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―伝統芸能、全力発揮―

 水雷戦隊……大日本帝國海軍が編成する戦隊の一つ。軽巡を旗艦として、駆逐艦を指揮下において水雷戦を行う。主兵装の九三式酸素魚雷は長大かつ強力で、ロングランスと米海軍から恐れられた。

 この世界での水雷戦隊は、軽巡一隻に対して駆逐艦四隻編成の駆逐隊を三個で配属させる形式を取っている。

 尚これは甲編成であり、軽巡一隻+二個駆逐隊の乙編成も正式にある。

三川軍一中将の訓示……帝國海軍の伝統たる夜戦において、必勝を期し突入せんとする。各員冷静沈着よく、その全力をつくすべし。

 7月14日 早朝 ガダルカナル島のとある山中

「え? ちょっと! 米艦隊が上陸部隊を引き連れてるわよ!?」

 木々にうまく擬態している帝國陸軍の女性士官が双眼鏡を覗き込みながら怒鳴る。

「隊長。こいつは、情報部から知らされた飛行場建設部隊では?」

 同じく擬態している男性下士官が続ける。

 帝國の陸海空軍は、米軍がガダルカナルかその周辺のソロモン諸島に飛行場を建設すると予測して行動をとった。

 海軍は陸軍の第二機動大隊と共同で、ラバウルへ艦隊を派遣して攻略。

 空軍は同地域に戦闘機隊や爆撃機隊を派遣して制空権を確保。

 そして、陸軍はラバウルの他にガダルカナルへ浸透部隊を派遣した。

「ほう。じゃあ、海軍さんにやっつけて貰おうっと。ただ……」

 と言いながら、ライフルのコッキングレバーを引く。

「その前に駄賃を貰わないとね?」

 そして手を離すと、ガシャンッ! とコッキングレバーが戻る。

「あ、あの、隊長? 我々の任務は、情報収集や監視などでありまして……」

「その中には、後方錯乱と言う戦闘工作も含まれているでしょ?」

 背嚢を背負ってライフルを構えなおす。

「達する。第一遊撃艦隊以下海軍ラバウル派遣部隊へ通報したのち、米上陸部隊を攪乱して揚陸状況を遅延せよ!」

『了解!』

 隊員は準備をしつつ、行動へ移さんとした。


 通報を受けた海軍は直ちに作戦を立案して実行に移す。

 第一遊撃艦隊は、ラバウル攻略の際に同伴していた金剛と榛名、第一〇駆逐隊をそのまま継続という形で体制を維持させる。

 そして……


 10:40 ラバウル港 巡洋戦艦金剛司令官公室

 比叡型巡洋戦艦の三番艦金剛には、僚艦である四番艦榛名と共に形成された第二戦隊第二小隊の指揮官、松田千秋大佐が座乗していた。

「ほほう。今度こそ、陸上艦砲射撃をやると?」

 濃い眉毛と上唇に乗っかる髭が特徴である松田が目の前にいる中佐を見定める。

「はい。今度は夜戦での実施ですので、ラバウルより難しいと思われますが……」

 その中佐とは源三郎だ。

 少し話が逸れるが、ラバウル攻撃の際にあっさりと終わってしまった為、金剛と榛名の陸上艦砲射撃は取りやめとなった。

 その詫びも兼ねて、源三郎は松田のところを訪れたのだ。

「まあ、効果的な使い方をせずに腐らせるよりかマシだね。」

「では……」

「うむ。やろう! 夜戦なら皆腕が鳴るだろう!!」

「はい! ありがとうございます!!」

 源三郎と松田は握手を交わす。


 源三郎は、急いで大鳳へと戻って松田との会話の内容を伝える。

「依子さん、静巴さん。松田大佐が、今回の作戦に協力してくれます。」

「頼もしいな。」

「私が相手だと微妙になるがな。」

 依子は肩の力を抜く。

 奇人変人な依子が交渉をやると、何故か演説まがいになって相手から白い目で見られてしまうからだ。

「ですが、少し条件を突きつけられました。」

「ほう?」

 依子が腕を組んで姿勢を変えた。依子がこの姿勢を取るということは、

「航空援護の絶対が条件です。」

「なるほど。では、三隻全部だそう!!」

 手を叩く静巴に、依子はちょっと待ってと手の甲で静巴を叩く。

「トラックとラバウル、どうするのよ。」

「なに、空軍の二個大隊をトラックとラバウルに一時配属が決定した。防空のみだから、史実のようなガダルカナルへ長距離飛行と短時間の戦闘なんて悲劇を起きんぞ?」

「全く、朝倉には礼を言っておかないとのぉ。」

 溜息を吐くが、顔を上げる時には凛とした表情に変わっていた。

「しかし、ここまで米艦隊を圧倒させるとは……」

「ナポレオンも言っておるだろう? 〝私は常に多数で少数の敵を打ち破ったのだ〟と……」

「まあ、米海軍が空母一隻を中核とする任務部隊(タスクフォース)だったので、多数の我々が少数のアメリカ空母を叩くという構図が度々ありましたからね。」

 それは開戦時から続いている構図だった。

 まず、ミッドウェーではヨークタウンに対して、大鳳を囮として蒼龍と飛龍で撃沈せしめた。

 次に帝都空襲を企てたホーネットとエンタープライズだが、大鳳に翔鶴と瑞鶴を加えてホーネットに急降下爆撃で攻撃能力を奪い、のちに航行停止にいたる攻撃を受ける。その後、戦闘終了時に総員退艦が下されて雷撃処分で沈没した。

 エンタープライズに関しては、艦載機の大半が撃墜されて戦闘能力を喪失した。おまけに、第一遊撃艦隊の接近に降伏を余儀なくされて鹵獲された。現在、エンタープライズの解析が進められて、終わり次第帝國海軍での運用が予定されている。

 そして、今太平洋にいる空母は大西洋から回航されたワスプ一隻のみであった。


 7月15日 23時過ぎ サボ島沖

「いよいよ、我々に出番が回ってきましたな。」

 幕僚の一人が興奮気味で、中将の肩章を付けた男性に話し掛ける。

「今までは、航空機屋にお株を奪われたままでした。ですが、今回は違いますよ!」

 別の幕僚も同じく興奮していた。

「おお。我々の伝統である、夜戦ができるのだからな!」

「青葉乗組員一同、奮励努力するでしょう!!」

 ここは巡洋艦青葉の艦橋。

 尚、青葉は衣笠・古鷹・加古を率いる第五戦隊の旗艦だ。

 それに加えて、川内(旗艦)・神通・那珂の三隻からなる第六戦隊も編成下にいる。

「第二艦隊は悔しかろうな? なにせ、豪州へ睨みを利かすためにラバウルで留守を任されているからな!」

 また別の幕僚が勝気な笑顔を見せる。

 巡洋艦及び駆逐艦の花形である夜戦……

 特に第二水雷戦隊をはじめとする第二艦隊は、敵艦隊の前衛部隊を攻撃する手段として夜戦と雷撃戦を重点的に訓練を積んでいた。

 にも関わらず、今回は第五・六戦隊が夜戦による奇襲作戦を決行した。

 故に、第二艦隊は実際に悔しがっていた。

 だが、第五・六戦隊を見る目は意外な見方で終わることになるが、それはまだ先の話である。

 そして、〝殴り込み部隊〟が今、ガダルカナルにいる敵へ殺到する。


「全軍突撃せよ!!」

 殴り込み部隊の現場責任者、三川軍一海軍中将が下令して青葉以下七隻の巡洋艦が突撃する。

「水偵が照明弾を投下しましたっ!」

 同時に水偵が投下した照明弾が敵艦上空で発光、丸裸となって第五戦隊の砲身が向けられる。

「砲撃開始! てーっ!!」

 青葉の八インチ砲が火を噴いた。続いて、衣笠・古鷹・過去の三隻も青葉に続いて砲撃を開始する。

「右舷魚雷全管、てっ!!」

 続いて、九三式酸素魚雷四本を発射する。


 豪海軍重巡キャンベラ

「戦闘配置まだか!」

「まだです!」

 米海兵隊上陸部隊の護衛として、豪海軍のキャンベラも任務に就いていた。

 しかし、今は三川率いる殴り込み部隊へ反撃すらままならなかった。

「もう照明弾で我々は丸裸なんだぞ!!」

 その瞬間、キャンベラの艦体が揺れた。

「うおっ!」

 続いて、下から強い揺れも加わる。酸素魚雷が命中したようだ。


「後続艦にも砲弾が命中!」

 青葉の艦橋は熱気に包まれていた。

「水偵が照明弾を追加っ! 十一時方向! サボ島の向こうです!!」

 見張りが叫ぶ。

「ここからだと無理だな。第六戦隊に急行させろ!!」

「ヨーソロー!」

 無線で第六戦隊に急行するよう命じた。


 川内艦橋

「敵軽巡発見っ!」

「砲撃開始! うてうてー!!」

 こちらも興奮気味に戦闘を開始していた。

「雷撃戦よーい!」

「着弾、今ッ!」

 川内の艦橋が慌ただしく動き、砲火砲声が加わって更に熱くなる。


 その後も、史実通りに米豪連合護衛艦隊を撃沈撃破していく。

「約30分、かなり暴れまわりましたね。」

「うん。戦果は……」

「はい。」

 結果は次の通りだった。

 キャンベラやヴィンセンスの重巡四隻を撃沈。

 他、重巡シカゴ及び駆逐艦数隻が損傷。

 ほぼ、史実の第一次ソロモン海戦そのものであった。

「長官。敵水上部隊は壊滅したものと判断します。これより撤退して……」

「いや、再度突入して敵揚陸部隊を殲滅すべし!!」

 作戦を企画した神重徳大佐と三川の同期である五藤存知少将は、今後についての言い争いを起こしていた。

「五藤少将。御言葉でありますが、敵機動部隊の所在が分からない以上、長居は危険すぎます。」

「だが輸送船団を叩かずに帰っては、ガダルカナル島の航空基地化は盤石のものになるぞ! そうなった場合、責任は取れるのか!?」

 ここでも、史実同様に撤退か再度突入かで分かれていた。

 どちらの主張も理があり、甲乙付け難かった。

 しかし、殴り込み部隊はあることが欠落していた。

 それは、第一遊撃艦隊の存在だった。

 実はガダルカナル上陸の通報元は一か所だったのだが、受けたのはラバウルで展開中の三川率いる巡洋艦部隊と第一遊撃艦隊(金剛・榛名・第10駆逐隊傘下)の二つだ。

 既にここで問題になっていたのは、この二つの部隊は連絡を密にせずにそれぞれ行動を起こしていたことだ。

 仮に早朝から米機動部隊の航空攻撃を受けても、連絡と連携さえしっかりすれば第一遊撃艦隊が阻止して、無傷の全力離脱の可能性が十分あり得た。

「いや、帰投しよう。」

 三川の一言で、艦隊が集結して撤退を始める。

 これにより、第一次ソロモン海戦は日本の戦術的勝利に終わる…… はずだった。


 7月16日 0時丁度

 第一遊撃艦隊・夜戦部隊は、居れ違うように、秋雲・舞風・萩風を前衛とした〝第一遊撃艦隊・夜戦部隊〟がサボ島を北回りに突入する。

「いや~金剛と榛名連れてったら、幾分遅くなっちまったなぁ。」

 先陣をきっている秋雲だが、その秋雲の艦橋に源三郎の姿があった。

「艦長、我々は予定通り輸送船団を叩きます。榴弾・酸素魚雷・機銃弾、なんでも使いましょう。」

「了解した。しかし、今でも信じられないよ。」

 艦長があちこちに指示を出しながら続ける。

「元部下が大出世して、艦隊を率いているんだからさ。」

「しかし、経験については艦長にはまだまだ……」

「そうかそうか。」

 そこへ、見張り員からの報告が舞い込んでくる。

「二時方向に船団らしき影を発見!!」

「電探も光点複数を確認!!」

 帝都空襲後、追加した電探からも報告が上がる。

「電探は凄いな? 数の把握まで出来るとは……」

「それでも、まだ粗さが残っているようです。」

「そうかい? じゃあ、艦隊幕僚長に進言してくれよ?」

「分かりました。」

 このやり取りをしつつも、攻撃準備が進められていた。

「主砲、準備ヨシ!」

「魚雷、いつでもどうぞ!!」

「砲雷撃戦、よーい!!」

 船団に近付いて……

「魚雷発射!」

 圧搾空気で押し出された酸素魚雷が着水して水中を走行する。

「主砲、てー!」

 続いて、10センチ砲が火を噴く。

 これは、後続の舞風と萩風も同様だ。


 一方、海岸の揚陸物資を攻撃せんとする金剛と榛名はというと……

「三式弾、てー!」

 第10駆逐隊の夕雲・巻雲・風雲に守られながら、31cm対空榴弾をこれでもかと撃ち込んでいた。

 もちろん、徹甲弾も混ぜての射撃であるため、揚陸された戦車などをスクラップに変えていた。


 結果、殴り込み部隊が残していった輸送船団は壊滅。揚陸物資も陸上艦砲射撃によりこれも壊滅。

「艦長、作戦は成功です。」

「しかし、戦闘艦とのやり合いに比べるとなんともなぁ。」

「真の目的は、米軍の力を削ぐことにあります。戦闘艦とだけ撃ち合うだけじゃありません。」

 これはあくまで、ソロモン方面の米軍戦力を削ぐことに注力をしている。


 作戦を終えてサボ島より離脱した夜戦部隊だが、夜明けとともに緊急電が入る。

「山塚中佐! 大鳳より入電! 米機動部隊が追撃の為、西進中。注意されたし!」

 それを聞いて、源三郎と艦長は顔を見合わせる。

「艦長、アメリカさんはタダで返してくれないようです。」

「もう一頑張りとするか?」

「ですね。」

 再び、戦場へと空気が変わるのであった。

 書きたいことが多過ぎる……


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[良い点] 面白いですね。更新これからも頑張ってください
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