4章3話:再会のクラスメイト達
とうとうクラスメイトと再会します。顔は隠してますけど。
「さぁ朝よヒカリ!!おいっちにいー、さんしー!」
「ま"た"4"時"!なんだが!?」
昨日蜘蛛が出ただの何だので夜遅くまでギャーギャー騒いでいたテレジア。正直もうちょい寝ていたいので二度寝させてもらう。
「じゃ、私もヒカリの布団で寝るわ!」
とか何とか言ってモゾモゾ入ってきた。人懐っこい貴族様だ。なんだろう……この匂いと似た匂いを最近嗅いだ気がする。
「良い子良い子……暗い顔してたら、幸せが逃げちゃうんだから!」
凄まじい母性で私をわしゃわしゃしてくる。純粋な行為から来ているので、悪い気はしない。
「おはよ、ヒカリ」
「あ……今何時?」
「8時よ。それよりヒカリ……あんた、寝言で……」
「ん?」
「エレノア、お姉ちゃんって……」
そうか。私はまたその夢を見ていたのか。けれどテレジアから出た言葉は、全く予想外のものだった。
「エレノア……って、もしかして、
エレノア・フォン・テグジュペリのこと、かしら?」
「…………………………え?」
え?え、え!?
「エレノア・フォン・テグジュペリ。金髪のイケメンな女の人。私の姉よ。あぁ、違ったらごめんなさい!珍しい名前でもないからね」
「……多分合ってる。まさか、こんな所でエレノアの素性がわかるなんて」
エレノアは貴族だったって言ってたけど……まさかテグジュペリ侯爵家の人だったとは……。
「家出しちゃったから実質私が長女なのよ。ヒカリあんた、お姉様に会ったの?」
「……うん」
「そう!元気でやってるかしら!?」
「…………………………………ぁ」
涙が、止まらなかった。
「ぅぁ、ごめん、なさい……ごめんなさい……あぁ、ああああぁああ、あああああああ」
「ひ、ヒカリ?」
私の目からは止め処なく溢れてくる涙。私は、全然吹っ切れていなかった。私にとっては2人目の姉であるエレノアの死はとても、とても重い事実だった。
「助けられなくて……ごめんなさい、ごめんなさい、エレノアお姉ちゃん……うあああああ!!」
泣きじゃくる私をテレジアが抱きしめる。久しぶりに感じた人の温もりが心地いい。
…
…………
………………………
暫くして泣き止むと、テレジアはポンポンと頭を撫でてくれた。つい甘えてしまいそうになる。私はここまで心の弱い人間だったのかと再確認してしまった。
「……大方の事情は察したわ。正直、烽に入ったって風の便りに聞いた時点でお姉様の安否はもう保証できなかったから。覚悟はしてた。でも……やっぱり辛いわね」
テレジアも苦しそうに顔を歪めている。けれど私が泣いたのを見たからか、テレジアは泣くことはなかった。
「でもそっかぁ。お姉様の妹なら、私の妹でもあるわね!ヒカリ、今まで通り私に甘えていいのよ!もう私の家族みたいなものなんだから!」
「……ん、ありがと」
バフっとテレジアの胸に顔を埋める。テレジアはここまで甘えられると思っていなかったのか、少し硬直していたが直ぐに私の頭を撫でてくれた。
「はぁあぁ。ここまで素直で超絶可愛い子になんちゅうトラウマ植えつけてくれてんのよお姉様は……。全くもう……」
一頻り甘えた後、私は元の表情に戻して支度を終えた。もう、大丈夫だ。
「あら?もっと甘えていいのよ!?ていうか、その冷たそうな表情よりはさっきの方が可愛くていいのにー!正直似合わないわよ、あのストイックそうな性格」
「……一応アレ私の素なんだけどな。気を張ってないと何処で酷い目に合うか分かったもんじゃないから、常在戦場なんだよ」
「子供にそんな気構えさせるなんてこの国は終わってるわぁ。ま、ヒカリに護衛頼んだ私が言えたことじゃない、か。でも意外なご縁よね」
「正直びっくりだよ。まじで。よし、行こっか。そろそろ時間だ」
ギルド会館に着いたのはきっちり10時だ。行く途中テレジアはやけに私と手を繋ぎたがったり撫でたがったりしていて、滅茶苦茶気を遣われてるのがわかった。
「て、またお面……」
「だから私の戦場モードなんだって」
今日はどうせ戦うから髪も染めていない。この銀髪はすごーく目立っていた。
「おや、お待ちしてましたよ!奥には今回別口で依頼した冒険者の方々も待っています」
「そっか、ごめんね。遅れて」
「いえとんでもない!銅月級の方に来ていただけただけで幸せでございます!」
ギルド管理者の方に案内されて奥の執務室へと入る。そこには、数名の人が……人が……?あれ?
え…………………………?
「あ、お疲れ様です銅月級の冒険者様。こちら、別口依頼者のモガミ様ご一行です!」
そこに居たのは、私が会いたくなかったクラスのみんな。そして、
「最上です!えっと……貴方が……?」
笹ちゃん先生こと、最上笹乃だった。
いや、いやいやいやいや、いやいやいやいやいや!何なのこれ!?エレノアお姉ちゃんと縁のあるテレジアに出会ったと思ったら、今度はクラスメイトとご対面!?
えっと、居るのは……鮭川樹咲、梢、米沢、朝日、上山、大江……そして、最上笹乃。うん、語李くんから聞いた通りだ。
最悪だ……なんでこんな所で余計な心配事を抱え込まなきゃいけないんだ……。
「えと……銅月級の冒険者、の方ですか?あの、失礼ですけど……子供、ですよね?」
「……………」
「ああ!お気に障ったらなら謝罪します!私はモガミ!最上笹乃って言います!笹乃が名前です!よろしくお願いします!」
「……ん」
声も少し低くなってるから、気づかない人は気づかないとは思う。でも声わかる人はきっとわかる。特に、鮭川樹咲や梢は分かる気がする。
「あ、昨日のレストランの女の子だ……銀髪の!」
「梢の推しの美少女だろ!まさかその子が銅月級冒険者なんてな!」
「私達と同い年くらい、だよね?雰囲気はものすっごいベテランって感じだけど」
う、昨日レストランに居た客ってみんなかよ。
「ヒカリ?どうかしたの?」
「……話」
ジェスチャーで話を聞くように促す。テレジアは不思議そうな顔をしていたが、さっきのこともあったので私を心配してこのノリに乗ってくれた。
「ではご説明致します。街の周辺街道に魔獣が出現しており、現在王都と東都を結ぶ物流がストップしている現状です。それと同時に周辺の村に被害が出ており、一刻も早い討伐が望まれています」
「王都から冒険者呼んだりしなかったのかしら?」
「テグジュペリ様の言う通りなのですが……何分お金が出せずに困っていた所でして。ですから、ヒカリ様が破格のお値段で引き受けてくれるのは此方としては渡りに船で御座います」
「…………………………」
ま、メインはそっちじゃないからね。
「発生源すら掴めていない現状でして、被害のあった地域はリストアップして地図に落とし込んでいますが……如何でしょうか?」
「……」
「いや、ヒカリあんたなんか喋りなさいよ!」
「……やだ」
「え、えっと……ヒカリさんに私達は同行してもいいでしょうか?私たちも困ってますし、村の危機は見過ごせませんし」
「元よりそのつもりよねヒカリ!」
「まぁ……そだね。地図借りる」
地図を見ると、どうやら相当数の被害が有るらしく×マークで埋め尽くされていた。大方の話を聞き終わると借りた馬車で出発する。
にしても……気まずい。なので別々の馬車を用意して貰うことにした。
「ヒカリ、どうして喋らなかったの?」
「……ワケアリ。詮索しないで貰えると嬉しい」
「そ、そうなのね。ま、そういうこともあるわね!任せなさい、私が代わりにコミュニケーション取ってあげるわ!」
「まーじで助かるこればっかりは」
…
…………
………………………
笹乃達は前を行く木葉の馬車を見ながらボロ馬車の中でわちゃわちゃしていた。
「なんか、避けられてません?」
梢が不満そうに言う。笹乃も、何となくそんな気がしていた。
「気難しそうな女の子でしたね。ちょっとストイックそうな、なんか近寄り難い雰囲気というか」
「あのお面見てるとなんか背筋がゾワってするんだけど……あのセンスは、アレだな。なんか木葉とかのセンスに似てる……」
「あー!そうだ、よく考えたら木葉ちゃんはあんなセンスしてたね。まさか同じような独特のセンスの持ち主が居たとは……」
「雰囲気とか性格は真逆って感じだけどな。木葉ちゃんってほら、ポワポワ〜明るい〜!為せばなる〜!的な感じだけど、あの子は背中で語るタイプっていうか……」
笹乃も、記憶の中の木葉とあの子は真逆の印象だった。なのにどこか木葉を思わせるようなセンスや、多分クラスメイトに言っても分からないとは思うが雰囲気も少し似ている気がした。
(……私が木葉ちゃんに会いたいって気持ちが、そう思わせているのかも知れませんね)
実際まさかあの少女が木葉だなんて夢にも思わないので、笹乃達は気付くこともなかった。
「漫画みたいだよな、あんな小さい女の子が最強の冒険者ってさ」
「ま、お話したいよなー。撫でたら懐いたりしないかなぁ」
「私の美少女センサーに狂いはないのです!」
「梢それしか言ってないし……ってあれ、なんか止まったよ?」
街からある程度行ったところで木葉の馬車が止まる。
「《鬼姫》、おいで《橋姫》」
木葉が詠唱すると、瞬く間にその姿が変わった。黒いウェーブのかかった髪、白の衣、青いスカート風の袴。そしてその周辺には無数の"嫉妬の篝火"が飛び出す。クラスメイト達は唐突な和の世界に驚いて開いた口が塞がらない。
「《魔笛》。指定範囲はここから10キロ圏内。行って」
木葉の第3の目である篝火に生命を宿し、自由に動き回る索敵機として利用する。炎が次々と飛び去っていく様子はどこか幻想的で、その中心にいる少女は異常なまでに神々しかった。
「ひ、ヒカリ!?何それすごい!!」
テレジアの声を聞き流し、木葉は索敵に集中する。木葉の意思を汲み取って自由に動き回る篝火はその範囲内に魔獣を捕捉していた。北の森に巣があるらしい。潜んでいるのは……魔人の可能性が出てきた。
(くそ、黒幕がいるし。ゴブリンの巣、死霊の大群、あー街を襲ってるのは蛇の魔獣もいるのか)
索敵完了。木葉は再び馬車を走らせて進む。
「わ、和風でしたね……」
「和風だったね。この世界和風とかあるんだ……」
「めっちゃエロかったな……大人の色気っていうか」
「男子サイテー……って思ったけど私もエッッ!ってなったわ」
「あれ?なんか来てない?」
不意に遠方から何かの大群がやってきた。よく見ると……ゴブリンだ。
「ひぃ!?ゴブリンじゃん!」
「やばいやばいやばい!何あの数!?」
「500くらいいるんじゃない!?大規模侵攻だよねこれ!」
「ヒカリさんは気付いて……ッ!?」
前を見ると、馬車の荷台で刀を抜く木葉の姿があった。その構えに思わず見惚れてしまう笹乃達。そして、
「散れ雑魚、《斬鬼+》」
攻撃魔法を静かに唱え、刀を振るう木葉。押し寄せていたゴブリン軍が一斉に首を刈り取られて死んでいく。一撃でだ。たった一振りの太刀で村を壊滅させかねない規模のゴブリンを殲滅していた。
「す、すごい……」
「アレが、銅月級」
感嘆の声を漏らす笹乃達。そんな彼女らを尻目に、木葉は回収した索敵の篝火を森に再配備し始めた。
(あーいるいるうじゃうじゃいる。これは、あはは。魔人族までいるし。何となくテレジアの前で殺すのはアレだし、隙を見て見えないところで始末しよう)
鬼のようなツノが生えた魔人族が、ゴブリンの巣と思われる所の入り口で指示を出していた。
その間に蛇の魔獣が馬車を襲おうと前方から向かってきていたので此方は《鬼火》でこんがり焼いてあげていた。《鬼火》はスタンダード状態なので、実はどのモードでも使える。今は橋姫モードだが鬼火が使えていた。
「うーん、見えないわね?おかしいなこんだけ靡いてるのに」
「……何してんの?」
「スカートよスカート!どういう理屈?こんだけ靡いて中見えないの!」
「変なところはエレノアに似てるな……」
強い風で金髪ドリルが靡いているが、それが崩れないことの方がよっぽど不思議である。
「森に入るよ。一応全体で警戒して、四方を守り切ってあげる自信がない」
馬車を飛び移り、出来るだけ声を低くしながら笹乃に言う。
「わかりました!にしても……凄いですね、本当に銅月なんだ……」
「心外、疑ってたの?」
「え、えぇ、まぁ」
笹乃の表情をみて、あぁ変わらないなぁって感じる木葉。変な所で正直なのだ彼女は。そう思うと少し頰が緩んだ。
「あ、笑った」
「私だって笑う……《燕火》。そこよそ見しないで」
樹咲がぼーっとコッチを見てドロドロの死霊に襲われそうになっていたので攻撃魔法で燃やし尽くす。樹咲はギョっとしていた。てかお面の下の表情わかるのか、とやはり笹乃を少し警戒し始める木葉。
「あ、ありがと……」
「かっこいー……なんかストイック極めてる感じ。なのに可愛い系って反則じゃない!?このパトスを抑え込めない!」
「はいはい梢は黙っててねー」
暴走する梢を友人の瓶子が抑え込む。一緒にドイツ旅行行ってるくらい仲のいい2人も全く変わってなくて、木葉は逆に拍子抜けだった。こんなに変わったのはやっぱ自分だけか、と。
(《熱探知》で何処にいるかは丸見えだな。この篝火って相手を焼却できたりしないのかな?)
と思いステータスを開いたら、どうやら使用レベルを上げれば篝火に代理攻撃機能まで搭載できるらしい。茨木童子は使用レベルが上がってるので他の鬼に機能分与が出来ているという仕組みだ。吸血鬼や土蜘蛛はあまり使ってないから経験値が貯まらないのが傷。
(じゃ今のうちに橋姫モードの経験値を貯めとくか)
「テレジア、私は敵の拠点を捻り潰してくるから後ろの冒険者に守ってもらって。多分、そこそこ強い筈だから」
「わかったわ!って、やっぱ知り合いなのね?」
「……まぁそだね」
「わかった、何も言わないわ。ちょぉっと、失礼いたしますわっと!」
テレジアはのっそりと後ろの馬車に乗り込んだ。
「え、えと?」
「ヒカリが敵の本拠地を潰すらしいから、私の護衛は貴方達にとのことよ!私戦闘能力一切ないもの!」
「え、1人で行く気なのですか?」
「ま、少し心配よね。誰かついて行ったらどう?」
「では私が行きます!樹咲さん、後は任せました」
「無理しないでね、笹ちゃん先生」
笹乃が降りるとテレジアはどかっと座り込んで本を読み始めた。なんというか、肝が座っている。テレジアとしてはどれくらい掛かるか分からないからと長期戦覚悟で本を持ち込んでいたのだが……。
数分後、奥の拠点からは火柱が上がっていた。
木葉は現時点でそのスキルのレベル向上によって魔獣なんて相手にもなりません。一方的な虐殺ができます。




