TIPs:家庭訪問
次から本編再開させるか。
満開百合高校1-5は問題児を約3名抱え込んでいた。そのことで今日も1-5担当教師:最上笹乃は頭を悩ませている。
「はぁ……」
「最上先生、悩み事ですか?」
「学年主任!あ、そうなんです……クラスのことで」
「1-5は体育祭も、球技大会も、文化祭も大団結の素晴らしいクラスじゃないですか。そんなに悩むことが……?まぁ強いていえば彼女らでしょうが」
「その彼女らですよ、私の悩みは。はぁ……」
1人は船形荒野。まず学校に来ない。偶に来るが授業は寝ているし自クラス・他クラスの男子をパシリにするし学校内で女子に暴力を振るうしと役満にも程がある。正直新米教師の笹乃の手には余るのだ。その恋人である高畠三草も1-5なので笹乃は余りに可哀想だと船形関連は学年全体の責任問題と化しているのが唯一の救いだ。
次に真室柊。彼女はさほど酷くはないがサボり癖がある。頭髪も検査に引っ掛かっているが一向に治す気配がない。まぁ反抗的ではないし笹乃とも仲良くしているから船形より断然良い方ではある。
最後に櫛引木葉。成績は数学以外優秀、剣道部で全国クラスの成績を誇り生徒からの信頼も厚い優等生。一見問題はなさそうだが、大の遅刻魔である。そしてその理由こそが彼女を問題児認定している原因だった。
「真室さん、船形さんは本人の素行の問題なのでまだいいんですけど……櫛引さんに関しては家庭環境が余りに問題なもので」
これは笹乃が家庭訪問に伺った時のお話。
…
………………
…………………………
「えっと……櫛引家はどこでしょう?」
と笹乃が住宅街をウロウロしていると、近所の人が話しかけてきた。
「あら、どこの子かしら〜?どこに行きたいの?」
「あ、えと……私、満開百合高校1-5の担任の最上と言います!櫛引木葉さんのお宅、ご存知ないですか?」
「あら!?教師さんだったのね!小さいから迷子の子かと思ったわ〜」
「あ、あはは」
いつものことなので笹乃は少し涙目になりそうなのを堪えて拳をぎゅっと握る。
「それにしても、木葉ちゃんの家庭訪問ねぇ。大変でしょう?」
「え、それはどういう?」
「木葉ちゃんのトコのお家は近所でもあまりいい話を聞かないのよ。地方議員のお父様とは別居、お母様と叔母の方は新興宗教にそれはもうドップリなのよ?」
「え!?」
笹乃はこの時それを全く知らなかった。木葉の母が入院していたのは知っていたがそこまで家庭環境が荒れていたとは……。普段の木葉からは全く想像もできない。
「しかも木葉ちゃん、お姉さんを6年前に亡くしてるの。その前にはお爺様が亡くなるのを目の前で見てるのよ。そこに今度のお母様のご入院でしょう?もう私心配で心配で……」
「な、な……そんな……」
近所の人からの衝撃の話。毎日明るい笑顔でみんなの人気者の櫛引木葉。そんな彼女の環境は、笹乃では想像が付かないくらい壮絶なものだった。
(そんな……木葉ちゃん、あの子はそんな環境で毎日過ごしていたの……?)
「あれ?笹ちゃんセンセーだ!あ、もしかして迷ってたの?入って入って!」
木葉の明るい声が飛び込んでくる。見ると、二階の窓から木葉が顔を出していた。
…
……
……………
「ねぇねぇ、笹ちゃんセンセー!ほら、更新されてるよ動画!」
昼休み、珍しく学食で昼食を取っていた笹乃に木葉が話しかけてきた。
「あぁ、【ドレシン】の新曲ですか?見ましたよ!圧倒的なパフォーマンスですよねぇ」
「生で見たいよねぇ。チケット、中々手に入らないだろうけどー」
ドレシンとは木葉や笹乃、果てには花蓮や樹咲、なんならクラス中が好きなアイドルグループ【dress code symphony (ドレスコードシンフォニー)】の略称だ。歌って踊って楽器まで弾いちゃう実力派アイドルで、こないだ世界ツアーまでやった日本トップクラスのアイドルグループ。8年前に結成され、メンバーを交代しながらもその人気を徐々に伸ばしている。
「花蓮ちゃんはINAちゃん推しだったよね!」
「えぇ、木葉ちゃんはあんまり推しとかはいないんだっけ?」
「曲が好きなんだよねー。ドレシンって確か、作曲とかもメンバーがやってた時期があったんでしょ?その頃の曲が好きなの!」
「あぁ、6年前まではメンバーが作曲してましたね〜。天才少女現るッ!なんて記事が飛ぶように売れてましたから」
「あー、あのツインテの幼げな女の子な。名前なんだっけ?」
「樹咲ちゃん人の名前覚えるの苦手だよね……」
木葉が小学校の頃、よくその曲が流れていたので木葉もメロディーを覚えてしまっていた。作曲者自身がセンターとしてメンバーを率いて歌う姿に、テレビで見ていて感動した記憶がある。あの時ドレシンは絶頂期で、有名に順当に有名になって行っていたが、ドレシンを決定的に有名にしたのは1つの大きな事件だった。
6年前、センターの天才少女が謎の失踪を遂げたのである。
「トップアイドルの天才少女が謎の失踪、だからね。怖いよねー誘拐とかかなぁ」
「木葉ちゃんも可愛いんだから誘拐、気をつけてね?」
「1番花蓮が誘拐しそうだけどなーあはは」
「樹咲ちゃん?何か言ったかしら?」
「い、イエ、何モ」
(木葉ちゃんは、家庭のことがあるのにいつも明るいですね。支えていきたいです、これからも)
そんな笹乃たちも、数ヶ月後には謎の失踪を遂げることとなる。
…
…………
………………………
「へっくしょん!」
笹乃がくしゃみをする。神聖パルシア王国の王都:パリスパレスを北門から馬車で脱出して早数日。脱出したは良いものの馬車という交通の不便さを思う存分味わう羽目になっていた。具体的には餌やら休息やらが必要なのだ。迷路が魔笛で作った馬車とは訳が違う。
そんな寝起きの笹乃に、ショートカットのサバサバ女子:鮭川樹咲が声をかける。
「笹ちゃん先生、起きた?」
「あ、鮭川さん。ごめんなさい、少し昔の夢を見ていました……」
「昔?」
「櫛引さんと、みなさんとご飯を食べていた夢です」
「……そっか。あ、梢たちが戻ってきてるからさ、ご飯にしようぜ!」
樹咲が朗らかに笑う。だが、木葉という名前が彼女を暗くさせていた。樹咲は後悔しているのだ、彼女に冷たくしていたことを。王宮内ではどうあっても木葉に対しての悪意が心の中に溜まってしまい、辛い言葉を吐きかけた。その木葉は、最後に見た時には本当に辛そうな顔をしていたし、結局謝ることもできないまま魔族に連れ去られてしまった。
「このは……」
樹咲がそう呟くのを聞いて、笹乃も唇をかみしめる。笹乃とて木葉や語李を救えず、生徒を置き去りにしてきてしまったのだ。その罪悪感は相当なものである。しかし木葉に関してはそれ以上に苦しい思いをしていた。
『笹ちゃん先生!これお菓子!一緒に食べよ!』
『笹ちゃん先生のご飯は美味しいなー!』
『笹ちゃん先生は好きな人いないの?』
『あーそーぼー!笹ちゃん先生!』
木葉の一言一言があの純粋無垢な笑顔と共に脳裏に浮かぶ。だが直ぐに両手で頬を叩いて意識を戻した。
「よし、ご飯にしましょう。検問を避けながら来ましたからだいぶ遠回りになりましたね……。もうすぐシャトンティエリという街に着きますのでそこで色々調達したいものです」
「ああ!食べよう食べよう!」
馬車の荷台から降りて彼らの元へと向かう。
(みなさん、絶対助けますからね)
そう、決意を胸に秘めて。
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