陸、ペテルブルグはロシアのサンクトペテルブルグをモチーフにしています。




