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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
98/138

九十七.

 そっと公室を出た蓮は、(ゆが)む景色に傍らへと手を添えた。

 そのまま息を整えるが、それは乱れたまま肩を揺らす。

 どうしよう……

 誰かに見(とが)められる恐怖に、なんとか(からだ)を支えながら回廊を進むと、蓮は脇へとそれを折れた。

 そのまま数歩進んで身を隠すように(うずくま)る。

 丸めた背が、(あえ)ぐように吐息(といき)を刻んだ。


「蓮?」

 声が掛かり、そっと手が添えられた。

 (かお)を上げなくても蓮は声で解る。

 郭奉孝である。

 嘉は、するりと脇へ身を隠した蓮を瞳の(はし)に捕らえ、不審に思ってここまでやって来たのだ。

「気分が悪いのか?」

 弱々しく首を振ってみせるが、その貌は真っ青だった。

 ただならぬものを感じて立ち上がろうとした嘉の手を、蓮が引き止める。

 冷たい、手だった。

「貧血でも起こしたのか? とにかく誰か呼んで来るから」

 蓮はそれを離さず首を振る。

「そういうわけには行かないだろう」

『ダメ。心配する』

主公(との)の事か? 気持ちは解るが……」

 困ったと嘉は思った。だが、このままになどもちろん出来ない。

「それなら、ほら、おぶされ」

 嘉はそう言って蓮に背を向けた。

 案の定、慌てて否が返って来る。

 まさかそんな事をさせられないと、蒼褪(あおざ)めたまなざしが語っていた。

「抱いて行くのもどうかと思うし、背負ったほうがいくらかマシだろう。嫌なら人を呼ぶけど……」

 それはやはり避けたいようで、蓮は思い迷った末におずおずと手を伸ばした。

「それ。(つか)まっていろよ」

 蓮を背に、嘉がひょいと立ち上がる。

 その高さに驚いて、蓮は(すが)る腕に力を込めた。


「蓮は大きくなったなあ」

 歩を進めながら、嘉はしみじみと思う。

 あの日、嘉が腕にした少年は、消え入りそうなほど軽かった。今肩に感じる重みが、愛しかった。

 ――そう言えば、背も伸びたな。

 まだまだ小柄な蓮ではあるが、すらりとしているし、案外大きくなるかもしれないと嘉は思った。

 ――これは、主公が気にするかな。

 ちょっと苦笑する。

 君は躰が大きくない事に、実は劣等感(コンプレックス)を抱いているのだ。

 英雄とは大柄で恰幅(かっぷく)の良いものとされており、武人でもある彼は、さらに強くそれを欲していた。

 しかし、たとえ小柄であろうともその体躯(たいく)には気が(みなぎ)り、眼光(けい)炯たるその姿を見れば、ただならぬ人物である事などひと目で(わか)る。

 嘉も、別に気にする事はないのにと思っていたが、上背のある自分に言われても、厭味(いやみ)にしか聞こえないだろうから黙っていた。

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