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青月の薔薇  作者: あをに
8/9

過去と林檎

皮肉なほどの晴天。

俺の心は曇天だ。

あの悪夢の夜、エーベルにキスされて以来、全くその類の夢を見なくなったのだ。

……結構な頻度で見てたのに。

まあ、あいつ曰く、自分の唾液にも、少々の魔力が含まれているから、それが影響しているかもしれない、とのことだ。

結構な悩みが、男にキスされることで、いとも簡単に解決するなんて、なんだか悔しいじゃないか。


「おはよう。今日は仕事もないし、折角の天気だから、どこかに出かけようか。」

「は、はい。どこに出かけるんですか?」

「いい所があるんだ。30分後に出るから、支度を済ませておいて。」

「はい!」


「……よし、じゃあ行こうか。」

「はい!」

「エーベル様、レオン様、行ってらっしゃいませ。」

ドミニクさんに見送られ、家を出た。

そういえば、外に出たのは随分と久しぶりだ。

家さえも、まだ全部見れていない程広いし、外に行く余裕などなかった。

風がとても気持ちが良かった。


「さあ、着いた。」

「……!! うわあああ!!」

そこには、辺り一帯に広がる林檎畑があった。

甘酸っぱい香りが胸いっぱいに広がる。

しばらく進んだところに、白いベンチがあり、そこに座った。

「ここ、いい所だろう?」

「はいっ!...でも、どうしてここに?」

「ここはね、私の両親が資金を出して作った畑なんだ。林檎が好きな、僕らの為に」

「僕『ら』?」

「そうか、話してなかったね。」

「あの...エーベルさんって、過去に何か、あったりしました?」

「え?」

「いや、あの...なんかエーベルさんの目には、光が宿ってないように思うんです。そんな目なのは、何かあったからではないかと思って……すみません、野暮な質問ですよね」

「いや、……確かにそんなことまさか知り合って間もない少年に言われるとはね。」

「す、すみませ...」

「だか、そこが面白い。君はやはり、洞察力に長けているようだ。……じゃあ、少し話させてもらおうか。……過去の話を。」

「……」


***


「エーベル、今日は君の誕生日だ。」

「……そうなのか?」

「ああ。しかし君ときたら、他人に興味無いだけでなく、自分にも興味ないのかい...?」

興味?ないね。世界は極めて退屈さ。

お父様は、大層意外そうに僕に言うが、特に特殊でもないと思う。

「まあいい。誕生日プレゼントがあるんだ。」

「毎年言っているけど、別にいらない。大体、いつも玩具じゃないか。僕は遊ばないと知ってるだろう?」

「いつもは、な?だが、今回は『トクベツ』だ。きっとお前も飽きないよ。」

「……?」

「ほら、恥ずかしがらずに入りなさい。」

ガチャ、とドアが音を立てた。

「ゆ、ユリアーナといいます、7歳です、よろしくお願いします...!」

そう言って入ってきたのは、朗らかに笑う、ユリアーナと名乗る少女だった。

「……は?」

「ほら、誕生日プレゼントだよ?」

「はあ。いよいよ頭おかしくなったの?……いや、元々おかしいか。」

「なっ……ゴホン。この子は今日から、君の妹になるのだよ、エーベル。」

「妹……?」

「この前、孤児院に行ったんだ。そこで、この子に出会ってね。この子なら、君の妹にピッタリだって……いや、なんかピンときたんだ、ピンと、ね?」

「……」

その時僕は知っていた。この子がこの家に来た本当の理由を。

どうしてその時、僕は父様を止めなかったのだろうか。

「まあ、気楽に接してくれよな、二人とも。では、私はこれで。」ガチャ

「……」

「……」

「あ、あの……」

「僕はエーベルハルト。なんと呼んでくれてもいい。」

「は、はい……では、エーベル兄様……でもよろしいですか?」

「……ああ。」

朗らかに笑う姿は、皮肉にも母様そっくりだった。

母様は、呪術に失敗して死んだ。

まだ、僕は4歳だった。

あれからもう6年か……時は速いものだ。

それからは、僕達はいつも一緒に過ごした。

一緒に……といっても、ユリアーナが勝手につきまとっていたのだ。

だか、母様の面影のあるユリアーナを拒否する気にはならなかった。

そのまま、8年の時が過ぎた。

僕は18歳、ユリアーナは15歳になっていた。

「兄様!」

「……なんだ」

「見てください!お花の飾り物を作りました!」

その手には、青の花の飾り物が握られていた。

「兄様に差し上げます!!」

「え?...いいよ。折角作ったんだから、自分で使いな。」

「折角作ったからこそ、です!」

「……はあ。分かった。貰っとくよ。ありがとう。」

「はいっ!」ニコッ

「……っ///」

「??...兄様、顔が赤いですよ?」

「なっ...!な、何でもない。」

「??」

駄目だよな、こんなの。

血が繋がってないとはいえ、兄妹だもんな。


__こんな、平和な時間が続くなら、それでいい。


それは唐突だった。

「エーベル、少しいいかい?」

「?……なんだ、父様。」

「明日、呪術を行う。」

「……」

そうか、明日は満月の日か。

「……そうなのか。で?何故それを俺に?」

「明日は特別だ。お前が、ヴァンパイアキラーとして成人する、18回目の儀式だ。」

あ、そうか。

ヴァンパイアキラーにとっての18歳とは、成人とみなされる……というのも、魔力が最大になる年なのだ。

「だから、明日は生贄がいる訳だ。……分かるな?」

「……!!!」

……まさか

……まさかっ!!

「……ゆ、ユリアーナっ……」

「あの時、ユリアーナをお前に紹介した時から、この計画は始まっていたのだよ。エーベル。」

「……っ!」

「生贄は、そのヴァンパイアキラー本人と親睦が深ければならない。しかし、お前は特に友達もいなかった。大変だったよ、逸材を探すのはね……」

「逸材……っ」

「さあ、準備に取り掛かろうではないかっ!!明日は神聖なる満月の日だっ!ハハッハハッハハッハハッハハッハハッノ ヽノ ヽッノ ヽ/ \ッ/ \/ \ッ!!!」

「っ……」

……狂ってる……

今更、俺は思い知ったのだ。

この身体の宿命を。

憎い憎い宿命を。

だが、魔力でも、俺が父様に勝つわけがない。

このまま俺は、父様の言う通り動くんだろうな。

これじゃ俺は、ただのあやつり人形だな...

いや、もう既に、か。



その日は、襲いかかる恐怖で眠れなかった。

何度もなんとも考えた。

ユリアーナを助ける方法を……

だが皮肉にも、次の日はあっという間に来た。

「ユリアーナ、少しいいかい?」

「?……はい、お父様。」

今宵は満月。憎いほど、雲一つない空。

何の疑いもなく、ユリアーナは用意されていた椅子に座った。

そこは、一番月光が当たる場所だった。

正装に身を包んだ俺を見た時は、流石にすこし驚いた顔をしていた。

「これより、エーベルハルト・ブルメンタールの、魔力開花の儀を行うっ!」

ガシャンっ

「えっ!?何これっ!?手錠っ!?お父様、兄様っ!?」

「エーベルハルトは、術を唱えよ。」

「何するのっ!?ねえっ!?い、いやっ……」

嗚呼、駄目だったか。

ごめんよ、ユリアーナ。


その時、窓が勢いよく開いた。

「!?」


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