―陸の遊撃部隊―
大日本帝國陸軍 第二機動大隊……第一遊撃師団隷下の機動力と遊撃戦術を信条とする大隊であり、市街地戦や不正規戦のエキスパート部隊。
ここには、山塚達の同期・松本百合子陸軍大尉が第11遊撃中隊の歩兵隊長として活躍をしている。
1942年6月1日
ハルゼー提督率いる帝都空襲部隊と衝突して「犬吠崎沖海戦」を制した第一遊撃艦隊は、トラック泊地に身を寄せていた。
「結局、史実通りにソロモンへ飛ばされるのか。」
源三郎が沈みゆく夕日を眺めながらぼやく。
トラック空襲及び犬吠崎沖海戦より端を発し、海軍が主導するソロモン方面への攻勢が行われることとなった。
第一目標は、ラバウル攻略。
第二目標は、米軍が建設を急いでいる中継基地のガダルカナル島攻撃。
第三目標は、南太平洋を想定した米海軍の迎撃。
「史実へ確実に戻りつつある。どうにかしないと……」
「源三郎君! 君に吉報があるぞ!」
いつもテンションが高い艦隊幕僚こと、静巴が源三郎へダイビングアタックを仕掛ける。
「はいはい、危険ですから止めましょうね?」
一瞬で後ろに振り向いて、抱き止める。
「おお! 腕を上げたな!!」
と、そのままお姫様抱っこの体勢へ移る。
「っと…… 静巴さんっ。」
「司令官公室へ、出撃!」
「はいはい。」
二人は、依子の居る司令官公室へ向かう。
「艦長の山塚です!」
「静巴だ!」
「入りたもうれ。」
部屋の主の返事を聞いて入室する。
「お疲れ様です、依子さん。」
「お疲れ!」
「お疲れ様。静巴はいつも元気ね……」
「元気がなければ、やれることもやれんからな!!」
今日も豪笑する。
「ところで、静巴さんに呼ばれたのですが……」
「そうよ。今日、補給部隊と一緒に陸軍部隊もトラックへ来ててね。」
「はい、なんでもラバウルを占領するとか……」
それ伴って、遊撃艦隊も参加することが決まっていた。
「その中に、松本百合子が率いる第二機動大隊が上陸部隊の先遣隊として来るぞ!」
「久々に同期の百合子さんに会えるんですね!」
「そうだ! 士官学校以来だから、会うのが楽しみだ!」
「私も楽しみよ。」
源三郎は内心、一年半前一回会っているがそれでも嬉しいと思っていた。
時と場所は、翌日の夕方で夏島にある小松の支店に移る。
「お久し振りです、百合子さん。」
「お久し振りね。」
源三郎が百合子の出迎えをする。
「どうぞ、依子さんと静巴さんが待っています。」
「失礼します。」
戸が引かれて、百合子と源三郎が入る。
「おお、百合子! 久し振りだな!!」
「遠路遥々、疲れているところご足労をかけるの。」
「いえ、皇国を救うためですので疲れなど感じておりません。」
綺麗な敬礼を依子に送る。
「女将さん、料理を届けて頂いたら後は私たちがやります。」
「承知いたしました。」
小松自慢の会席料理が運ばれて、女将が去ることを確認して戸を閉める。
「さて、少しは緩みませんか?」
「そうね。」
首元のボタンを外す。
「お酒はないけど……」
水の入ったコップを持って……
「久し振りの再会に。」
『乾杯!』
コップが当たり音を立てる。
「しかし、まさか百合子が派遣されるなんて……」
「蘭印作戦に参加してて、バンドン郊外で撃ち合っていたのよ。」
おそらく、停滞し始めた戦線の決死隊と共に投入されたのだろう。
「まあ、市街地戦だったから訓練の成果が出たわね。」
「ほう? 少し聞かせてくれないか?」
「いいわよ。」
話し出す前にコップの水を飲む。
「私たち、第二機動大隊第一一遊撃中隊は若松挺身隊と共にバンドン郊外のレンバンへ突入した。」
「報告だと三月七日ですか。」
源三郎は、先日配布された大東亜戦況詳報を読んでいたので認識はしていた。
「ええ。その時、蘭印軍の抵抗は激しかったのよ。でも、市街地戦術と一〇〇式機関小銃のおかげで、制圧が容易になったり友軍の被害を抑えることに成功したよ。」
一〇〇式機関小銃とは、第一次世界大戦で登場した帝政ロシアのフェドロフM一九一六を日本の工業力で容易に作れるよう再設計されたものだ。
これには鬼河も開発及び量産に関わっている。
「制圧、迂回、分断の三つの要素を上手く取り入れたな。」
「静巴の言う通りね。あとは機動力。二式装輪装甲車が活躍したのよ。」
「その二式装輪装甲車とは?」
依子が興味を示す。
「四方八方が装甲板で覆われた兵員トラックよ。初期量産型だからエンジンが息つくこととかあるけど、色々と便利よ。負傷者の一時保護ができるし、車上にある50口径機銃で援護射撃も出来るし。」
「お、それは私も設計に参加してたぞ?」
「え? うそ!?」
「本当だぞ?」
目玉が飛び出そうなぐらいの驚きを見せた百合子に、胸を張って告げる静巴。
「一〇〇式も確か静巴さんが関わってましたよね?」
「うむ。部品点数を削減したり、強度を向上させたりとかしてな。まあ、百合子の部隊と空挺隊しか供給できなかったがな。」
水差しを手にしてコップに水を注ぐ。
「さあ、お話は料理を食べている時でもいいだろう。」
「それもそうね。」
依子が賛同して箸を手に取る。
「それで、百合子さんの第二機動大隊は神州丸とあきつ丸に分乗して今度は強襲上陸と。」
「ええ。勿論、第一遊撃艦隊の航空支援を宛てにしてるわよ?」
「そのことは任せてもらおう! 空母三隻の波状攻撃で粉砕してやろう!!」
艦隊次席とは言え、静巴がかなり自信の発言する。
「静巴、少しばかり豪語が過ぎるぞ? もちろん、百合子が肩を落とすような支援はしないことを約束しよう。」
「ありがとう、依子さん。」
「それと、今回は松田大佐指揮下の金剛と榛名が参加してくれるので、艦砲射撃支援も可能です。」
「ああ、九門の大砲を持ったあの戦艦のこと?」
「はい、そうです。」
第二機動艦隊の所属であった金剛と榛名だが、第一機動艦隊と共同でインド洋に展開している英東洋艦隊を撃滅する為、第一と第二の機動艦隊は一旦トラックに集結していた。
第一遊撃艦隊も停泊していたので、帝國海軍全主力空母11隻がトラックに集中しており、上空から見た姿は壮観であった。
「なんでも、空母八隻も居たら比叡型は二隻でなんとかなると判断したようね。」
「航空攻撃なら艦隊と港湾施設の両方に対して、柔軟な対応ができますからね。」
「但し、上陸部隊の支援になると投射量に勝る戦艦類が有効だからな!」
「ということは、金剛と榛名は上陸支援として投入が適切と判断したのね。」
丁度会席料理を食べ終えた。
「そういうことよ。」
「小沢さんも、上陸支援なら必要と判断をしてくれたよ。」
「その分、ちゃんとやらないと小沢さんに怒られそうですけどね。」
源三郎は苦笑いを浮かべる。
「あれ? ちょっと迷惑かけた?」
「巡戦とは言え戦力を低下させちゃったので。」
「あー、私らもあるよ。でも、それはお互い様だから、今は頑張ることに気を向けましょ?」
「はい。」
少し気持ちが和らぐ。
6月5日早朝 米豪軍ラバウル基地
日本軍のトラック基地が直接的脅威となっているラバウル基地では、米軍の航空機が多数駐機していた。
基地の巡検で回っている米兵二人が退屈しのぎに会話をしていた。
「おい、聞いたか?」
「何が?」
「ジャップがインド洋へバカンスしにいったって。」
言われて数舜後、あ~と納得する。
「そういや、そうだったな? オザワ率いる無敵の航空艦隊だっけ?」
「ジャップに無敵とかナンセンスだぜ? まあ、強いには強いがな。」
「そりゃそうか。だが、それならここラバウルは安全じゃないのか?」
「それがそうでもない。プリンセスヨリコの艦隊がトラックに未だ居るらしい。」
「マジかよ。」
その時、頭上から聞き慣れないエンジン音を耳にする。
「ん? 今更哨戒機が帰ってきたか?」
「バカ言え。夜間に飛んでたら引継ぎの時に……」
続きを言おうとした瞬間、今度は空気を切り裂く嫌な音が……
「うおっ!?」
「ぎゃあ!!」
轟音と爆圧に変わって巡検の二人をなぎ倒した。
空母大鳳
「佐藤隊よりト連送傍受!」
「航空基地攻撃、か。第二次攻撃隊は準備が出来次第発艦せよ!」
「艦長、そうすると金剛と榛名の出番がなさそうですが……」
咲織が心配そうに聞く。
「大丈夫大丈夫。航空機は航空機に、滑走路には1,000キロの徹甲弾を撃ち込む予定だからね。」
いくら早朝奇襲とはいえ、敵航空機が舞い上がっては元も子もない。
そう思いながら、飛行甲板に並べられている艦上機に目をやる。
ラバウル基地近辺の海岸
航空攻撃と同時に神州丸とあきつ丸より大発が発進する。
「いいか! 機銃掃射、戦車隊、煙幕発射と連動して突撃だぞ!」
揺れる中、百合子はそれに負けぬ大声で注意喚起をする。
『はい!』
「あと、海軍さんからも支援を受けるからそれも受け取るように!」
『はい!』
全員、気合い十分。
「そろそろ乗り上げるぞ!!」
大発を操縦している艇長が叫ぶ。
「了解! 機銃手、準備は?」
「準備完了であります!」
九九式汎用機関銃を構える若手の上等兵が答える。
その時、下から突き上げる衝撃を感じた。
海岸に着いた証拠だ。
「隊長!」
「まだだ!」
海岸からの反応がない。
「……」
「隊長、戦車隊が揚陸し始めます。」
「分かった。機銃手、構えたまま。合図したら降りてついてこい。」
「ハッ!」
百合子を先頭に大発を降りる遊撃中隊。
その後も、野砲隊や輜重隊も上陸を果たしてラバウル基地へ殺到する。
早朝の奇襲であった為か、基地付近の抵抗が激しかったが無事に占領することに成功する。
「次は、ガダルカナルだな?」
「確信みたく言わんないでください。」
「まあ、ラバウル近海で航空戦なども有り得るからの。」
かくして、ラバウルの攻略は迅速な行動で成功を収めた。
お久しぶりです、フラワーコウです。
現在、世界中で蔓延しているCOVID−19が猛威を振るう中、早く終息することを切に願っております。
その影響は、こちらの更新にも襲いかかってきました。まあ、同人誌にも襲いかかりましたが……
それでも邁進していく所存です。
あと、このあとのストーリーですが天城氏のアドバイスを全面的に取り入れることにしました。
私にしましても、どうなるか分かりませんが頑張っていきたいとお思います。