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4章2話:テレジア・フォン・テグジュペリ

とうとう交錯するクラスメイト陣営。


そして、新ヒロイン(?)

「ジー」

「ごくん。あの、食べづらいんだけど」


 近くの少し高そうなレストランでランチを頂いてる。目の前の金髪縦ロールの少女がお金を出してくれるとのことなので、存分に高そうなレストランに入ってやることにした。が、肝心のお相手がずーっと見つめて来るので食べ辛くて仕方ない。


「名前、聞いてもいい!?」

「いちいち声が大きいな。……ヒカリ。冒険者やってる」

「へぇ、冒険者ねえ。どれどれ……って、銅月級!?嘘でしょ!?」


 そうか、相手にもタグカラーだけは見えるんだっけ。目の前の少女、テレジアは頭の上で星をくるくると飛ばしていた。能力かなんかなのかな?


「あんたみたいな可愛い子が最上位冒険者っ!?バグってんじゃないの!?」

「テレジアみたいなのが侯爵家令嬢とかの方がバグってるよ」

「ムキー!可愛い癖にいちいちムカつくわね!」


 爵位はあんまり詳しくないけど前の世界とほぼ同じらしい。上から、


大公(たいこう)

公爵(こうしゃく)

侯爵(こうしゃく)

(辺境伯(へんきょうはく))→辺境の伯爵の呼称

伯爵(はくしゃく)

子爵(ししゃく)

男爵(だんしゃく)


 となっている。ま、多少は前の世界と違うらしい。具体的には、この世界では騎士は冒険者もなれたりするというかそれが大半なので騎士爵という爵位がない。

 んで、オストリア・ブダレスト大公国を治めているのは大公だ。また、北リタリー公国は公爵が治めていた。どちらも選定大公、選定公と神聖王国に選ばれた大公や公爵なのであんまり参考にならないが、この理屈でいくと侯爵家令嬢であるこの少女は国において大都市一個を治めるほどの家柄だと言える。


「国王陛下からこの近くのノルドール一帯の行政を預かる侯爵家よ!……ま、侯爵なんて名ばかりか。お父様は王都で法務省の高官を務めているの」


 神聖王国は昔はともかく今は絶対王政の中央集権国家だから、貴族というのがあまり力を持てないって感じかな?どうやら話を聞く限りお飾りの法務省高官として据えられているらしい。特に異端審問官が幅を利かす神聖王国の法務省じゃ、お飾りになるのも無理はないか。


「ま、兎に角。助けてくれてありがとう!いやー、商談の話をしに来たらまさかあんなチンピラに絡まれるなんて……」

「商談?」

「これからの時代は貴族も商売するのよ!そんなわけで近くの街まで視察に来たわけ。どこの土地に店を構えるのがいいかー、とかね。そうだヒカリ!あんたも協力しなさいよっ!なんか、ガツンと売れる商品考えてよ!」

「え、えぇー……」


 助けたのにグイグイくるなこやつ。商品ねぇ。料理でも作ってレシピでも売ろうかな、なんて提案したらテレジアは目を輝かせてきた。


「へぇ!そんな紹介できるレシピがあるのね!?ここの農作物を使って色んなものを作れそう!?」

「ま、私の故郷のものでよければ。いや待て、なんで私がそんなこと……」

「あはは!ヒカリあんた良い奴ね!こんなに可愛くて銅月級で。ねぇ、私の専属メイド兼用心棒やらない?王都まで戻りたいんだけど、生憎今はこんな状況だし……」

「……?こんな状況って?」

「はぁ?あんた、この周辺で活動してるわけじゃないの?てっきりそれで王都から此処まで来たのかと思ってたわよ!」

「……?」

「この街の周辺に魔獣が出まくってるのよ。この街も度々襲われてて、最近その頻度が増してるの。この周辺の領主の娘としては見過ごせないわ!」


 なる程。魔獣ねぇ。今の私の敵ではないけど。


「王都の方も頻発してる冒険者暗殺騒ぎで混乱してるし、物騒になったものよねー」


 その話も知らないんだが?


「んで、私はテレジアの護衛を請け負えばいいの?」

「んー、この村の農作物を守るためにも、出来れば根本から断ち切りたいのよね!」

「相手にもよるけど出来なくはないね。私も懐が厳しいし正式に依頼を出すなら受けてあげてもいいよ」


 テレジアはあんまり悪い子では無さそうだしね。めんどくさい子だけど。けどまぁ、お飾りとは言え侯爵家令嬢との繋がりは存外無駄にはならない気がする。どうせ王都に行くって目的は一緒な訳だし、さっきの村の人たちには野菜も貰ったし恩返しできるならしておきたい。


「ホント!?よーっし!銅月級冒険者なんて滅多にお目にかかれないし、しかも普通は上の年齢ばっかだからツイてるわね!あれ、そういえばヒカリって何歳なの?」

「15歳」

「はぁあああ!?私より4歳も年下なの!?」

「何か問題でも?」

「いや、しっかりしてるなぁって。貫禄てか雰囲気も只者じゃないっていうか、なんかオーラが違うし……あんたホント何者?」

「色々経験してきたからね」


 王都での迫害、レスピーガ地下迷宮での殺戮、色んな出会い、そしてヴェニスでの敗北と喪失。それらが私をある程度は大人にしたんだとは思う。って思ってたらテレジアにワシワシって頭を撫でられた。


「んー、いい子いい子ー!あー、きゃわいいわ!なんていうか……」


 あー、はいはい妹みたい的な、ね。


「ぐれた娘を持った気分ね!」

「お母さん!?」


 方向性が意外だった。テレジアママって呼ぼうかな。


「じゃあ依頼を正式なものにしたいからギルド会館に行くわよ!!多分村の防衛の方も依頼書が出てる筈!」

「へ、この街ギルド会館あんの?」

「そりゃあるわよ!殆ど王都の本部に人取られちゃってるけど……」

「ふぅん。気づかなかったな」



………


………………


 で、行ってみればこれまた酷いところだった。


「いや、これギルド会館?」

「ええそうよ!ちょっときったないけどギルド会館よ!」


 一言で言えばボロい。居酒屋ですって言われても納得できちゃう。今までラクルゼーロ、リヒテン、ヴェニスのギルド会館があまりに豪華すぎただけなのかな。


「ていうか、何?そのお面。ヒカリはめっちゃ美少女なのに勿体ないじゃない!てか怖っ!!趣味悪すぎよ!!」

「む、私の趣味にケチをつける気かへっぽこ令嬢」

「な、ぬぅわぁんですってぇ!!!」


 ぷんすかしながら彼女の金髪縦ロールは怒る度にくるくる回っていた。理屈を知りたい。


 因みに私はお面をかぶってます。ラクルゼーロで購入した、真っ黒な顔と真っ赤な目、二本のツノと怒ったように突き出る牙の悪魔のような鬼のようなお面。私割とこれ好きなのに……迷路といいテレジアといいこれの良さがわからぬとは。ぷんすかぷんぷんだぞ。


「にしても、見事な銀髪よね!常人離れしてるわ、流石銅月級!」

「むー、撫でるなめんどくさい」

「ふふ、頼りにしてるわよー!生意気なお子ちゃま騎士さん!」

「騎士の扱いじゃないでしょこれ」


 ギルド会館に入ると、中もえぐいぐらい古臭かった。いつものように絡んでくるテンプレ冒険者すらいない。みんなどこかぼけーっとした顔で好き放題飲んでいた。居酒屋やん。


「クエストですか!?感動!久々に来たわ!お嬢ちゃん、どんなのがいいのー?」


 受付嬢は、珍しくクエストを受けにきた人!と目を輝かせていた。若いのにこんな所でご苦労様だなぁと思う。


「銅月級ヒカリ。シャトンティエリ周辺の魔獣の殲滅をしたい。そういう依頼書ある?」

「ど、銅月級ッ!?し、失礼しましたァ!ギルド管理者に尋ねて参りますぅうう!!」


 あー、行っちゃった。


「びっくりしてたわねー。おーっほっほっほ!だらしないわあ!」

「テレジアも最初あんなだったじゃん……」


 都合の悪いことは忘れてそうな性格してるもんね。まぁ、なんというか嫌いではない。


「あんたは珍しいのよ?自覚なさそうだけど。普通なら翠月級あたりからイキッた冒険者ばかりになるんだから!善良な冒険者なんてそれこそ一握りよ!」

「あー、身を持って体験したなそれ」


 ラクルゼーロとリヒテンでな。烽は性質的に統制が取れてたから大分マシだったけど。


「変わってるわよー。あんまり実力も誇示しないし、嫌味も言わない見下しもしない。冒険者としては本当に変わってるわ」


 そんなもんかな?なんて思ってたらギルド管理者が出てきて話し合いをする羽目になった。魔獣討伐はあっても魔獣殲滅なんて依頼はないらしい。当たり前っちゃ当たり前。


「というわけで私や街の商工会から正式に依頼を出しましょう。受けていただけますか?銅月級ヒカリ様」

「こっちとしても願ったり叶ったりだよ。どうもありがとう」

「__ッ!?謙虚ですなぁ……。では、そういうことで依頼を出させて頂きます」


 なんか普通のおっさんだ。ギルド管理者と言えばそれぞれ街ギルドのトップが着いてるイメージがあったのに。ラクルゼーロはギルド:餓狼の巣穴のシド。リヒテンはギルド:飛竜の鉤爪のアンソン。そしてヴェニスはギルド:烽(国憂騎士団)のルーチェ。いずれも大規模なギルドの大物ギルドマスター達。それに比べると随分くたびれたおっさんなのでなんだか本当に心配になってくるよこの街。


……


……………


……………………


 ギルド会館でギルド管理者、そして街の有力者らしい人と話し合いをしていた。中にはラグー村で見た顔もいる。


「じょ、嬢ちゃんが依頼を……?しかも銅月級だって!?有難いよ!ここ最近魔獣騒ぎが多くて街の冒険者にも死者が出ていたんだ。いやぁ〜どこで御縁が回ってくるか分かんないもんだねぇ」

「あはは……それで、ある程度の情報が欲しいので町長さんにお話しを聞きたいんだけど」

「あぁ、少しお待ち下さいね。どうやら他にも魔獣討伐を依頼していた冒険者の方々がおりまして……そちらの方との面談をしておりますので……」

「へぇ。討伐依頼?」

「ここ一帯は今や馬車が安全に通れる地域ではないので、立ち往生しているのかも知れませんな」

「この街の外そんなえぐいことになってんのかよ……」


 冒険者ですら立ち往生するくらい魔獣が発生しているらしい。仕方ないので日が暮れる前に外に出てみることにした。


「ヒカリ、服とか要らない?」


 ギルド会館から出て藪から棒にテレジアが言う。


「服?生憎足りてるけれど。なんか変?」

「ううん!かっわいいわ!」

「あ、そう……」


 私のだぼだぼ猫耳黒パーカーは異世界の生地で作られている。下着や紺色のフレアスカートや黒タイツ、黒のキャスケット帽もまた然り。お陰である程度は異世界に溶け込んでいる。


「魔法使いみたいな服装よねー!それ、剣士としては邪魔にならないの?」

「ならないよ?もしかして服買ってくれるの?」

「えぇ!テグジュペリ家は財力だけは凄いのよ!」

「お飾り貴族だけど内実は馬鹿みたいに金持ってるってオチかあ」


 ということでテレジアは私にオフショルダーの可愛い服を買ってくれた。その他に旅館まで手配してくれる優遇っぷり。ママだなぁ。


「ふぅ。娘の着飾りは母としては嬉しいものよ!」

「ママキャラでいいのかお前……」


 そんなことを話しているとだいぶ夕方になって来ていたので、昼間とは違うレストランに入った。


「おや!朝ラグー村で見た嬢ちゃん!いらっしゃい!」

「あ……ネギをくれたおっちゃん」


 レストランまで営んでいるとは。


「繁盛してるね、ちっさい街なのに」

「わっはっは!うちの味は世界一だからな!何食ってく?」

「へぇ、ネギとか使ったマリネサラダか。んー、でもお肉食べたいな」

「じゃあうちで取れた玉ねぎと育ててる牛を使った肉料理なんてどうだい?」

「お、いいね。それにする」


 店は割と繁盛していた。珍しく個室みたいに仕切りがされていて他の客を見なくて済む。


「いいところねー!ここも買収しようかしら!」

「露骨な金持ちアピールは要らない」


 テレジアとわちゃわちゃ話していると、料理が運ばれてくる。ハンバーグ、だねこれ。


「あ、美味しい」

「パンが進むわね!いい味付けだわ!!」


 あっという間にペロリと食べてしまった。玉葱がいい味出してる。さて、お会計……。


「すみません、7名です!」

「お、いらっしゃい!大人数だねぇ、観光かい?」


 とその時、隣の個室に人が入ってきた。随分大人数のようだ。


「旅館に向かうわよ、ヒカリ!この町で1番の所なんだから!」

「ボロ街の1番宿かぁ……期待しないどく」

「んなぁッ!?なんて失礼なことを!メッ!よ!メッ!」

「お母さんかよ……」


 テレジアの後に付いて店を出て行く。なんだか隣の個室から視線を感じた気がしたが気のせいだろう。




   







「どうかしました?梢さん?」

「今の子……雰囲気でわかるよ、可愛い子だったなぁ。顔見たいなぁ」

「梢貴方そんなのばっかよね……ギルド会館の受付嬢にもそんなこと言ってたし」

「酷いよぉ瓶子(へいし)ぃ……。あ、笹ちゃん先生はそれにするの?」

「ええ。久々の外食ですし、美味しいもの食べたいです!」


 笹乃たち7人は王都から逃れてここ、シャトンティエリの街に辿り着いていた。このまま進みたかったのだが街道は魔獣が巣食っていて通れない。そこで、協力者を募ろうとギルド会館に訪れていた。


「なんか、銅月級冒険者の人が協力してくれるらしいね。どんな人なんだろう」

「腕自慢、だよな。勇者に匹敵する化け物冒険者かぁ。楽しみだな!」

「可愛い子だったらいいなぁ」

「上山くん……でも楽しみですね。この世界の強い冒険者……どんな人なんでしょう」


(不思議と……なんだか良い予感がするんですよね)


 笹乃は、なんだかそんなに悪い相手が来る予感はしていなかった。期待と不安が入り混じるパーティーは騒ぎながら食卓を囲むのであった。

新ヒロインはママ枠でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>お飾りとは言え公爵家令嬢との繋がりは存外無駄にはならない気がする 公爵× 侯爵○
2020/06/04 20:34 リーゼロッテ
[一言] まさかのママ枠!
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