2-6
武蔵と隼人は神社から帰ってきて寝巻きに着替えたらすぐに寝てしまった。
俺もそこそこ眠かったけれど、このまま寝るのはなぜか勿体無い気がして、貴虎と近くのコンビニまで行こうかという話になった。
外に出ると冷たい風が俺らを襲った。
熊川龍司に500のダメージ。
熊川龍司はまるまるを使用。
防御力が上がった。
そんなくだらないことを考えながら寒さを誤魔化して体を抱くように歩いていた。
そんな俺の横で貴虎は大きく伸びをして、ニコニコと俺の方を見てきた。
「麦の炭酸水でも買うかにゃ〜」
同じスウェットのはずなのになぜこんなにも寒さに違いが出るのだろう?
この季節に上下スウェットの俺らがバカなだけだろうが、寒がらない貴虎は異常だろ…
「やめとけ。うちで酒飲んだら親父に殺される。」
比喩じゃなくてな!
「つまらないにゃ〜」
貴虎はそんなことをいいながらもずっとにこにこしている。
普段から笑顔のイメージは強いが、今はいつも以上にテンションが高く感じる。
「トモダチの家に泊まるなんて小学生のとき以来だな〜」
「だからやけにテンション高いのか?」
「そうかもね〜」
そういってクルクル回る貴虎はらしさを通りこして気持ち悪い。
最寄りのコンビニまでは徒歩5分程度のため、体が冷えきる前に無事到着。
来たはいいが、特にすることもなかったので、てきとうにお菓子や飲み物を買って早々にコンビニを出ることにした。
中途半端に暖房の効いた店内を堪能したせいで、外が余計に寒く感じて身震いが止まらない。
「ヤバい寒…」
寒さを共感しようかと貴虎に向けて発した言葉があまりの驚きで中断された。
嘘だろ⁉︎俺の見間違いか⁉︎
だってありえないだろ…
「貴虎…」
「ん?」
「何食ってんの?」
「ガリガリ君だよ〜欲しいの?」
「いらねぇよ!見てるだけで寒いわ!」
見間違いであってほしかったが、貴虎は美味しそうにガリガリ君を食べていた…
「確かに体の芯から冷えるけど、美味しさは変わらないにゃ〜」
そういって2分も経たずにペロリと食べ終えて、笑顔をこちらに向けてきた。
笑っているのになんでだろう。
寒さのせいではなく、肝が冷える笑顔だった…
「ぼくはガリガリ君の味を知ってるから欲するんだよ〜。真冬でも食べたくなるくらいに好きなんだにゃ〜」
貴虎は立ち止まって俺の目を覗き込んできた。
「りゅう〜はどうなの?」
心臓が跳ね上がった。
貴虎が聞いているのはガリガリ君のことではないだろう。
まさか貴虎がこんな聞き方をしてくるとは思わなかった。
予想外な展開についていけずに鼓動は早まるのに息が止まる。
かろうじて出てきた言葉は…
「俺はガリガリ君は好きだけどこの時期に食いたいとは思わねぇな。」
「違うよ。拝島桃香のことを聞いてるんだよ?」
貴虎が間延びした話し方をやめ、逃げられない質問に変えてきた。
貴虎もいいたいのだろう。
なんで知らない人間をそこまで好きになれるのか。
違うか…本当は好きではないんじゃないかといいたいのだろう。
「どういう意味だ?」
なんとなくわかっていてもはぐらかしてしまう…
正直、人を好きになるのが初めてだからこの気持ちが本物だという自信がなかったのかもしれない…
「わかっているのに馬鹿なフリをするりゅう〜は嫌いだにゃ〜」
口調こそ戻してきたが、目が全然笑っていない。
こんな貴虎は初めて見る。
いつもの貴虎とも昔の貴虎とも違う…
「拝島桃香は好きだ。付き合いたいし、その先もしたい。確かに一目惚れだから相手のことはほとんど知らないし、そんな状態で好きだと思えることを普通の人は理解できないのかもしれない…俺自身、なんで知らないやつをこんなに好きになれるのかわからないし…」
誤魔化そうとしたって貴虎はわかるだろう。俺程度の嘘なんて一瞬で見抜くだろうから思っていることをありのまま話した。
そもそも貴虎には隠すつもりはないからな。
「それでも、拝島桃香が好きな気持ちに嘘はない!」
本物だという自信がなくたって、好きなものは好きなんだ。
俺はそれを間違いだとは思わない。
「そっか。じゃあぼくがアヒルちゃんを狙っても問題ないよね?」
「え?あきるのことが好きなの?」
「今はまだ気になってるくらいだけど、仲良くはなりたいにゃ〜」
いつもの貴虎に戻り、また歩き始めた。
俺に背中を向けたまま話しているため顔は見えない。
「だから、もしりゅう〜がアヒルちゃんとの距離を曖昧にキープするために桃香ちゃんを利用してるんだったら激おこかな〜てね。」
「そんなつもりはない。」
「りゅう〜がそんなことしないってわかってるんだけどさ〜りゅう〜の中でのアヒルちゃんはどういったポジションか知りたくてね〜」
振り向いた貴虎は真顔だった。
「試すようなことして、ごめん。」
また前を向いてしまった貴虎の顔はわからない。
「噂をすればアヒルちゃんだ〜」
「は?」
貴虎の見る先を見ると、俺の家の前にあきるが立っていた。




