TIPs:生まれてきてくれてありがとう
3/16は木葉の誕生日です。おめでとう!
なんでかと言うと木葉のキャラの方向性が決まったのがこの日だったからです。
この話、本当はその後のゴタゴタを先に出してからやりたかったんですけど、その前に誕生日来ちゃったので先に出しました。ので、やけに木葉と迷路の距離感が近かったり月光条約同盟のメンツが仲良かったりするのは今後の話を読んでください(泣)
「気になったんだけど、この世界の暦ってどうなってるの?」
ゴダール山での悶着、そしてその後のゴタゴタを片付けた木葉達。色々片付いたお陰で最近は奥羽で寛ぐ時間が増えた。
軍艦:奥羽には木葉、迷路、ロゼ、柊、子雀、ルーチェの6名が暮らしているが、一応それぞれ個別の部屋を用意してある。最近木葉は迷路の部屋でよくダラダラしているのだが、今日もベットで本を読んでいる最中に木葉が尋ねた。
「満月歴のことかしら?一応【12周】で1つの区切り、1周は7日で12周でリセットという形ね。1年に4回の12周が回ってくる計算よ。その4つの周期にも名前があって、春眠・夏郷・秋雨・冬花と呼ばれてるわ」
「……大満月様周期が3ヶ月に1回きてるからそれの区切りってことだよね。今は……?」
「満月歴1001年、【夏郷の4周・第6曜日】よ。ああ、そういえば新年祝うのすっかり忘れてたわね」
すくなの作った【満月の世界】の感覚だと分かりづらいけど、要するに日本感覚だと4月27日というのが正しい。春眠は旧暦1〜3月で11周は3つ目の月の第3週、第1〜7は月火水木金土日を指している。そもそも1ヶ月28日しかないこの世界だと1年が336日しかないことになるので元の世界とズレまくるわけだが。
非常に分かりづらい。ついでに言うと偏西風の影響もあり一年を通して温暖湿潤な気候の神聖パルシア王国では、季節の変化というものが目に見えて小さい。一応肌感覚で分からなくもないが、それでも季節に敏感な日本人としてどこか寂しいものを感じる。ボロディン砂漠でお月見団子を作ったのも、秋を感じたかったからである。
とまぁ兎に角季節感を感じずらいこの世界な訳だが、木葉はふと気付いた。
「あれ、てことは私、誕生日過ぎてるってことになるのか?」
「え?」
「ん、でもステータスプレートに変化ない。そっか、暦が違うから年齢設定が上手くいってないんだ。わぁ、でもそっか、16歳になったのかなぁ」
「……木葉」
「どったの迷路?」
「なんでそんな大事なことを忘れていたのよ!!!」
木葉の誕生日は西暦の3月16日。とうの昔に過ぎ去っている。新年とか言ってる場合ではなかった。
「いやー、ほら、その頃色々ゴタゴタしてたし」
「そんなことはどうでもいいわ!嘘でしょ……私としたことが木葉の誕生日を見逃していたなんて……」
「あ、あはは。でも私誕生日なんて忘れてたしいいよいいよ。9歳以降はそういう行事もやらなかったし」
「……やるわよ」
「へ?」
「お誕生日会を!」
と、言って迷路は部屋を出て行った。何だったんだろうと、首を傾げる木葉。しかし本の続きが気になったのでそのまま読み続けることにした。
木葉は9歳で姉を亡くしてから、家族で誕生日を祝っていない。それどころか友達に誕生日を伝えていないので誕生日会を全くしてない。と、いう訳で特段誕生日に拘りはないのだ。
「ふぁあぁ、ねむ……」
なんだか他の部屋が騒がしかったけど、眠気に負けた木葉はそのまま昼寝をすることにした。
…
………
………………
木葉が目を覚ますと時間はなんともう夕方であった。え、本当に何してるんだろう。
「うわ……あー、でも何かすることがある訳でもないし」
ベッドから降りて寝ぼけ眼を擦りながらドアを開け、中央談話室へと向かう。
すると、
ガチャ。
「「「「「木葉 (我が主)(魔王)(こののん)!お誕生日おめでとう!!(なのじゃ)(的な)(なんよ〜)」」」」」
「へ?」
語尾とか呼び方とかがごっちゃごっちゃになって分かりづらかったが、5人の声と同時に迷路の杖から放出された小さな花火が空間に広がり、視界が一気に華やいだ。
「こ、これは……?」
「木葉の誕生日を忘れてたなど一生の不覚、あるまじき大罪。と、いうことで遅れはしたけど誕生日パーティーを開くことにしたのよ。貴方が眠ってる間に準備したの、本当はもう少し準備したかったのだけど……使えない睡眠香ね」
「お、おぉ……ってあれ、なんか聞き捨てならない台詞が」
「ほら、ケーキも作ったんよ〜食べて食べて〜!」
「ふん、魔王め、プレゼントもあるのじゃ。精々我に感謝するんじゃな!」
ロゼは片手でケーキを持ち、木葉にあーんしてくる。ルーチェもまた小包を持って照れ臭そうにしていた。
「あむ……うまっ!これどしたの!?」
「めーちゃんと僕、あとひぃちゃんが頑張ったんよ〜」
「あたしは形教えただけだぞ」
柊の知識、そして手が器用なロゼと迷路による合作がこの入刀してくれと言わんばかりのデカいケーキだった。……食べ終わるのかな。
「保存に関してはそこに歩く冷凍保存庫がいるんよ〜」
「否定はしないわ」
「ルーチェのプレゼントは……なんすかこれ」
「栗じゃな!我の大好物じゃ」
「益々ごんぎつねじみてきたぞ」
その後は柊が錬金術で芸をしたり、子雀が何故かロゼと歌って踊ったり、迷路が酒を飲んで木葉にずっと抱きついていたりとなんかわちゃわちゃして、そのまま深夜になった。
甲板で夜風に当たっていると、少しふらつき気味な迷路がお水を飲みながら登ってきた。
「あはは、大丈夫?」
「うっ、ロゼのせいで私がこんなに飲む羽目に」
「いや、あれ度数高くないし」
「にしても、よ。はぁ、落ち着いてきた」
「ふふ、ありがとね迷路」
「どういたしまして。貴方の寂しそうな表情なんて見たくないもの」
「……してた?寂しそうな顔」
「貴方の心が、かしらね。でも結果的にはやって良かったと思ってる。貴方の嬉しそうな顔が見れた」
迷路が笑いかける。その表情を見て動悸が激しくなる。
最近迷路の一挙手一投足に目がいってしまう。彼女を目で追っている。木葉は暫くぽーっと眺めていたが、迷路がこちらを訝しげに見ていたので慌てて顔を逸らす。すると、また迷路は微笑んだ。
「戻りましょうか」
「……今日も」
「?」
「今日も一緒に……寝よ」
躊躇いながら言う。迷路はそんな私の頭を撫でて言った。
「勿論よ」
そして、少し離れて、
「木葉、生まれてきてくれてありがとう」
と、木葉にしか見せないような笑みで言うのだった。




