赤い涙
「……」
「……」
「あの……続きは?」
「終わりだ。」
「へっ?」
「窓が勢いよく開いたことまでは覚えているんだが、ここから先の記憶はない。」
「な、何故ですか?」
「それは分からない。まるで穴があいたように、そこだけ記憶が抜けているんだ。……気づいた時には、ユリアーナは椅子から消え、父様は笑いながら血を流し、死んでたよ。」
「っ……!」
「しかも首には、噛み付きあとがあった。これがどういうことか、分かるかい?」
「……吸血鬼……!」
「ああ。君ほどの洞察力の持ち主なら、この情報でだいたいのことは分かっただろ?……って、ん?……レオン、何故泣いているんだ?」
「へっ?……あれ、どうして?涙……」
なんで、俺、泣いているんだ……?
「あの、ぼ、僕…理由なんて、分からないです……でも、何故だか、とても申し訳ない気持ちになったんです……お、おかしいですよね、あ、あはは……っくっ...えっぐ……」
ギュッ
「!?」
エーベルは俺を抱きしめていた。
「レオン、君は優しい子だね。こんな私...暗殺対象に、涙を流してくれるのかい?」
「っ!?」
「私も、人の嘘を見抜くのが得意でね。」
「……じゃあ、何故俺を家に入れた?」
「それは、君が、なんだろうか、とても、愛らしくみえてね。」
「……ははっ、やっぱり、ホモなのか?」
「うーん、ホモ、というよりは、好きになる人の性別は、とくにどうでもいい感じかな。」
空は、いつの間にか曇天になっていて、ポツポツと雨が降り出した。
「……ははっ、じゃあ、テメェは分かってて、俺で遊んでいたってことか。」
「違う」
「違わねェよ。……ほら、殺せよ。」
「?」
「暗殺対象に感づかれる暗殺者なんて必要ない。さあ、殺せよ。抱きしめたままじゃ、俺も逃げれねェから殺りやすいだろ?」
「……それをすることで私に何か得はあるのか?」
「……」
エーベルはとても冷たい顔をしていた。
「……実につまらない。君も、そうなのか?」
「は、テメェ何言ってんんっ!?」
いきなり、エーベルが俺の唇を奪った。
「んんうっ!?んっ……」
次第に、舌が入ってくる。
「んんっんあっ……」
「っはあっ...レオン、俺の目を見ろ。」
「っ」ガクガク
「嗚呼、その恐怖に満ちた顔、たまらなくいいね。んっ……」
「んっんんっ!!」
エーベルは雨の中俺の服を脱がし始めた。
木の下なのであまり濡れないが、それでもズボンは冷たかった。
あっという間に脱がされ、エーベルの指が入ってくる。
「んっ!?かはっ!!っああっ!?エーベっ……やめ...!!」
「聞こえないな?第一、今から死ぬんだろう?だったら何されても関係ないだろ?」
「っ……」
「……お前はただヨガっているだけでいいのだよ、レオン。」
「っい、あっ!いやっだっ!!っ……んんっ!!」
「イっていいんだよ。」
「イっ……あ、イくっ...!!あっ、アアアア!!」ガクン
「...おや、気絶してしまったようだね。指だけでイってしまうとは。生憎、気絶している所を襲う趣味はないのでね。」
「……ごめ……なさ……お父……様……」
「……?」
***
「……ごめ……なさ……お父……様……」
「……?」
速やかに着替え、レオンに服を着せようとした時、
気絶しながら、レオンがそう呟いた。
……昔、何かあったのか……?
「……」
レオンを抱き抱え、上着を掛け、林檎畑の奥へと向かう。
そこには、作業用の小さな小屋があった。
とりあえず雨が止むまでそこにいよう。
ギイイイイイイイイ__
しばらく使ってないから、埃臭いな……
ベッドを軽く叩き、レオンを寝かせた。
その後、年季の入った椅子に腰掛け、窓の外を見やる。
__やってしまった__
記憶がない苛立ちから、ついヤケクソになって、レオンを……
久しぶりに、記憶をたどった。
あまり思い出さないようにしていた。
ユリアーナは、どうなったんだろう。
生きているはずだよな、絶対に。
止むどころか、どんどん酷くなっていく雨音を聞いていたら、いつの間にか寝てしまっていた。
***
「レオン、レオン。起きなさい、レオン、起きてるんだろう?レオン、レオン?」ドンドン、ドンドン
__嫌だ
____嫌だっ!!
「起きていることなんて、分かっているんだよ?……はあ、仕方ない子だね。」
バァンッ!!!!!
「ひぃっ!?」
ドアの鍵は、何錠にもかけた。
しかし、それも無駄だった。
銃によりバラバラに壊れた鍵の山が落ちる。
__もう、もうダメだ。
____嫌だ
______殺されるっ!!!!!!
ガチャ
「やあ、おはようレオン。よく眠れたかい?」
「あ……ああ……」ガタガタ
「さあ、では__
始めようか。」
***
「っはっ!!!」
今の……夢?
あの男は……俺の……親父?
「……っくそっ……頭痛てぇ……」
いつの間にか雨は止んでいて、窓からは月光がさしかかっていた。
窓辺の椅子には、眠っているエーベルの姿。
金髪の髪が月光に輝いている。
自分に掛かっていた薄い毛布をエーベルに掛け、外に出た。
「……」
外は凄い景色だった。
無数の林檎が、月光の淡く、青い光に包まれている。
全てが青い光に包まれている。
「すご……」
「凄いよね、この景色。」
「……え?」
そこには、黒い……まるで吸血鬼の衣装のようなものをまとった男がいた。
「君は……?」
「ああ、名乗ってなかったね。」
そう言って男は礼儀正しくお辞儀をし、
「僕の名前はハート。よろしくね、レオンくん?」