4章17話:寝取られた
木葉視点のお話と、珍しくアリエス視点のお話です。
轟音と共に木々が揺れ、窓がガタガタと揺れる音で目覚めた。空は……まだ暗い。さて朝起きて事態を聞いた時、それは私が思っていた以上に深刻なことになっていた。
「先鋒ノントン隊が夜襲をかけられて壊滅です的な!魔獣の群れがこの街に向かってきます!」
「子雀お前昨日どこいたの……」
「ちゅんんん!?!?我が主が異端審問官と寝てるから空気読んであげたんです的な!最悪的な!」
「ど、どうどう落ち着いて今絶対こんなことで言い争っていい場面じゃない……」
5つの陣のうち既に3つが一瞬にして破られ、残り2つの防御陣地で必死の攻防戦が始まっているというのが約10分前のこと。なるほどあの轟音は向こう側が何か仕掛けてきたということか、とベッドから起き上がる。
寝ぼけ眼を擦りながらなわてに連れられて昨日の会議室に入室する。私たちが最後だ。
「冒険者は責任感というものがないのか!?早く座れ!」
将軍らしきおじさんがなんかブチギレてたのでテキトーな場所に座る。このお面の良いところは欠伸してもバレない所だと思うふぁああぁ。
「今すぐ救援に向かう!冒険者連合はレガートの指揮下に入れ!」
えー、昨日打って出るなゆうたのお前らじゃん。とか文句言う暇もなく私達は街の城壁にまで連れて行かれて、そこでようやっと敵とご対面できたのだが目の前の光景は私ですら顔が引きつるレベルである。
「多…………は?だる…………」
山を覆い尽くすほどの大群勢。周りの冒険者も呆気にとられて、ていうか普通に膝をついてわかりやすく絶望していた。
「無理……だ」
「こんなの勝てるわけがない……」
「今すぐ逃げればなんとか……」
お、かがり1号機帰ってきた。と同時になわても用事を終えて城壁についていた。異端審問官の紺色ローブ、そして筆頭の銀色の飾り。いつも通りのなわてだ。
「あんた何確認してたの?」
「魔女と魔王。うん、お陰で認識できた。魔王はなんかエッチな格好したお姉さんで、魔女:ジョスランの子守唄は顔がいっぱいついてる気持ち悪い巨人だね」
「よくわかんないけど、見れば一発でわかる?」
「うん。あと多分だけど、なんか歌ってるからその歌聞かないほうがいいかも。今までの魔女からしてそう言うのろくでもない攻撃手段だったりするから」
「オッケー。さて、どうする?」
「先ずは小手調べ。私たちが向こうをやる前に街が壊滅させられたら元も子もない」
と言い終わるや否や、
「うぉおおおおおおお!!!」
という雄叫びと共に魔法が放たれ、遠方の魔獣が吹き飛んだ。どうやら開戦したらしい。
「突撃ぃぃぃいぃ!!」
という頭悪い掛け声と共に冒険者が突撃していく。しかも見るからに数が少ない。あぁ逃亡したな、これ。
「参加しただけで凄い額の報酬貰えるからってソレはないでしょー……」
「ふふ、ヒカリあんた余裕そうね?」
「いや余裕ではないけど……戦力見極めたら私達も行こう」
「あたし昼はあんま動けないからパス。でもま、案外なんとかなりそうね」
激戦区第4防衛陣地の救援に向かった冒険者連合は遠目に見る分では中々いい働きをしている。流石に銅月が10人いればそこらの魔獣は相手ではない。しかし、
「気になったんだけどさ、ノントン将軍って一番後ろの第4陣地にいたんじゃないの?」
「えぇ。でも攻撃を受けたときは偶々第1陣地に赴いている時間帯だったの。それで巻き込まれて戦死。それが?」
「いや……今ドレスデン将軍がいるのって第4?」
「そうね」
「なんで初めっから第4にあんなに敵が向かってきてるんだ?」
「……さぁ?」
「第5陣地には勇者やレガート・フォルベッサだっている。なのにあっちは敵軍がまばらだね」
「何が言いたいのかしら?」
訝しむなわて。
「いや。ちょっと確認したいことができた。異端審問官とお付きの生意気な子供は第4と第5の間らへんで敵を食い止めるって、参謀本部に伝えてくれる?」
「いーけど……どうしたのよ?」
「いーからいーから。さてと、意外と凌げるな。これなら……」
しかし次の瞬間、私となわてを含めて多くの冒険者が目を見張ることとなる。
「あ?」
目の前にあった第4陣地で謎の轟音が起こる。と、同時に陣にいた人間が続々と倒れ始めた。苦しそうに呻きながら地面をのたうち回る人々、天に手を伸ばして絶命していく。
「ぐ、があぁ、ああぁ……」
「ぐ、るじ、」
「ぅ、ぉぉおえ、がぁぉあ」
男達の断末魔が遠く離れた城壁にまで聞こえてくる。ただ呻き声をあげて倒れる冒険者を駆りながら、魔獣は進軍してくる。それに、
「黒い、霧?」
第4陣地の辺りを黒い霧が覆っていた。
なんだ、これ。
「……余裕、ないかも」
こうしてはいられない、冒険者連合ではやはり持たないのだ。気になることもあるけれど取り敢えずは、
「やるのね」
「ここで私が出ないと多分持ち堪えられない。アリエスを回収する意味でもちょっと行ってくる!あいつに死なれたら作戦が根本から終わる!」
…
…………
………………………
闇が、覆っていた。第4陣地で冒険者連合の指揮をとっていた僕の部隊はなんとか初手での撤退に成功していたがそれも束の間。直ぐに包囲され始めていた。
「あ、アリエスのあんちゃん!あれは一体!?」
「わ、わかんないですよ!口がいっぱいついた真っ黒な顔の巨人……あれが、魔女!?」
獣が唸るような轟音を聞いたかと思うと真っ黒な霧が辺りを覆い、その結果周囲の兵士達がバタバタと倒れだした。倒れる兵士に向かって魔獣が飛び込んで辺りは血の海に……うぅ、嫌なものを見た。
「〜〜〜〜〜♪♪♪〜〜〜〜〜♪♪♪」
不味い!歌が聞こえてくる!
「あ、アリエス様!やばいですよこの歌!」
「スプリング、呪詛妨害の魔法を!あの唸り声が魔女の"子守唄"なのだとしたら、多分これにも呪いが!ぐっ!」
心臓が重い。スプリングが呪詛返し魔法を掛けているからある程度は防げているものの、内臓全体にかかる負荷が大きい。これが並の冒険者なら……
「ぐごぉ……」
「ぉ、ぉえあ」
「いだいいだいいだいだいだいだい」
予想通り皆狂ったように胸を掻きむしり、唸り声を上げながら死んでいく。魔獣が骨を貪る音、そして何かが追ってくる音がする。
「ひぃ!?」
さっきまで横を走っていた冒険者の1人が叫び声を上げると、何かが吹っ飛んでいく音がした。
「な、なに?え、きゃ、きゃああああああああ!?」
「どうし……!?」
視界の端に見えた人間の腕。荒々しい切断面に思わず口を押さえた。恐る恐る振り返るとそこには……
「あー、やっと振り返りましたねー?にゃはは、いるじゃないですか!戦場にも女の子!あー、お腹が疼きますねー、女の子食べたいです。男の前で女の子を食べて堕とす瞬間が一番の食事ですからねえ。にゃはははは!」
茶髪のウェーブが掛かった色が溢れる女性。しかし女性の頭からはツノが生えており、尻尾と黒い翼。一瞬でサキュバスとわかる格好をしている。
「サキュバスえろっ」
「もう!アリエス!?」
「にゃはは、男……可愛い女の子に囲まれてる男……私が一番嫌いな系統です。そして私が1番殺してきた系統の男ですね☆ああああああ、お前みたいに甘い甘い汁を啜ってきた男の前で、女の子を全員堕としてあげたいですぅ☆」
軽口を叩いてる間もない。彼女の手には先ほどまで共に撤退していた冒険者の首があった。
「くそ!お前が東の魔王か!」
仲間の冒険者が叫ぶと、サキュバスはペロリと赤い舌を出して舐める仕草をした。
「にゃはは、そうですよー!貴方達が無謀にも突っ込んできたから、絶望感を教えてあげるべく出てきてあげたんですから感謝してほしいものですねー!」
「くそ、何が絶望感だビッチめ!銅月級、それも"砂漠の大熊"と呼ばれた俺にそんな卑猥な格好で立ちやがって!俺の"ジョニー"がいきり立つ前に、早くお肌をしまった方がいいぜえ?なぁ!!」
仲間の銅月級が剣を手に走る。と同時に彼の仲間の冒険者が一斉に襲いかかった。凄まじく連携の取れたコンビネーション。だがしかしそれは乱入者によって遮られる。肌を露出した美女が地面に手を付けて魔法を詠唱し、銅月級冒険者らの攻撃を阻害する。
「なッ!?おま、まさかニルヴァ?」
「ご主人様に手を出さないでケダモノ!」
あの女性を、僕は一度見たことがある。そうだ、土の聖女ニルヴァ。銅月級ギルド:大地の聖歌隊のリーダー。一度僕は彼女をギルドに誘っているが断られている。しつこく勧誘したらバルザックとかいう黒騎士にボコボコにされたなぁ、懐かしいなぁ。って、彼女がどうしてあんな……。
シスター服に身を包んだ清楚な聖女様は、今や黒の露出度の高いラバー下着を身につけ、ツノと尻尾の生えた魔族のような格好になっている。エロ!エロすぎない?何あのいかにも"堕ちた"って感じの衣装!?
だが冗談を言っている場合ではなかった。そんなニルヴァの土の魔法によって壁が作られ、冒険者達の攻撃は防がれてしまう。隙ができた彼らに、何かがヒュンと襲いかかる。
「あはぁ、よく出来ました私の奴隷ちゃん。さぁて、男は死んでください☆」
「あ、ぇ……」
ザシュ
ザシュ
ザシュ
「あ、あぁ……」
目の前で銅月級の彼を含む冒険者が禍々しい黒いウネウネした何かによって貫かれ、あっさりと絶命した。さらに黒いウネウネは僕にも迫ってきて……。
ヒュンッ!!
「あ」
あ、これ死んだ。対処する時間もなく、目の前には黒い触手。これから僕はきっと、これに腹を貫かれて……。
そう想像し、思わず目を瞑ってしまう。その直後耳にスプリングの悲鳴が飛び込んできた。
「________て!____エス!_______ァァァァァァ!」
う、うぅ……。
暫く気を失っていたのか……。目を開けると、僕は自分が頭から血を流していることに気づく。どうやらどこかの木に衝突して頭を割ったらしい。超痛い。血を拭って、視界が晴れてくるとそこには……
「……………………………………え?」
信じられない光景があった。
「あっ、あっ、ふぇえ、ふぇええ、気持ちいいです!もっと頭に気持ちいいものくださいいい」
「あぁん、アリエスなんかよりご主人様を愛しますぅぅう!」
「私をもっと虐めて!魔王様ぁ!」
「正気に戻って!!みんな!!」
サマーが、オータムが、ウィンターが……僕のヒロイン達が……黒い触手に取り込まれて正気を失っている状態だった。彼女らの体には尻尾やツノが生えており、肌には何らかの呪印が刻まれている。それが彼女らが魔族になってしまったことを指し示している。
「う、そだ……」
そしてあんなに僕を求めてくれた彼女達は今や魔王の指を、足を舐めて心まで完全に服従してしまっていた。その事実が酷く僕にのしかかる。
「にゃはは、起きましたぁ?この触手はですね、取り込んだ物に阿片のような快楽物質を与え続けて脳を破壊するって力があるんですよぉ。彼女らはもう私にメロメロぞっこん!ついでに魔族にしてあげました。これで晴れて私の奴隷ちゃんですね☆」
「あ、ぁああ……あああああ……」
「いい表情でしょう?貴方達にもきっと絆はあったんですよね?あったでしょうねぇ。でも彼女達はそんなの全部忘れて愛に、恋に、性に、快楽に溺れていく!!なんて甘美なのでしょう!なんて本能的なのでしょう!人間とはかくあるべき、そう思いませんか?にゃはははは☆」
何も声が出ない。僕をいつも支えてくれた女の子達が目の前のサキュバスによって破壊されていく姿を、この現実を直視できない。したくない。
「うふふ、可愛いですねー。女の子は恋をすると可愛くなるんです。だからそこだけはお前のような男にも感謝してます。彼女達をここまで可愛くしてくれてありがとうございます!!そして後は私に任せてください!」
「あ、ぅ、ぁ……」
「そうです!貴方も最後ですし、女の子のキスで死んでいくといいですね!さぁ奴隷ちゃん達、あの男の唇を奪ってきてください」
「えー、やだぁ。あんなイキリ太郎無理ー!」
「ふえぇ、ご主人様の唇がもっともぉっと欲しいですぅ」
「私も、あんな男触りたくもないー!ご主人様の足を永遠に舐めていたいです!」
ぐふぅ!!!致命傷!!!
「あらら全否定☆んじゃ、あの男の唇奪ってきたら私の唇あげちゃうし、そこの残った女の子の唇もあげちゃうですよー!」
その瞬間、3人の少女は獣のように四足歩行で走り僕のもとへ駆けてきた。
「私が!私が1番!」
「ふえぇ!私が貰う!」
「いや私が!」
「やめ、やめて、くれ……ぁ、やめ……」
「にゃはは、やったじゃないですか。ハーレムですよ、愛に溺れて死んでいってください」
「ぁ、ぁああ、あああああああああああ……」
僕はそこで意識を失って……。
「1話で何度も意識失ってんじゃねーよイキリ太郎」
「へ?」
目の前に群がっていた少女達がその場から消える。暗い平原も、そこにはない。代わりに広がっているのは……
「森……?いや、これは」
「《樹海》、私の固有結界魔法ね。これで霧による呪いの効果はリセットされた筈。一度引くよイキリ太郎」
僕の腕を引っ張ってきた少女は……僕をここ数週間散々コケにした美少女:ヒカリだった。
「お、お前……」
「あの時の!う、ぅうあああああ!」
安心したからか、スプリングが涙目でヒカリに駆け寄る。そんなスプリングの頭を撫でながら彼女は遠目に見えるのであろうサキュバスを眺めていた。
「……あれが紛い物の魔王か。おいイキリ太郎、作戦を練るから撤退。連絡手段かなんかあるのなら他のやつにも伝えて」
「イキリ太郎……って僕のこと!?」
「反応してる暇が惜しい、さっさと残存戦力を統合したい」
「ぬ、なんか偉そうに」
「ヒカリちゃんのいう通りにしましょうアリエス様!」
「うん、偉い」
「えへへ」
ヒカリに頭を撫でられてホンワカするスプリング。あれ、僕のヒロイン今回で全員寝取られたんですけど……。
百合NTRぐへへ。
ストックがたまってきたぜえ
木葉がたらし過ぎてアリエスのハーレム最後の砦は即落ちしました。
因みにアリエスの4ヒロインの名前は、考えるのがめんどかったので春夏秋冬・スプリング、サマー、オータム、ウィンターです。つまり覚える必要ナシです。




