嫉妬の渦
僕には好きな人がいる。
黒くて、長い髪を持つ女子だ。僕の中では、可愛い部類に入る。明るい性格で、男女関係無く話しかけるような人だ。
その人の名前を、ここではNとしよう。
Nとは、小学校から同じで、クラスが一緒になることが多い。
ここX中学校でも、1年の時は違ったが、2年の今は同じクラスである。
好きだと気づいたのは、2学期の中ごろのことだ。
気づいた時には、彼女の姿を見ている自分がいたのだ。
が、今となっては、気づくのが遅すぎだ、と昔の僕に言いたい。
別に彼女と付き合っている訳ではない。だが、好きだと気づいてからは、彼女と話しているだけで幸せになり、思わず頬が緩んでしまうのだ。
幸福、と言い換えても良いかもしれない。
具体的には、席が決まっているため、確実に隣なれる音楽がとても楽しみになったり。
あるいは、席替えで席が近くなったら心底嬉しくなったり。
あるいは、目が合うとドキドキしたり。
とにかく、好きになってから、学校が何倍も楽しくなったのだ。
もっと早く気づいていれば、もっと長くこんな時間を過ごせたかもしれない、と思うのはおかしく無いだろう。
が、同時に好きに気づいたことで、別の感情が現れた。
ある意味では普通。しかし、別の視点から見ると、醜い感情。
嫉妬だ。
さっきもいったように、Nは男女関係無く話しかけるような人だ。
その中には僕も入っているが、当然他の男子も含まれる。
例えば、彼女が僕以外の男子と、遊んでいる時。
例えば、彼女が僕以外の男子と、楽しげに話している時。
例えば、彼女が僕以外の男子と、笑っている時。
Nが誰と一緒にいるか。それは、彼女自身が決めることだし、僕以外の男子が、Nと一緒にいることを禁止する権利なんて持ってない。何よりそれは不条理だ。
それでも僕は、男子がNに話しかけるのを見ると、思わず歯をくいしばり、軽い殺意と、どろどろとした嫉妬が沸き上がるのを、止められないのだ。
最近は特に、Nの後ろの席の男子に嫉妬を感じる。
なぜなら、N自身が後ろを向き、そいつと話しているからだ。
何でアイツが、と心は叫んでいる。
それこそ、八つ当たりといえば八つ当たりなのだが、アイツが居なければ、という醜い感情を僕は押さえれ無い。
本音を言えば、今すぐ彼女を抱きしめたい。そして、出来ることなら、その笑顔を僕にだけ向けて欲しい。僕以外の男子と、楽しげに話さないで欲しいし、目も合わせて欲しく無い。
そんな独占欲が、心の中に強く燻っているのだ。
もちろん、それを爆発させるわけにはいかないから、笑顔の中に、それらのドス黒いモノは隠している。
裏を返せば。
Nが男子と話す度に。その天使の笑顔を振りまく度に。
僕の心には、嫉妬の炎が、渦を巻くのだ。