3章22話:ヴェニス後日談。そして王都へ。
一応報告として、1〜3章の○○話を解体して章ごとに話数をリセットしようと思います。具体的には27話→2章1話みたいな。それに伴って色々広げすぎた風呂敷をしまうかの如く話数整理と一斉編集を行うのでこれを機に一から見ていただけるとありがたいです!
また、何か分かりづらいものや説明してほしいものがあれば感想欄でお願いいたします!
3章後半はクラス転移の醍醐味章!
「こ、のは……?」
木葉が海に沈んだと同時に、海面に真っ赤な魔法陣が浮かび上がる。迷路はそれを動揺しながら見つめていた。
「こののんの魔力反応が消えた!?え、うそ……死んじゃった……なんてことは……?」
「ロゼ!縁起でもないことを……」
「いや、恐らく強制転移の魔法陣じゃ」
ルーチェが甲板に登ってくる。その目は泣いていたのか真っ赤に腫れていた。無理もない。エレノアや自分に尽くしてくれた烽のメンバーが殆ど死んでしまったのだから。
「きょ、強制転移って……」
「月祭りの第7曜日、ヴェニスの海域でおかしな磁場が発生し、強制転移の魔法陣が浮かび上がることがあると聞く。王都と繋がっているやら、帝国領ユトランドに繋がってるとも聞くが……」
「木葉は、どうなるの!?木葉!木葉ぁああ!」
「落ち着くのじゃ!ここに我らが留まっていては、神聖王国から攻撃を受けかねん!フルガウド姫、どうにかならんのか!?」
「こののんは、転移に巻き込まれたけど取り敢えずは無事、だよね?それなら一旦この場から離脱しよう。目的地はマスカーニ湖!それからのことは……それから考えるんよ」
虚な目で呟く迷路を催眠魔法で眠らせ、ロゼは方舟を操作した。方舟はその巨体を徐々に消失させていく。
「エレノア……ハノーファー……みんな、すまぬ……我が不甲斐ないばかりに、すまぬ」
燃え盛るヴェニス。それを見てルーチェは崩れ落ちるように泣いた。ロゼは操縦席で1人唇を噛みしめながら涙を堪える。木葉がいない今、冷静に物事を進められるのはロゼだけだった。
「僕は僕のできる事をするんよ。まってて、こののん」
…
…………
……………………
「なんだ……なんなのだこの有様はッ!」
魔導将軍モンテスキューが吠える。ヴェニス討伐軍の本陣はまるでお通夜のような雰囲気と化していた。
楽勝と思われたヴェニス討伐。蓋を開けてみれば烽の頑強な抵抗とゲリラ戦により味方は壊滅。市街地戦なんて愚策中の愚策と後世に自信を持って言える戦闘となったであろう。
第2連隊のペトラ少将、第3連隊のガターポンド少将、第4連隊のシャールメルン上級主幹は木葉や迷路、ロゼによって指揮官ごと殲滅された。
第5連隊のヒンターポンメルン上級主幹やミスティ主幹、第9連隊のメーデー参事官らはエレノアのゲリラ戦によってこちらも指揮官ごと死亡。しかもモンテスキュー子飼の国立天文台に所属する飛翔騎士:トライデン主幹や、伊邪那岐機関のヘッサーカ筆頭司祭まで戦死している。
「いずれも小生の直属の将校ばかり。クソがああああッ!」
モンテスキューが机を叩く。
「主幹以上の高級将校らが6名が戦死。参事官・参事補佐官が22名戦死。オストリア軍やミラン市・ヴェロナ市での戦闘含めて1000人近く戦死者が出ておりますな」
モンテスキューを恐れず発言するのは今回東地区を制圧していたので出てこなかった鉄血防壁の異名を持つ武人【ファティマ上級主幹】だ。褐色の肌を持つ南方大陸系の将校で、その体躯はゆうに2メートルを越す。南方パルシア軍管区に所属しているため、モンテスキューの直接的な指揮系統には属していない。因みにカデンツァと共に市街地戦に反対した有能な将軍だった。
「くっ……市街地戦は必須だった。反乱軍を1人残らず殺戮するためにも!」
「ならば砲兵で港と中央庁舎を集中砲火すれば良かったのです。幸いこちらにはコーネリア殿がいたのですから、随分楽だったでしょうに」
「辺境伯風情が小生に物申すか!?」
「……私の指揮は七将軍であるマーベラ閣下に御座いますので私を処分したいのでしたら南方軍管区へどうぞ」
モンテスキューの怒りをさらりとかわすファティマ。カデンツァは内心ヒューと口笛を吹きたくなった。
(しっかし、見事に人減ったな)
北バルカーン軍、オストリア軍には治安維持のために周辺に出張ってもらっているが、南方司令部の軍含めて最初9000もいた軍が戦死者や負傷者の増大で4000まで数を減らしていた。
司令部だって、60近い将校がギュウギュウ詰めだったのに今では主幹以上はカデンツァ、ファティマ上級主幹含めて4人。参事官など負傷者が多くて10人しか出席していない。異端審問官もどうやら相当数をロゼ・フルガウドによって狩られたらしく、一等司祭が3名戦死、その他異端審問官18名が戦死と計22名すなわち1/3近く兵力が削られていた。
(空気が美味しいな。やっぱり気持ちの悪い奴らが消えてスッキリした。ま、心は全く晴れないけど、ね。あの子の叫び声が耳から離れない。仕事だからと割り切っていても結構キツイな)
カデンツァが思い出すのはエレノアの妹と言ったあの少女だった。王都で話題となっていた29人目の銅月級冒険者。あの子のことは伏せてある。カデンツァとしてはどうしてもあの子を現時点で神聖王国の敵に回すわけには行かなかった。
(魔王……って言ってたな。もしかしてレイラ姫が会談したのは……ならば一層関係者の口を封じなくてはならない。にしても……よりによって私が魔王の恨みを買う羽目になるとはね)
「申し上げます!!!閣下!リタリーの魔族がこちらに進軍を開始した模様!」
突然本陣に騎士が飛び込んでくる。その報告は、この状況では最悪の展開だった。
「な、な、なんだと!?」
「既にビサ、ラスペチアの街に侵攻しているとのことです!」
「マズいな。閣下、軍を反転させて魔族国家を牽制しましょう。今ならかなりの数で迎撃できます」
「あ、あぁ。な、なぜこんなことに……」
この侵攻は前もって予想していたので、ラスペチア市にはコードとヨヅルを向かわせている。ラスペチアに至っては約4週間前にも来たのだが、まさか往復する羽目になるとは流石にカデンツァも思っていなかった。
(これは……当分王都に帰れなさそうだな。あぁ、フィンが恋しいよ)
…
…………
……………………
王都にて、フィンベルはくしゃみが止まらなかった。なんだろう、カデンツァさんが私のことを話している気がする……と思いながら洗濯物を取り込んでいた。
「はぁ……戦争なんて本当無くなればいいのになぁ」
「その為にレイラ様が頑張ってるんだ。俺たちもできる限りのことはしないとな」
「カタリナさん、お帰りなさい!」
語李ことカタリナはこれまた大きな荷物をもってギルドハウスへと戻ってきていた。ただの買い物とはいえクラスメイトに会わないか内心ビックビクである。実際そこの通りで船形荒野らしき人物が女を侍らせて歩いているのを目撃してしまい、逃げるようにして路地裏から帰ってきたのだった。
「今年は神在月なので折角の月祭りもテンションタダ下がりでしたし、ハァ……最近ロクなことがないです」
「カデンツァさんと過ごせないからって凄まじい落ち込みっぷりだったな」
「な、ななななななな!?チ、チガ、チガイマス!!なんであんな変態と好き好んでお祭りなんか……ハァ」
図星である。こう見えてフィンはかなりカデンツァのことが好きだ。周りから見れば最早恋愛感情まであるレベルだというのに、フィンはそのことに気づいていない。
「カタリナさんはお祭り、一緒に行きたい人とかいないんですか?」
「ん?俺か?お仕事さえなければレイラ様と行きたかったな。まぁ、でも、1人本当に友達になれた奴がいるんだ。そいつとでも、きっと楽しいだろうな」
「……レイラ様以外にそのような方がいらっしゃるのですか?」
「昔からの友達だよ。そして、俺の初恋の相手さ。お互い苦しい立場になったこともあったけど、今はこうして俺もあの子も仲間に囲まれてる」
カタリナは昼間だというのにまだ大きく見える月を見てふと木葉の顔が浮かんだ。彼女は今どこで何をしているだろうか。今カデンツァが向かっているヴェニスにいないといいのだが、なんて考えながら。
「カデンツァさん……木葉……」
カデンツァと木葉が戦うなんて最悪の展開になってないことを、カタリナは1番に祈っていた。
……
……………
………………………
「れ、レイラ!?貴方なんでこんな所にいるんですか!?」
「ふぁ!?そ、その声……お姉様?」
レイラ姫はいつものようにカタリナと買い物に行き、抜け穴を通って自室に帰る途中、お腹が空いたなぁと中庭に出て食べられそうな果物を探している時のことだった。
いつもなら五感の察知機能で見破るか、メイドが止めてくれるのだがあまりに身分が高すぎた為に止められないまま姉:マリアージュ第一王女と出くわしてしまった。
「ま、まさか……その芋虫がついてた花を食べるのではないですよねっ!?」
「え、お、お姉様……この花は大変甘い蜜が付いているのでおやつに最適なのですわよ?」
「私見ました!さっきそこ芋虫がついてました!いやあああああ!妹の高貴な口に芋虫エキスがああああ!」
「そ、そんなこと言われたらわたくしだって食欲が失せますわ!」
普段部屋から出ないとされているレイラ姫と、活発に騎士たちを鼓舞して回る猪突猛進なマリア姫という珍しい姉妹セットが中庭でギャーギャー言い合っているのを見て、訓練中の騎士や1-5のメンバーですらなんだなんだ、と集まってきた。
「全く貴方は!久しぶりにお部屋から出たかと思えばなんでそんなはしたないことをしてるのですか!美少女の自覚あるのですか!?」
「ふん。お姉様はただ街に出て可愛い女の子探し回ってるだけではないですか!百合っ気も大概にしてくださいまし!」
「な、ななななななな!そんなことはありませんよ!断じてありませんよ!」
語李を女の子にして百合百合しているレイラが言っていい台詞ではないが、そこを突っ込めるのは天撃の鉾メンバーだけなので周りの騎士たちはその通りだとうんうん頷いている。
「あ、あの……」
「あ、花蓮!ってその髪はどうしたんですか!?」
おずおずと1-5副リーダーのガチレズお嬢様:尾花花蓮が声をかける。船形荒野の取り巻きに奴隷のように酷使され、髪もおふざけで汚い金色に染められていた。どこか疲れたような目をしている。
「誰にこんな酷いことを!私が今染め直してあげます!レイラ、貴方確か……」
「染色魔法はお姉様の方が上手ですわよ?わたくしは櫛を用意しますわ」
近くにいるメイドに命じて櫛を持ってこさせるレイラ。花蓮は少し狼狽えながらも姫達の好意に甘えることにした。
「花蓮、駄目だよ。勇者様が駄目だって言ってたじゃないか」
「ち、千鳥……」
眼鏡をかけたクールイケメン女子:鶴岡千鳥が無表情で言う。彼女は王宮を脱出しようとして捕まった。天童零児と共にだ。だがその事実は無かったことにされている。零児は何故か牢屋に繋がれただけで済んだのだが、千鳥は宰相たちに完全に洗脳されてしまった。今では王宮の忠実な僕である。
「千鳥、私が許可したのです。勇者様にはそうお伝えください。また、私の友達に酷いことをするのならば、勇者といえど許しはしないと伝えてください」
「……あははは、冗談さ。僕もその髪はどうかと思ってた。直してもらうといいよ」
「千鳥……」
花蓮が俯く。そんな花蓮を慰めるように、マリアは髪を撫でた。ざらっとした感触が手に伝わり、花蓮がどれだけ酷い目にあっているかが伝わってきて胸が痛くなる。
「花蓮、私の元で仕えませんか?今はゴダール山攻略も92層でストップしているようですし、ね。お父様に直訴してみます。勇者様方も、いつまでもこの状況では暇で仕方ないでしょうから」
「ぐすっ……あり、がとうございます……マリア様……」
思わず泣き出してしまう花蓮。木葉を見つけるまでは折れないと決めていたが、やはり毎日の虐めは辛く苦しいものだった。
「お姉様、また女の子を誑かして……と言いたい所ですが今回は良いことをしてますわね。ほら、櫛を取って参りましたわ。花蓮様、お使いくださいまし」
「あ、ありがとうございます、レイラ様」
「いえ。ではわたくしはやることがあるのでこれで……」
「ないでしょう、やること。私に付き合いなさいレイラ」
「む、こう見えてわたくしは……あー……」
(天撃の鉾のギルドハウスに赴く、なんて言えるわけもないですわ……。くっ、ここはお姉様の言うことに従わなくてはなりませんの?!なんだか屈辱ですわ!)
「……わたくしはここで花の蜜を吸ってますので、お2人はご自由になさっててください」
「よろしい!…………………………って、芋虫エキスはやめなさい!!」
「芋虫エキスって言い方をやめてくださいまし!吐きそうですわ!」
「ふふっ、仲が宜しいですね」
「良くないですわ!」「えぇ、良いのよ!」
そんな穏やかな日々が過ぎていく。
その頃、王都の近郊の街の小さな教会で1人の少女が目を覚ました。
「こ、こは……?すくな……それにあの子は……?」
木葉の新しい闘いが、始まろうとしていた。
さて、舞台は再び王都:パリスパレスへ。その前に昔の1-5のお話をたくさんTIPsであげるので見て頂けると嬉しいです!




