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5章7話:翠玉楼の密談

 王都7番街地下街は、木葉は初め怖いおじちゃん達に囲まれていたが貴族が利用する正規のルートもある。

 という訳で金髪縦ロールお嬢様ことテレジアは堂々とした振る舞いで地下街を進んで行った。

 翠玉楼があるのは7番地下街。ここは貴族達や富裕層が利用する為互いの不干渉が暗黙のルールとなっている。テグジュペリ侯爵家は貴族の中でもその家格が高く、当然のようにチンピラなど寄ってくる訳もない。つまりお付きの女性陣に手を出す不埒な輩も居ない。まあそれ以前に彼女らの傍にはテレジアが連れてきた屈強なボディーガードがいる為、手を出すバカなどいるわけも無いのだが。


「どこを見ても可愛い子ばかりで眼福ですぅ!ここが天国、はぁああ」

「仮にも闇の世界を見て王族が口にして良い言葉ではないんですけどね」

「ここの女の子達全部私が身請けしちゃってもいいですか!」

「駄目ですわ。王族の干渉は御法度ですのよ」

「ぶーぶー、けちー!」

「誰かバカ姉を止めてくださいまし!」


 歩いて行くと華やかな建物が見えて来る。異世界で初めて間近で見る花街に、日本出身の彼女らも興奮気味だ。


「ん、あの店の絵……滅茶苦茶美人じゃねぇか!!!え、何あんなエロい子いるの!?」

「うっ、これは確かに」

「おうおうカタリナちゃんも女の子なのに美女に興奮しちゃってよう!」

「や、やめろバカ!そんなんじゃないさ!……ていうか零児、あの絵、なんか木葉に似てないか?」


 手前側にある店は入り口がオープンになっていた。そこには多くの人が集って店の前に掛けられた巨大な絵画を眺めている。


「おぉ、黒曜石の美姫よ!」

「一度見てみたいものだなあ」

「えっっっっっっ!」

「はぁ、はぁ、この美少女を是非とも私のものに、うっ(自主規制」


 絵画には濡れたようなウェーブのかかった黒髪と、紫紺の瞳を持ち合わせる絶世の美姫が描かれていた。タイトルは『黒曜石の美姫』という。

 つまり、アレだ。橋姫モードの木葉だ。


「これ、化粧とかで雰囲気変わってるけど間違いなく木葉ちゃんだな、ってうわ花蓮どうした!?」

「買います買わせてください!幾らでも払いますからあああ!!!」

「わ、私も買います!お金なら王宮の国庫から幾らでも!!!」

「ちょっ、2人とも何してるんですの!?」


 花蓮とマリアが狂ったように人混みをかき分けて行こうとしているので零児とレイラがそれぞれ止めにかかる。

 なんとか宥めようと引っ張ってる間に、御目当ての人物がやって来た。


「これはこれは、テグジュペリ侯爵家令嬢様、よくぞお越しで」

「お世話になるわね、テレプシコーレ!」


 細身の黒いドレスを見に纏い、艶やかな黒髪を後ろで薔薇の形にまとめた美魔女。紫のグロスとアイシャドウが今日も凄い主張してくる。


「王女殿下はあの絵が気に入ったので?」

「はい!最高です!誰が描いたんですか!?」

「あたいが画家に描かせたのさ。モデルは、あんたらも良く知ってるだろう?」

「じゃあやっぱアレは木葉なのね!ていうかあの子ここに来てあんな格好してたの!?」

「御令嬢には言えなかったんだろうよ、うっふふ。あの子を着飾らせるのは楽しかったねえ」

「ズルいわ!今度私も木葉とファッションショーやるんだから絶対!」


 テレジアは何かキレていたが美魔女:テレプシコーレはくつくつと笑うだけだった。


「改めまして王女殿下、あたいは闇ギルド:【蝶々(ちょうちょ)連盟】の5大幹部で娼館を担当するテレプシコーレだよ」

「本日は王女としてではありませんので堅苦しい挨拶はなしでも構いませんよ」

「くくっ、そうかいそうかい。じゃあビジネスパートナーとして、今日は宜しく頼むよ」

「えぇ、勿論ですわテレプシコーレ」


 握手をするテレプシコーレとレイラ。あとちゃっかりマリアはテレプシコーレから絵の縮小版を買い取っていた。花蓮にも一つプレゼントしている、これが王女の器だ。


「えっと、この方達ってどういう繋がりなんです?」


 花蓮がレイラに尋ねる。


「御二人は魔王、いえ木葉様から依頼されてわたくしとの橋渡しを務めてもらった方々です」

「先ずは翠玉楼にあの子が来てねぇ。娼婦になってくれるのかと思ったから期待してたけど、まぁ面白い話を持ってきてくれたんだから良しとするよ」

「それから翠玉楼で私に会ったのよね!で、お父様がレイラ様と繋がりがあるってことで、テグジュペリ家からレイラ様に連絡してテレプシコーレには会場を提供して貰ったってわけ!」


 テグジュペリ家、テレジアからの連絡は魔王との対話を求めていたレイラにとっては渡りに船であった。連絡するならテグジュペリ家だろうなと、読んでいたレイラからすれば向こうから勝手に来てくれたのでここまで有難い話はない。

 翠玉楼は高官の密談の場にも使われるほど機密保持性が高く、会談の場にはもってこいである。


「ま、レイラ様に協力するのがテグジュペリ家の利益になるのは間違いないし」

「あたいも、中々美味しいビジネスの話を貰ってるからね。協力は惜しまないよ」

「レイラ貴方一体何の取引を持ちかけたんですか……」

「お姉様には内緒です」

「わぁ邪悪な笑み……絶対なんか企んでますね」


 とまぁ利害の一致もあり、レイラとテレジア&テレプシコーレは協力関係にある。そして、


「翠玉楼の6階、牡丹の間であの子は待ってる。さ、行きな。あぁ、レイラ様は7階へお越しくださいな」

「わたくしはテレプシコーレとお話ししてから行きますわ。くれぐれもご無礼のないようにお願い致しますわよお姉様」

「勿論よ!ああ、早く会いたいですうう!」

「……不安ですわ。いざとなったら止めてくださいねテレジア様」

「任せなさい!」


 縦ロールが揺れる。テレジアもテレジアで不安要素ではあるが彼女の方が幾分かマシだと判断したのか、レイラはそれ以上何も言わなかった。



 レイラはそのまま護衛2人とテレプシコーレと共に彼女の自室へと入り、席に座る。

 テレプシコーレは特に何かテーブルに出すこともなく、レイラの言葉を待った。


「では、ビジネスの話を単刀直入に進めてしまいましょう」


 レイラが切り出す。


「あの話は受けて頂けるのかい?」

「えぇ。わたくしとしては闇ギルドは統制されて制御しやすい状態の方が有難いのですわ。と、いう訳で、


____蝶々連盟の権限を貴方に一極集中出来る様に、我が組織としてもわたくしとしても便宜を図らせて貰いますわ」

「ふふ、いいねぇ。詳しく聞こうじゃないか」


 カタリナは後に言う。

 あの時のレイラ様は非常に悪い顔をしていたと。



………


………………


 さて、この会談に漕ぎ着けるまで実は1ヶ月半という時が経っている。

 テレジアが手紙を貰って翠玉楼に呼び出されたのは約2週間前のことだ。差出人はヒカリ。手紙を受け取ったテレジアが狂喜乱舞したのは言うまでもない。

 シャトンティエリ戦後に連絡がつかなくなっていたヒカリ。彼女の身をテレジアはずっと案じていた。それこそ家のものを使ってシャトンティエリ周辺を調べさせるくらいにはヒカリのことを探し回っていたと言って良い。

 呼び出し場所が場所なだけに警戒しながら地下街へと赴いたテレジアだったが、その警戒感は翠玉楼の牡丹の間に入った途端に消え去った。


「テレジア、久しぶり」

「_____ッ!!ヒカリ!!」

「わわわっ!?」


 髪の毛が麗しい白銀色に染まっていたが、そこにいたのは紛れもなくヒカリ___櫛引木葉だった。思わず抱きしめてしまう。


「ほんっとに!しんぱい、したんだからぁあああ!!!」

「ちょ、まじ泣きじゃん……うん、ごめんね。ただいま、テレジア」


 ボロボロに泣き始めるテレジアの頭を撫でて慰める木葉。暫くして落ち着いたテレジアは、シャトンティエリ戦の事の顛末と木葉の正体について打ち明けられることとなる。


「……成る程、ね。ヒカ……木葉が魔王、か」

「驚かないの……?怖く、ないの?」

「驚いてはいるけど、怖くはないわ!いや魔王は怖いけど、木葉なら大丈夫って信じてるから!」

「……本当、優しいなあ」

「何?怖がってたわけ?私に嫌われるかもって?」

「う、うん、まぁ」

「おーっほっほっほ!!!私がそんな情けない女に見える?家族のことは信じる!当たり前よ!おーほっほっほー!」

「貴族もどきの笑い方も懐かしいなあ」

「だから貴族なんだってば!」


 テレジアはそう言うと再び木葉を抱きしめた。隣の部屋の襖からベキっという音がしたが気にしない気にしない。


「全く。木葉は私の家族なんだから、何も怖がる必要なんてないわ。いっぱい頼ってくれていいんだから」

「……うん。ありがと」

「ふふ、可愛いわねー!本当久しぶりよこの感じ!」

「む、むぎゅっ、息できない」


「もう我慢できないわ!木葉から離れなさいドリルツインテ!」

「な、何よ何事よ!?」


 襖が開き、奥から少女と何故か凄まじい冷気が飛び出して来る。


「こらこらこら、あたいの翠玉楼を壊さないで貰えるかね?」

「知ったこっちゃないわ美魔女。私はこのドリルツインテに用があるのよ」

「これは縦ロール!ドリルじゃないわ!」

「おんなじよおんなじ!」


 そう言って迷路は木葉を抱きしめる。ひんやりとした感触が木葉の首筋にあたり、思わず、


「ひゃっ!」


 と、甘い声を出してしまった。


「へ?」

「な、何今のエロい声」

「ほほう、これはこれは」


「き、聞かなかった事にして!」


 珍しく恥ずかしそうに木葉が叫ぶ。あんまりにも恥ずかしかったのか、迷路に抱きついたまま顔を上げられなかった。


「迷路いじわる」

「私は別にそんなつもりじゃ……」

「いじわる」

「はいはい。後で可愛がってあげるわ」

「……うん」


 恥ずかしそうに顔を埋める木葉。テレジア的には聞き捨てならない。


「え、その、二人はどういう関係なの?」

「木葉は……まぁ、大切な人よ」

「……うん」


 若干の沈黙が何かを物語っていた。


「まぁ!お母さん許しません!」

「テレジアママェ……」

「え、このドリルツインテ木葉の母親なの?」


 迷路と木葉の間に、この1ヶ月半で何かがあったのであろうことが推測される会話は兎も角、テレジアの母性が物凄いことになりママみが溢れ出していく。

 テレプシコーレはなんだか恋する乙女の顔をする木葉を見て、愉快そうに笑みを浮かべた。紫色の唇が三日月型に歪む。


「いいねいいねぇ。女の顔だよ。ますますあたい好みの娼婦になりそうじゃないか」

「あんたに木葉は売らないわよ」

「ふふ、迷路だったかい?あんたもどうだい?美少女はいつでも大歓迎さ」

「こいつッ!」

「わー!迷路やめて本当にここ高級娼館だから弁償怖い!」


 凍華の杖を構えて魔法を放とうとする迷路を抑える木葉。


「迷路も、ね?テレジアはなんというか、お姉ちゃんというか、お母さんみたいな人だから」

「ママよ!」

「あんたはそれでいいのかしら……」

「あとテレプシコーレに関しては終始こんなキャラだから」

「ふふん」

「褒めてないわよ」


 と、言う形でテレプシコーレ、テレジア、木葉、迷路の初顔合わせは終わり、その後は会談の予定を調整し始める。

 その結果、レイラ姫への連絡はテグジュペリ家が担当し、場所は翠玉楼でということになった。








 そして、今こうして牡丹の間にて、彼女らは再び顔を合わせる。数々の想いを胸に秘めて。

 翠玉楼の6階。そこは高級娼婦が高官を個人でもてなす場として利用される。だがこの日は牡丹の間にて、重要な話し合いが行われようとしていた。


「久しぶり、尾花花蓮。会えて嬉しいよ」


 黒い友禅を着た白銀色の少女___木葉は正座したままゆっくりと笑いかけた。


「えぇ、私もよ、木葉ちゃん」


 花蓮は木葉を眺める。

 白銀色の髪、赤眼、真っ黒なツノ。どれをとっても昔の櫛引木葉には似つかわしくないものだったが、今そこに座る少女はその姿が自然であるかのような佇まいをしている。


 だから思うのだ。


 昔の木葉はやっぱり猫を被っていただけで、こっちの木葉がホンモノなのだと。だとしたら、ようやく本当の木葉と顔を見て話が出来るのだ。それは昔の木葉を思い慕う花蓮にとってはとても残酷なことではあったけれど、


「やっと、本当の貴方と話せるんだね」


 花蓮は嬉しそうに微笑む。これで、彼女はようやく本当の意味で木葉を好きになることが出来るのだから。

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