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一目惚れした初恋相手にふられてから1週間がたった31日の昼前、今年も終わりだから大掃除をしなければと思いながらもベッドから出ずにゴロゴロしていた。
「ねぇ、初詣はどこ行きた〜い?」
寝返りを打つと幼馴染みのあきるがラグの上で雑誌を読んでいた。
いつからいたのかわからないが、今日も勝手に入ってきたようだ。
氷の女王という異名はどこへやら、この部屋でのあきるは間延びした話し方をする。
「あれ?いってなかったっけ?今回俺は友だちと行くぞ?」
「んな⁉︎」
この世の終わりみたいな顔をしていた。
リアクションが大袈裟すぎるだろ…
「聞いてないし!許さないし!」
「まぁ何もいわなかったのは悪いけど、べつに許すとか許さないってのは意味わかんねぇよ…」
今年の初詣は互いに予定がなかったから一緒に行ったが、今度の初詣はべつにあきるとは約束をしていたわけではない。
だから怒られる理由がよくわからない。
「龍司と一緒にいられる数少ないイベントを奪わないで!泣くよ?」
「大袈裟すぎるだろ⁉︎べつにイベントじゃなくても一緒にいるじゃん?」
主にあきるが俺の部屋に勝手にいるだけだがな。
「イベントは全部龍司と過ごす予定じゃん!」
「知らねぇよ⁉︎」
そんな約束した覚えもするつもりもない。
勝手に予定をたてられても困る。
「クソビッチ桃香にふられた龍司くんはイベントに一緒に行く相手なんていないでしょ?」
そういやあきるには話したんだったわ…正確には無理やり聞き出されたのだが。
ってかなんでこいつは拝島桃香をこんなに毛嫌いしてるんだ?
何かあったのだろうか?
「クソビッチいうなし!それに初詣はべつに恋人同士の限定イベントじゃないだろ⁉︎」
「今まではただのビッチだと思ってたけど、龍司までキープしようなんてクソビッチとしかいいようがないじゃん!」
「じゃんじゃねぇよ!ってかそもそもビッチじゃねぇだろ?優しいからハッキリと断れないだけだろ?」
「拝島桃香の性格なんて龍司は知らないでしょ?性格だけじゃなくて拝島桃香のこと自体、私以上に何も知らないじゃん!」
「…」
何もいい返すことができなかった…
確かに俺は拝島桃香のことを何も知らない。
ビッチじゃないとか優しいとかは俺が拝島桃香を好きだから、そうであってほしいからというだけでしかないのだ。
「それに、曖昧な返事をするのが本当に優しさだと思ってる?」
急にトーンを下げたあきるは真剣な眼で俺を見ていた。
正直いいたいことはわかる。
だから即答はできなかった。
あきるの振り方は酷すぎるが、可能性がないのならハッキリと断るのが本当の優しさだと思う。
拝島桃香はキープしようなんて思ってはいないだろうけど、実際あんな振り方をされたら未練が残ってしまう。現に俺は未練タラタラだ…
「あきるがいいたいことは分かるし、たぶんとても正しいと思う。だけど、相手のことを考えるならハッキリ断るべきだと分かっていても、誰もがそうできるわけではないんだよ…」
「そんなの分かってるよ!だけど…だけど嫌なんだもん!りゅうじが違う女に取られるなんて…」
話が脱線した…
優しさの話ではなかったか?
あきるが拝島桃香のことをビッチっていってる理由ってそんな理由だったの?
ってかそもそも俺はあきるの所有物ではないのだが…
「もう一緒にいられなくなるなんて嫌だよ…」
珍しくあきるが泣きそうな声になっていた。
そういうことか。
そんな心配をするような浅い仲ではないと思っていたから俺は気にしていなかったけれど、あきるは真剣に悩んでいたのかもしれない。
「べつに俺が拝島桃香とどうなろうがあきると幼馴染みであることに変わりはないから大丈夫だよ。」
「じゃあ付き合って…」
「…は?」
「私と彼氏彼女になって!」
涙声と意味は変わらずにセリフだけ変えてきた。
「それはない。」
「じゃあ結婚して!」
「じゃあじゃねぇよ!意味わかんねぇから!」
「私の告白を断るのはその口かっ!」
ベッドで寝ている俺に飛び乗ってきた。
そのままの勢いでキスをしようとしてきたので思い切り顔を逸らしたら壁に激突した。
キスは避けれたが頭の痛さが半端じゃない…
ってかあの勢いでキスされたら歯が折れるだろ…
「なんで避けるんだよ〜…」
どうやらわりと本気で涙声のようだ…
俺の胸元に顔をこすりつけてウリウリしている。
「なんで知らない相手を好きになれるんだよ〜…」
あきるの言葉が突き刺さる。
だけどそんなの自分でもわからない。
確かに先に好きという気持ちがきてしまったが、今は拝島桃香のことを知りたいと思う。
知ることによってこの気持ちが変わってしまうかもしれないが…
「りゅうじ〜…なんで私じゃダメなんだよ〜…」
いつにも増してあきるがダダをこねていた…
今年も今日で終わりだというのに長い1日になりそうな気がしてならない…
「はぁ…」
なだめるのめんどくせぇな…




