黒薔薇
「っはっ!」
気がついたらうたた寝をしていたようだ。
なんか、夢を見た気がするが、思い出せない。
あ、そうだ。エーベルが仕事に行った後、おもむろに図書室に来たんだっけ。
文献をあさっていたらそのまま寝てしまったと。
えーっと...どこまで読んだっけか……
『ヴァンパイアキラーの末路』
そうそう、ここからだ。
『ヴァンパイアキラーは、暗闇の最強と言われる吸血鬼と対抗できるだけあり、呪縛ともいえよう強い魔力を生まれつき持っている。さらに、その力を保つには、多大なる生贄が必要だったといわれる説もある。現在、ヴァンパイアキラーを受け継ぐ家は少なくなり、はっきりとは確認されていないが、一、二家ぐらいではないかと言われている__』
とりあえず、あいつが言っていた通りだな……
生贄、それは知らなかった。
あいつも、それを実際、見たことがあるのかもしれないな。
あいつの目には、光が宿っていない..……気が...する。
少なくても、俺が出会った人間のほとんどの目が、何かしらの光を宿していた。
暗殺される奴らは、特に。
宿ってなかったのは、ユリアと、エーベル……だけだった、と、思う。
まて、何故あいつは殺されようとしているのだろう。
ユリアは一体、誰からあんな依頼を...?
そういえば、ユリアに指令を出してるボス?のこと、前聞いたことあったっけな……
***
「なあ、ユリアはどうやって依頼を受けているんだ?」
「ん?あ、そっか、言ってなかったね。私達には、ボス…みたいな方がいるのよ。」
「ボス?」
「まあ、雇い主ね。昔、家柄窮屈だった私を、外の世界へ連れ出してくれた、私の恩人。」
「そうなのか。で、どんな奴なんだ。」
「何考えてるか分からない、恐ろしくも取れる笑顔で常に笑っている人……かな?」
「すごい言い様だな。ユリア、もしかしてお前、そいつの事、嫌いか?」
「ふふっ、そんなことはないけど。」
「俺もいつか会うことになるのか?」
「さあ……。あの人気まぐれだから。運がよければ、ね。」
***
そいつからの指令って訳か。
何を考えてるか分からない、恐ろしくも取れる笑顔で常に笑っている人……
まあいいや。
「ただいま、ああ、疲れたよ。」
エーベルのおでましだ。
「あ、おかえりなさいです。」
「あ、そうだ、レオン、いい加減、そんな丁寧すぎる敬語は止めよう?あと、私のことは、エーベルでいいんだよ。むしろそう呼んでくれ。」
「は、はい。……え、エーベル...さん。」
「はは、まだ慣れないか。」
「はい……」
「まあいい。じきに慣れてくれ。さあ、夕飯にしようか。」
***
「……ユリア、あいつはうまくやっているのか?」
「ええ。うまく騙せていると思うけど。あいつは優秀だから。」
「そうか。……ッククッ」
「どうしたの?やけに楽しそうね。」
「そりゃあ、楽しいさ!!もうすぐ満月、僕もあいつに会いに行けるのだからね!!」
「……準備は順調です。しばしお待ちを。」
「ああ。」
次の満月で、あの日からもう12年になるんだな。
お前はいつもゾクゾクする顔をしていたよ。
それなのに__何故だ?
お前は『失う』と、そんなにも変わってしまった。
あの頃のお前を、どうしようもなく愛していた。
お前が僕を忘れてしまっていても。
無理矢理思い出させる。そして、真実を告げ、絶望させる。
そうしたらもう、お前は僕のものだよ。
なあ?__エーベル。