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5章8話:悪魔について

 魔王。


 初代魔王:クープランの墓は500年前に突如リタリー半島に出現し、人間・亜人族を100万人以上虐殺した。そんな彼は当時15歳であった初代勇者の少女により討たれ、その残存魔力が魔女の宝箱に散らばることとなる。

 2代目魔王:亡き王女のためのパヴァーヌは100年前にライン地方に出現。10万の民を虐殺しライン地方を人が住めない魔の土地に変えてしまった。後に2代目勇者と相討ちになって死亡したとされる。


 そして、3代目:月の光。櫛引木葉。彼女は、今までの魔王と何かが違っていた。心優しき魔王。

 だが、それはもしかしたら他の2人もそうだったのかもしれない。クープランの墓は仲間の為に戦ったのだから。2代目ももしかしたら……。


 でも……。


「それでも木葉、貴方を守るわ。それが、私の使命だもの」


 迷路にとって彼女は特別だ。迷路の全ては木葉の為にあり、木葉に出会う為に迷路は生まれた。何故かそう信じてしまうほど、迷路にとって木葉は特別な存在だった。

 眠る木葉を撫でながら呟いた言葉を反芻する。



………


…………………


「えーっと……この状況は何かな……」

「木葉は少し黙ってなさい。ほら、すくな。貴方いるんでしょ?」

「えーっと……この状況は何かな……」

「木葉と同じことを言ってても騙されないわ。さっさと吐きなさい」


 奥羽より下船し場所はどこかの森。そこで十字架に縛り付けられた木葉、すくなは困惑していた。

 仁王立ちして氷のように冷たい表情を浮かべる迷路。とても怖い。


「まさか魔王を処刑するなんてことは」

「ないわ。木葉が死ぬ時、それ即ち私が死ぬ時よ」

「じゃあ」

「貴方に聞きたいことは山程あるけれど、取り敢えず木葉の魔王化を止める乃至制御する方法を教えなさい。ここに来る途中で山が真っ二つに割れたなんて馬鹿馬鹿しい報告があったの。そんなこと出来るのは木葉以外いないわ」

「へえ。それで?」

「奥羽を破壊されたら困るの。今のうちに魔王の力を制御出来る様にしておきなさい」

「ま、すくな的にもその方が助かる。ていうか理由は明白なんだよね。このはがすくなを介さないで上級悪魔を取り込んだせいなんだけど」


 シャトンティエリ決戦にて、木葉はすくなを介さずに【暴食の悪魔:酒呑童子】を取り込んだ。それはつまり、なわてやノルヴァードのような状況になった訳である。代償に関してノルヴァードは不明だが、なわての場合は悪魔に1日の半分の主導権を握られており、それが木葉の場合は力の暴走というだけのことだ。

 今まではすくなが悪魔を取り込んでいたものを木葉に与えていたので、問題ゼロだった。


「すくなはこのはの感情をロックしていた。鬼姫……即ちすくなが付いている人物:魔王にとって、『罪の感情』は鬼:悪魔へと変換出来る」

「よく、分からないわね」

「このはがアンロックさせた『罪の感情』は4つ。傲慢・憤怒・強欲・嫉妬。これらは全てすくなが食べた悪魔達。感情という名のフォルダーの中に悪魔を入れて、それをこのはに変換していた」

「…………」

「悪魔は強大な感情に惹かれる。悪魔の召喚には強大な感情エネルギーを持った人間が必要」


 すくなが続けるが迷路にとってはちんぷんかんぷんな内容である。だが迷路にとって聞きたいのはそこではない。


「何を言っているか分からないけど、一つ確かにしたいわ。


すくな、貴方が付いている人間が魔王になる。合ってる?」

「そうだね」

「クープランの墓も、2代目魔王も貴方の差金?」

「クープランの墓はすくなの傀儡だ。……すくなの話を全然聞いてくれなかったけど。2代目に至っては勝手に悪魔を食べて魔王になっちゃったからすくなの管轄じゃないね」

「あの骸骨がどれだけの人を殺したのかわかってて言ってるのかしら?」

「………」

「貴方が諸悪の根源ね。私は貴方を赦しはしないわよ」

「赦されたくてやってはいない。……それで、どうするの?」


 十字架に縛られたまま、すくなは顔色ひとつ変えずに言った。迷路もこれ以上の問答は無意味だと悟る。

 この世界における魔王を生み出してきた存在。大悪魔:すくな。彼女と迷路達とでは価値観が全く異なる。それに気付いた。


「木葉の暴走の原因と解決策を速やかに述べなさい」

「原因はすくな管轄外で、【涅槃(ねはん)】から現界出来ている上級悪魔をこのはが取り込んだこと。解決策は……まぁその悪魔をすくなが食べることかな」

「食べる?」

「すくなは『魔王に、代償無しで悪魔と契約させる力』を持っている。それが両面宿儺2つ目の能力《代償免除》。本来、悪魔契約には代償がいることは、そこのロゼ・フルガウドがよく知っているよね」


 ロゼはこくりと頷く。ロゼの所有していた悪魔:暗闇さんは、ロゼの母が命を捧げて召喚した中級悪魔であった。


「それはすくなが一度悪魔を取り込むことで成立する。でもこのはは今回、すくなの知らない所で悪魔と契約した。よって、本来制御出来るはずの魔王の力が代償によって制御出来なくなった。


だから、すくなが暴食の悪魔を食べて仕舞えば木葉の暴走は取り敢えず収まるよ」

「今すぐやりなさい」

「……はぁ。このは、良いのかな?すくな的に不本意だけど、このはは酒呑童子と話してるよね?食べちゃうけど」

(うん、いいよ)

「あれ?」


 随分あっさりしている。


(本人はそのつもりだったろうし、酒呑童子……暴食の悪魔を食べないと私ずっと暴走し続けるでしょ?)

「……やけに聞き分けがいいね。ま、頂きますっと」


 そうしてすくなは精神世界へと潜っていった。

 暫くして木葉の中から大きな黒い何かが消えていく感覚がした。恐らく酒呑童子が捕食されたのだと思う。それによって木葉の暴走状態も収まりを見せるようになった。


「ん、ハァッ!ってやっても山は割れない」

「普通割れないのよ。でも、良かった、制御出来そう?」

「うん!なんかごめんね、迷惑かけて」

「今更よ。言ったでしょう、木葉と生きたいって。一緒に生きるっていうのはそういうことよ」

「……うん」

「それに、まだ終わりじゃないわ。ぜーんぶ話してもらうわよ木葉、すくな」


 現在、安全の為ロゼと迷路だけが森に降り立っていて、他は奥羽に残って貰っている。他のメンバーに聞かせるには早いと判断した迷路だったが、その内容は中々に驚くべきものであった。


 木葉が語ったのは勿論これまでの経緯。そして、


「【満月の世界】、【月殺しシステム】か〜」

「その【月殺しシステム】の構築でヤマトの民の代理人として魔王が生まれた。クープランの墓や2代目、3代目の木葉みたいに日本人が魔王になっていたのはそういうことなのね」

「うん。神聖王国の言う救済はフォルトナを核とした大悪魔:両面宿儺(りょうめんすくな)の完全復活。満月教会もその為に動いてる。人を攫いまくってたのも人身御供(ひとみごくう)の為。


で、最終的にはすくなを捕食すればフォルトナ主導の両面宿儺が完成する」


 改めて聞くととんでもない話だと思う。勇者召喚の為に侵略戦争で国を滅ぼし人々を攫い、人身御供として利用する。それを国家規模でやっているのだ。宗教と政治が癒着すると本当に碌なことにならない。


「ノルヴァードの言う、【涅槃(ねはん)】って何なの?なんかさっきも出てたけど」

(それを説明するならまず【悪魔】について説明しなくてはならないね)


 そもそも『悪魔=鬼=両面宿儺を構成する怨霊』である。つまりそのイコールはそのまま、


 大悪魔=鬼神=両面宿儺


 と、言う形になる。


「500年前に完全に崩壊した大悪魔:両面宿儺は、この世界に留まったものも居れば日本でも満月の世界でもない暗闇の世界に消えたものもいる。そして、そんな世界こそが【涅槃(ねはん)】」

(ね、はん……)


 木葉と会話の主導権をバトンタッチして、すくなは続ける。


「すくなは敗北後は日本に、具体的には木葉のお爺ちゃんが神主をやってた神社へと逃げ込んで眠った。その際日本に逃げてきた悪魔は残さずすくなが食べた。まぁそれが『傲慢・憤怒・強欲・嫉妬』とかその他諸々の悪魔のベースとなる存在なわけだけど」

「……木葉が契約可能な悪魔ね」

「罪の感情は悪魔を産むのに最も最適な感情エネルギーだからね」


 会津君を目の前で殺され、激しい憎悪を見せた磐梯なわてや、ハーレム4人娘を目の前で殺されたアリエス___相馬。彼女らは大きな感情を発露した際に悪魔との契約を強制的に交わさせられた。

 その後は素質の差でなわては人の形を保ち、アリエスは保てなかったが少なくとも両者とも悪魔召喚には成功している。


「神聖王国・満月教会が勇者を召喚する理由は、勇者に魔王を倒してもらってすくなを屈服させ、捕食すること。だけどそれなら勇者1人を召喚すれば良い。なら、莫大な人身御供を用意してまで、なんであんなに沢山の人間を召喚してると思う?」

「……そう言われてみれば、たしかに」

「答えはヤマトの民に関連ある者しか悪魔召喚が出来ないから、だよ」


 なわての発言でここら辺は木葉も知っている(3章45話無知は罪です 参照)。

 詰まる所神聖王国・満月教会は時間が経過して血が薄まった王族・五華氏族といった不確定な要素ではなく、実際にヤマトの民の血を引く連中を引っ張ってくることで彼らに悪魔召喚の役割をさせようとしていたのだ。


「悪魔召喚は激しい感情の発露が条件。因みに何で15期とかから始まってるか分かるかな?それは14期までの人間が悪魔召喚を強要させられて無意味に死んでいったからだよ」

「なッ!?」

「それくらい、悪魔召喚は難しいんだ。だから神聖王国は学習して、15期生からこの世界に馴染ませて感情の増幅を図ろうとしたんじゃないかな?……ま、この辺は全部想像だけど、フォルトナの考えそうなことだよねえ」

「そもそも、何で悪魔を召喚なんてさせるのよ……」

「そ。そこがポイント。莫大な人身御供を使って勇者達ヤマトの民を。ヤマトの民を使って悪魔を召喚、なんてコスパの悪いことをやってる理由が【涅槃(ねはん)】」


 すくな曰くこうだ。

 日本に散った悪魔はすくなが捕食した。だがそれ以外の……日本でも満月の世界でもない世界____【涅槃(ねはん)】へと散った悪魔は、そこから出てくることが出来なくなった。


「出られない?」

「フォルトナもそうだよ。あいつは今【涅槃】から出られない。勿論通常の悪魔だって涅槃からは這い上がれない。


だから、神聖王国・満月教会は召喚したヤマトの民を使って、悪魔を現界させる。その上で現界した悪魔をフォルトナに献上して食べて貰う。そうすればフォルトナは復活できる。そう言う理論なんだよ」

「……なに、それ」

「涅槃は暗く広い。フォルトナは涅槃の中では他の悪魔を捕食できない。だから一回悪魔を涅槃から出して、その上でフォルトナに食べさせる工程が必要なの」


 てな訳でそれまでの14期生までや王族・五華氏族は歴史の中で悉く中級以下の悪魔召喚に利用され、結果殆どの下級悪魔・中級悪魔の捕食に成功している。

 残ったのは日本に逃げた大悪魔:すくな、満月の世界を逃げ回っていた上級悪魔:酒呑童子、そして召喚された上級悪魔:蠍の悪魔・福音の悪魔。


「すくなを潰す上で上級悪魔は敢えて捕食せずに戦力として保有しておくつもりなんだろうね」

「……で、すくなは木葉を魔王にして対抗する訳ね。はぁ……。これじゃどっちが魔王でどっちが勇者か分からないわ」

「まぁでも王都政府が間違ってる事実に変わりはないんよ〜。って、1000年も罪を背負ってきたなら、僕にも責任あるし」


 ロゼとしてはやはり五華氏族がこの話に関わってきたと言う事実がやるせないのだろう。だからこそ、益々王都政府を倒して自分がなんとかしなくてはという思いが強まる。

 そして木葉としても、


「ま、アリエスの仇を討ってあげないとね」


 と意気込んでいる。


「一応聞くけどこれで全部話したのよね?この世界が総じて悪魔信仰してたってヤバい事実だけでもお腹いっぱいなのに、これ以上なんかあったら私は胃もたれするわよ」

「あ、戻ったらラーメン作ってあげるよ」

「こののんのラーメン久しぶりなんよ〜」

「確かにアレは美味しい……ってそうじゃなくて!……本当に隠し事はなしよ?」


 疑わしげに木葉を見てくる。


(すくなとしてはこの世界の問題は全部話したつもりだよ)

「と、申しております」

「信用出来ないわね」

「まぁそうなるよね……。すくなも一応私の為を思って行動してた訳だし、情状酌量の余地が」

「ないわ。こいつは自分の神社(?)とやらの娘だった木葉を利用して過去の罪を清算しようとしてる。身勝手極まりないわよ」

「だとしても、すくなが居なかったら私はとうの昔に駄目になってた」

「………」


 すくなが木葉の心を救ってくれなければ、きっと祖父が死んだ日、姉が死んだ日、母に虐待紛いをされた日にとっくに廃人になっていたかもしれない。それどころか命を絶っていたかもしれない。


「私は、すくなの罪も背負ってあげたい」

「……私は認めないわよ、私にとって1番大事なのは木葉で、すくなは木葉を利用する敵であるって事実は私の中では揺るがない」

「うん。迷路の気持ちは分かってる。本当に嬉しいよ、ありがと」

「……そう言われると何も言えないじゃないの」


 不満げではあったが、迷路は取り敢えず引いてくれた。木葉はもう気持ちが定まっているから、何を言っても無駄だと判断したのだろう。


「とにかく今後の目標は神聖王国・満月教会の打倒と勇者パーティーの無力化かな。迷路の記憶はその過程でなんとかする方法を探して、最終的には両面宿儺を完成させない為にもフォルトナを打倒する。……どうかな?」

「ま、そうなるわよね。私は構わない。ロゼもいいでしょう?」

「うんうん〜!一緒に神聖王国を叩き潰そうね〜!」

「嬉しそうな理由は分かるんだけど発言がやばい……」

「あはは〜。それっ!」

「わわっ!?」


 ロゼが木葉に抱きつく。迷路は一瞬ムっとなったが、直ぐに平静を保った。ロゼの気持ちも痛い程よくわかるのだ。


「お帰り……こののん。もう居なくならないでね?」

「うん……ただいま、ロゼ」


 2人は暫く抱き合っていたが、木葉はロゼの頭を撫でてそのまま離れた。


「むっ、もうちょっと長くてもいいんよ〜?」

「キリないから……。それに」


 そのまま迷路へと抱きつく。


「なっ!?」

「……あの時、本当に嬉しかった。止めてくれる、そして一緒に居てくれるって事実が私にとってどれだけ救いになったか分かるかな?」

「えぇ。貴方を1人にはしない。最後の最後まで絶対に」

「うん。私も迷路とずっと居たい。私は魔王を制御できるだけで完全に人間やめちゃった事実は変わらないから、今後は多分どんどん悪い事になってくんだと思う。それでも……お願い」


 木葉はそのまま迷路の目を見る。






「私を助けてね」






 そのまま木葉は迷路に口付けをした。



………


………………


「随分かかったのう」


 真っ赤になってる迷路、随分ご機嫌な木葉、不満げなロゼが奥羽に戻ってきた頃、深緑色の髪をもつ狐人族:ルーチェが出来立てのリンゴタルト持って出迎えてくれた。


「……そう言えばこいつがいる理由をまだ聞いてなかったな」

「失礼なやつじゃな。……まぁ我含めてここに集まった連中それぞれ経緯を紹介してやるべきじゃろ。柊も、うぬに話があるそうじゃし。そこの鳥人族の娘もさっきからタルト食ってるだけで何も言わん」


 ダイニングに向かうと柊と子雀がそれぞれタルトを無言で頬張っていた。


「あっ!我が主お帰りなさいませ的な!」

「的な?」


 柊はハテナマークを頭に浮かべていた。


「あー。そうだね、ただいま。ごめん子雀にも心配かけた」

「全くですよ!ほんと我が主は心配かけてばっかなんですから!」

「ふふっ。まさか一緒に来てくれるとは思わなかったな」

「ちゅんは我が主の従者ですから、地の果てまでお供します!勿論、このギルドにも参加します!」

「……それ含めて色々話し合おう。それに」


 木葉は柊の方に視線を向けた。金色の髪の不良ガール:真室柊は大胆にも一口でタルトを口に運んでいた。


「ひぃちゃん……」

「おう。取り敢えず話し合いだ。ってその前にやることもあるけどな」

「……?」


 そして柊はそのまま、





「木葉、すまなかった」


 と、頭を深く下げた。

酒呑童子さん食べられました。

え、アッサリ?……かどうかは、まぁ今後次第です。


涅槃(ねはん)】=日本でも、満月の世界でもない狭間の暗闇の世界。悪魔(怨霊)だけでなく色んなこの世のものじゃない存在がうようよいる。


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