5章1話:デジャヴ
さて5章スタートです!
5章はまぁそんなに長くならないというか、話が単純になると思います。日常回多め、みたいな?
王都は歓声で満ちていた。ああ、王都の歓声と聞いて嫌な想像を思い浮かべる方、正解である。
城壁の門の前、中央広間にて掲げられた首……【土の聖女:ニルヴァ】を見て石をぶつける人々。そんな歓声が王城まで響いてくる。
どうやら土の聖女は東の魔王と並んで王都政府へ叛逆した大罪人と言う事になっているらしい。その影響もあって彼女のギルドメンバーは全員処刑されたし、王都のギルド連盟はその名声に翳りを見せた。
冒険者としても肩身が狭くなった為、結果として神聖王国軍への入隊希望者が増えたと言う。こんなとこまで上手く政治利用しているのを見ると、上層部は流石だなぁと少女はため息を吐いた。
「この歓声、王宮のみんなには聞こえないようにしてるのよね確か」
胡散臭そうな目で王宮の方を見る尾花花蓮。先程のまでの時間を思い出して憂鬱さMAXになり、現在こうして城壁に座って街を眺めている。
今回のシャトンティエリ騒動。5名の生徒が死亡し、残った生徒も数人はそのショックから精神を病んで未だ自室から出てこない。笹乃含めて38人居た勇者パーティーは、今や23人しか残留しておらず、その半分は引き篭もりに。
結局先程ホールに集まったのは13人のみ。しかも新たに悩みの種が増えてしまった。
「まさか、1-4のみんなが転移してくるなんて……」
満開百合高校1-4の生徒40名 (何故か教師は居なかった)がバジリス王宮に召喚された。そんな彼らと残ったメンバーを統合して、新たに【異界騎士団】なるものを設立するらしい。
団長は引き続きレガート・フォルベッサ近衛騎士団長だ。そして副団長には、
「私、かあ」
16期生、尾花花蓮。とはいえ新たに召喚されたメンバー(17期生と呼称)は、『勇者』だけでなく『聖女』までいるという。土の聖女が欠けた今、聖女職という珍しい職業は貴重である。いずれ彼女らは花蓮の力を抜き去るだろう。
しかし花蓮からして見れば、こんな鬱ゲー世界相手では例え勇者が10人居ようとも死ぬ時は死ぬし手足は容赦なくもげる。これからまた級友たちが死ぬかもしれないという事実に身震いする。
今のうちに真実を教えてあげられればベストだが、異端審問官から目つけられている以上下手な動きは出来ない。ので、こうして鬱々としたまま何も出来ずにぼーっとしているのだ。
「不安かね」
赤毛の美丈夫、レガート団長が花蓮の隣に来て城壁に肘をついた。
花蓮はそちらを振り向きもせず、ただぼーっとしている。普通なら不敬に当たるのだが、最早そんなことを気にする余裕すらなかった。
「不安です。そもそも良いんですか?伝えなくて」
「…………」
「私達の時だって、伝えなかったですもんね、色んなこと」
「それ、は……」
「団長は悪くないことは知ってます。でも、私達はあまりにも上から知らされていない。『異世界』なんて夢のような嘘の世界を甘い甘いオブラートに包まれて丸め込まれて、肝心の汚い本当の世界を見せてもらえなかった。……それが、シャトンティエリの悲劇に繋がったんです」
「…………」
「でも初めが肝心なのは分かってます。こんな事実、伝えたらそれこそ戦意喪失ですから。初めは夢を見せてあげるところからしなくちゃなんて分かってます。けど」
「…………」
「ちゃんと最後には伝えます。そのタイミングは、私が決めます。じゃないとまた繰り返しますよ。それだけ、言いたかったんです」
花蓮はそう言うと踵を返して王宮の方へと戻っていった。
レガートはそのまま珍しく煙草を取り出し火をつける。そのまま深く息を吸って煙を吐き出した。
「……伝える、ね」
そう呟くレガート。その後やってきた人物を見てレガートは慌てて煙草を消した。
「失礼致しました閣下!」
「いいですよ?吸ってても。珍しいですからね、貴方が煙草だなんて」
「……吸いたくなったのですよ」
「ふぅん、ま、良いですけど」
官僚風の眼鏡の男____メイガス・シャーロック将軍は葉巻を取り出して吸い始める。
「先の件でハッキリしました。王宮第一主義……まぁ軍事独裁派とでも言いましょうか。彼らや、教会派、そして宰相派とこの国の政争は目に余ります。競争は人類に発展を促す手段ではありますが、行き過ぎて民が救えぬのであれば本末転倒と言うものです」
「……仰る通りです」
「特に3宰相と他の7将軍は最早佞臣ですねぇ。先の戦でどれだけ被害を被ったのかその計算も出来ないようではこの国の未来は危うい」
「……閣下、少しお控えください」
「レガート、貴方は勝手に王宮第一主義者だと思われてるみたいですよぉ?身の振り方は考えてください。……私は、色々と考えなくてはならないようです」
「閣下。もし、閣下がお立ちになる、というのなら、私はッ!」
そこまで言って周囲の目を気にする。メイガスは眼鏡をきらりと光らせ、笑わずに言う。
「貴方は忠臣ですよ。だからこそ、本当に守るべきものを心の中にちゃんと決めておきなさい。守れなかった後悔があるのならば尚更」
再び1人になるレガート。煙草を咥えてまた火をつける。これを吸い終わったら異界騎士団の職務に戻ろう。
だがこの時のメイガスの言葉は、この先ずっとレガートの心に引っ掛かり続けるのであった。
…
……
……………
見慣れた風景だ。内容は見慣れていないが、こういうのをデジャヴという。つい半年前も似たような光景を目の当たりにしているなぁと、花蓮は思った。
「やっべぇ!手から火の玉でたぞ!」
「俺もさっき犬が召喚できたわ!」
「私凄い速度で服が作れるようになったの!」
16・17期生を集めたいつもの大講義室。そこで17期生達は初めての魔法に大はしゃぎである。そんな彼らをどこか冷めた目で見る16期生達。
「懐かしいな……って半年前だよな」
「うん。それより零児が戻ってきて良かったわ。てっきり拷問とか、洗脳とかされるのかと」
「こ、怖い事言うなよ!いや俺もされるんかなぁと震えてはいたけどさ」
花蓮にとって唯一の朗報は、脱走未遂で捕まっていた天童零児が解放されたことである。鶴岡千鳥のように完全洗脳されて帰ってくるのかな、とか思ってたのだが見たところ一切変化なく帰ってきたので拍子抜けしているところだ。
ムードメーカーでもあった零児が帰ってきたことで、残留する16期生は再び結束を取り戻しつつある。花蓮としても幼馴染みでもある零児の復帰は非常に心強かった。
「さて、このクラスは運が良い。勇者と聖女が揃っている」
「運が良いじゃないですよ、これは俺たちの日頃の成果の賜物です!」
1人の少年が自信満々に立ち上がる。
「改めて、【勇者】となった松本シンだ!シンって気軽に呼んでくれ!この世界の人々の為にも、【魔王】は絶対俺が倒してみせるよ!」
『松本シン』。白鷹語李ほどではないが、彼もまた有名人だ。部活動などで優れているわけではなく、気づけば人助けをしているので色んな人から認知されているという性質を持っている。
見た目はイケメンな方ではあるが、身体は細く身体能力も至って平凡だ。アリエスの上位互換くらいで捉えてもらえればいい。量産型テンプレなろう主人公のような顔をしているので、ある意味勇者としては相応しいかもしれない。と花蓮は辛辣な評価をした。
「え、えっと、【聖女】になった上田おとめです!辛いこともあるかもしれないけど、困ったら笑顔を忘れないでね!宜しくお願いします!」
『上田おとめ』。彼女はどこか雰囲気が木葉と似ている。木葉程ではないが顔も広く、何より非常に穏やかで優しい性格の持ち主。確か木葉とも面識があった筈だ。
見た目は明るい茶色の髪をロングにしたゆるふわ少女と言った感じ。このふわふわした見た目に違わず中身もかなりフワフワしており、かなり楽観的に物事を考えるし何よりドが付くほどの博愛主義者だ。正直彼女ほど胡散臭いものはない、と花蓮は辛辣な評価をした。
「花蓮さん、君がこのクラスのリーダーなんだよね?宜しく!」
「え、ええ、宜しく」
「なんか少なくないー?ていうか尾花さんで大丈夫?なんか頼りなさげじゃない?」
「え」
「あ、ごめん。ほらうちってサバサバしてるからさ、結構思ったことずばっと言っちゃうんだよね、気を悪くしないでねー?」
松本シンの挨拶後にやってきた黒髪の女、彼女は『千曲ともえ』と言う。いつも上田おとめと一緒にいる女で、自称サバサバ系。自称サバサバに碌な女は居ない。お前のサバサバはサバサバじゃなくて口が悪いだけだ。
さて、恐らくこの3人がクラスを仕切っていくんだろうなぁと感じ取り、溜息を吐いた。
「は?なんで溜息吐いてんの?てか遊佐ちゃんは?なんか人少なくない?」
そういえば、ともえは死亡した遊佐蜜流と仲良しだった気がする。
「団長。それより今後の目的についてお話しして貰えますか?当分は彼らのレベル上げが先決でしょうけど、魔女の宝箱攻略についても色々聞いておきたいです」
「ちょ、何無視して……」
「ふむ。みな席につきたまえ。これからの方針を決めておこうと思う」
それからレガートは魔女の宝箱と魔女の宝石について一通り説明をした。船形荒野が舞い上がったように、松本シンもなんだか嬉しそうにしていたが、やはりデジャヴということで今更どうとも思わない。
「勇者のレベル上げについてだが、一応またゴダール山でやるつもりだ。だが、アレだけのことがあったんだ。何が起こるかわからない。と言うことで我々や異端審問官も動員して調査を開始する」
「何日後、ですか?」
「3周後だ。時間がないので勇者の成長も荒治療となる。ゴダール山では我々や異端審問官達から戦闘を学んで欲しい」
短すぎる。が、花蓮にとっては長すぎる。花蓮としては早くゴダール山に調査に赴きたかった。その理由は勿論、
「冒険者ヒカリ……あの子に会わなきゃ。行方不明って言ってるけど、彼女は間違いなく生きてる」
確信めいた何かを感じる。会って確かめなくてはならない。
貴方は何者なのか。何故、船形荒野を殺さなくてはならなかったのか。何故、助けてくれたのか。
「木葉ちゃん……」
まるで御呪いを唱えるように呟く。自分の予想が外れていることを信じながら、花蓮は何度でも呟く。
講義室から出て外の空気を浴びようとするが、後ろから声をかけられて足を止めた。
「花蓮ちゃん!」
「……上田さん」
「おとめでいいよ!」
上田おとめ。そして、その腰巾着である千曲ともえ。あとついでに松本シン。おとめの声色はどこか木葉を彷彿とさせるので凄く複雑な気持ちになるが、なんとか笑顔を作って対応する。
「何かしら?」
「えっとね、花蓮ちゃん達がどんな冒険をしてきたかを私達にも教えてほしいんだ!」
「…………」
凄く嫌だ。そもそも冒険なんてしてない。
「いーよおとめー。どーせ大した事してないし。1-5なんか白鷹くんと櫛引木葉以外まともなの居なかったじゃん。つーかあの2人は?」
「駄目だよともちゃん!そんな事言っちゃ!みんな仲良く、だよ!」
「そうだね、みんな仲良くしないと!」
シンとおとめの発言に、花蓮は思わず吐き気を催す。いやいや、これが平和ボケした日本人の一般的感性なのだ、と自分に言い聞かせて再び前を向いた。
「木葉ちゃんは行方不明、語李くんは……ごめんなさい、言えない」
「は?」
「行方不明って」
「マ?」
「うん、だから私ずっと探してるの。あと他のみんなにも気を遣ってあげて。こないだまで凄く大きな戦いがあって、みんな精神的にもかなりキツいから……」
花蓮はこれでもかと向こうに同情させるように注意して喋るのだが、帰ってきた反応は予想外のものだった。
「いやいや、そんな時だからこそ結束しないと!俺達が来たのに塞ぎ込んでちゃ、誰が俺達にこの世界のことを教えてくれるんだい?」
「私が励ましてくるからみんなで頑張ろうよ!」
「つーかそれあんたらが弱かっただけじゃね?ここファンタジーの世界でしょ?精神病むとかあるの?w」
思わずムっとするような発言。だが花蓮は耐える。ここで真実を告げても花蓮は異端審問官によって殺されてしまう。それでは意味がない。
「私は私のことで精一杯なの。だから、貴方達のことまで構ってられる余裕はないの」
これは紛れもない花蓮の本音だ。だが、それでも彼女らは食い下がる。
「家族と離れて不安なのは分かるけど、それでもこの世界の人が困ってるなら力になってあげたい。花蓮ちゃんはそうは思わないの?」
「思わない。私はただ帰ることだけを目的としてるから。木葉ちゃんと……みんなと」
「薄情なんだな。レガートさんから聞いたけど、この世界は魔王や魔族によって苦しめられてるらしいじゃないか!神聖王国と教会はそんな人々の為に必死に頑張ってる。俺たちはみんなで協力して悪を討つべきだ!」
「……何も知らない癖に」
「花蓮ちゃんらしくないよ!花蓮ちゃんは木葉ちゃん思いのいい子だったもん!何か辛いなら私が相談に……」
もう限界だった。
花蓮は何も言わずに踵を返し、歩いて行った。後ろから、「逃げんな」とか「どうしちゃったんだろう」とか「諦めずに話しかければ大丈夫さ」とか聞こえてきたけど、全てを無視して自室に戻り鍵を掛ける。
「うっ、ううっ……この、は、ちゃん……ううあああああああああああああ!!!」
その日、花蓮は一日中泣き続けた。声が枯れるまで木葉の名前を叫ぶ。
途中、心配した零児が部屋に入ってくるまで、花蓮は決壊した心を抑えきれずに只管泣き続けた。
「花蓮、入るぞ」
泣き続ける花蓮を心配して零児が部屋をノック。反応がない為、部屋に入る。
「れ、いじぃ……」
「……なんて顔してんだよまじで。まじでボロッボロじゃんかよ」
花蓮に無言でハンカチを差し出す。
「……語李はもういねぇ。船形も死んだ。千鳥も、笹ちゃん先生も、誰も頼れねぇ。
でも俺がいる!俺とお前で何とかしよう。やっと自由に行動できるんだぜ?昔みたいに暴れまわってやろう。得意だろ?そういうの」
零児がニカっと笑う。花蓮は幼馴染みのこういうところが好きだった。本当に、木葉に落とされてなかったら零児に恋してたかもしれないと思う程に。
「……そこは木葉ちゃんには勝てないよなぁ」
「……?なんかいった?」
「いや、何でもねーべ。飯食い行くぞ飯!……ってあー、もしかしてこれ1-4の奴らと一緒かな?」
「うっ、それは……」
「じゃ、城下町出てなんか食い行くか」
「へ?」
「真室ちゃんが使ってた通路、俺知ってるんだわ」
あれ、それってまさか脱走の時のじゃ……。
「いや、流石にもう使えないでしょう?」
「あっ」
「やっぱ馬鹿」
「うっせぇ!取り敢えず外出るぞ外!」
「ちょ、ちょっと!」
ガチャ。とドアノブを回して中庭に出る。すると、
「あれ、花蓮?」
「うげっ」
マリア第一王女とレイラ第二王女が取っ組み合いでわちゃわちゃやっている最中であった。
因みに15期生は福島県、16期生は山形県、17期生は長野県の地名から名前を取ってます。
【15期生】→福島・金山・磐梯・双葉など。
【16期生】→櫛引・最上・尾花・鮭川・真室・白鷹・天童・鶴岡・米沢・戸沢・船形など。
【17期生】→松本・上田・千曲など。




