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―迫る者―

日独伊技術提携……最初は、第一次世界大戦後の日本とドイツとの技術交流から始まった。

 そこへ、イタリアを入れた三国による盛んな技術交流を経て、三国による技術提携を結ぶまでに発展する。

 勿論、そこには三者三様の思惑が交差した上でのことであり、それを警戒する者も居る。

 1942年1月10日、キール運河

 ドイツ第三帝国を流れるキール運河を巨大な戦艦が二隻、北海へ向け前進している。

「これより、ブレスト入港を目指す!」

 戦艦の主である艦長、エルンスト・リンデマン海軍大佐は号を押して言う。

 この戦艦は、ドイツが威信をかけて誕生させた、ビスマルク級戦艦の一番艦、ビスマルクである。

 そして、その後ろに続くのは妹の二番艦である、ティルピッツである。

 他にも、重巡や駆逐艦を従えてキールを出て行く。

 この艦隊は、北海から北大西洋を経由して、占領区であるフランス・ブレスト港へ向う…… ことを装った欺瞞作戦である。

 現在、英国海軍は二個の〝枢軸国高速機動艦隊〟に対して警戒を強めていた。

 枢軸国高速機動艦隊とは、日独伊の海軍が保有する高速を利とした艦隊のことを指して、主に独伊両海軍の高速部隊のことを指している。

「そういえば、イタリアの機動艦隊もマルタ島の上陸作戦に参加しているようですね。」

「そうらしいな。我々もイタリアも、日本に感謝しなくてはならないな。」

「はい。そのお陰で、我々には〝伯爵〟が居ますからね。」

 史実では完成を見なかった伯爵こと、空母グラーフ・ツェッペリンのことである。

「ああ。これで、英国人も震え上がっているだろうな。」

 やや傲慢とも取れそうな言い方であるが、史実ではティルピッツの例がある。彼女のおかげで、英国海軍の主力部隊は長期間に渡って拘束し続けた経緯があった。

 この後、デンマーク海峡海戦が勃発してビスマルク以下数隻が損傷して、結果としては予定通りキールに引き返して入渠することとなる。




 ここで、この世界のドイツ海軍とイタリア海軍の置かれた状況を見てみよう。

 先ず、両海軍が空母を持つまでになった発端は、第一次世界大戦が終戦した後のことだ。

 ドイツは、戦艦・潜水艦・航空機を中心とした軍事兵器の新規開発や新規製造をヴェルサイユ条約により禁じられていた。

 日本は、戦勝国としてドイツから潜水艦などを譲り受ける。だが、観戦武官からの報告には〝現状に置いて、国家総力による物量戦は我が国の難題と見たり。そして、技術にしても此れにしかり。〟という意見が多数寄せられた。

 ここで、両国の思惑が一致する。

 ドイツは、兵器の新規開発や製造を行いたい。日本は、新技術導入による兵器開発や量産体制を築きたい。

 この思惑により、日独秘密協定が結ばれることとなった。

 これが発展して、イタリアも加わり交流が盛んになる。更に発展を遂げて、日独伊技術提携という形となる。

 その中で、最高機密の一つとされる、日本による独伊両海軍への建造資料及び代理建造である。

 第一次大戦終わり間際に完成させた16インチ砲とその改良型の資料や、空母の建造に関する資料と建造監督等々……

 流石に最高機密とあって喧騒としたが、鬼河が独自に研究していた「装甲空母X204型」を流用して、テストヘッドになってもらうことで収まった。

 それがドイツのグラーフ・ツェッペリンとイタリアのアクイラの誕生であり、正体でもある。

 更には、戦艦にしては、ドイツ・イタリアの運用事情に合わせた設計プランを幾つか提案しているほどの徹底振りだ。

 これにより、ドイツとイタリアは空母の建造にリソースを割くことなく、戦艦の早期建造を実現させる。

 故に、英仏両国は日独伊の軍事的交流に神経を尖らしていた。

 以上の事情により、英国海軍は北海及び地中海に艦隊を割かねばならず、とてもインド洋や太平洋に増援を回す余裕がなくなってしまった。

 実は、そこが日本の狙いでもある。

 英海軍力を欧州へ貼り付けることにより、太平洋及びインド洋での行動を容易ならしめるように、用意した布石でもあった。




 同月20日、横須賀鎮守府

 この日は、先日に起こったトラック奇襲に関する会議が行われた。

 最近、米海軍は一撃を加えたら即座に撤退するヒットエンドランを展開しており、トラック泊地以外にも複数の奇襲を受けていた。

 幸い、地上向けの電探の設置が進んでおり、奇襲を受ける前に迎撃機を差し向けたおかげで、被害はなかった。

 当面はトラック泊地の防空能力強化として決定したが、一部からラバウルを占領してトラックの前進基地と欲せんという意見が出てきてしまう。

 これについては、軍令部総長 長谷川清海軍大将、海軍大臣 山本五十六海軍中将、連合艦隊司令長官 堀悌吉海軍中将の三者が横を振って静めさせた。



 その頃、依子達三人は大鳳の入渠期間を利用して調布空軍基地を訪問していた。

「頼もう!」

「静巴さん、道場破りじゃないんですから。」

 常にハイテンションの静巴に呆れつつ、源三郎は三人の身分証と紹介状を門番に見せる。

「我々はこういう者で、紹介状をもらって来ました。お願いします。」

「了解しました。確認しますので、そちらのベンチで座って待っていてください。」

「はい。」

〈グォォオオオン!〉

 ベンチに座ろうとした時、頭上を数機の航空機が通過していった。

「あれ……」

「鍾馗だな! やっと配備されたか!!」

「速いとは聞いていたけれど、あながち間違いでもなさそうね。」

 鍾馗…… 中島飛行機が開発した二式単座戦闘機のことである。

 史実では陸軍航空隊に配していたが、この世界では空軍に配されていた。

 前々から重戦闘機(重量的意味ではない)として開発されていた機体に、迎撃という役目を担わせたのが真相だ。

「山塚中佐殿、確認が取れました。案内役が来るので、もうしばらくお待ちください。」

「分かりました、ありがとうございます。」

 数分後、案内役の下士官が迎えに来て空軍の調布基地に入る。



「依子、久し振りね。」

 空軍の制服を着込んだ女性が出迎える。

「ええ。千里も元気そうで何よりよ。」

 そう。相手は、士官学校時代に苦楽を共にした朝倉千里だった。

「今の配属は?」

「帝都防空大隊第一三戦闘中隊。私は、その中隊の中隊長をやっている…… 空軍大尉よ。」

 20もいかない士官が、大尉の階級をもらうことは異例中の異例ではある。

「大出世だな!」

 静巴が大袈裟に驚く。

「あなた達の方が、大出世だと思うのだけど。」

 千里の指摘は最もで、依子達が佐官の階級をもらっている時点で、霞んで見える。

「それもそうだな! アッハッハッハッ!」

 静巴、全く悪びれることなく笑う。

「早速ですが……」

「まあ待て。ここじゃまずいから場所を変えましょ。」

「えっ?」

 千里は、依子達を連れ出してある場所に向う。



「まさか、屋上に連れて行かれるとは……」

 滑走路や格納庫が見渡せる、司令部施設の屋上に四人が居た。

「ここ、お気に入りなの。辛かった時とかは、よくここに来て夜空を見上げて気持ちの整理をしてたわ。」

「確か、千里はよく空を見上げていたわね。」

「昔から空が好きなの。ところで……」

 視線を空から依子達に移す。

「帝都空襲に関する意見交換…… だったわね?」

「ええ。ここ、数ヶ月以内にあると思うの。」

「私も、有り得ると思うわ。」

 依子と千里の眼が一変する。

「でも、その方法が分からないわ。」

「まあ、そのことなんだけど…… 静巴がとんでもない想定をしたの。」

「え?」

 今度は、依子から静巴に視線を移す。

「何、軍隊は力量を増やす為に猛訓練をすることも一つだ!」

「え、ええ。私も、猛訓練に耐えて……」

「そこで、ある可能性を見出したんだ!」

 何時もながら、テンションの高い口調で続ける。

「蒼龍型並の空母から、九七式並みの爆撃機を発艦出来ないかと!」

「え…… ええ!?」

 予想もしない内容に、流石の千里も唖然とする。

「まず、我本土周辺にアメリカの航空基地又それに準じた使用可能な土地はあるのか?」

「……まずないわ。」

「そこで、海軍の登場だ。だが、アメリカの艦上機は航続距離が芳しいものではない。」

 勿論、こっちも似たような航続距離ではあるが。と付け足す。

「じゃあ……」

「本土に近付いたら、海軍の第一及び第二艦隊と空軍の爆撃機隊に叩かれて壊滅だ。」

 その方が、我々に取っては好都合なんだがな。と、一息を着く。

 確かに静巴の言うとおりで、帝國海軍首脳部としても場所はトラック諸島だが、その手法が好都合だ。

 何故ならば、斬撃邀擊作戦の骨子が襲来してくるであろうアメリカ太平洋艦隊に出血を強要させつつ、連合艦隊が正面切って迎え撃つことである。

 その出血の一つが、長距離爆撃機による洋上爆撃である。

 これについては、空軍設立をした今日でも受け継がれている。

「でも、そっちは分かってるんじゃない?」

「その通り。アメリカはそこまでバカじゃない。」

「……なるほど。空母と爆撃機の組み合わせって訳ね?」

「まあ、可能性の一つを述べたまでだ! でも、作戦は時として大胆なことは必要だ。」

「不意を突けるから?」

「その通り。」

 ドヤ顔で肯定する。

「じゃあ、第一段階は海軍が哨戒網を引いて米艦隊を食い止めて、第二段階は既に飛び立った敵爆撃機を迎撃する。こういう二段構えかしら?」

「そうだ。やはり話が早くて助かるよ、千里。」

「半年も居れば、嫌にでも分かるわよ。特にあんたはね?」

 やや自嘲を含んだ溜め息を吐く。それは、白く数瞬の内に消えて行った。




 2月19日、三浦半島沖

 三人は、修理を終えた大鳳の航海艦橋に立っていた。

 だが、今日は何時もと違う光景に釘付けとなっている。

「壮観じゃの。」

「ああ!」

「そうですね。やっと、姉妹がやってきましたね。」

 視線の先には、同じ大鳳型航空母艦の二番艦翔鶴と同三番艦瑞鶴が駆逐艦四隻に護衛されている。

 そして、この三浦半島の沖合で大鳳達と合流できたのである。

 尚、連合艦隊直属艦である速吸は、今作戦限りの借用ということで、既に第一艦隊後方支援部隊へ異動していた。

「確か、第四駆逐隊も着任するんだったな!」

「ええ。やっと、機動艦隊に迫る規模になりましたね。」

「まあ、機動艦隊ではないがな……」

 依子がマイクを持って一息を吐く。

「全艦に達する! 艦隊司令官の旭日宮である。

 今日から、翔鶴・瑞鶴及び第四駆逐隊が我艦隊に加わった。

 そして、本日付で我艦隊は改名をする。

 第八艦隊改めて、第一遊撃艦隊とする! 以上だ。」

 ここに、アメリカ海軍の機動部隊と幾度となく渡り合う艦隊が誕生したのだ。

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