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1話:食器使いと歌詠み

 真室柊の章スタートです、が、この話すごい早く終わります。そしてかなり早く更新します(自己プレッシャー)。

 

 神聖パルシア王国。1000年前、初代国王パルシアがパリスパレスの地に旗を立てたことで築かれた1000年王国。その版図は今やメルカトル大陸全土に及び、世界最大の覇権国家となっている。

 そんな神聖王国最大の発展地域は【イル・ド・パルシア】と呼ばれるパリスパレス周辺地域で、ここを中心に商業ルートが築かれてきた。神聖王国の主な貿易国は属国であるオストリア・ブダレスト大公国やその東のスロヴィア連邦であるが、王都とそれらの国家を結ぶ重要拠点は神聖王国建国の時期から重要な発展を遂げてきていた。

 それが、東都:ストラスヴールである。


「此処か。やっと来たなぁ、東都」


 さてさて、1人の少女がそんなイル・ド・パルシアの地域を抜けてその東を目指すべく東都の地を訪れていた。

 ああ、忘れてる人は絶対多いので紹介する。彼女の名前は真室柊(まむろひいらぎ)。櫛引木葉を探してこんなところまでやってきたお人好しだ。詳しくは1章参照である。

 染め上げられた金髪が靡く。ここに来るまで随分と時間がかかってしまった。


「脱走してから半年、それも一回北リタリー公国に向かおうとしてこのザマだしな……」


 木葉が連れ去られて行った方向:南東にはラクルゼーロ、リヒテンと呼ばれる地域があるがそこは魔獣が活発ではない。どちらかと言えばその先、ヴェニス以南の【魔導国】が目的地だろうと睨んだ柊は、中央パルシアから南都を経由して魔導国を目指していたわけだ。ところが……。


「魔導国が壊滅……。ヴェニスは崩壊。とてもじゃないけど木葉の動向が追える筈ない。となりゃ次は取り敢えず【ライン魔導地域】だろってことだ」


 神聖王国とリルヴィーツェ帝国の間にある魔族の住処、ライン魔導地域。そこは100年前は小国が乱立していたものの、2代目魔王の蹂躙によって荒廃し魔族の居住地と化していた。

 そしてライン魔導地域に渡るのに必要な場所、それが東都なのだ。


「さてと、先ずはライン地域に渡るための書類発行を国境管理局に依頼……めんどくさいな」


 東都の街並みは王都とは大きく異なる。何故ならここから東がリルヴィーツェの民族であるように東都が分かれ目となっているのだ。そのためリルヴィーツェ民族特有の建築がなされている。現実で言い換えれば独仏国境のような状態、いわゆるアルザス・ロレーヌみたいな所だ。

 屋台で買ったソーセージをひと齧りして管理局事務所を目指す。が、しかし、事件は唐突に起こるものだ。


「捕まえたぞ逆賊がぁっ!」

「やめて、やめてください!その子は違います!」

「きゃっ!話してよぉお!」

「とぼけるな逆賊め!国王陛下に仇なす五華氏族の末裔は皆殺しだと、東都のカスカティス閣下直々のご命令である!神妙にせい!」

「やだぁっ、やだあああ!!!」


(あん?)


 近道しようと入った入り組んだ路地。その前方で2人の女性を数名の兵士たちが囲んでいた。兵士は1人の女性を組み伏せ、手に縄をかけようとしていた。


(うわ、確実に面倒ごとだ……)


 咄嗟にそう察した柊は何も見てませんよーという顔つきで遠くを見ながらやり過ごそうとする……が、残念ながら柊は今回主人公なのです……。


「助けてぇぇ!!!」


(あー、ごめん。これ無理だわ)


 柊は腰のホルスターから拳銃を抜き、安全装置を外した。結局こうなるか、と自嘲気味に笑う柊。


「なんだお前はァ!」


 兵士の1人が吠える。しかし柊はこの長い旅の中で幾度も兵士と遭遇し、またその度にねじ伏せて来たため今更ビビったりはしない。


「あーあー、通りすがりの不良でーす。いや、ね?アタシの居ないところだったらまぁもしかしたら見逃してたかもしんないんだけど、目の前じゃん?ド目の前じゃん?流石にこれ見捨てたらアタシ人間じゃないかなぁって」

「何を言っているっ!コイツは五華氏族の家来ども、即ち逆賊!これは大義である!邪魔をするというのなら貴様も逆賊として処断できるのだ……」


 パァン!!!

 銃声が鳴り響く。硝煙の香りが辺りに立ち込め、兵士はペタリと座り込んだ。

 そんな兵士を見て柊は一言、


「うるせぇ」


 と言うのだった。

 空砲。しかしそれでもビビらせるのには充分だ。


「つーか、五華氏族ってなんだっけ……。まぁいいや。これ以上動くと取り敢えず足撃つけど?」

「くっ!奴も捕らえるのだ!クソガキが、大人を舐めてかかったらどうなるか思い知れ!」

「うわだぁっる。ま、遠慮は要らなそうだな」


 柊はもう一つのホルスターから拳銃を抜き、再び発砲した。


「ぐあっ!」


 鉛の玉が兵士の足を抉る。そのまま続けて発砲、今度は他の兵士の腕を撃ち抜いた。

 初めの頃は人に銃を向けることに抵抗感が凄まじかったが、慣れてくると存外冷静に対処可能だ。流石に殺したことはないからそうなってくると話は別だが。


「つってもキリねぇしなぁ。この街中で煙幕は……流石に目立つか?」


 考えあぐねる柊。しかし騒ぎを聞いて駆けつけて来たのか、更に兵士の数が増えていく。しかも中には恐らく上の位を持つ騎士までいた。


(一般兵士の上、部隊長まで出張って来やがったか……。くそ、流石にアウェー過ぎたな。どうする、どうする?)


 柊にジリジリと迫る兵士たち。しかし、






「魔剣スキル:《紫陽花の咲く季節》、食え」






 柊の周囲に、キラキラとした破片が飛び散る。これは……ステンドグラスだろうか。紫陽花色の光のシャワーが降り注いでくる。


「な、何だこれ」


 思わず手のひらを広げて落ちてくる粒に触れようとする。しかし背後からそれを諌める声がする、


「ストップ。そこの奴らを連れてってくれ。この場は収める」

「は!?」


 振り向くとそこには、金色の髪を持つ男性が巨大な剣を構えていた。その後ろから更に、


「お兄、一応眠らせとくけど、おけ?」


 と、気怠げそうな声の少女が歩いて来た。


「これ以上の騒ぎは困るし、頼む」

「りょ。んじゃ、あーしがテキトーにやっとくわ」


 呆気に取られる柊だったが、その次の瞬間に前方の兵士達がバタバタと倒れ始めたことで更に驚愕。

 しかも、応援に駆けつけた兵士たちは何やら腹を抑えて蹲っている。


「うおぁ、ぁあぁ、腹が、減ったぁぁ……」

「なんか、食い物、食い物ぉぉ……」


(え、何これ……)


「行くぞ」

「ん?おわ!お、おい!」


 柊の手を取る男。それを振り解こうとする柊だったが、


「此処だとお前も巻き添えだ。良いから取り敢えず離れるぞ」


 隈が出来て何と言うか死んだような瞳をする少年だ、という印象を持った。金髪、緑眼の美青年……顔立ちだけならまるで童話の中の王子様のような存在。だがどこか暗い雰囲気を出した目の前の青年は、柊にとっては只者ではないように感じられた。


「いーから行くよ。あーしらに着いてくれば取り敢えず安全だから」


 気怠げそうに少女が言う。明るいブラウンの髪がボブカットに切り揃えられている少女、その口から大きな溜息が漏れた。

 少女は腰からとある物を取り出す。


(羊皮紙?)


 クルクルと巻かれた羊皮紙をバッと開くと、何かをブツブツと詠唱し始めた。


「行くぞ」

「え、ちょっ」


 背後からバタバタと人が倒れる音がする。振り向くとそこには熟睡した兵士たちの姿があった。

 そんな彼らに連れられて裏路地からさらに細い路地へ。そろそろ治安も悪くなってきたところで、青年が振り向いた。


「ここまで来たら大丈夫だろ。……彼女らを助けてくれてありがとう、そんだけ言いたかった」

「……どーも。ま、アタシもあの場に居たらやばかったし」

「ウケる。あーしらと一緒な時点で超ヤバいんだけどね」


 髪の毛をクルクルと弄りながら少女が笑う。


「……どういう、意味だよ」

「あーしらの素性を考えたら、ね?」

「素性……?まさか犯罪者……とかじゃ……?」


 素性だのなんだの言ってことは、まさか後ろめたいことをしてるんじゃなかろうか、と柊は疑う。しかしそれを直ぐに青年は否定した。


「一応、元貴族としてそのジョークは笑えねーな。だから名乗っとく」


 金髪の青年は手を胸にやる。実に優雅な仕草である。ボブの少女はスカートの裾を持ち上げ、カーテシーをした。




「五華氏族、【食器使い】ヴィラフィリア家当主:ルビライト・ヴィラフィリア」

「同じく五華氏族、【歌詠み】オリバード家の末裔:ルチア・ヴィラフィリア。よろ〜」




 あぁ、今回アタシ主人公なのか?

 この街に来て早々厄介事に首を突っ込んでしまったというガッカリ感だけが彼女の胸に重くのしかかっていた。



……


…………


 真室柊という少女は、昔から巻き込まれ体質であった。家庭は非常に一般的な筈なのだが、昔から妙に主人公補正が発揮される。

 不良に友達が拐われたと泣きつかれて柊が助けに行ったり、銀行強盗に巻き込まれて隙を見て犯人をボコボコにしたり……とまぁ常人では体験できないようなことを柊はこの体質により体験してきた。ある意味木葉より主人公らしいと言える。


(にしてもなぁ……。これ出だしからミスったろ)


 柊は東都にたどり着くまでにある程度の国内情勢は手に入れてある。頭の出来が良い方では無いので直ぐ忘れてしまうが、やはり一度見聞きした内容というのはしっかり脳にインプットされているらしい。


(五華氏族。建国当時の1000年前から神聖王国に仕えてて、16年前の王都内乱で滅亡した名門中の名門貴族。いや、広大な領土を有していたことから最早王族と呼んでもいいくらいだ……)


 実際、竜使い:フルガウド家が南パルシア地域、リヒテン地域を支配していたことから、五華氏族の支配地域というのは一国レベルだ。

 そして王子様の如き整った顔を持つ青年:ルビライトは【食器使い】を名乗り、茶髪ボブの少女:ルチアは【歌詠み】を名乗っていた。確かに何れも五華氏族の名前だ。


「……五華氏族って滅んだんじゃねーのかよ」

「ウケる、お兄勝手に滅ぼされてる」

「一般的には、な。実際ヴィラフィリア家も俺以外は全滅してる。つまり俺めっちゃ貴重、国宝指定してくれよマジで」

「お兄ゴミほどの価値もないし」

「そりゃあゴミに失礼だろ」

「お兄自虐うっざい」

「あっ、はい」


(なんだコイツら……)


 仲良さげ(?)にどつきあっている2人。見たところルビライトの方は20歳手前と言ったところか。ルチアの方は恐らく柊と同い年くらいだ。


「さてと。そういやお前の名前聞いてなかったな」

「アタシ?アタシは柊。真室柊、柊が名前ね」

「……。その名前、桜花島出身者か?」

「おう、かとう?」

「……知らないか。てことは、やっぱ」

「あたりっぽい?」

「シャネルやアリエス・ピラーエッジの本名と似てる。それだけでも充分だろ」


 柊には何のことだか分からなかったが、ルビライトとルチアは深刻そうな顔をしていた。

 そしてそのまま柊を見て言った。


「異世界勇者」

「_________ッ!」

「あたりか?」


 柊は驚嘆する。あまり日本人だとバレる要素もなかった筈だ。しかしルビライトは目を細めながらこちらを眺め、さも柊が異世界人であること前提、のような雰囲気で話しかけてくる。


「成る程。ま、俺じゃなかったら隠し通せるぞ。髪色も黒髪なら兎も角金色……これも染めたものか。携帯している武器は未確認の兵器、恐らく錬金術師」

「……まじかよ」


 殆どバレている。柊の警戒度は増していた。いざとなったら煙幕を張ってさっさと逃げ出そう、と。先程の彼らの魔法を考えるならば、その逃走劇は王宮脱出よりも難易度が高そうではあるが。

 だが彼らの態度は断じて敵対的ではない。寧ろ、その素性から考えるに極めて友好的と言える。

 しかも、直後に出てきた情報は今の柊が求めていたソレであった。


「恐らく、数ヶ月前に召喚された異世界人の中で2番目に脱出した奴だろ。3番目の連中は東都に来るには早すぎるからな」


 今、この男は何と言った?2番目?

 それならば、1番目は誰だ……?


「お、おい!お前、お前何か知ってるのか!?」

「…………」

「頼む!アタシは、アタシにはやんなきゃいけないことがあるんだ!何か知ってるなら教えて欲しい!その為なら___ッ!」

「場所を変えるぞ。今度こそ、静かにかつ有意義に話し合おう。俺たちの今後の為にも」


 




 その後、柊は案内されるままにとある廃教会に訪れていた。位置的には東都の東、郊外と言っていい地点にある。


「ほいお待たせ、地上海風シーフードパスタ。デザートには地上海諸島のレモンを使ったレモンケーキだ、残したら俺が泣く」

「残さねーよ……ってうまぁ!」

「お兄料理だけは凄いからねー。普段キモいのを料理の上手さでプラマイゼロにしてるってゆーか?」

「残さなくても俺泣くわ」


 毒でも入れられたらどうしようとか疑ってたのが馬鹿馬鹿しくなるくらい、この兄妹は仲睦まじそうに絡んでいる。ルチアの方はあれでルビライトに見つめられると少し赤面していることを、柊は見逃していない。


「素直になればいいのに」

「な!?何のことだし!あーしいっつも素直だし!」

「ん?なんかあったのか?」


 ルビライトに覗き込まれたルチアは、何故か持っていたフォークをルビライトに突き出して追い払おうとした。


「うっさいバカお兄こっち見んなキモい!」

「え、俺ほんとに何もやってなくね……」


 どうやらエプロン姿の兄に見惚れてるらしいな、と柊は勝手に解釈した。確かに料理を作っている時のルビライトは、持ち前の美顔も相まって物凄く輝いて見えた。

 わいわいと騒ぎながら(主に兄妹が)食事を終えると、ルビライトの方が切り出した。


「改めて俺はルビライト・ヴィラフィリア。こっちは妹のルチア・ヴィラフィリア。一応兄妹名乗ってるけど血は繋がってないからな」

「そそ。義理と知った時はビビったし!全くあーしに似てないし、なんかキモいし本当の兄だったら絶望だったし!」

「うぉん、お兄ちゃん心折れそう……」

「全くだし!お兄がお兄じゃなくて本当に良かったし!」


 そう宣うルチアはどこか上機嫌そうだ。そんな態度を取る割にルビライトの袖を掴んで離さないのだから、彼女の性格がよく取れて見える。


「で、教えてくれるんだよな?さっき言ったアレの意味」

「ああ。一応確認するけどお前のここに来た目的は?」

「……情報収集と出国。けど情報次第では出国しない。だから優先度は前者だ」

「了解」


 そう言うとルビライトはアイテムボックスから地図を取り出した。そこには、詳細な文字情報が書き込まれている。


「俺は、まぁある目的のために結成された組織のリーダーをやってる。【白磁の星々】、聞いたことあるかも知らないけど、反政府組織って奴だな」


 ごくりと唾を飲む。柊とて道中での情報収集で名前くらいは聞いている。


「その過程で他の五華氏族と連携を取ってる。その1人に、ロゼ・フルガウドって言う女の子がいてな」

「フルガウド……確か、竜使いだっけ」

「そのフルガウドがリヒテン市で異端審問官と交戦した。んでその時フルガウドに協力した冒険者がいる。そいつは、いとも容易く異端審問官を破った」

「……それがどうしたんだよ」






「俺は、こいつが最初に王都を抜け出した異世界人の可能性があると見てる」






 ヒュッという息が漏れた。最初に王都から抜け出した冒険者……それは、つまり、柊の探している人物で……。


「根拠は、あんのかよ」

「王都に潜んでる仲間の情報だと異世界人を攫った連中は魔族らしい。そして、そいつらが操ってた使い魔は十月祭。コイツは一般的には知られてねえけどレスピーガ地下迷宮に潜んでる使い魔だ。まぁ異端審問官は知ってるかもだけどな」


 木葉を攫った使い魔、口が裂けた恐ろしい形相の女の名を今知ることになるとは思わなかった。そしてその出どころも。


「レスピーガ地下迷宮はパルシア南東部に位置する大迷宮。そこの魔族がほぼ消滅したという報告も来てる。しかも、直後にラクルゼーロで失踪していた人達が戻ってきたって報せもな」

「失踪……?」

「魔族に連れ去られた女性達って言えばわかるか?」

「なっ!?それって……」


 そもそも、魔王復活に美しい女性達を魔族が攫っていたという事実から木葉も同様の理由で攫われたのだろうと、王都政府は断定したことから柊の疑問は始まっていた。

 何故、王宮という固い守りの中を突破してまで『櫛引木葉』を確保しようとしたのか。美しい女性が必要なら、これだけ広大な国のあちらこちらから攫ってくればいいのだ。何故木葉なのか?それに関しては柊はある仮説を立てていた。


(木葉は……魔族だ)


 これが、王宮から脱出する前に柊が導き出した答えだった。

 船形荒野をボコボコにした際に発現した黒い角。クラスメイトの脳内に流れ込んだ木葉に対する怨嗟の言葉。そして、柊や最上笹乃がその声を聞かなかった理由。これで全てが繋がる。


(王宮の講義室では魔族への怨嗟を掻き立てるようなお香が焚かれていた。その他にも精神汚染のスキルがあちこちで見られる。これは多分、王都政府が勇者達に魔族憎し!という洗脳を行おうとした結果なんだろうけど、思わぬところで副産物が生まれてしまった)


 それが木葉だ。恐らく木葉は何らかの理由で、転移時に魔族として転移した。そして船形荒野達の恨みをもろに受けた。

 笹乃や柊が精神汚染耐久のスキルを持っていたのに対して、木葉は持ってないにも関わらず船形荒野らと同様の精神的な変化が見られなかった。これは木葉が魔族だからだろう。

 勿論精神汚染耐久への対策もされていたから笹乃でさえその声を聞いてしまった訳だが、柊は防護魔術専門店で耐久度を強化していたので全く影響を受けずに済んだ。まぁ、講義参加を拒んでいたのも大きいが。


「フルガウドを助けた冒険者が異世界人なら、唐突に現れた最強戦力も納得できる。カデンツァ・シルフォルフィルみたいな化け物がそんな簡単に生まれて良いわけないからな」

「カデ……なんて?」

「それはどうでもいい。兎も角、そいつはロゼ・フルガウドを懐柔して神聖王国をうろうろしてる。ヴェニスあたりで行方不明になってるから、今どこにいるのかは知らんけど」

「……なんかやけに詳しいよな。なんなのマジで」

「ヴィラフィリア家は王家の食事&財務担当だけど、同時に情報収集に長けた一族でもある。そのノウハウだよ」


 ヴィラフィリア家の話は兎も角、柊の疑問はほぼ実証されたと言っていい。職業料理人の謎は分からないが、魔族ならば異端審問官とやらを叩き潰せる力はあるのだろう。そして、木葉はロゼという女の子の為に戦った。


(木葉らしいな。お姫様を救いに行くつもりがそのお姫様が最強でしたってか?全くよぉ)


 思わず頭の中で愚痴るが、柊の表情は柔らかいものだった。木葉が生きている。その上でまだ『櫛引木葉』らしさを保っている、という事実は柊にとっては大きな救いである。


「……これでこっちの情報は開示した。さてヒイラギ。お前の方の事情も教えて貰うぞ」

「へ?」


 突然の振りに動揺する。そう言えば反政府組織のリーダーであるルビライトが、こんな簡単に情報開示に応じてくれたその理由をまだ知らなかった。


「俺達【白磁の星々】は、いずれ来たる反攻作戦の為にも勇者パーティーを知る必要がある。お前みたいに王都政府のヤバさに気付いて逃げてきた賢いのは兎も角、他の連中とは戦う確率が高い。そーゆーの、俺が担当だからな」

「……仲間の情報を売れってか?」

「お前はそいつらを仲間だと思ってないって目をしてるけどな」


 ばれてら。

 そうだ、柊からすれば勇者である船形荒野は勿論、尾花花蓮を含めたクラスメイト全員を信用していない。強いて言えば笹乃は信用しているが、その彼女も王都を脱出した今柊にとっては王都のクラスメイトに未練なんてものはなかった。


「わぁったよ。教えてやる。その情報をどう使うかは白磁の星々とやらに任せるよ」

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