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第一部第一話:ある程度理解した今生と祖父の暴走その壱

 俺の名前はイート・フーズ。異世界転生者だ。


さて、まずは俺が転生した世界について考えたいと思う。世界の名は「ジ・アース」と言う。「ジ・アース」の成り立ちは神話に描かれている。


「主神は最初に闇を創った。闇だけでは何も判らず、次に光を創った。闇と光だけでは(もとい)が無い為、地を創った。地は冷え切っていた為、火を創った。火だけでは地が熱くなり過ぎた為、水を創った。主神は最後に風を創り、火の熱と水の冷たさを地の遍く場所に広めた。こうして世界の容は創られ、主神に最初に創られた闇・光・地・火・水・風は神となり、世界を司った」


この神話は伝承の類としてではなく、事実として伝わっている。何故ならこの「ジ・アース」には、神の存在の証明として魔法のような力があるからだ。その名は「神法」。神の「加護」の下に使える力だ。この力は強弱大小を問わなければ「ジ・アース」に生きる全ての存在が使えるので、神の存在を疑う者はいない。


では、神と邂逅できるかと言われればそう言う訳でもない。主神と闇・光・地・日・水・風の六神は「ジ・アース」を創った後、様々な生命を創造し世界は繁栄していた。しかし、異世界より邪神が現れ「ジ・アース」を己が物にしようとした。勿論、主神と六神はそれを許さず邪神と戦う。永く激しい戦いの末、邪神を討ち倒すも主神は永き眠りに付き、六神も大きく力を失い神話の時代が終わりを告げた。


神の加護は残るものの大いなる力の庇護を失った生命は、神々の戦いで荒れ果てた世界でそれぞれの道を歩み出す。多くの困難の中、様々な種族が神話の時代の繁栄を目指していくが、神が布いた秩序を失った世界は乱れに乱れた。


そんな時代が続く中、当時最も弱いとされていた人族から一人の英傑が生まれた。「主神の寵愛」を授かった「神子(みこ)」である。主神と六神の力を神の如く行使する彼女の前に人を含む全ての種族が従い、世界は統一された。彼女は数多の偉業を成し遂げ老年に差し掛かった頃に、主神の下に召された。しかし、彼女の「神子」たる力は彼女の子供の誰にも受け継がれず、世界統一国家は彼女の死後瓦解。人族と人族以外の種族は袂を別った。また、人族も時が経つにつれ国を割っていった。


そんな世界統一国家樹立から一千年後である、「統一暦1000年」が俺が自意識を得た現在なのであった。



「そして、お前も「神子王」様と同じ神子であろう? 判っておるのだぞ」



 テーブルを挟んで向かい合って椅子の上にちょこんと座る俺にこの世界と生まれた国の歴史を説明しつつ、神子と言う凄い存在だと断言するのは俺の父方の祖父であるデリシャス・グルメ前子爵である。丸顔、丸鼻、丸頬が特徴的な、解り易く言えば貴族の風格を持つジャ○おじさんだ。


ちなみに、俺も丸顔、丸鼻、丸ほっぺの髪の毛があるアン○ンマン顔で、血縁は疑いようも無い。家に飾られた肖像画に描かれた父親と思しき人物も勿論アン○ンマン顔だった。……愛嬌があると開き直るしかないな、フフフ。――― イケメンサービスは無しか、ハァ~。


と、容姿に若干の不満は覚えたが生まれは貴族である。恵まれているのは間違いない。インペラートル帝国グルメ子爵領の代官を務めるフーズ男爵家の長男にして嫡子、それが俺、イート・フーズの肩書きであった。インペラートル帝国は現在人族の中で最も版図が広く栄えた国で、グルメ子爵領は伯爵領にも匹敵する広さと豊かさを誇る帝国子爵領の中で随一の領地だ。その領地の代官であるフーズ男爵家もグルメ子爵家の繁栄の恩恵に与り裕福である。


グルメ子爵家とフーズ男爵家の繋がりは深く、グルメ子爵家現当主テイスト・グルメが俺の父親で、フーズ男爵家現当主セトレ・フーズが俺の母親である。父テイストには帝国首都である帝都のグルメ子爵家本邸に正妻がいるが完全な政略結婚で、女性として愛しているのは母セトレだけらしい。事情があり母しかフーズ男爵家を継げなかったので、母は女男爵(バロネス)となり、父の第2夫人となれず愛人と言う形に納まっている。まあ、2人は仲睦まじいみたいなので、俺としては思う所は特に無い。


そんな2人の間に生まれた俺に特異な事情が与えられていたのだ。この世界に生きる者には神の「加護」が与えられる。人族には六神全ての「加護」が与えられるのだが、稀に「加護」の上位である「祝福」、更に神子のみに授けられる「寵愛」を受ける者がいる。これらを知るには、「神子王」の造った統一国の直系を謳うリリィジョン神教国が運営する教会の儀式を受けねばならず、人族は当然のように受けるべき代物である。


そして儀式の結果、俺には「食神の恩寵」と言う前代未聞の力が授けられていた事が判明したのだ。母を始めとした家族、教会の関係者もその時は硬直する他無かったようだ。何しろ神とは主神と六神、邪神を含めれば八柱しか存在しない事が常識だったからだ。また、「寵愛」ではなく「恩寵」と言う点も問題がありそうであった。


そして、問題の多い俺の力についてだが祖父デリシャスの判断により限られた者以外には秘密となった。儀式を行った教会の司祭も教義に関わる厄介事を避ける形で首を縦に振ったようだ。何しろ最初の神子である「神子王」以来、統一暦史上確認された神子は500年前に生まれた「風の神子」、50年前に生まれた「火の神子」、5年前に生まれた「光の神子」だけであり、問題が大きすぎて手に余ると考えるのは自然と言える。出世欲があれば違ったのだろうが、インペラートル帝国にいる時点でその辺とは無縁の人物である。


で、物心付いたばかりの3歳児に祖父デリシャスが神子である事を確認してくるのは、俺が神子っぽい存在である事が関わってくる。実は5年前に生まれたと言う「光の神子」様はインペラートル帝国の第一皇女殿下で、物心付いた頃には神子たる自己をきちんと認識していたらしい。この事は神子共通の事柄で、全ての神子は子供の頃から力を使いこなしていたと伝わっているそうだ。


実際、俺も「食神の恩寵」がどのような力であるかを既にきちんと理解しているし、使いこなす事に何の問題も感じない。何故こんなとんでもない力を授かっているかは解らないままではあるが。



「―― はい、お祖父様。神子であるかは私自身では判別できませんが、お祖父様のお言葉は解りました。それで、お祖父様は私をどうしたいのか……いいえ、何をさせたいのでしょうか?」



とは言え、折角授かった凄い能力だ。アン○ンマン顔と同じ切り離せない自分の個性と受け入れ(ひらきなおっ)て、精一杯新しい人生を生きていくとしよう。





 ―― ふむ、これが神子が神子たる所以か。齢3つの幼子では有り得んな。



デリシャス・グルメは相対する孫の目に宿る理性の光を見て、内心にてそう呟いた。「食神の恩寵」と言う特別な力を授かっていると解ってはいるものの、やはり面食らってしまう。とは言え、それを顔に出すような愚は犯さない。隠居したとは言えグルメ子爵家を大いに栄達させた当主だったのだ。神子とは言え、幼児に気圧されるなど情けない事はできない。胆に力を込め、孫を見据え口を開く。



「勿論、我がグルメ子爵領の繁栄の為、お前の力を使って欲しいのだ」



貴族として家の繁栄こそが本懐。公にはなっていないイートの力を使い、グルメ子爵領を富ませ更なる繁栄をグルメ家に齎すのだ。その為には孫とは言え、私情は交えず働かせるつもりであった。



「それで、イートよ。そなたには何が出来るのだ? 嘘偽り無く話すのだ」



「はい。作物や家畜の品種改良を、種や妊娠中の母体に触り力を使う事で出来ます。また作物や家畜の成育の適切な手法も解りますし、様々な食品の加工法も同じく知る事ができます。料理を作るのにも補正が掛かるようですし、食に関わる事ならできない事はなさそうに思えます」



「食品の加工……イートよ。酒も造れるのかの?」



ラリーンとデリシャスの瞳が輝く。大いなる期待を載せて。



「はい。様々なお酒の製法が解ります」



「―― おおっ……おおぅっ、素晴らしい、素晴らしいぞ、我が愛しの孫よっ!! 美味いっ、美味い酒を造るのだぞっ!!」



「ちょっ、お祖父様、ヒゲ、ヒゲがくすぐったっ、って、振り回さないでっ、酔う、そんなに、ぶん回されたら、酔っちゃうからっ、のぉあああぁぁぁっ!!?」



イートの返答に感極まったデリシャスは、イートを抱え上げ頬擦りしつつ踊るように回り出す。目を回すイートにお構い無しに。


―――こうして、イート・フーズの物語が幕を上げるのだった。



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