青月の窓
つまらない人生だった。
この人に刃を突きつけられた時、即座にこう思った。
目を閉じ、考える。
たった10年そこらの人生、後悔する事なんて特にないが。
青い月光が窓辺から差し込む静かな夜。
今日、俺は死ぬ。
もう一度目を開け、俺の上に乗っている女を見る。
赤いドレスに身を包んだ、髪の短い女。
その顔は、微笑んでいるように見えれば、冷酷にも見える。
その女が淡々とこう話を切り出した。
「貴方、良い瞳をしてるわね。まるで……まあいい。私と取引をしない?」
「…?」
「私の元で働いて?」
「…嫌だ。」
「何故?」
「…殺して欲しいから。生きる意味なんて、ない。」
「それは、私が貴方のお父さんを殺ったから?」
「違う。あれは僕の父親なんかじゃない。さあ、早く殺ってくれ。」
「…嫌。何故殺さなくてはいけないの?」
「……」
「殺してあげない。殺して欲しいのなら、私の元で働いて?」
「…」
それから、俺の暗殺者としての人生は始まった。
***
「あら、もう終わっちゃったの?面白くなーいw」
帰ってすぐに、ユリアが声を掛けてくる。
あれから5年。
俺は16歳になっていた。
「…はあ。別に面白いもんじゃない。いつまでも慣れない」
「慣れない?あんなに簡単に殺れるくせに。」
「…ユリア、少し黙ってくれないか」
ユリア。俺をあの部屋から連れ出した女。
暗殺者という立場から、きっと偽名だろう。
あの赤いドレスは、あれから一回も見ていない。
「あら、ごめんなさい?ああ、レオン、新しい仕事が入ってるから、後で私の所へ来て?」
このレオンという名も、もちろん偽名だ。
「…ああ。分かった。」
簡単に殺れる…か。
俺には、心なんてもうないのかもしれないな。
固いベッドにダイブし、考える。
……駄目だな。もっと効率的に殺らないと。
こんなことを考えている時点で、俺は未熟者だ。
「あら、もう落ち着いた?」
「別に落ち着いていなかった訳ではない。」
「あらそう。じゃあ…もう覚悟はいいってことね?」
静かにユリアが言う。
「ああ。今回も効率的に、素早く終えるさ。」
「…ふふ、それは少々難しいかもしれないわよ?」
「?」
「今回の対象は、エーベルハルト・ブルーメンタール。貴族の部類の1人ね。」
「エーベルハルト…?男か?」
「ええ。貴方はいつも女を、お得意のハニートラップで殺してるものね。」
「ああ。まあ今回は使えないな。」
「いいえ?この貴族の特徴は…極度の少年愛好家。」
「…そういうことか。」
「スタートは明日。天気は…heavy rain。大雨よ」
「…了解」