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5章3話:ゴダール山調査隊

 17期生のレベル上げは難航していた。ゴダール山調査が進まないのだから仕方ない。王都周辺にも魔獣出現地域はあるとは言えそんな低レベルの魔獣相手ではレベル上げに限度がある。


「アイテムゲットだぜ!」

「あー、俺らも早くダンジョン潜りてーよ」

「いいよなぁ5組の奴ら」


 こっちからすれば何も知らないままの4組の方が羨ましい。花蓮はそんな彼らに見向きもせず弓を磨いていた。

 

 花蓮と零児がマリアの護衛として正式に任命されたのはあの会談の3日後のこと。これによって花蓮は異界騎士団の副団長に17期生を指名し、その役割を分担することとなった。

 指名したのは上田おとめ。聖女だ。花蓮に寄ってきて一緒に頑張ろうなどと言っていたが、花蓮はマリアの警護で忙しい。

 どうやらそのことが不満らしく、自称サバサバ女:千曲ともえとその愉快な仲間達は花蓮の悪口を言いまくっているらしいが、そんなことを気にしている暇などない程に花蓮は忙しい日々を送っていた。


「……花蓮。君は17期生を見捨てるつもりかい?」


 再びあの城壁にてレガートが尋ねる。


「見捨てませんよ。でも、私は私のやるべき事を優先します。勇者や聖女は私がいなくても勝手に強くなりますよ」

「彼らは戦争を遊びか何かと勘違いしている。尤も、それは初期の君らもそうだった。……国民性というのは中々抜けるものではない。だからこそ君が彼らを導いてほしいんだ」

「……勝手な話ですね。その強制力から逃れる為に王女殿下の護衛になったと言ったら?」

「君、は」

「心配せずともゴダール山に行く時は副団長として最善を尽くします」


 レガートと別れて行先は、マリアの元だ。花蓮はマリアの側に仕えて、レイラとの会談も何度か行った。

 レイラの護衛は優秀なメイド達であったが、部屋に入る際は彼女らは居ない。代わりにカタリナと、そして先日零児の魂に干渉した少女:フィンベルのみである。

 彼女は世界でも数少ない魂魔法という禁忌の使い手らしく、レイラ陣営の中でもずば抜けて優秀な回復魔法の使い手でもある。花蓮もいい機会ということで身体の不調を診て貰い、幾つか直してもらった。


「17期生の様子はどうですか?」

「……勇者と聖女のレベルは20。他は見るに耐えないですが、何とかゴダール山攻略に連れて行けるレベルではあります」

「嫌そうな反応をしますわね。勇者と仲良くとまでは行かずとも、敵対しない範囲でお願いしますね?勇者と敵対した結果、カタリナは処刑に追いやられています。貴方達はただでさえ教育係を付けたがらないお父様にとっては疎ましい存在でしょうから」


 エルクドレール8世はレイラやマリアにあまり知識を与える事を良しとしていない。政略結婚の道具としてさっさと他国に出してしまいたいというのが本音なのだろう。だから、彼女らにとってのタイムリミットは早い。


「お姉様は恐らくスロヴィア連邦へ、わたくしは北方帝国でしょうか?勿論政略結婚なんて御免ですので其れまでに方は付けたいですけど」

「う、男と婚約だなんて考えただけで吐き気が……」

「どの道することに変わりはないのですけど」

「嫌です嫌です!私は女の子同士でイチャイチャしてたいんですううう!!!」

「吹っ切れましたわね」


 この3週間はマリアやレイラと沢山話し、適度に勇者ともコミュニケーションを取った。


「花蓮ちゃん!この世界の街ってどうなってるの?」

「花蓮、一緒に頑張ろうな!」

「5組の連中無能っぽいけど大丈夫ぅ?あ、あたしサバサバしてるって言われてるかr(以下略)」


 心中辛いものがある。たった3週間だが、彼らの性質や性格は大方掴んできた。

 勇者:松本シンは善人だ。だが他人の心が分からない善人だ。押し付けがましい正義を掲げ、理想論ばかりを語る。魔族に関しても殺すのではなく懲らしめるのだという。……花蓮も殺したことはないから人の事は言えないのだが、一度そのことについて尋ねてみた。


「ん?どうやって魔族を懲らしめるかって?簡単だ、話し合うんだよ!俺は最後にはみんな仲良くできるって信じてる!」


 このザマである。

 花蓮は会話する事を辞めた。

 

 さて、聖女:上田おとめだが、彼女は博愛主義者だ。既に王宮内でも色んな人に好かれており、かつての木葉を彷彿とさせる。というか花蓮的にはそれが1番キツい。

 兎に角木葉と被るのだ。メタ的な話をすると、昔の木葉と同じ性質を持っている。


「これ、お弁当だよ!」

「ほら笑顔笑顔!笑顔が大事!」

「辛かったら外に出よ!心も晴れるよ!」


 健全な人間なら確かにこの天真爛漫さに元気付けられるのだが、花蓮達16期生は地獄を見ている。ので、彼女の言動は空回りしている。


 最後に千曲ともえ。職業は魔術師。彼女に関しては語ることさえなんだか億劫である。


「あたしサバサバして(以下略」


 と、悪口をサバサバという言葉で誤魔化している。性格の悪さで言えばもう高畠三草あたりと対して変わらない。


 こんな人達とゴダール山に行くのか、と辟易しつつ、明日からのゴダール山遠征で何かが変わる予感がしていた。



……


………………


 勇者召喚から3週間後、花蓮ら異界騎士団はゴダール山へ向けて調査を開始した。ゴダール山はシャトンティエリ市から見て東に位置する山の一つ。先の戦争で壊滅したレムス市はその周辺都市であった為に被害を受けたのだ。

 いつものゴダール山攻略ではレムス市を拠点としている。が、流石に復興が完全ではなく、そんな状況を勇者に見せられない為その隣の村を拠点としている。

 ヴィトリー・レ・レムス村。レムス市に隣接する村であるが、魔獣一行がそのままシャトンティエリへと侵攻した為被害を免れた村だ。そこを拠点に異界騎士団は活動することとなる。

 

「なんかボロボロだなぁ。なんかあったん?」

「……一月以上前にここで戦争が起こったの。私達がこんなに少なくなった理由はそれ」


 初めての遠征で大はしゃぎしていた17期生も、いざ戦後のボロボロの街を見て緊張感が増しているようだった。


「な、なんでだよ!ここファンタジーの世界なんだろ?なんで戦争なんて……」

「いやでもゆーて街壊れてるだけじゃん?そんな街を俺らが救ってハッピーエンド的なさ、燃えね?」

「なる!ちゃっちゃか魔王倒して金持ちになりてーよなぁ」

「わかりみー!」


 ……まぁ、こんなものだろう。実際自分達もこんな感じだった訳だし、と回想する。

 因みになんであんな頻繁にゴダール山に行けていたのか、という説明をしておこうと思う。


 理由は簡単。【転移ゲート】があったからだ。


 このゲートは非常に多くの魔術師の力が必要で、そもそも維持が難しすぎるので王都の外壁とレムス市外壁を繋ぐこの1つしか保有出来ていない。

 ついでに言うとこの【転移ゲート】、『2代目勇者の負の遺産』とも呼ばれており、2代目が魔術師を奴隷のように扱き使って作り上げたものだと言う。という訳で中々に再現が難しい。流石の王都政府も悪評高い転移ゲートを各地に堂々と設置する訳にも行かず、渋々と此処を利用していると言うのが現状だ。


 ともあれ転移ゲートによってレムス市へと転移した異界騎士団はそのまま村で泊まり、翌日ゴダール山の調査を開始することとなる。

 1日目は周辺調査。意外なことに魔獣は全く現れなかった。奥に進んでみたがその周辺に魔獣の気配はない。

 2日目は内部に入ってみたが、やはり気配がない。ゴダール山は91層まで攻略しており、10層ごとに転移することが可能だ。と言うことで10層に転移してみたのだがこれまたはぐれ魔獣がいた程度で全く魔獣が居なかった。


「おっしゃぁ!俺の手柄!」

「ふっ、これが勇者の力だ」

「みんな怪我はない?」


 17期生は数少ない戦闘の機会に我こそはと突っ込んでいく。お陰で全く連携が取れない。

 そんな調子が3日、4日と続いたが、そこは腐っても魔女の宝箱。50層目からようやく魔獣が登場し始め、勇者達のレベル上げにちょうど良い形となった。それでも花蓮達が進んでいた頃より魔獣の数は少ないのだが。

 

 そんなこんなで2週間の時が過ぎ、勇者や聖女のレベルは40に到達していた。勿論グングン上がっていくレベルに大はしゃぎな彼らは、中には5組のレベルを抜かした者もいるので調子に乗り始めていた。特に千曲ともえが。


「あんたら半年以上この世界にいてうちらに抜かされるとかやばくね?あ、責めてないよ?単純に情けなくならないの?って意味」


 それは責めてる。あとお前のレベルはそんなに上がってない。


「おとめの功績はうちの功績みたいに喜べるんよね〜!ね、おとめ!」

「うん、いつもありがとねともちゃん!」

「あー!!本当に良い子、こぉんな良い子が櫛引木葉の次点とか言われてるのありえないんですけど!」


 学校の人気女子ランキングとかいう奴だ。男子が勝手に付けているランク付け、1位は木葉で、2位は上田おとめなのである。ちなみに花蓮については確かに可愛いのだが、木葉にべったりで脈なしということで3位だ。あと4位には剣道部の先輩が入ってたりする。

 非常にしょうもないのだが、ともえ的にはそれが気に食わないらしい。まぁ寄生先の友達が2位だなんて言われたら自分の自尊心も傷つくのだろう。多分。

 かくいう木葉はそういうの気にする素振りがないので、完全にともえの1人相撲である。


「まー、でも行方不明って言うし?あわよくば顔に傷の一つでもついてればいいのにねー」


 などと言っていたので花蓮はキレたが零児がそれを抑える。


「馬鹿!気持ちは分かるけど下手に動くな!俺らの行動はマリア殿下の評価に繋がるんだぜ!?」

「退いて零児!そいつ殺せない!」

「お前は何キャラなんだよ!?」

「てかうちも王女殿下の護衛やりたいわー。おとめもそう思うよね?」

「うん!えっと、花蓮ちゃん。私にも王女様を紹介してくれないかなあ?」


 この期に及んで花蓮の神経を逆撫でしまくる2人。零児もお姫様に仕えるということに結構な喜びを覚えていた為、割とキレそうである。


「ステイ、ステイ」

「ふー、ふー、零児もキレてるじゃない」

「そーだぞ零児ー。俺らもお姫様とお近づきになりてーよぉ」

「おめーらだけズリぃよ!」

「王子様はいないわけ〜?」

「でもさ〜騎士団長ってイケメンじゃない〜?ああいうワイルドな男めっちゃ好きなんだけど〜!」

「わかりみ〜」


 精神衛生上宜しくないので、2人ともさっさとその場から離れる。4組連中のブーイングは凄まじかったが今更何か思う事はなかった。

 花蓮も気が滅入ってしまったので少し歩いてレムス市内へと入ることにする。


「酷い……」


 気分転換のつもりで入ったものの、街は完全に崩壊し、まだあちこちに瓦礫の山が出来ていた。そんな瓦礫の山から人の手が出ているのをみて、これは勇者達に見せられないなと溜息を吐く。 

 勿論花蓮とて気分が悪い。配給所へ行ってそこでお粥を貰って食べた。瓦礫の座り心地はあまり良くないが。


「これが、私たちの無力の象徴よね」


 そう呟くと、背後からやってくる人物に、そちらに見向きもせずに話しかける。


「言ってませんよ、彼らには何も」

「それは上々。我々としても、勇者自身に魔王を倒してもらわないと意味がないからね。それではすくなが負けを認めない」

「……?」


 紺色のローブに身を包む黒髪の美丈夫、ノルヴァード・ギャレク大司教。

 今回の遠征には筆頭司祭も数名同行している。過剰戦力ではないか、と思うが教会としても何か思う所があるらしい。


「何か用ですか?」

「君は、魔王を見たことがあるかい?」

「へ?」

「……いや、いいか。楽しみだね、勇者が認めた魔王とやらを拝むのが」


 意味深なことを言って去っていく。花蓮はしばらくその背中を眺めていたが、不意に人混みの中に知ってる顔を見つけた。



「あれって……確か舞台で歌ってた子じゃ」



 茶色の翼を持つ鳥人族の少女。彼女はボロボロのローブを纏って人混みの中に消えていこうとする。


「……追いかけましょう」


 花蓮はお粥の容器を返すと、そのまま人混みの中を進んでいった。

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