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ーミッドウェー支援部隊ー

 作戦指令、Y攻撃


 第八艦隊その他を以って、米空母ヨークタウンを撃沈せよ。

 米領ミッドウェー島沖北北東100海里上空

「来たな。」

 艦上戦闘機第一中隊隊長兼大鳳航空隊司令の坂本(さかもと) (あや)海軍大尉は、増槽を切り離して若鷲、紫電改を上昇させる。

「敵航空部隊を邀撃する! 第一中隊は私に付いて来い!」

 男性に勝るとも劣らぬ強い口調の坂本。坂本機の後を、第一中隊所属の紫電改が続く。

「無線封鎖解除し各個撃破せよ! 無線連携を怠るなよ!」

 大東亜戦争の初戦、ミッドウェー島沖海戦の火蓋は切って落とされた。


 空母大鳳司令艦橋

「第一次攻撃隊より入電! 我敵攻撃隊ヲ発見セリ。コレヨリ交戦ス。以上です!」

「了解。」

 大鳳艦長こと、山塚(やまづか) 源三郎(げんざぶろう)海軍中佐は報告を聞いて空を睨む。

「(初の実戦。そして、この戦争の初陣を飾ることになる、この戦い……)」

 手袋をはめた右拳に力が入る。

「(これから先、困難が続く。この初まりを成さなければ、後々に影響するだろうな。)」

 艦内マイクを手に取り、艦内放送に切り替える。

「艦橋より、全艦内へ。艦長の山塚だ。作業をしながら聞いて欲しい。

 数時間前、政府はアメリカに対して、宣戦布告を行った。ハルノートの撤廃と禁輸による疲弊した国内経済の改善が、見込めなくなったのが主な原因だ。

 だが、忘れてならない。我々の目的は、戦争を遂行することではない。

 戦争と言うのはあくまで手段であり、目的は先の二つに対して改善を施した上で、日本はもとより亜細亜及び太平洋地域の安定を図ることにある。

 くれぐれも見誤ることがないように。これは、頭の片隅に置いてくれ。

 あと、長々しく述べてきたが、もう一つ。

 死ぬな。最後まで生きる希望を失うな。帰る場所が有るのならば、尚更だ。

 最後に、これより一時間足らずで敵攻撃隊が我艦隊に達する。気を引き締めて臨んでくれ。以上だ。」

 艦内マイクを下げて、スイッチを切る。

「……ふぅ。」

 思わず安堵の溜め息を漏らす。

「源三郎君!」

「ウオッ!?」

 背後から飛びつかれて、前のめりになる。

「静巴さん。今は、戦闘配置なんですよ?」

 飛びついた張本人は、第八艦隊艦隊幕僚長の山口(やまぐち) 静巴(しずは)海軍中佐である。

「今さっきの訓示、カッコよかったぞ!」

「それは…… ありがとうございます。」

 顔は照れているが、それ以外の感情を目元に僅かながら示している。

「大丈夫だ。私と君、そして、依子も居るんだ。この三人なら、上手く行くよ。」

「!?」

 耳元で囁く声は、どこか暖かく優しい温もりを、源三郎は感じ取っていた。

「依子。また源三郎に、何かちょっかい出してるの?」

 第八艦隊の艦隊司令官、旭日宮(きょくじつのみや) 依子(よりこ)海軍大佐が、顔を出す。

「いや! 源三郎君の不安を取り除いてだな。」

「あと、勇気付けられました。」

 証拠とばかりに、源三郎の顔から笑顔がこぼれる。

「そうか。」

 それにつられてか、依子にも笑顔がうつる。

「でも、不思議だな。」

「何がですか?」

「私は、艦隊全体の指揮と責任を背負っている。つまり、皆の牽引役よ。

 でも、その皆から元気や勇気をもらっている気がするの。ちょっと恥ずかしいわ。」

 だが、その笑顔には少し自虐な意味も込められていた。

「そんなことないですよ。むしろ、司令官の職に就いたのならば、それをもらってもいいぐらいですよ。」

 励ます為か、やや強引な論を推す。

「そう?」

「ええ。」

「ありがとう。源三郎は優しいわ。」

 今度は、嬉しさから溢れ出る笑顔が見れた。


 同刻、第一次攻撃隊から分離した艦戦第一中隊は、米艦戦F4Fワイルドキャットを…… 甚振っていた。

「クソッタレが! 何がジャップの戦闘機は固定脚だ!?」

 甚振れるという揶揄とは裏腹に、ワイルドキャットを操るパイロットへの衝撃がかなりなものがあった。

「もらった!」

 坂本が、20ミリ機銃の銃口から火を噴かせて、ワイルドキャットの左主翼の付け根に命中。錐揉みとなって海面に四散する。

「しかし、数がこう多くては敵わんな。」

 だが、戦闘機は減らせても、艦爆機や雷撃機等は戦闘機が邪魔をして減らせずにいた。

「四中隊と六中隊に任せるしかないな。だが、幾ら何でも奴の隊がヘマするとか思えんが……」

 この予感は、若干当ててしまう形となって現われる。


 一方、大鳳の艦橋は米攻撃隊の接近に伴って慌しくなる。

「電探室より報告! 敵攻撃隊、距離45,000! 数30前後!!」

「防空戦闘よーい! 敵さんがワラワラとお出ましだ!」

 源三郎、檄を飛ばす。

「おお〜♪ 様になっているよ、源三郎君♪」

 だが、それを見た静巴は顔をニヤつかせる。

「静巴さん、茶化さないでください。」

「妾もそう思うぞ?」

 依子も、静巴同様に顔をニヤつかせた。

「依子さんまで……」

『アハハハハ!』

 源三郎、静巴と依子に茶化されて艦橋がドッと笑い盛り上がる。


 第八艦隊上空

「よーし! 野郎共、掛かれ!」

「「「「おお!」」」」

 艦戦第四中隊は、敵攻撃隊に対して急降下による一撃離脱を敢行する。

「先ずは雑魚の掃討からだ!」

 艦戦四中隊の隊長、西川(にしかわ) 美知(みち)海軍中尉が米急降下爆撃機、SBDドーントレスに喰らい付く。

「喰らえ!」

 機首にある12.7ミリ機銃の銃口から火を噴く。

 狙われたドーントレスは、エンジンに直撃を喰らい錐揉む。パイロットの脱出は確認できずに、海面に散らばる。

「……」

 西川、脱出できなかった米パイロットに対して敬礼を送る。

「チッ! 手強いぞ!」

 思わず舌打ちをしたのは、ワイルドキャットの戦闘機隊の隊長だ。自前の技量で何とか切り抜けられたものの、残念ながら僚機を食われて自分一人となった。

「どうすれば…… ん?」

 自分のところへ向かって来る垂直尾翼の色が違う紫電改を発見する。

「……なるほど、そういうことか。勝負だ!」

 相手の意図を読んだのか、すぐさまスロットルを全開にして相対速度を上げる。

「掛かったな。そうこなくっちゃね!」

 両機、反航戦から入って一射。そこらお互い反転して、攻撃の機会を窺う。

「ほう。かなりのやり手じゃん。」

 西川は、敵隊長の技量に関心する。

「よくってよ! 紫電改の力を見せてやるわ!」

「やはり、隊長機か!」

 異色な尾翼を持つ紫電改が隊長機であることをはっきりと認識する。

「なっ!?」

 だが、次の瞬間、主翼の左端をやられた。

「うお!?」

 必死になって機体を安定させるが、徐々に高度が下がって行く。


 その頃、大鳳の艦橋は凄まじく緊迫した空気を漂わせていた。

「敵機接近! 七時方向! 数六!」

 水兵が報告すると、ドーントレスに向けて対空火器が一斉に火を噴く。

 大鳳の直衛に着いている留萌・秋雲・朧も、一斉に対空火器が火を噴く。

「面舵一杯! 傾斜角に注意!!」

 源三郎が叫び指示を出す。

「おーもかーじ!」

「ヨーソロー!」

 直ぐに、艦が右に傾き始める…… と、思うかもしれないがそう訳ではない。

 大体、こういう大型艦艇は最低50~90秒ぐらいで艦艇が反応する。

 史実の例では、大和型戦艦は90~100秒掛かったと言われている。

「爆撃機急降下! 直上!!」

 見張りの水兵が悲鳴に近い声で叫ぶ。

「……右舷停止! 左タンク注水急げ!!」

「艦長! それでは艦のバランスが!」

 そう。面舵、右旋回をしつつある艦体姿勢は左舷が下に傾く。

 その左舷のバラストタンクに、注水しろと言うのだから、下手をすれば転覆する。

 現在、左舷が急速に沈みつつあるので、止めに掛かるのは尚更だった。

「この十二月のバカ寒い海に沈みたくなければ、あと十秒で注水しろ!!」

 だが、気迫を推して注水の指示を再び出す。

「左タンク注水開始!」

 左舷のバラストタンクに海水がなだれ込む。そして、数拍置いて傾斜角が急となる。

「敵弾投下ぁー!」

 水兵がついに悲鳴の声をあげる。


〈ガアンッ!〉


 大鳳に爆弾が命中した。

「被害報告!」

 水兵が見たものは……

「飛行甲板に命中! されど飛行甲板は健在!」

 ……若干傷が着いた飛行甲板だった。

 爆弾は、弾かれて海に投げ出されていたのだ。

「まだくるぞ!」

 だが、大鳳に襲いかかる災難は続く。

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