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4章15話:揃わぬ足並み

ストックたまんねー……。

「王宮内の妨害者、か」

「はぃい。レガート・フォルベッサ及びドレスデン陸軍大将をシャトンティエリに追いやった今、宰相閣下と王室顧問団が最も王にお近づきになれる訳ですがぁ……ここに来て滑りが悪いですぅ、油の調子が宜しくないようですねぇ」


 比喩を用いながら男は話す。


「内務卿であらせられるスピノザ宰相閣下、財務卿のフロイト閣下、法務卿のユング閣下、そして王室顧問らは幼いクバート王太子殿下に代わり王弟殿下を第一王子に据えようと苦心なされてきましたぁ。しかし、どうも貴族院の反応が悪い。故にわたくしは思うのですよ……何らかの勢力が力を蓄えていると」

「ふぅむ、ヒューム主幹。おぬしの言う通りやはり軍部には早めにメスを入れなくてはならなかったようじゃなぁ。この混乱が収まり次第、オストリア・ブダレスト大公国におわすディドロ大公殿下を呼び戻す。いよいよ軍部の愚物どもを黙らせる時が来たようじゃ」


 宰相執務室で話す2人。1人は白髪白髭の老人、内務卿スピノザ。そしてもう1人はその懐刀であるヒューム主幹だ。2人は王に絶対権力の集まる状況を打破すべく扱いづらいエルクドレール8世の次の王を自分達が扱いやすい人物にしようとしている。

 そしてその企みのために今回邪魔な軍部勢力をシャトンティエリに送ったのだった。


「ディドロ王弟殿下を王位継承権1位にし、オストリアを併合する。ゆくゆくはヴェオグラードの第6王子と、シャトー・ブダレストのあの女装癖の姫王子を操ってそちらも併合してしまいたいですねぇ」

「東に送った王子どもは愚物が多い。が、もう少しは連邦との緩衝材として役に立って貰うとするわぃ。連邦への根回しはどうなっておる?」

「マリアージュ王女殿下とかの国の数少ない皇族との婚姻は滞りなく進めております。おほほほほほ!!百合王女も、いよいよ男の味を知るのですね!わたくし、興奮してまいりましたおほほほほほほほほ!!!」

「おぬしはいつも気持ち悪いことを言うのう」

「おほほほ!さてさて、メイガス・シャーロック将軍が出張ってくる前に軍部の掃除、始めちゃいましょうかねぇ。わたくしに全てお任せあれ」


 ヒュームはこう言ったが、彼らの動きを封じ貴族をまとめ上げているのは軍部ではない。そこには、彼らがたどり着けない王宮の花が絡んでいた。

 今宵も、レイラ姫の私室に大貴族が入っていく。神聖王国の上層部は慌ただしく動き始めていた。



……………


…………………………


〜同日、シャトンティエリ〜


 中央広場の詰所で、異様な雰囲気を放つ2人の少女がその場の空気を支配していた。

 1人は誰もが恐れる紺色のローブ:筆頭異端審問官のローブに身を包む隻眼隻腕の少女。花蓮の位置からでは顔までは見えないし、深くフードを被っているからおそらく隣の少女以外には見えていないだろう。何にせよ、強者どもが集う戦場においてはあまりに異質な存在だった。

 そしてもう1人は異端審問官の異常さを遥かに超える異質さを持つ。王宮戦力として認められた異端審問官ですらない。ダークブラウンの髪、黒のパーカーを被りその顔には真っ黒で悍しい鬼のお面が付けられている。ギザギザした牙が突き出すお面が、月光に照らされて不気味に笑っている。

 その少女とて、この場に集まる冒険者の娘くらいの年と予想される。しかし彼女の色白い手が握る黒の刀が、彼女こそこの場に相応しい戦士であることを示している。


「遅ればしながら、筆頭異端審問官のデクレッシェンドよ。以後お見知り置きを、近衛騎士団長:レガート・フォルベッサ卿」


 なわてがローブの裾をつまみ上げてお辞儀する。しかしレガートは、険しい顔のまま彼女達を睨みつけていた。睨み付ける先は、ぼーっと月の方を眺めている黒いお面の少女だ。


「デクレッシェンド卿……彼女は……?」

「アンタも知ってるでしょう?つい最近銅月級になった冒険者ヒカリ。あたしの友達。戦力としては期待で」

「それは知っております!!」

「ありゃ、そーなの?」


 レガートは声を張り上げた。レガートが知っていると言ったのは嘘ではない。彼はラクルゼーロとリヒテンで「ヒカリ」と名乗る冒険者を追っていた。フォレスト・カルメン、シド、アンソンからその実力はよく聞いている。王都政府は眉唾物だと言っていたが、レガートは少女の力を過小評価するつもりは全くなかった。


(あのカルメン卿に「最強」と言わせた剣士だ。しかも、20歳にも満たぬ女子。カデンツァ・シルフォルフィルのような存在を疑ってかかるのが当然と言える)


 レガートの警戒は最もである。そんなレガートに目もくれず、黒い面の少女はゆらりとなわてを見つめる。少女の視線に気づいたのか、なわては少し微笑んだ。どうして左目が見えないのに左にいる少女の視線に気付いたのかは、誰も突っ込もうとはしない。それほど2人の少女の応やり取りはどこか幻想的であった。


「そこの剣士は……リヒテンにて異端審問官:チェリーネ卿を害した者です!!我々王宮に仇なす者かもしれません!それを知っての上でですか!?」

「チェリーネ?あぁ、そんな名前だっけアイツ」

「そうです。ラッカ・ティリエ・ル・チェリーネ様です!貴方の仲間の」


 ヒカリの危険性を知るレガートが幕仕立てようとするが、その瞬間彼はその言を引っ込めた。







_____なわてが、残忍な笑みを浮かべていたのである。







「あぁ、良い気味じゃない。あーんなド腐れ兎を八裂きにしてくれた最強のえいゆ……剣士。あたし達が勝つ上で絶対に必要でしょ?」

「なッ!?あ、貴方は……異端審問官では……」

「はぁ?異端審問官が全員仲良しごっこでもやってると思ってんの?少なくともあたしは異端審問官なんて全員大っ嫌い!っと、ここまで言うつもりはなかったんだった」

「おー、うっかりさんだ」

「そうよアタシはうっかりなの。ラッカを半殺しにしてくれたあんたを"英雄"って言っちゃいそうになった。あー、危なかった。あははは」

「ふ、ふふふ、あはははは」


 少女達がクスクスと笑う。その光景はやはり異常だ。


「教会は……彼女の行いを許すと?」

「許すも何も、異端認定されてもないこの子にド腐れ兎が突っ走って返り討ちにあっただけでしょ?完全に自業自得。大司教ノルヴァード・マクスカティス・ギャレクの側近であるアタシが保証するわ、彼女は異端認定されてないわよ?」

「……畏まりました。では」


 そうレガートが切り出そうとした時、


「おうおう!なんか知らねえ女がいんじゃぁねえか。何口説いてんだよ団長さんよぉ」


 知性のなさそうな声が響く。冒険者集団がガヤガヤと騒ぎ出した。


「勇者様だ」

「ああ、いつまでも精悍な顔つきだ」

「そうかぁ?クソガキにしかみえねぇよ」

「お、おいバカ!勇者様になんてこと……」


 壇上で勇者がピタリと止まる。そして、


「おい。聞こえてんぞ、そこのノッポ。俺様の地獄耳舐めんじゃねえぞ」

「ひっ!?ど、どうかお許しを!何卒、なにとぞ!」

「おらどけぇ!そこのノッポ引きずり出して殺してやらぁ。俺様をバカにした奴は皆殺しにしてやんよ、ぎゃはははは!」


 厨二っぽい感じで船形荒野はナイフを舌で舐める。その様子を見て黒い鬼の面の少女:櫛引木葉は、


(変わんないなあ)

 

 と軽蔑の視線を向けていた。ずかずかと進んでいく船形荒野のことはどうでもいい。恐らく、


「ストップ」


 なわてが止めてくれる。


「あん?なんだぁ、お前。おらぁ勇者だぞ。女が俺に何の……が、あぁああ」

「跪きなさいクソガキ。分を弁えることね」

「んだとぉ、てめ、何しや……がああああ」


 船形荒野が苦しみだし、たまらず地面に崩れ落ちる。なわては何事もなかったかのように船形荒野の首根っこを掴み壇上に投げ飛ばした。


「がはっ!」

「荒野!!」

「荒野様!」


 投げ飛ばされて気を失う船形荒野に、その取り巻きが駆け寄る。それをまたゴミを見る目で一瞥すると、なわてはレガートに言い放った。


「騎士団長、聞き分けのなってないクソガキの世話はあんたの役割。教会の手を煩わせないで」

「か、畏まりました。この者の非礼をお許しください」

「はぁ。さっさと会議でもなんでも開きなさいよ。あたし、暇じゃないんですけど」


 どうでもよさそうになわては青いメッシュの入った前髪をくるくると弄り始める。時々みるが、どうやら癖になっているらしい。木葉もやってみることにした。


「何それ誰の真似……?」

「なわて。癖になってるよ、多分」

「え、嘘!言ってよ」

「いや癖ってそんな簡単に直るもんじゃないしさ」

「あんたは癖、あるの?」

「私はほら、酔い癖……。酒はいけるんだけどなぁ、乗り物がダメで」

「へぇ……ん?ちょっと待ちなさい、あんたこないだ15歳だからって酒断ったわよね?」

「いや飲まないとは言ってないもん。最近結構度数高いのいったんだよ」


 ヴェニスでエレノアと飲んだ酒だ。彼女との大切な大切な思い出の一つである。

 まぁそんなこんなで平和な会話をしている2人だったが、周りは全く平和ではない。


「勇者を屈服させた……異端審問官怖えぇ……」

「なんかあそこだけ空気のほほんとしてるけど一応決戦前夜なんだけどな……」

「面白い子達だよね、花蓮」

「え、ええ。そうね、千鳥。なんだか、不思議な子達。そして……」


(そして、どこか懐かしい雰囲気)


 得体の知れない感覚に襲われる花蓮。だがその感覚は、彼女にとってそう悪い感覚でもなかった。



…………


……………………


 作戦司令部はシャトンティエリ市庁舎に設置されている。総本陣には王都から派遣された七将軍が1人、ドレスデン大将が陣取っておりその配下達が指揮を取っていた。既にシャトンティエリ市外に展開された2万の兵力の指揮官は現場の司令部に移っており、大まかな戦略は策定済みらしい。

 その上で必要とされているのが、冒険者連合・勇者パーティー・近衛騎士団と言ったもしもの時の為の遊撃部隊である。彼らの方針の会議が今執り行われているわけだが……。


(楽観論者ばっかり)


 と頭の中で愚痴を零す木葉。そもそも後背地たるシェシーも襲われている以上動けないという事態がもうやばいのだ。迫りくる15万の兵力に対してこちらの戦力が充分とは言えない。

 まぁ詰まるところ、避難が完了しなかった時点で負けているのである。その割には、


「いざと言うときの為の勇者だ。問題ねぇよ」

「ああ、そうだな。俺らは死なねえもんな」

「そうそう!きゃははは!」


(なんだこの自信……まさか勝てる気でいる訳じゃないよね?なんか企んでそうでやだなぁ)


「つーわけでちょっと街の視察行ってくらぁ。あと任せたぜ団長さん」

「おい!荒野!」

「おーっしお前ら次の店行くぞ。俺は飲みたりねぇんだよ」

「荒野さん凄い飲みっぷりでしたからね!感動しましたよ!」


 とかなんとか言って勇者パーティー(荒野の取り巻き)が出て行ってしまい、残されたのは絶望に沈んだ数名のクラスメイトと尾花花蓮。そして彼女を監視する役割の鶴岡千鳥と飯富鏡(いいとみかがみ)だった。


(なんか大方予想してたけどねこのメンツ。天童零児やガタリ君とかと仲良かったメンツ。そっか、最後まで船形荒野に抗うんだね。いや飯富鏡は別か)


 取り残された中で1番偉いのはレガートだが、その次に、


「取り敢えず、勇者は期待できそうにないね。僕達だけで進めよう」


 黒髪の平凡顔、アリエス・ピラーエッジが切り出した。しかしあれだ、なんとも画面映えしない顔をしている。船形荒野を見た後だと、彼のイキりっぷりはなんとなく可愛く見えて来るものだ。


「おいそこなんか凄い失礼なこと考えてないか……?」

「気のせいでしょ」

「お前ぇ……」

「いいから進めなさいよボンクラ。ここに居る銀月級はあんただけ。なんか意見あったんじゃないの?」

「うっ……なんだこの異端審問官、初対面なのに僕に凄い冷たい……」

「気のせいでしょ」


 ぐぬぬと顔を歪ませるアリエス。反応が面白い。


「先ずはピラーエッジ卿の意見を聞きたい。如何だろうか?」

「騎士団長……。ハァ。畏まりました。ていうか、ハッキリ言って無理です無理。前線の兵力を捨て駒にして市民と共に北へ脱出するのが最善策ですよ。団長だって、宰相に捨て石にされたのには気づいているでしょう?」

「なんかマトモなこと言っててつまんないな。コイツもっと馬鹿キャラ全面に押し出したイキリ太郎だとばっかり」

「おいこら、心の声じゃなくて普通に声に出てるぞ」

「気のせいでしょ」

「気のせいじゃないよぉ!?僕聞いたよ今!?」

「はいはい失敬失敬、続けて」


 思わず本音が出てしまった木葉。一応花蓮に配慮してかなり声を低くしている。

 因みにこの場には銀月が1人、銅月が木葉合わせて11人、紫月が21人。通常の魔獣討伐ならばかなりの大規模戦力と言って差し支えない。


(残り22人の銅月のうち、ここに半分も来てるのか。魔王討伐前にご苦労様。まあ、魔王は私だけど)


「とはいえ、街の周辺は魔獣がウロウロしてますし残りの市民連れて脱出は無理か……」

「そうですね、冒険者連合で街を防衛し周辺からの援軍を待つ持久型にするという手も」

「15万の大軍相手にまともにぶつかれと!?無茶も休み休みにして頂きたい!」


 流石の銅月も意見が割れ始める。字面で書くだけでも15万という数字はデカかった。


「あんた因みに作戦ある?」


 なわてが尋ねてくる。木葉としては、


「まぁ、ないこともない。今ちょっと偵察機飛ばしてるから待って」

「………………?」

「あ、見えた。あー……これは……」

「おいおい、目ぇ瞑って居眠りか?新人。銅月級ってなぁどこの貴族に取り合って認めてもらったんだ?」

「身体でも売ったんじゃねぇのか?女だしな」

「こんな子供を銅月にするとは、ギルド連盟も落ちぶれたものです。天撃の時もそう思いましたがね、銅月は貴族出の人間がなっていいものではないのですよ。聞いていますか?」


 さっきから全く喋らない期待の新人:ヒカリ。銅月級とはいえ年端もいかない少女ゆえ、冒険者達からは所詮その程度かと見られ始めている。


「まぁ待て。意見を聞いてもいいだろうか、冒険者ヒカリ。忌憚のない意見を」


 レガートがじっと木葉を見つめる。しかし木葉は、


「上のお好きなように。私はなわてとそこのアリエス・ピラーエッジさえ居れば勝てると思っているので後はご自由にしてください」


 と、敬語で言うのだった。明らかにここに集まった連合を見限ったような発言に、レガートは眉を潜める。


「待て。その見限った発言はやめろ。君は、勝つ為の案を思いついているだろう?見たところ、君は権力者には従おうとしないタイプだ。だかそれは、ここに居る全員を見捨てていいことにはならないと、そうは思わないのか?」

「失礼致しました騎士団長閣下。しかし過大評価で御座います。この身この心は神聖王国と教会のため」

「思ってもないことを言うのはやめたまえ。君の友人は、少なくとも君を粛清したりはしないだろうよ」

「……………………」

「本音で話してくれないか?おちょくっているのかもしれないが、こちらはこの街の人々の為に命を張っているのだ。君だって、そのためにここに来たんだろう?」

「……………………」

「ならば、我々は協力すべきだ。違うかい?」


 探るようにしてレガートは言う。彼は木葉の異常性を見抜いているし、木葉がこの戦いの鍵になるであろうこともわかっていた。木葉は少し考えこむ。


(尾花花蓮達の前で余計なことは言いたくなかったし、正直積極的に介入してやるつもりなんてなかったんだけどな……。レガート・フォルベッサは優秀だ。けど、その配下やここに居る連中が信用できるかと言われたら別問題)


「ヒカリ」


 なわてが言う。


「信じろとまでは言わないけど、少なくともあんたが作戦組み立てないと詰むわ。あたしならいくらでもアンタの駒になってあげる」

「……私参謀ポジじゃないんだけど」

「それでも、ここにいる戦力を正しく評価出来てるのは多分あんただけよ。その上で勝算があるのなら、この状況を打破できる案を出せるのはあんたをおいて他にいない」


 他の冒険者は、木葉となわての力を評価出来ない。対して木葉ならここにいる戦力を正しく運用できる。自身の力を知っていて、なわてを信じているからだ。


(ま、救うために来たわけだし……やるか)


「そうでないのなら私の案に従って……」








「んなのやだよ」

「「「____ッ!?」」」


 低く冷たい声で木葉は言った。


「さっきも言ったけど、私となわてとそこにいるアリエスさえ居ればこの状況は覆せる。他は寧ろ邪魔。精々囮になるくらい?」

「んだとぉっ!?」


 低く冒険者を皮肉るような声。冒険者達は激昂し立ち上がるが、レガートが制止した。


「……なる程、それが君の本性か。だがそれこそ買いかぶりすぎでは?たった3人で何が」

「一切信用できない1万の味方より、圧倒的に信頼できる友達とまぁイキってるけど悪い奴じゃないと知ってる奴の3人の方が私は心強い。当然でしょ。何よりも信頼に重きを置いてきた近衛騎士団ならわかるよね、レガート・フォルベッサ」

「……君は、一体?」

「ていうか僕もお前のパーティーに入ってんのが意外なんですけど……」


 ジト目でアリエスが睨んでくる。


「要らないっていえたら楽だっんだけどね、アリエスの能力は攻略の鍵になる」

「能力……だって?」

「そもそもさ、なんで15万を真っ向から相手しようとしてるわけ?どう考えてもジリ貧じゃん」

「いや、15万向かってきてるんだからそれを食い止めないと……」

「魔族が1人で15万も操れるわけないじゃん。未知の敵だからって相手の戦力評価見失うとか笑えないんだけど」


 冒険者達は気づいたらしい。なわても当然のように気付いている。


「狙うは大将首。それも、小分けにされた首ね」

「そ。さっき篝火を飛ばして偵察した。今シャトンティエリに向けて真っ直ぐ進軍してる10万超えの魔獣の中に、上手くばらけるようにして魔族が紛れてる。しかも彼らが操る魔獣の中にまた指揮系統と思われる個体がいた」

「魔王が魔族を統率し、魔族が指揮系統個体を操り、指揮系統個体は配下の有象無象を操ってる……それなら!」

「進軍する戦力を上手く食い止めている間に指揮系統個体、魔族、そして魔王を討ち取る。それだけで軍は瓦解する」

「だがそれを食い止めるのが問題だ!我々の数ではそれらを抑えきれない」


 レガートの言うことはもっとも。そして、勿論忘れてはいけない存在もいる。


「ジョスランの子守唄。多分こいつも魔獣を操る力がある。じゃなきゃ理性のないこんな大規模軍を秩序を保ったまま動かすなんて出来る訳がない」

「魔女の特性ね。時間勝負ならアタシ達が不利だけど……」

「うん、だからアリエスの出番。東の魔王からジョスランの子守唄を操るスキル、もしくはジョスランの子守唄から魔獣を操作するスキルを奪って欲しい。どっちにしろ、その能力がなくなった時点で10万の軍は目的を失った烏合の衆になり果てる」

「僕の……力で……」

「魔王の相手は私がするよ。アリエスは隙を見て魔王からスキルを奪う。そして、なわては魔女と魔獣の相手。思う存分皆殺しにしていいよ」


 ケラケラと笑う木葉。なわても目を見開き口を歪める。


「楽しそうね。自分の力を周りに配慮することなく使えるなんて、あんたやっぱ最高よヒカリ」

「お褒めに預かりっと。てなわけで3人いれば充分なんだけど、何か質問は…………」


 そう木葉が言いかけて、部屋の扉が開いた。






「今の案は駄目だ。許可できん」






 入ってきたのはレガートの側近、近衛騎士団副団長とそして、七将軍:ドレスデンだった。

 獅子の立髪のように逆立った髪、渋い口髭、そして鋭い眼光。白髪のお爺さんではあるが恐らく現役の武官なのだろう。ただ、非常に偏屈そうな顔をしている。


「そんな小娘の意見を信じるのか、レガート団長」

「し、しかし閣下」

「くどい!上から守りに徹するように命を受けている。規律違反は軍法会議ものだぞ、団長。異端審問官殿も、お分かりですな?」

「アタシの指示系統は残念ながら王宮じゃない、こっちは好きにやらせてもらうわよ」


 なわてがそういうと、ドレスデンは目を見開きつかつかと歩いていって、なわてに手をあげようとする。しかしそれより前になわてが「何か」をしてドレスデンの動きを封じた。


「貴様ぁああああ、ぐっ……」

「何?」


 振り上げた拳を抱えてうめくドレスデン。


「陛下の命令に背く賊徒め!異端審問官の分際で調子に乗るなよぉ!!!」

「沸点ひっく。あんたこそ、軍部大臣の狗如きが教会の最高機関に手を出したなんて、大問題よ?」

「煩い!!これは決定事項である!良いなレガート団長、王宮主導で防衛線を作り上げるのだ!失敗は許さん、なんとしてでもシャトンティエリを死守せよ!」


 そう言って部屋から出ていくドレスデン。その様子を木葉はジッとみていた。


(邪魔をした?何故?なんか、闇が深そうだな)

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― 新着の感想 ―
[一言] 本格的に、花連達勇者パーティーと交わってきましたね。面白くなってきた!!
[一言] 参謀ポジも意外といける?
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