3章19話:ヴェニス市街地戦
⚠︎残虐な描写があります。
という警告をいちいちしなくてはならない三章になります泣
今回、とうとう木葉がやります。はい。
「な、何故……何故じゃ!!!何故貴様が、ここに居る!?」
「オヤ?初めましテ、デスヨネ?私、コーネリアと言いマス。貴方ハ?」
「コーネリア・フィレンツォ……忘れもせぬぞ、我と共に王都で戦った同志ではないか!!!」
焼け焦げたギルド会館の屋上で、ルーチェはかつての友と対峙していた。53年前の北バルカーン戦争の際に、王都政府に抗議デモを起こした烽の創設者。1人は狐人族の姫君であるルーチェ。そしてもう1人は…ルーチェの目の前に立ちはだかる、ルーチェが愛したヴェニスの街を一瞬で焼き払った異端審問官:コーネリアだった。
「コーネリア!我じゃ!ルーチェじゃ!!思い出せぬのか!?」
「知りませンデス。もう殺していいデスか?」
キョトンと首を傾げるコーネリアを見て、ルーチェはかつての凛々しかった友を思い出す。そして、その面影すら無くなってしまったことを嘆く。その理由は、ルーチェなら自ずと察することができたが。
「満月教会に、何かされたな?」
「何のコト、デスか?」
「神の威光とまで言われた銀月級冒険者。うぬはいつも正しかった。いつも民草のことを考えて行動し、正義を示そうとした。そんなうぬが、そんなとぼけた顔で千の命を奪う筈がない。洗脳しおったなッ!!満月教会ぃぃいいい!!!」
「……何のことか、分からないデスッ!!!」
烽のメンバーの遺体が転がるギルド会館でカッ!!っと光が灯る。ヴェニスを焼き払った巨大な火砲だった。その光はルーチェをも貫く……筈が、砲撃は一切ルーチェに擦りもしない。
「ふんっ!我がどれだけその術具を見てきたと思っておる!!秘宝級【超錬金火砲アルキメデス】。その火砲で一面を焼け野原にし、その焼き払った後の生命さえ自在に操る。じゃが射程の割に応用が効かず、直線上にしか使えない。それを逆手にぶんぶん振り回せば確かに殺傷力はあがるが」
ルーチェはまたも火砲をかわす。そして手に持っていた紙切れを飛ばした。人型の紙切れはコーネリアの視界上でパッと弾ける。その瞬間から、コーネリアは魔力が抜けていく感覚がしていた。
「他愛ない。その攻撃は動きが単純になるのじゃ。どうじゃ?莫大な魔力を消費した後の感覚は」
「魔力ガ……?」
「霊脈と人体との間にジャミングをかけて接続がはまらないようにした。その火砲の魔力、いつまでもつかな?」
「殺ス、デス!!」
ルーチェは屋上から飛び降りると、建物沿いに屋根の上を移動していく。コーネリアもアルキメデスで打ちまくりながらルーチェを追いかけて行った。
…
………
………………
烽軍を駆逐し、港の封鎖の命を受けて海岸線にたどり着いたガターポンド少将は、信じられないものを見つけた。神聖王国の技術では作ることも出来ない黒塗りの大型船がヴェニスに停泊していたのだ。そのことに動揺し、付いてきていたヘッサーカ・ケトゥンヘルグ筆頭司祭に尋ねる。
「おぉ、なんだアレは?」
「にょにょにょ!恐らく東方共同体の船でしょうぅう!忌々しい忌々しい!捕虜をこちらぇいい!」
ヘッサーカは捕虜たちを連れてきて、黒い軍艦によく見えるような位置に座らせる。そして、
「見せしめにょ!!!こいつらを殺したら、あの船も爆撃しますよぉお!さぁ、さぁ!!」
「ほほ、趣味がいいですなぁ筆頭司祭殿。大砲を持ってこい!この距離ならバラバラにしてやれるだろう!」
ガターポンド少将はそういうと、捕虜の1人の女の髪を掴み、頬に舌舐めずりをする。
「いや、いやああああ!!!」
「ほぉら、もっと泣け!あの船に聞こえるくらいな!お前らが泣けばあの船も戻ってくるだろう!うひひひひ!さぁ、リタリーの女はそんなもんかぁああ?」
「いや、やめて!離して!!きゃあああ!!」
ガターポンドが女性を襲う中、ヘッサーカは捕虜たちに魔法をかけていた。幻術魔法と呼ばれる魔法で、これを掛けられたものはその頭の中をヘッサーカに支配されてしまう。
「国王陛下、ばんざあぁい!」
そう言って烽の男が首を掻き切った。大陸随一の幻術魔法使いであるヘッサーカはそのピエロマスクを大いに歪ませて嗤った。
「にょ、にょにょにょ!!にょ!!!ああああ!面白い面白い!!!反乱軍も即興の幻術魔法でこの程度!全員が神聖王国の国王に忠誠を誓って死んでいく!あぁあ!滑稽!滑稽!滑稽ぃいいいいい!!!」
涙を流しながら死んでいく男たち。こんな事言いたくもないのに、思ってもないことを強制的に言わされて死んでいくことの屈辱。それを見ていた捕虜の女たちは次々と発狂していった。
「おや、船が向かってきますよぉ!!助かるぅ?これは助かっちゃううぅうう!?ざぁぁんねぇん!!!わっちそんなに甘くなぁああい!」
ヘッサーカは捕虜の女たちに幻術をかけ、服を脱がして自ら海に落ちていくように指示する。
「国王陛下万歳!」
「わたくしはヘッサーカ様の下僕です!死んでまいります!」
「ヘッサーカ様、だあいすき!」
次々と海に落ちていく女たち。魚市場の海岸でヘッサーカは笑いが止まらなかった。
「にょ、にょにょにょにょぉおお!!!」
近づいてくる軍艦。
そこから1人の人物が降りてくる。皆一様に戦闘隊形を取っていた。
しかし次の瞬間、その人物を見てヘッサーカも、ガターポンドも、周りにいた王都軍も、唇を噛みしめながら死の恐怖に怯えていたヴェニス市民も、
あっという間に見惚れてしまった。
「な、なななな!?」
「月の……女神か……?」
真っ赤な月に照らされて、そのシルエットが顔を出す。濡れたような黒髪が上品に風でなびき、紫の双眸が浮かび上がる。白い衣と青の袴が揺れる。周囲には無数の篝火が浮かび上がっており、赤の光に照らされるそれらは異端審問官ですら神々しいと思うほど、超常的な景色を作り出していた。
「にょ、にょにょ、にょにょにょ!!!美しい!!美しいにょぉぉ!!!満月教会の神官かぁ???いやぁ、でもわっちは見たことがない!ならば、東方共同体の神官かぁ!!にょにょにょにょ!!!その身体、欲しいにょぉおお!!」
ピエロの口からよだれをダラダラと垂らし、美しい少女に…いや、木葉に歩み寄る。だが、それより先にガターポンド少将が動き出していた。
「東方共同体の女よ!!よくぞ投降した!私に投降したからには私がお主を奴隷として責任を持って生かしてやろう!!あぁ、美しい!!その美しい魂ごと私の色に染め上げたい!!その甘美そうな肉体を私のものにしてしまいたい!!」
ガターポンド少将は脂のたぎったニキビ顔を醜く歪ませて駆け寄っていく。先ほどまで強○していた女をその辺に打ち捨てて、一心不乱に駆け寄っていく。下半身裸のまま、だ。
「お姉ちゃん逃げてぇええぇ!!!」
捕虜の女の子は、周りの惨状に耐えきれなくなって叫び出した。あの美しい女の子までもがこんなに醜い連中の手籠にされてしまうのがどうしようもなく嫌だった。他のヴェニス市民もそんな衝動に駆られる。
「逃げて!きてはいけない!」
「いやだああああ!!!」
「お前たち!騒ぐな!!叩き斬るぞ!!!」
だが彼らの目は再び少女の手元に注がれる。少女が手に取ったのは、赤い線の入った鋼鉄の剣。ガターポンド少将はそれが目に入って尚、進まずにはいられなかった。だって、もう少しで、月の女神が手に入る。それならば…
(命など…………………………
……命、あ、れ?自分は、なに、を……)
次の瞬間、ガターポンド少将のその首は地面に落下し、土を舐めていた。
…
…………
…………………
初めてだ。
初めて、理性的に人間を殺した。
殺すことはないんじゃないか?腕だけ切るとか、無力化するとか……それから……。
昔の私なら、まぁそう言うかも。でも今の私は違う。これでもう戻れない。私は、殺人という罪を一生背負っていくんだ。それはとてもとても重い十字架……のはずなんだけどな。なんでだろう、なんでか知らないけど、
「清々しいや、ふふ」
驚くほど罪悪感が湧いてこない。それどころか、心の奥底から高揚感が湧き上がってくる。ならば、きっと私はもう狂っているんだろう。狂っているのだろうけど、きっと間違えたりはしない。その前にロゼや迷路が止める。だから、だから……。
「触れるな、下郎」
遠慮なく殺すことにする。瑪瑙に付いた血を持ち主の元に返してやった。
ベシャッ!
「な、なななな!!!ガターポンド少将!!!」
「ふぅん、少将ってことは指揮官か。迂闊すぎない?」
「木葉、捕虜の子たちは私に任せて」
「ん、お願い。この場を全速力で制圧して中央庁舎に向かう!」
海に落ちた女性たちは迷路の魔法で回収できそうだ。それなら私は…まずは目の前の異端審問官に狙いを定める。
「な、な、なんですかキサマぁあああ!!!わっちは、筆頭異端審問官ヘッサーカ・ケトゥンヘルグゥううう!!!貴様如きがわっちに触れて言いわけが!」
「黙れよ」
地面にへたり込むピエロ顔の男に瑪瑙を突きつける。ヘッサーカと名乗る男はニヤリと笑うと、術式を展開し始めた。
「そこな女、服を全て脱ぎ、『国王陛下万歳、私はヘッサーカ様の奴隷です!この身体如何様にでもお使いください!』と叫ぶのですよぉぉぉお!!にょにょにょにょ」
「はぁ、気持ち悪い」
「な、なんで幻術魔法がぁああああ!!?」
橋姫のスキルである《貴船の呪詛》によって、精神異常系の術式は強制遮断してある。私にも、ロゼにも、迷路にも、
「効かねえよ」
「ぎぃああああああああああああ!!!!!!」
瑪瑙を振るい、ヘッサーカの左腕を切り落とす。どくどくと赤い血が流れ出るが、やはり私は罪悪感なんて感じない。こんな屑は、さっさと死ね。
「ま、まって……待って、わっちを殺したら教会が敵に……」
「なんでラッカと同じこと言うのかな?私、もっと他の命乞いパターンが聞きたいな」
「ぁぁぁぁ、まさか、ラッカをズタボロにした、奴って……」
なんかガクガク言ってる。きもい。その丸々太ったピエロ顔がきもい。
「あそっか、筆頭だからお友達か。へぇ、じゃあ貴方が記念すべき最初の筆頭脱落者ってわけだ」
そのままヘッサーカの髪の毛を持ち上げ、笑いかける。その顔は、筆頭異端審問官の風格など全くないような恐怖の表情で歪んでいた。
「あはは、滑稽だね」
「ぁ、ぁぁ……」
「ヘッサーカ様をお助けするのだ!」
異端審問官たちやガターポンド少将の指揮下の騎士たちが剣を取り、攻めかかってくる。しかし、私には届かない。
「やああぁああ!!」
「がああっ!!」
「こののんには指一本触れさせないんよ……その旗、国立天文台だね〜。ってことは総大将は魔導将軍モンテスキュー・ロックベルトか〜」
ロゼが火雷槌の第一形態で迫りくる騎士数名を八つ裂きにする。先ほどまで捕虜に対して強○をしていた騎士たちだった。
「ヘッサーカ様ぁああ!!」
「は、はやく、はやくわっちを助け……」
「さよなら、ゴミ屑が」
ゴミを見る目でヘッサーカを見下ろすと、ヘッサーカはガタガタと震えだした。
「ば、けもの……」
「お前にだけは言われたくないなぁ」
「ぎぃぁッ!」
ヘッサーカの首を切り落とし、その胴体を向かってきた騎士ごと貫く。そして篝火で灰も残さずに焼却してやった。
「ロゼ、皆殺しにしといて」
「合点承知なんよ〜♪うう〜ん!こののんに頼みごとされるの嬉しいんよ〜!!!」
「ろ、ロゼ!?まさか、五華氏族ロゼ・フルガウド……!?がぁああ!!」
「あったり〜!」
迷路が氷で退路を立ち、海岸に集まっていた王都軍と異端審問官がロゼによって目にも留まらぬ速さで切り刻まれていく。私はその残骸を次々と焼却していった。
「こののんのそのモード、とっても扇情的なんよ〜……えちえちすぎるんよ〜」
「う、言いたいことは分かるけど集中しなさいロゼ。つい見ちゃうけど……」
「うん、そう言うのいいから……」
真っ先に異端審問官を叩き潰したのはロゼの恨み辛みからなのだと思うが、普段のロゼからは想像も出来ないくらいの怖い表情で異端審問官を引き裂いていたので反応が少し変になってしまった。正直ちょっと怖い。
「この人たちは、どうするの?」
「そうね。奥羽に備え付けていた小型船ならあるから、とりあえずはあの岩場に身を隠していて貰いましょう」
「そだね……大丈夫?」
助かったことで肩の力が抜けたのか、さっき叫んでいた女の子の目からはポロポロと涙がこぼれ落ちていた。
「お姉ちゃん……助けてくれて、グスッ……ありがとう、うわぁああああああん!!!!」
「よしよし、よく頑張ったよく頑張った。あの船で岩場の見つからない場所に隠れてて。大人の人たちと一緒に、ね?できる?」
「グスッ……うん、できる。みんな!」
少女が誘導し、捕虜32名は奥羽の小型船……正式には迷路が魔笛で作った氷の船にて待機することとなった。
「行きましょう!中央庁舎に!」
「わかってる。エレノア、待ってて」
…
…………
……………………
ルーチェがコーネリアと一進一退の攻防を繰り広げ、北部への突破を図るハノーファー隊が一等司祭やペトラ少将率いる第2連隊と交戦状態に入る中、エレノアは中央校舎を中心にシャールメルン上級主幹、ヒンターポンメルン上級主幹らの第4第5連隊相手に市街地でのゲリラ戦を展開していた。
「なんだこいつら!!制圧は楽勝だとほざいてた奴はどこのどいつだ!!」
「メーデー参事官らが東口からの突入を敢行しています!我々もこれを支援いたしましょう!」
「うむ、そうだな。では、騎兵隊前ぇえええ」
老年の将軍、シャールメルン侯爵が怒鳴り声を上げる。飛翔騎士:トライデン主幹と天撃卿:カデンツァ主幹の攻撃でリタリー軍令部は制圧されたが、エレノアは烽軍を散開させて王都軍を各個撃破していく。
「《爆塊》ッ!!!失せろ王都の犬どもめ!!!」
中央庁舎の東口でエレノアが大爆発を起こす。突入敢行しようとした第10連隊は文字通り消失した。密集して突撃してくる王都軍の攻め方ではエレノアの格好の的になっている。
「はは、良い的だな!わざわざ死ににくるなんて!」
「馬鹿みたいに突っ込んできますよあいつら!さっき主幹級の顔面を吹き飛ばしたって愉快な報告も来てます!」
「上出来だ!勲章ものだぞ!」
ゴンドラ乗りのゴン率いる隊が南口から来る敵兵を魔法で次々と撃ち抜いていく。烽にとっては多勢に無勢だが、未だ戦力が街中に分散している王都軍はエレノアの指揮する中央隊を前になす術なく死体の山を築き上げていく。
「軍令部の守備隊はどうなった?」
「……精兵揃いの筈が、そちらは粗方掃討された模様。恐らく、そのままこちらに反転してくると思われます」
「……ロクでもない奴を王都から引き連れてきたって報告があったけど、誰だろうなぁ。だけど、ルーチェ様が異端審問官を引き付けている今がチャンスだ。ハノーファーが北門を突破し次第アタシらも散開して逃げるよ!」
「了解!!」
「アタシはそこな連隊の本部を叩く。ここの守りは任せた!」
「ご武運を!」
エレノアはそういうと、数名の部下を引き連れて庁舎を出て、建物の影に隠れつつシャールメルン侯爵率いる部隊へと奇襲をかけに向かった。
そのシャールメルン侯爵本隊は暗雲が立ち込めていた。乱戦の中で南側にて狙撃されたヒンターポンメルン上級主幹が戦死。東口から突入したメーデー参事官ら有力軍人も相次いで戦死したとの報告がはいっている。
「南口のミスティ主幹も脚を吹き飛ばされて重体…戦死したとの情報まで来ております!ヒンターポンメルン隊は指揮系統を喪失して混乱状態!」
「くそっ!!!忌々しいなぁ烽の連中はぁ!!全体の戦況はどうだぁ?!」
「ファティマ上級主幹の部隊はヴェニスの東地区を完全に占領。北地区はペトラ少将が逃亡中の敵部隊を壊滅させたとの報告が上がっています」
「チっ!これだから市街地戦はやりたくねぇんだよ!格差だ、格差ぁ!」
元々市街地戦など馬鹿馬鹿しいと、シャールメルン侯爵やカデンツァ、ファティマといった有力将校は反対していたが、それを押し切ってでも殲滅に拘ったのがガターポンド少将、ペトラ少将、ヒンターポンメルン上級主幹、トライデン主幹らモンテスキュー派の将校たちだった。そんな賛成派は軒並みやられて、反対派が活躍しているというのは何とも皮肉である。
「ったく、天撃も鉄血防壁も反対してんのになんでわざわざ生産性のない市街地戦なんぞぉ!」
自軍の損耗具合に嘆くシャールメルン侯爵。そんな彼の陣取る建物で、
ドゴォオオォォォォン!!!
エレノアの爆弾が発動した。
「お、おい、ギャレー、キャメル!!!」
崩れていく建物の中で次々と瓦礫に押し潰されていくシャールメルン本隊の兵士たち。そして外に避難したシャールメルンを待ち受けていたのは、
「はは、王都の貴族みーつけたっと」
金髪の勝気そうな女……エレノアだった。
「お、おいおい。まじかよ……」
「早速だけど、アタシに殺されてくれ!」
エレノアの手が迫る。しかし上空からの投擲で、エレノアは後ろに大きく飛び退いた。
「こんばんはー!素敵なレディー!僕のこと知ってるぅ?」
「……その鋼鉄の翼。飛翔騎士:トライデン。それに」
「あれ、私のことも知ってるんだ?はは、少し嬉しいな」
「いやはや同業者だもんね。天撃卿カデンツァ、まさかこんなところでお目にかかれるとは思わなかったよ。そっか、精兵を配置してたのに速攻で軍令部が破られたのはお前らがいたからか」
カデンツァがにこりと笑う。戦場においてその美貌はある種恐怖的であった。
「ふぅん、やっぱり惜しいな。こんな美人が烽の騎士団長かい?今降伏すれば私が助けてあげなくもないよ?」
「はっ、天撃卿からの折角のお誘いだがお断りだな。アタシは"ハザールドの戦乙女"の二の舞なんて嫌なんだ」
ハザールド市の悲惨な末路は記憶に新しい。エレノアは獰猛な笑みを浮かべて拳を構えた。
「そうか、実に残念だ。さて、どっちがやる?」
「僕にやらせてよ。天撃卿は中央庁舎をよろしくぅ」
「ほい来た了解」
カデンツァが剣を構えて跳躍する。そのまま中央庁舎へ向かって突入を開始した。それを止めようと振り返るエレノアに、トライデンが急降下して斬りかかる。
「くそっ!どけえぇえ!」
「やーだよっ!君の相手は僕さぁ!」
瓦礫の中、2人の騎士が激戦を繰り広げようとしていた。
木葉にとっては、はじめての理性を持った殺人でした。人の形をしたものを、明確に意思を持ってその命を奪ったのは今回が初めてです。元々リヒテンではラッカを殺すつもりでいたわけですが、一線を超えた今回の一件は木葉にとっては初めの一歩とも言えるでしょう。
願わくば、その力が間違った方向に使われないことを信じて。
因みに今回出てきた超錬金火砲アルキメデスは、昔書いてた小説に出てきた兵器です。あと、今回将校の名前がいっぱい出てきますが、まじで覚える意味ないのでさらーっと呼んでください笑




