1-1プロローグ
“一目惚れ”
そんなものはドラマや漫画だけの話だと思っていた。
異性の幼馴染みがいるせいもあるのだろうが、女は面倒くさいだけの生き物くらいにしか思っていなかった。
そもそも可愛いと思える女性が今までいなかった…いや、芸能人なんかを見れば普通に可愛いとは思う。
でもそれはただ“可愛い”だけだ。
別世界の人間に恋心を抱く性格の俺ではないし、一般人に芸能人レベルの可愛さを期待もしていない。
だから人を好きになるとしても性格を知ってからだろう。
それこそ高校3年間を丸々使って1人の人を好きになれれば十分だと思うし、べつに彼女ができないならそれでもかまわないとも思っていた。
「好きだ!俺と付き合ってください!」
だからまさかこんなセリフが俺の口から出会ったばかりの相手に向けて発せられるとは思いもしなかった。
今年の終わりも近づいていて、告白日和でもなんでもない。
もちろん桜なんて咲いていないし、雪も降っていない校門前、雰囲気も何もない…
それでも“好きだ”と伝えたい衝動を抑えられなかった。
校門を通ろうとした彼女の腕をつかみ、無理やり引き止めての告白…
冷静になってくると恥ずかしくて、彼女の腕を握る手に力が入る。
だが後悔はしていない。
「ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げられた。
そして腕を振り払われ、走って逃げられてしまった…
ただ、頭を下げたさいにファサッと広がった髪からとてもいい香りがした。
「ハハ…何してんだろ俺」
前言撤回。
熊川龍司16歳は早くも告白したことを後悔した。