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1章13話:私を殺して

ようやくメインヒロインが登場します♪

まぁ木葉自身がそうであるとも言えますが。さてさて一体どんな子でしょう?

「あは、あはは、あはははは、すごい、すごいすごい! 真っ黒なお部屋になったぁ! 王様のお部屋みたい! 綺麗だなぁ!」


 木葉の目は最早正気とは言えないものだった。いつのまにかすくなの声さえ聞こえなくなっていたがまぁいい。すくなは木葉の友達だからすぐ会える、なんて思って。


「このソファ好きだったのにな。今度花蓮ちゃんたちにも自慢して……」


(あれ? そもそも私ってどうしてここにいるんだっけ?)


「花蓮ちゃん? 樹咲ちゃん? 千鳥ちゃん? なんで、みんないないの?」


 あたりは静まり返っていて、誰も返事をしない。


「ねぇ、みんな? なんで、なんでな……」








「木葉」








 声がした。誰だろうと思ってあたりを見渡したけど、人っ子一人いない。それはそうだろう。木葉が全員殺したのだから。強いて言えばジャニコロくらいは残っているのかもしれない。


「そっかー、ジャニコロさんを忘れてたな。あの人もやらなきゃ」

「このは」

「……?」


 声が近い。誰? 



「あれ?」



 鉛色の空といつもの草原。また、知らない間に夢の世界に来ていたらしい。


「すくな? すくななの? ねぇ、すくな出てきてよ。ひとりぼっちは寂しいよ」


 すくなの返事はない。代わりに、


「木葉」

「……え?」





 ーー夢の中の女の子。木葉の親友が立っていた。





「あ、ぁあ、貴方は……」

「木葉、久しぶり」


 相変わらずその顔は黒い何かで覆われて見えなかったけど、その子は木葉に笑いかけた。


「あ、あはは。私会いたかったんだよ? でも、なんでわ」


 木葉が全て言い終わる前に、その子が木葉を抱きしめる。どこか温かくて、懐かしい感じがした。


「え、あ、あの?」

「木葉……壊れないで」

「え、わた、しは……」

「……ごめんなさい」

「ない、てるの?」


 その子は泣いていた。

 木葉をギュッと抱きしめて、手を背中に伸ばしてもう離れないようにとしっかりと抱きしめて、泣いていた。


「わたし、壊れて、ないよ?」

「木葉。闇に飲まれないで」

「なにを……言って……」

「木葉が何をしたのか、覚えてる?」

「ううん。でも、なんかガーって強くなっていっぱい暴れちゃって……あれ? それから私、どうなったの?」

「木葉。貴方は悪くない。悪くないのよ。だからお願い、壊れないで」

「ど、どうしたの? いきなり。あれ、私……なんで泣いて……」


 いつのまにか、木葉は涙を流していた。思い出したのだ、自分が途方もなく恐ろしいことをしていたことを。魔族の人を焼いた。ボルゲーゼの首を切り落とした。血にまみれて、嗤いながら闘う自分。


「木葉……私がいる」

「ぅうぅ、あぁ、私、何して……」

「大丈夫、貴方は悪くない。ごめんね、ごめんね」

「うううぅぅぅぅぁあぁぁあ、ぁぁぁあ」


 その時、確かに木葉の心から闇が晴れて行くような気がした。涙と一緒に浄化されて行く。そんな木葉を抱きしめたまま、少女は木葉の背後に立ったもう1人の木葉:すくなに言う。


「すくな、後はよろしく」

「貴方も、手は打ったんだよね。気の済むままにやればいいと思う。すくなもなるべく頑張るから」

「そう……ふふ、似てないわね」

「そう言わないで欲しいかな」

「大変なのはこれからよ」

「大変にしてるのは貴方だよ。でも、ちゃんと守り切って迎えに行かせる。約束」

「そう。良かった……」

「またね。次はいつなのか、わからないけど」

「意外と近いうちに会えるはずよ。本当に」


 木葉はまだ泣きじゃくっていたが、少女はその腕を解いて立ち上がる。


「またね」

「ま、待ってよ!! 私は……貴方は!」


 夢が醒める。木葉は、現実に引き戻された。血生臭い現実に。それは、人間として正常な心を取り戻した木葉にとって






 地獄以外の何物でもなかった。






「え、何、これ」

 辺りは黒の世界。黒、黒の血、血、黒、黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒。


 見るもの全てが黒。そして、手に握った日本刀がその黒を作り出した画家の正体を示していた。


「これ、もしかして、私が?」


 ぴちゃりと何かを踏みつける。それは、木葉が殺した魔族の血肉だった。


「あ、あぁぁ、いや、だ。わたし、こんな、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」


 木葉の声が、静謐な地下迷宮に響く。


……


……………


………………………


 そこは、湖だった。地底湖とでもいうべきなのか、鍾乳洞がキラキラと光っている。南国の海のような、鮮やかなブルーが反射してどこかロマンチックな雰囲気が洞窟内に醸し出されていた。


 その湖の真ん中の小島に"私"はいた。さっきまで鎖に繋がれていたはずなのに、その鎖は何故か丸焦げになっている。まぁいい、これで自由の身だ。


「頭がいたいわね。うぅ、私、なんでこんなところに」

 

 自分の鮮やかなブルーの髪を撫で、整える。そのサファイアがはめ込まれたような鮮やかな双眸であたりを見渡し、ここがどこかの洞窟のようなところであることを確認した。どこだここは? 


「頭痛い……ていうか裸なのが頂けないわ。私……は、魔術師、よね?」


 何やら違和感に気づく。自分の頭からすっぽりと何かが抜け落ちている感覚。記憶に重みなどないが、それでもどうにも頭が軽くなった気分だ。なにかしら? これ。そうね、まずは名前を言えるかどうか。"私"は、



「私は……誰?」



 おかしい。自分の名前が一切思い出せない。そもそもなんでこんなところに繋がれていたのかも。"私"は誰? ここはどこ? 一つくらいは覚えていないの? なにをしにここにいる、何のためにここにいる? 


 そんなのは決まっている。


「会わなきゃいけない人がいるから」


 自然と目的だけは口から発することができた。何故だか、会わなきゃいけない女の子がいるはずということだけは覚えている。会わなきゃいけない、救わなきゃいけない、助けなきゃいけない、か弱く脆く繊細な女の子。多分この近くにいるはず。そこまでの情報が脳に流れ込んできて、どうして自分のことが思い出せないんだろう? 


「歩きましょうか」


 せめて服がないと歩きたくないのだが、運良く近くにローブが落ちていた。これはもう仕組まれてるとしかいいようがない。


「まぁないよりマシね」


 魔法の使い方さえ忘れている、なんてことはなくて一応その知識は頭に入っている。


「投影魔法」


 地下にある『霊脈』と呼ばれる部分から魔力を引っ張り出して物質を作り出すというのが魔法。一応質量保存の法則は無視していないはず。ん? なにかしら質量保存の法則って? 


「わからないことが多すぎるわ。まぁとりあえず身体を拭きましょう」


 作り出したタオルで身体を隅々まで拭いて水気を取る。そしてその上から黒のローブを羽織った。


「これでよし。さて、行きましょうか」







 洞窟内というのは基本的に魔獣がいる恐れがあると習った。学校にでも通っていたのかしら? 色々と知識はあるのに肝心の記憶がない。もうわけがわからないわ。


「にしても、不気味なほど静かね」


 所々焼け焦げた跡があり、何らかのアクションがあったことは確かだ。討伐隊でも入ったのかしら? 


「そういえば、ステータス画面が開けるのを忘れてた」


【未登録/15歳/女性】

→役職:魔術師

→副職:観測手

→レベル:65

→タグカラー:

HP:1020

物理耐久力:820

魔力保持量:2000

魔術耐久力:850

敏速:685

【特殊技能】《凍れるメロディー》《癒しの光》

【通常技能】《言語》

・回避技能:《察知》

・強化技能:《精神汚染耐久》

・回復技能:《持続回復》《全体回復》《精神安定》

・攻撃技能:《氷結》

・観測技能:《認識範囲拡大》

【魔法】

・基礎魔法

・攻撃魔法:《凍土の願い》

・回復魔法:《冬の唄》



「すごい、魔力保持量がレベル65なんてものじゃない。ていうか未登録ってなに? これじゃ私の名前わからないじゃない」


 スキルもなかなか強い。これだけ強くてタグカラーがないのも気になるけど。


「15歳……か」


 まだまだ遊び盛りの歳頃だろう。全く、私の親はなにをしている。親の顔が見てみたい。まんまその意味で。


「うぁ、血の匂いが強くなってきた。何なのここ。この先に何かあるの?」


 どうやら彼方此方に部屋があるのを見ると、居住スペースになっていたらしいが全て燃えてしまっている。どこかの国の地下施設か何かかしら? 


 そして、大きな扉の前までやってきた。匂いは、どうやらこの奥からするらしい。


「さしずめ魔王の間と言ったところかしら? でも、中にそんな邪悪な存在がいるような気がしないのは何故?」


 でも油断しないに越したことはない。開けた瞬間サクッとやられてバッドエンドなんてことにもなりかねないのだから。

 深呼吸して心を落ち着ける。だが深呼吸するほど心は乱れていなくて、そのことが私には不思議でならない。この先になにがあるのかもうほとんど分かっていて、それが私の目的のような気がする。会いたい人、会わなくちゃいけない人、救わなくてちゃいけない人が。



 ガチャ。



 ギィィィという大きな音を立てて開いた扉の向こうから、むせ返るような血の匂いが漂ってくる。思わず口を押さえて、込み上げてくる吐き気を押さえ込んだ。口の中が酸っぱくなったが特に問題はない。それより、私は見てしまった。




 ーー部屋の真ん中で、1人泣きながら呆然と座り込んでいる女の子を。




「……綺麗」




 思わずそう口に出してしまうほど美しい女の子。髪は白銀、瞳はルビーのように赤く煌めいていて、その顔はまだあどけない少女のもの。ただ、その頭には二本の黒いツノが生えていて手元には大きな太刀が置かれていた。

 その子を見たとき、私は「ああ、この子だ」という感覚に駆られることとなる。私が探していた女の子。静かに近づいていく。女の子の方も気づいたようで、その虚ろな瞳で私を見上げた。

 可愛い。すごく可愛い。どうしよう平静を装っているか不安だ。私の冷静沈着な能面フェイスが変な風になっていたりしないか、犯罪者みたいな顔をしていないだろうか? 


「だれ?」


 少女が尋ねてくる。何を言おうか迷う。

 何故なら、私には記憶がない。名前も知らない。だけど、少女はその答えを聞こうとはしていないようだ。今はそんなことどうでもいいと言わんばかりの虚ろな瞳に、溢れんばかりの涙をためて。


 私が何か言う前に、その子は確かにこう言った。






「だれでもいい、だれでもいいから……お願い










私を殺して」

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