4章21話:鬼の姫
投稿遅れました。
あたしにとって、異端審問官は憎い存在だった。会津くんを殺し、あたしを殺し、クラスメイトに殺し合いをさせ、『あの子』を苦しめる最悪の存在。けれどあたしにとって異端審問官であることはたった一つ残された最後の道しるべで、あたしは……この身体の中に潜む悪魔との共存を捨てるつもりは更々なかった。
目の前に迫る魔獣の大群。ここまでの大群は今まで任務をこなしてきた中で見たことはない。恐らく東のライン領と魔女の宝箱:ゴダール山から漏れ出てきた大量の魔獣達。
いつも戦いの前は緊張する。傷つくのが怖いからじゃない。傷つけるのが怖いから。あたしがやったことが、全てを破壊してしまうから。
人を殺した時、あたしは神に祈る。赦してください、救えないあたしを救ってください。そう祈らないと、あたしは罪の重さに押し潰されそうになるから。悪魔に身体を使われ、悪魔みたいな連中の仲間として戦ってるあたしだけれど、心はちゃんと人間のままでいたいから。
「蠍は天に、心臓は燃えて煌々と星星を照らす。きっと僕は、本当の幸をみつけにいく」
濃くなる霧を弾き返すように、目の前に出現した大剣を振るう。夜空を体現したような紺色の剣、あたしの全てを犠牲にして得た史上最強にして最上最悪の【魔剣:アンタレス】。自分を犠牲にしながらも前に進まなきゃいけない今のあたしは、銀河鉄道の夜におけるかの蠍を名乗ることすらおこがましい。
「でも、任されたから」
そう。自分で死ぬこともできない、立ち止まることだって出来ない、絶望しかないあたしに、あたしの夢を思い出させてくれた大切な友達。『あの子』以外に漸く気が許せる友達が出来た。それだけでこの6年間に意味があったと胸を張って言える。
無かったはずの右手、真っ黒な影のような右腕が生えてその先にあるアンタレスを見る。
夜空の中に浮かぶ小さな星々はあたし。それを導いてくれたヒカリはあたしにとっての太陽で、名前の通りのあたしの希望の光だ。
「なわてって強い?ですって。ふふ、笑っちゃうわよね。あたし、ノルヴァード・ギャレクに次ぐ最強の異端審問官なんだから。今まで沢山殺してきた分、沢山の命を救ってみせる。だから……力を貸しなさい悪魔」
止まっていた心臓が動き出す。どくんどくんと自身を脈打つ鼓動があたしの中の悪魔が動き出したことを教えてくれた。
「さぁて、持ってよねあたしの身体」
迫りくる魔獣相手に剣を振るった。
「《幸を見つけた蠍の心臓》」
凄まじい光量と共に青い炎がアンタレスから放出され、視界に入る全ての魔獣を焼き払っていく。視界を埋め尽くすほどの魔獣は地獄の業火に焼かれ、灰すら残さらない。そしてそのまま炎は遠方の魔女を包み込んでいく。
「ぃいぃいあいあああああいあいいいいいいいいいいいいいい!!!」
焼かれた魔女は甲高い叫び声を上げ一層黒い霧を噴出するが、あたしの周りを取り巻く青い炎がそれを全く寄せつけない。
「ぁあああぁあああ!?」
「あたしに呪いは効かないわよ?悪魔の心臓だから、呪いなんてただ餌になるだけ」
10数本の黒い腕を伸ばしてくる魔女。その魔女の腕を全て炎を纏ったアンタレスで切り落としてそのまま魔女に突進していく。
「ぃいいいいあい!!!」
「先ずは一撃!」
自分の何倍もの大きさを誇る黒い巨人に青い炎を放出する。すると黒い巨人にまとわり付いていた顔がぼとぼとと地面にこぼれ落ちていった。気持ち悪い……。
「ごあああああああ!!!」
「くっ!」
布のような黒い腕を叩きつけてくる魔女。ここは平野なので防ぐものが何もない。アンタレスを盾に凌ぎ切る。
「《重力制御》」
アンタレスを媒介に発動させた術式で、魔女の腕が地面に向かって沈んでいく。アンタレスに触れた物体の重力を調整する上位スキルだ。
「死になさい」
がら空きの胴体に切っ先を向け、再び、
「《幸を見つけた蠍の心臓》ッ!!」
魔剣スキルを発動させて直撃!!!
魔女の胴体に大きな穴が開き、そこから全体に青い炎が燃え移っていく。そのまま巨体を支え切れずに崩れていく魔女。
「ふぅ、思った以上に魔力がもったわね。さて、ヒカリを助けにでも……」
ヒュンッ!
「……死ね」
背後から迫る黒い腕を振り向かずに切り落とす。《蠍の魔眼》で不意打ちは通用しないとは言え、普通の人間なら即死だと思う。
「ここまでやっといて死なないのね」
そんなあたしの目の前では、先ほど燃え滓になったはずの魔女がゆらゆらと立ち上がろうとしていた。
「なるほど、一筋縄じゃいかないか」
でもそれなら、何度でも殺してやる。
…
……
……………
なわてが多分戦っているであろう頃、こっちでは、
「あぁ、ご主人様のためにぃ!」
「オータム!サマー!ウィンター!正気に戻るんだ!」
「にゃははは!無駄ですよ、一度魔族になったものはもう元には戻らない!」
と、私を置き去りにしてなんか盛り上がっていた。
「つまんない」
私の前に立ちはだかる修道服のサキュバス。土系統の魔法でフィールド変化をさせ、包囲してくる。しかし、
ヒュン!
「な!?い、一瞬で……土の檻を」
「気の毒だけど、その首貰うよ」
容赦なく土の聖女:ニルヴァの首元に瑪瑙で斬りかかるが、聖女は腕を硬質化させてそれを防ぐ。その腕すら斬り落としてやったけど、
「魔族の再生能力……。人間と違って腕とか回復するんだっけ。めんど」
「ご主人様のために」
「ふぅん、じゃあ一撃で」
腕を斬り落とし、その上で首を落としにかかる。しかしそれを東の魔王が阻止する。
「魔獣ちゃん達〜」
「ぎいいあ!!」
「邪魔ッ!!」
ニルヴァの腕を落とし、その上で周囲から群がってきた魔獣を《斬鬼》で斬り払う。
「全て一撃……貴方本当にイレギュラーですね。ますます欲しいですにゃはは。貴方の純潔もちらしたいですねえ、にゃははは」
「もっと綺麗な血を見せてあげるよ、自分自身の血液をさッ!!」
斬鬼を放つが、それをさらに群がってきた魔獣が盾になって邪魔をする。なるほどやっぱりこいつが魔獣を操ってるのか。
「魔族に指揮権は与えてますけど、私1人でも10万の魔獣は動かせますよ。にゃはは、数の力で押しつぶしてやるですよ!」
次々と襲い掛かる魔獣。一体一体は今の私にとって取るに足らない存在だが、なにぶん数が多い。いや、一体一体が非常に強いのも、認めたくないが事実であった。
「《鬼火》ッ!!《鬼火》!!《鬼火》!!」
鬼火を連発して迫りくる魔獣を焼き払っていくが、やはり手が足りない。一度で1000焼き払っても、その倍の数が迫ってくる。
「はぁ、はぁ……それに……」
「おぉおお!!」
くそっ!魔族がいるからそう簡単に焼却もできない!
「にゃはははは!!!潰れろ潰れろぉおおお!!!」
もう1〜2万は殺しただろうか。未だに東の魔王には手が届かず、一方的に魔力だけが削られていく。勿論体力も。
「はぁ、はぁ、くそ……」
アリエスは未だに3人娘相手に決定打を与えられずにいる。折角勇者まで味方につけたのにこれではラチが開かない。
どうする……どうする?《樹海》で東の魔王だけ結界に閉じ込めるとか、まだ出来ないよなぁ使ってないしあんま。一度撤退して体勢を……立て直しても変わらない。何より時間が経てばたつほど子雀への負担が大きくなる。今も子雀の《感情変換》で魔力を補ってるけど、それも限界がある。
「一撃で薙ぎ払える力があれば……」
茨木童子では足りない。橋姫も、吸血鬼も、土蜘蛛も、この状況を乗り切るのには足りない。
というか、そもそも鬼姫ってなんなのだろうか?
「考え事ですかー?余裕ですね」
「_____ッ!?きゃっ!」
しまった!隙を突かれて脚を掴まれる。そのまま持ち上げられて吊るされた。どうやら東の魔王の腕らしい。いや、かがり1号機で確認したジョスランの子守唄の腕によく似ている。
「つーかーまーえーたー!」
「くっ……」
「さて、まずはお顔を見せて貰いますよー?」
「死ね」
瑪瑙を振るおうとするが、その腕に土のオブジェが絡みつく。ニルヴァの土魔法だ。体力が限界に近い中、私の体が土によって固められていく。
「え、ええええええええ!?!?美少女!!美少女です!?やばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!
なんでこぉんな可愛い女の子だって隠してたんですかー!?今すぐ私の奴隷にしたいです!ていうか、この角……まさかとは思ってましたけど、貴方既に魔族に『成りかけ』てますね?」
「________ッ!!私は人間だよ……」
「あー、もしかして人間で居たいけど魔族に成りかけて現実が理解できてないパターンですか?いいです?人間と魔族は共存出来ないんですよ」
ニタニタと笑う東の魔王。
「魔族は人間を殺すために生まれ、人間は魔族を殺すために生まれた。そう悪魔が決めつけたんですから」
「____ッ!?な、なんで、それを」
「あれ?知ってたんですか?この世界の神は悪魔だって。ああでも魔族だから知ってますよね。だから魔族は悪魔を信仰してるんですから」
「……そうやって悪魔に踊らされてるって、大悪魔:フォルトナに踊らされてるって知っててなんで人間を殺すの?」
「へぇえ。それが貴方の根源ですか。人間と魔族の争いを止めたい。フォルトナを殺したい。人間が、この世界の命が無慈悲に殺されることを許容したくない……と」
こいつは……なんなんだ……。今まで戦ってきた敵の中で、1番読めない。
「私はそれでいいんですけどねー。さっきも言った通り、私は快楽が欲しいんですよ。踊らされてるとかどうでもよくて、人間を殺したり人間を堕としたり出来たらもう満足なんです、にゃはは」
「…………………」
「少し昔話をしますねー?聞いてくれます?」
「……なんで、私に」
「貴方が私に近いからですよー。気に入ったんです。貴方、とても面白い生き方をしているので、にゃはは」
薄気味悪く笑う東の魔王。表情を変えることなく話し続ける。
「私、一度可笑しな存在を食べたことがあるんですよー。とても生意気な女だったんですけどね?なんでも昔は強かったとか。でもまぁ雑魚同然だったんで、その魂を吸い取ってやったんです。そしたらそしたら
なんとそいつ悪魔だったんですよー、にゃは☆」
「なっ!?」
(___ッ!?)
すくなも衝撃を受ける。かつて両面宿儺を構成していた仲間が東の魔王に食べられたことも衝撃だったが何より、
「悪魔の力を継承した……?」
「はい☆ですから私、悪魔召喚せずに悪魔の能力を使用できますよー?その1つが魔女を宝箱から出して操る力であり、その15万もの魔獣を操る力。あー、言っておきますけど他の悪魔のことは本当に知らないんで、そこんとこは宜しくでーす、にゃは☆」
「……………」
「ま、人間が神と呼んでる存在の一部になった訳ですねー。本当は驚かせたかったんですけど、そっかー知ってたのかー、つまらないですねー」
「それで……その力で自分の欲望を叶えている、と?」
「そーですよー。そして、今からもっともっと欲望を叶える」
そう言うと、東の魔王は指をパチンと鳴らした。
「え、ちょ!?きゃっ」
「私、雰囲気は作りたい派なんでー、ちょっと失礼しますねー」
動けない体に黒いスライムがまとわりつく。スライムがグジュグジュと音を立てて服を奪っていった。
「さぁて、下着姿……えっちですね!美少女!美少女です!さぁて、唇、頂きましょうか」
「や、やめ……」
身体が動かない!!すくな、すくな!!
(駄目、だ。悪魔相手じゃ、最初から勝算なんて……こんなところで悪魔に出会うとか、そんなの……)
何をぶつぶつ言ってるの!?すく、んむ!みゃぁ!
私の唇に東の魔王の唇が重なる。茶髪ウェーブの前髪が私にかかる。
「ん、んん、んみゃっ」
「にゃは必死に抵抗しちゃってー……え?この味……まさか……」
驚愕に彩られた表情。東の魔王は、直ぐに唇を離し、後ずさる。
「魔王様、ですか?まさかまさか、まさかまさかまさかまさかまさか!!貴方が魔王:月の光!?」
「……ぁ、ぅ……あ」
「素晴らしいです!!!最高です!!!この味、この匂い、隠していてもわかります!イレギュラー!貴方が3代目魔王様!にゃは、にゃはははははははははははは!!!」
東の魔王が高笑いしているが、私の耳には響いてこない。黒いスライムに侵食され、東の魔王に唇を奪われた。そのことが意味することは一つ。
「な、に、これ……や、やぁ、くるし……」
「ああ、魔王様!我らが魔王陛下!お待ちしておりました!まさか人間に紛れて私と対峙していようとは!にゃはは、にゃはははは!!こんな所で【饗宴計画】が完成した!!こんな、こんな奇跡ありますかー!?棚からぼた餅!?にゃはははは!!」
身体の奥から熱いものが湧き上がってくる。頭の中がぐるぐると動き、すべての感情がない混ぜになったような感覚を覚える。
「ぁ、か、かひゅ……す、くな……たす、け……す、く、ぁあああああ……」
苦しい。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい!
「今代の魔王陛下はこんなにも麗しいお方だったとは!にゃははは!そっかぁ!魔王陛下ってば、まだ完全な魔族になれてなかったんですね!でも大丈夫ですよ、私が陛下を魔族にして差し上げます。にゃは☆」
寒い。
苦しい。
暗い。
黒い。
すくな、どこ。
嫌だ。
助け、て。
「陶器のような肌ですねー。スライムはお肌に良いんですよー?」
「……ぁ、ぅ」
「陛下、唇失礼しますね」
「ぁ、んぁぁ」
東の魔王の口付け。その度に身体の中から何か悍しいものが湧き出てくる。これは、レスピーガ地下迷宮でジャニコロとボルゲーゼにされた事と似ている。
「ほら、陛下の血……真っ黒です!あぁ、真っ黒なのにお肌は人形のように真っ白!美しい角、美しい牙、髪も真っ白!美しい!!」
「ぃ、ゃ、だ……」
「ほら、力が漲ってくるでしょう!?これが、本来の魔王の力です!!」
やめて。
やめて。
やめて。
「憎イ……人間、憎イ……私ヲ……私タチヲ殺シタ……」
やめて。
こんなの私じゃない。
「憎イ……く、ない……私は、ワタシハ……人間……魔王……殺ス……嫌だ」
中身がごちゃごちゃになる。気持ち悪い。頭割れそう。吐きそう。誰か、誰か……。
「強情です。もう諦めてください、陛下」
東の魔王が私の胸に触れる。そして、
「悪魔の力です。献上致しますよ、陛下」
「……ぁ」
「それでは、夢の世界へいってらっしゃいませ」
「ぁ、やだ、ぁ、ああぁ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
…
……
……………
あれ?
ここは……?
草原と霧の世界。
ああ、そうだ。ここは、始まりの世界。満月の世界の始まり。すくな達が初めて作った世界。私にとっての最後の隠れ家。
「えっと……すくな?」
返事がない。どうしたんだろうか。
「あ、そうだ!お姉ちゃん!蒼お姉ちゃん!」
同様に返事がない。
「なんで、誰もいないの?」
誰もいない。
いや、正確には居る。正面、赤の鳥居、古びた社。そこの石段には、真っ黒い靄がかかっている。それが人の形、いや鬼の形と言って良いかもしれない、とにかくそれらを象った姿をしていることに気づくのに時間はかからなかった。
「お前は……?」
私の問いかけに、黒い靄の鬼は呟いた。
「ようやっと人の子が来たと思えばヌシ、すくなの童か?」
「へ?」
「傲慢・強欲・嫉妬・憤怒。ヌシが向き合うべき感情を鬼に変えて自らの物とした。ならばあちきもヌシの糧となるのだろう」
7つの大罪。ずっと気になってはいたが、私の持つ罪は全てこれまで『鬼』へと変化してきた。鬼姫である私はそれを憑依させて戦ってきたわけだが、どうにもその仕組みは理解できない。
「鬼の姫は108の感情を思い出せば全ての能力が使える。その中でも特に特出した鬼こそが7つの罪の鬼。そして、鬼を喰らい続けたものは次第に大悪魔となる。かつての両面宿儺のように」
「……………」
「あちきはヌシに期待する。かつて大悪魔:両面宿儺の一角を占めた悪魔であったあちきはあのような痴れ者に喰われた。だがヌシは、まだ鬼を喰らうて居らぬ。すくなは元々喰らうていた鬼を思い出させてはいたようだが、ヌシは自分の意思で喰らうて居らぬ」
「な、なにを……」
「すくながヌシにしたことをヌシは知らない。何故自分の感情と向き合うたびに鬼を発現させられるのか。考えたことはないか?」
嫉妬:橋姫、強欲:吸血鬼、憤怒:土蜘蛛。それらは私が思い出してきた人間らしい感情達。すくなは私を保護するために一時的に感情をロックしていた。けれど……。
「ここにすくなは居らぬ。すくなはフォルトナに捕捉されることを恐れている。そしてあちきにとってはそこが付け入る隙」
「……私をどうする気?」
「あちきはヌシに期待する。ヌシはすくなが回収していた鬼を取り込み、そして今からあちきを取り込む。人間の根源的な108の罪の感情さえ飲み込み、いずれは全ての悪魔を飲み込むことを、あちきはヌシに期待する」
禍々しく、そして生きている次元が違う存在。黒靄の鬼は私に何かを期待していて、その為に自分を取り込ませようとしている、という解釈でいいだろうか?
「あちきはヌシに期待する。新たなる我らの主たらんことを。そこだけはすくなと利害が一致している」
「すくなの……利害?」
「知らないであろう?ヌシが信頼しているすくなが、これまで何をしてきたのか。これから何をするつもりなのか」
「……教えてくれるの?」
「おうとも。それを知ったうえで、あちきを喰らうがいい人の子よ」
「……………」
私はすくなを信じている。けれど、けれど、
______私は、すくなのことを何も知らない。
「いいよ。教えて、全部」
「ふむ。では、聞くが良い人の子よ。
______________________」
「…………………………………え?」
感想などください。




